マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者   作:ジャム入りあんパン

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33・桜花作戦。されど花は散らせず。

 人間、欲というのはどこまでも際限なく湧くものである。

 俺の場合は知っている人間を誰も不幸にしないことだ。アムロたち同年齢の友人。彩峰司令たち、お世話になっている大人たち。死ぬ姿なんて想像できないけどお義父さんや神野中将。そして何よりも焔ちゃんを絶対に死なせたくはない。

 そのために立てた作戦だ。桜花作戦って作戦名が原作に即して嫌なもんだが、花はきれいに咲き誇ってこそなんぼだ。桜の苗木は預かってきた。ハイヴを攻略したらハイヴの大穴の周りに埋めるつもりでだ。そこを誰かの墓標には絶対にさせない。

 

 

「婿殿。少し話がある」

「婚前交渉はしていませんよ」

「違うわ!」

 どうやら違ったようで。

 俺はお義父さんに連れられて、外の景色がよく見える場所に来た。

 外では天馬級が3隻。それに、水陸両用巡洋艦が最後の準備をしている。何しろ、敵の総司令部と思しき場所に奇襲を仕掛けるのだ。誰もが緊張の色を拭えない。

「婿殿はこの戦いをどう見る?」

「敵の最重要拠点のはずですからね。落とせる内に落としておいたほうがいいでしょう。それに、今までとは違い、確実に今度の戦いは犠牲者が出る。今まで誰一人として戦死者が出なかったのが異常なんです。全員に遺書を書かせました。勿論、俺も書きましたよ」

「そうか。見えているのならばよい。貴様は時折夢のような行動を起こすからな」

「ここが済んだら、しばらく夢だけを見させてもらいますよ。俺は、誰も失いたくはない。その夢を」

「その為にも、最善を尽くさねばならん。貴様がやらせたシミュレーターは現実に起こり得ると思うか?」

「最低限であれです。重慶でも母艦級は出てこなかったんでしょ?だったら、ここに戦力を集結させていると考えたほうがいい。地上戦で出してくるのか、ハイヴ内で出してくるのか。それとも、両方」

「あれはあまりにも恐ろしい仮定だ。BETA共が戦術を練るというのは、悪夢に等しい。あれだけの数で戦略を、戦術を練るというのを」

 今回のシミュレーションには、無理を言って神野中将にBETAのプログラムを指揮してもらったのだ。日本随一の将棋の指し手が考えた戦略はあまりにも恐ろしく、それだけでかなりの数の部隊が壊滅状態に陥った。天馬級を二隻も落とされ、巡洋艦は半壊状態。戦術機部隊も6割が落とされた。それも、ハイヴを攻略しての数字ではない。地表構造物をようやく破壊して、戦闘続行不能で撤退という結果だ。

「志虞摩ほどの指し手でないにしろ、我らが被る被害は甚大なものになるか」

 それを肌で知った衛士たちは、今ではシミュレーションルームにこもりっきりだ。入りきれない衛士は会議室を使って戦略の話し合いをしている。

「引き返してマンダレーとドゥンファンを落としてみます?」

「無理じゃな。ここまで来てしまった以上、今更引き返すわけにも行くまい。それに・・・」

 重慶とマシュハドが静かすぎて、ドゥンファンとマンダレーに至っては動きがなかった。天馬級がもう2隻完成していれば様子を見に行かせてもよかったのだがな。

 こればかりは仕方がない。天馬級の設計図は各国にばら撒いたが、まともに製造できる余裕が有るところなんてのは限られている。

 急ぎすぎたのかもしれない。だが、今の内だ。新しいBETAが出現しない今のうちに潰してしまう必要があるんだ。

「考え過ぎが婿殿のいかんところだ」

「焔ちゃんにも言われました」

「ワシはいずれお主の義父となる。今の内から頼ってくれても構わぬぞ」

「ありがとうございます。お義父さん。結構、頼っているつもりなんですけどね」

「見えぬわ」

 それだけ言うと、立ち上がるお義父さん。

「ワシも紅蓮ガンダムで出る。人類の希望のために、出し惜しみは一切せぬよ」

「お願いします」

 立ち去っていくお義父さんを見送りながら、俺は改めて外の景色を見る。誰もが覚悟を決めた。次は俺が覚悟を決める番か。

 とはいえ、俺が戦闘で出来ることは無い。戦闘前に出来ることも、実はあまりない。理想は全員帰還。だが現実には不可能だろう。BETAに戦術という一点が加わるだけで、シミュレーターの結果は惨憺たるものだったのだから。

 俺に出来ること、それはただ一つ。多くの人間が集まっているシミュレータールームへと向かった。

 

 

 

 桜花作戦、決行の日。

 あれから一日かけて全力で詰め込んだ。神野中将の戦術パターンに、黙示録級を組み込んでみたりして、とりあえず考えうる最悪中の最悪を徹底的にシミュレートさせた。俺に出来ることはそれしか無い。だが、だからこそ絶対に手を抜かなかった。

 桜花作戦は始まる。原作では多くの死者を叩き出したその作戦だが、俺はそんなものを出すつもりはない。愚かと言われてもいい。たとえ夢であろうと俺は考える。俺に出来る最善を。

『また、難しいことを考えてんのか?』

 出撃前でそんな余裕はないだろうに、甲児から通信が入ってくる。

 俺がいるのはホワイトベースのブリッジ、ゲスト席だ。ゲスト席は現在二つ設けられていて、もう一つには焔ちゃんが座っている。最後の時まで俺とともに居たいのだとか。

「それが俺の仕事だ。そして、俺にはそれしか出来ねえよ」

『馬鹿なことを言うな。俺たちに出来ないことをやってくれている。それだけでも十分だ』

『リョウの言うとおりだぜ。ほれ、しゃきっとしろよ、大将!』

「ロンド・ベルの司令官は彩峰司令だぞ?」

「はっはっはっ。誰もそう思ってはいないよ。元々は君の呼びかけで集まったのが私達だ。そして、ここまで連れてきてくれたのは君の思いだ」

『そうだ。お前がいなければ、俺もフィアナとここに立ってはいない』

『ああ。俺たちに希望を見せたのはお前だ』

『いや、人類に希望を見せたと言ってもいいかもしれないな。統一中華戦線の衛士達を見たかね。誰もが私達とともに戦うことに希望を見出している。彼らは、常に最前線で絶望的な戦いを強いられてきたからね。もし、BETAが東進でもしようものなら、彼らはたちどころに敗れ去っていただろう』

 そう、この作戦には当初予定に入っていなかった統一中華戦線も参加することになった。俺達は予定に入れていなかったのだ。だが、義勇兵という形で彼らは地上のBETA掃討に協力を申し出てきたのだ。

 俺は全くと言っていいほど当てにしていなかったのは、彼らは今現在、協力し合っているがいつ内ゲバを始めるかわかったものではないからだ。

 だが、重慶が攻略されたことで、彼らの中にあったわだかまりのようなものが少しは溶けたのかもしれない。

『そう、これは希望よ。あなたが私達に見せてくれた夢。後はそれを現実にするだけ』

『胸を張れ、拓哉。俺たちをここまで連れてきたのは君の思いなんだ』

『僕は、なし崩しでここまで来たけど、付いて来て良かったと思っている。だから、僕達を信じてくれ』

「拓哉様。さあ、始めましょう。明日へつながる戦いを」

「・・・・・・ああ。そうだな」

「だとしたら、号令は君にやってもらわなければならないな」

「分かった。俺は戦場に飛び出すことは出来ない。でも、思いはみんなと一緒にあるつもりだ」

 だから、俺が言うことは一つだけ。

「みんな、必ず帰って来い!これは拠点の一つを落とす戦いにすぎない!これからも続く始まりに過ぎない。地球を取り返したら、次は月に行くんだからな!」

『はっ、こいつは驚いた。俺達の大将は月も取り返すつもりか』

「当たり前だ、隼人。頭の上を抑えられたままビクビクして生きたいか?俺はごめんだ。全部取り返す!そして、焔ちゃんと添い遂げる!」

『『おい!』』

「文句あるか!俺はここで死ぬつもりはサラサラ無いぞ。焔ちゃんを死なせるつもりもない!みんなで生きて帰って、俺の結婚式に強制出席だからな!」

『かぁー!これだから彼女のいるやつは!俺様も絶対に可愛こちゃんな嫁さんを見つけてやるだわさ!』

『やれやれ、これでは結局いつも通りだな』

「司令!センサーに反応あり!BETAが来ます!」

「来たか。総員第一種戦闘配備!順次出撃せよ!そして、必ず生きて帰れ!!」

『『了解!!』』

 

 

 その衛士はロンド・ベルでもまだ若い衛士だ。故郷に婚約者を残してきている。もしかしたら、この戦いで自分はあの愛しい婚約者のもとに帰れないかもしれない。そう思うと、手が震えて操縦桿をまともに握れない。

『どうした、高木。まだ緊張しているのか』

 聞こえてきたのは30代になる小隊長の通信だ。

「い、いえ、決してそういうわけではありません!」

『そうか。貴様は勇敢なのだな』

「えっ?」

『私は怖くて仕方がない。もしかしたら、帰れないかもしれないのだからな』

「中尉・・・」

『子供がな、生まれたんだよ。女の子だそうだ』

 一度だけ、写真を見せてもらったことがある。物静かな感じの奥さんだった。最近撮ったものらしく、大きなお腹を幸せそうにさすっている様子が映っていた。

『出来れば、この手で抱きしめてあげたい。だが、それもかなわないほどの激戦となるかもしれない。そう思うと手が震えてかなわんのだ』

「中尉、その、じ、自分も、手が震えています!怖いであります!!」

『・・・そうか。ようやく自分の本音をさらけ出したな』

「あの、怖気づいているわけではなく、その」

『分かっている。怖いことを無理に我慢する必要はない。私だって怖いのだ。だからこそ、自分にできる精一杯をやるのだ。我らはロンド・ベルだ。世界最強の部隊だ。負けることは許されん。それ以上に、死ぬことは許さんぞ』

「はい!」

『いい返事だ』

『カタパルトオンライン。シザーズ小隊、出撃準備に入ってください』

『フッ。お呼びのようだな。シザーズ01。赤坂、出るぞ!!』

 隊長に続いて先輩衛士たちも出撃していく。それを見送って、彼は大きく息をついて呼吸を整える。自分だけではないのだ。そして、自分にはまだ帰るべき場所がある。そして、

『シザーズ04、高木、出ます!!』

 紺碧の空へと、飛び出していった。

 

 

「光線級、並びに重光線級を多数確認!」

「チッ、やはり待ち構えていたか!」

「これで確定したな。BETAは戦術を用いる。今までしなかったのは必要がなかったからか」

「こっちの様子でも見ていたんでしょうよ。ゲッターライガーによる奇襲、レーザーヤークトを提案します」

「単独で殲滅できるかね?」

「無理です。ですが、ゲッターライガーはいざとなれば地中に逃げることが出来ます。ゲッターライガーに視線を集中させて、その隙に一個中隊によるレーザーヤークトを敢行。これで一気に殲滅します」

 俺の無茶な提案を、彩峰司令はしばし瞑目した後に決断を下す。

「分かった。聞こえたかね、隼人くん!」

『ああ。こっちは任せてもらおう。リョウ!』

『分かった!オープン・ゲット!』

『チェンジ・ライガー!スイッチ・オン!!』

 信じてくれているのだろう。無茶苦茶な作戦にもすぐに応じてくれるゲッターチーム。ゲッタードラゴンはすぐさまゲッターライガーへとチェンジして地中へと突き進む。

「そうなると、レーザーヤークトを行う中隊だが・・・」

『それは私達に任せてもらおう』

「ベルンハルト大尉か」

『元々、我らは祖国でも何度もレーザーヤークトを敢行してきた。十分に務めを果たしてみせよう』

「分かった。タイミングはそちらに任せる」

『了解した』

 

 

 一方、ゲッターライガーは地中を掘り進み、光線級の密集地帯へと姿を見せていた。

「音速を超えた戦いを見せてやる!マッハスペシャル!!」

 猛烈な勢いで地を駆けるゲッターライガー。その猛烈な勢いに押されて、光線級はかすめるだけで塵と化していく。

『何というスピードだ。あの大きさで音速を超えているなど・・・』

『ベルンハルト大尉!命令を!』

『奴らの目玉がゲッターロボを向いている間に全て仕留めるぞ!奴らにシュヴァルツェスマーケンを下してやれ!!』

『了解!!』

 BETAに感情があるとすれば驚愕の一言だろう。何しろ、彼らの照準がゲッターロボを捉えることが出来ないのだから。

「行くぜ!オープン・ゲット!!」

「チェンジ、ポセイドン!スイッチ・オン!」

 ドスンっと地響きを立ててゲッターポセイドンが降り立つ。光線級の目玉が全てそちらを向く。それよりも早くポセイドンの技が放たれる。

「ゲッターサイクロン!オープン・ゲット!!」

「チェェェンジ、ドラゴン!スイッチ・オン!!」

 今度は空に現れた赤い竜は額にエネルギーを蓄え、

「ゲッタァァァァァ・ビィィィムッ!!」

 そこから放たれたエネルギーは、薙ぎ払うように光線級を消滅させていく。その中には撃破が困難であるとされる重光線級も混じっていた。

『ゲッターロボにばかりいい所を持って行かせるな!レーザーヤークトは我らの専門だぞ!!』

『オォォォォォッ!!』

 アイリスディーナに応えたのは、テオドールの雄叫びだった。

 テオドールのガンダムは、他の機体とは一線を画した加速力で光線級の群れの中に飛び込み、ビームサーベルを一閃する。まるで溶け消えるように消滅していくBETAに他の隊員たちも奮戦する。

 光線級BETAは混乱しているのだろう。ゲッターを追うべきか、ガンダムを追うべきか。キョロキョロとその本体をせわしなく動かし、何も出来ない内にゲッターライガーに轢き潰されるか、ガンダムに切り裂かれて終わる。

 その時間はほんの数分だった。ゲッターライガーが最初に突撃してから、光線級が全ていなくなるまでに、ものの数分だったのだ。

「次は音速を超えてから出直すんだな」

 勿論、最も撃墜数を稼いだのはゲッターライガーを駆る隼人だったことは言うまでもない。

 

 

「よし、光線級は全て消滅した!天馬級全艦浮上せよ!一斉射撃だ!」

 急速浮上した四隻の天馬級は、今までの鬱憤を晴らさんとばかりにBETAの群れに砲撃を叩き込んでいく。そのさまは先程までのゲッターライガーの活躍に劣らぬ、圧倒的な光景だった。

 光線級の群れという圧倒的な脅威がいなくなったことで、戦術機部隊も一気に戦線を押し上げにかかる。

 だが、その時だった。

「司令!地中ソナーに感あり!巨大な反応が、これは、そんな・・・!」

「状況を伝えろ!!」

「は、はい!母艦級が来ます!!数は・・・6体!!!」

「何だと・・・!?」

 彩峰がそう言うのとほぼ同時だった。空中に居てさえ分かるほどの凄まじい振動が辺りを包み込んだ。

 大地を叩き割って、巨大なミミズの化け物。全長1.8kmの超巨大BETAがその姿を表したのだ。

 カシュガルハイヴを守るように現れたそれは、一斉に口を開く。そこから現れたのは大型BETAの代名詞、要塞級だった。そして、その要塞級の腹からさらにBETAが吐き出される。

 振り出しに戻る。それが正しい表現だろう。

 いかなる絶望にも屈しないつもりであった。だが、あの母艦級が6体。そして、要塞級は連隊規模。それ以下のBETAは数えるのも馬鹿らしいほどの圧倒的な数が再び大地を席巻し始めたのだ。

『嘘・・・だろ・・・・・・』

『あんな数がいるなんて・・・』

『くそっ!ふざけやがって・・・!!』

 誰もがその絶望に身を浸していた時、突如として雷鳴が辺りに響き渡った。

 

『諦めるな!!』

 

 

 


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