マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者   作:ジャム入りあんパン

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35・一緒に歩こう。共に果てまで。

 

 

 シートにしっかりと体を固定していた俺はようやく意識を覚醒する。

 ホワイトベースは、墜落したのか。

 まさかあそこで超重光線級が出てくるとは思わなかったな。幸いにもブリッジの直撃だけは免れたが、内部はシッチャカメッチャカだ。多分、これは死者が出たな。

「う・・・」

 俺は聞こえたうめき声に、そちらを振り返る。

「焔ちゃん!?」

 俺の隣でシートに座っていた焔ちゃんは意識を失っていた。

 幸いにも怪我は一切なく落ちた時の衝撃で気絶しただけだろう。俺は体を固定していたベルトを外すと、すぐさま焔ちゃんに近寄る。

 簡易な検査だが、目立つような怪我は一切ない。あれだけの被害を受けたにしては見事なまでにノーダメージだ。

 周囲を見回すと、ブリッジにいた面々も徐々に意識を取り戻しつつある。

「うっ・・・これは・・・」

「ホワイトベースが落とされたんですよ、彩峰司令」

 思えば酷く冷静な声だった。いつかこういう時が来るとは思っていたが、思っていたより早かったな。

「冷静だね」

「そうでなければやってられないからですよ」

 焔ちゃんさえ無事ならどうでもいい。元からそういう考えの濃い俺は、この状況でも冷静になれるのだろう。もっとひどい言い方をすれば、戦いたくないだとか、特許でウハウハなんて考えていた俺は、そう、前世から考えるにサイコパスに近いのだろう。そのものではないと思う。自分でも時々信じられないぐらい甘いと思う時があり、それがまさに今だろう。

 俺は目の前に用意されている専用のコンソールを使い、艦の状態を確認する。

 ものの見事に大破だ。右舷のエンジン部分はごっそり無くなっている。近くにいた人たちは、残念だが助からないだろうな。

 俺は通信席まで行くと、通信を緊急用のものに切り替えて、周囲の鑑定に呼びかける。

「こちら、ホワイトベース。周辺艦艇、応答されたし」

『おお、婿殿!無事であったか!』

「ブリッジは無事です。彩峰司令も焔ちゃんも無傷ですよ。今、司令に変わります」

 俺は彩峰司令に通信機を渡すと、焔ちゃんの元に向かう。今の一番大事は焔ちゃんだ。

 そっと抱き起こすと、まだ意識が覚醒していないのか、静かな寝息を立てている。本当に、無事でよかった。

 こんな時でなければ滅多にしないことだが、少しきつく抱きしめる。

 焔ちゃんの甘い香りと柔らかな体の感触が、俺の心を落ち着ける。かすかに、だがしっかりと鼓動が響く。寝込みを襲うようで気は引けるが、そっと優しく唇に指先で触れる。

 と、焔ちゃんの体がピクリと動く。しばらくそのままの状態で動きを止める。焔ちゃんの体が徐々に我慢できなくなってきたのか、小刻みに震える。

「焔ちゃん、今は緊急事態だから後でね」

「私の寝込みを襲おうとしたのは拓哉様が先です!」

 寝込みを襲うって・・・。いや、まあこういうのは初めてだけどさ。

 俺の腕から立ち上がり、不機嫌そうにしながら周囲を見回してポツリと呟く。

「墜ちてしまったのですね・・・」

「ああ。外の状況が一段落ついたら、天馬に乗り移る。それまではここでジッとしていること、いいね」

「拓哉様はどうなさるのですか?」

「艦内の様子を見てくる」

「なりません!!」

 ぐいっと引っ張られてそのまま地面に引き倒された。そして、そのまま焔ちゃんは俺の腕を取ったまま馬乗りになる。

「断じてなりません」

「艦内の確認は・・・」

「それならば艦内常駐のソルテッカマン部隊の方々がやってくださいます。それよりも、万が一にも紛れ込んだ小型BETAに拓哉様が害されることの方が重大事です」

 それを言われると、返す言葉に困る。

「どうしても行くというのなら、私を力づくで振りほどいてからになさいませ」

「それ無理」

「・・・・・・拓哉様」

 そうつぶやくと、思いっきり俺の腕を引っ張り上げたたたたたっ!!!!

「即答はないかと思いますわ。確かに、私はお父様から無現鬼道流を教わっておりますが、だからといって即答はないかと思いますわ!」

 

 コキュッ

 

「「あっ」」

 

 

 しばらくお待ちください

 

 

「とにかく、拓哉様はここでじっとしているべきです」

「俺の腕を引っこ抜いておいてその反応はどうかと思う」

 はめ直された肩関節の様子を確認しながら、焔ちゃんの方を見るが、ツイっと視線を外された。

 まあ、今はいいや。後でじっくりと聞くとしよう。体に。

 外の音も大分と静かになってきた。BETAの殲滅も無事に進んでいるらしい。

「お義父さん、外の具合はどうですか?」

『順調に進んでおるよ。やはり、母艦級を早期に殲滅したのが効いておるわ。後は、あの新種のBETAだがな、アムロが倒しおったわ』

「アムロが!?」

『何やら新兵器を積んでおったのか。長大なビームサーベルで一撃で倒しおったぞ』

「・・・・・・そんな兵器、積んでませんよ」

『何?』

 長大なビームサーベル。それに実は一つだけ心当たりがある。本来ならばカミーユが使うはずの必殺兵器、ハイパービームサーベルだ。Ζガンダムが使うはずのそれを、ガンダムMk-Ⅱで使ったのか。無意識に使ったのだろうな。

「それで、アムロの様子はどうですか?」

『あの新種を倒してすぐは呆けておったが、今はBETAの掃討に動いておる』

 相手がニュータイプ、それもパプティマス・シロッコほどのレベルの相手じゃないからかもしれないが、精神に異常をきたすような事はないらしいな。

 とりあえず、全ては帰って来てからだ。

 ただまあ、アムロに聞かれても俺の答えられることなんて殆ど無いんだがな。

 

 

 その後、一時間ほどして艦内の安全は確保された。

 艦内保全のために用意していたソルテッカマンが、すべてBETAが居ないことを確認したらしい。

 そして、外のBETAも全て駆除されることとなった。それも3隻の天馬級と多数の巡洋艦による砲撃、そして、戦術機部隊の奮戦によるものだ。

 外に動くものはもはやない。だが、ホワイトベースはどうすることも出来ない。帰る時に、天馬級3隻でワイヤー釣りしてから運ぶしか無いな。

 まあ、今までが順調すぎたんだ。ここで帳尻合わせが来たってだけのことなんだろうよ。多分な。

 これからのことを考えると頭が痛いな。ソルテッカマンの護衛に連れられて、俺と焔ちゃんは格納庫に来ていた。

 お~お~。大混乱。

 さて、目当ての人は・・・いた。

「おやっさん!ちょっといいか!」

 鬼の整備班長、榊清太郎がこっちに気づいたのか、作業を中断してこっちに来る。

「よう、若大将。派手にやられたな」

「ああ。言い難いことを聞くけど、整備班で犠牲者は?」

「倒れてきた資材で頭を打ったりした連中が医務室送りになったぐらいだ。命に別状はねえよ」

 ただ、と続ける、

「戦術機の整備をする分には問題ない。やるんだったら、ここでやっていきな」

「意外だな。大分派手に揺れたはずだが?」

「その程度でどうにかなるような鍛え方はしてねえよ。ガンダム、マジンガー、ゲッター、全部こっちに入れな」

「整備できるのか?」

「任せておきな」

 たくましいね、おやっさん。と、向こうの方からシゲさんが走ってくる。

「おやっさーん!こっちは全部済んだよー」

「そうかい。まあ、後はこっちに任せてくんな。若大将はまだ仕事があるだろう」

「分かったよ。それじゃ、頼むわ」

 俺はおやっさんに別れを告げると、その足で自分の部屋へと向かった。

 

 

 俺の部屋に置かれているもので一番貴重なのは、端末機械一式だ。ここで機体の簡単な設計もすることがあるから、それなりの設備は置いてある。

 部屋の中は滅茶苦茶に荒れていて、撃墜による衝撃がどれほどすごかったのかが窺い知れる。

 データの回収を済ませた俺は、メモリーをポケットに放り込んで部屋の外に出る。

 廊下を歩きながら俺は考える。

 俺に出来ることはもう無い。ホワイトベースも落とされ、改造すべき機体はすべて改造した。ならば、俺に出来ることは何がある?

「俺は・・・無力だ・・・・・・」

「拓哉様。ホワイトベースが落とされたことは、何もあなたのせいでは・・・」

「違う。違うんだよ」

 改めて思う。俺は戦う力を手に入れるべきではなかったのかと。もし、俺がアムロと同等の力を手に入れていれば、あそこでホワイトベースを守れたのではなかったのかと。いや、それも無駄な空想にすぎない。戦う力を手に入れていたら手に入れていたで、俺は頭脳を求めたはずだ。自分のことだからよく分かる。無い物ねだりを続けてきた結果、それは前世で散々味わってきた。だからこそ、俺は、今出来ることを最大限にやることを選んだ。そのはずじゃないか。

 不自由なものだ。多くの先人たる転生者たちもこんな気持ちを味わってきたのだろうか。だとしたら、彼らに敬意を払うしか無い。俺には、それを抑えるすべがない。

「拓哉様、失礼致します」

「はっ?」

 俺が間の抜けた声を上げるのと、パンっという乾いた音が響いたのはほぼ同じだった。

 頬に熱さが届き、俺は頬を叩かれたのだと気づいた。

 呆然とする俺に、焔ちゃんは手を振り抜いた姿勢のままで、俺を強い視線で見つめる。

「拓哉様。あなたは神にでもなられたおつもりですか?そして、今を必死に戦う人を蔑ろにしているのですか?」

「そんなつもりは・・・無い!」

「ならば、信じなさい。全てを」

 焔ちゃんから初めて放たれる強い言葉に、俺は何も言えずにいる。

「あなた一人が戦っているのではありません。そして、以前にこういったはずです。もう少し私に縋ってくださいませ。頼ってくださいませ。戦うことは彩峰司令やアムロ様たちを頼ればよろしいのです。機体を直すのならば榊様たちがいらっしゃいます。政治に関してはお父様や皇太子殿下、政威大将軍殿下がいらっしゃいます。何もあなた一人で背負い込む必要はないと申し上げたはずです」

「そんなこと、分かって」

「分かっておられません!何一つ!」

 パンっと乾いた音がして、今度は反対の頬を張られた。

「あなたのそれは傲慢で、ただ増長しているだけです!全てを全部自分一人で背負い込んだ気になっているだけです!誰が、どこの誰が、あなたにすべてを解決するように言いましたか!?そんなことは人の身である拓哉様には不可能です!」

 返せない。何も、言い返せない。

 そうだ。前にも、そう言われたはずだ。これ以上背負い込むのをやめろと。

 あの時は、そう、俺は分かっていたはずだ。もっと誰かに頼ることを理解したはずだ。

「戦っているのは、あなた一人ではありません。さあ、手を」

 そう言って俺にそっと手を差し出す焔ちゃん。

「行きましょう。私たちは私たちにできることをすればよろしいのです。それでも、どうしても自分が許せないとおっしゃるのであれば・・・」

 強引に俺の手を取ると、近くの部屋に入る。

 空き部屋なのか、部屋の中は驚くほどに何も無い。

 焔ちゃんはそれを確認すると満足したのか、俺を引っ張ってベッドに倒れ込む。俺が押し倒した形で焔ちゃんは俺を見上げて微笑む。

「私に全てをぶつけて下さい。私は、すべてを受け入れます」

 それは極上の笑顔。俺のすべてを受け入れてくれる慈愛に満ちた瞳は、何よりも魅惑的だった。

 そして、それに抗うすべなど俺は持っていなかった。

 

 

 あれからどれ位時間が経ったのだろう。

 身支度を終えた俺は、顔を合わせづらかった。ただ、重ねられた手のぬくもりから、焔ちゃんの気持ちが伝わってくる。俺が体を離そうとしてもそっと体を寄せてくるのは、今は本当にありがたかった。

 と言うか、外ではまだ戦闘態勢を解いていないだろうに、俺は何をやっているんだ。

 ガシガシと頭を掻いて、なるべく焔ちゃんの方を見ないようにしながら、そっと抱き寄せる。すると、俺が抱き寄せるよりも早く身を寄せてくる。こういう時には女の子のほうが度胸があるのだろうか。俺はどうしていいか分からないのに。

「とりあえず、ブリッジに戻ろうか?」

「はい」

 そして、再び体を寄せてくる焔ちゃん。本当に、女の子は強いよ。

 多分、彩峰司令には気づかれるだろうな。あの人だって人の親だ。そう言えば、あの時にもらった『突撃一番』結局使わなかったけど、大丈夫だよな。

 そんな益体もないことを考えながら廊下を歩いていると、突如として何者かが廊下の角から姿を見せた。あれは、ロンド・ベルの、帝国軍の隊服ではない。

 顔つきはアジア人のようだが、日本人じゃない!?

 そこから先は、俺もほとんど意識していない。何かをポケットから取り出した不審者。そして、俺をかばうように前に立った『焔』を押しのけて俺は両手を広げた。

 

 普段あんまりかっこいいところ見せられないんだからさ、こういう時ぐらいは男を見せないとな。

 

 

 パンッパンッ!と二つの乾いた音がして、拓哉の体から血の花が咲いた。

 そして。

 

「拓哉様ーーー!!!」

 

 意識の消える前に、彼女の悲鳴が彼の耳朶をうった。

 

 

 


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