マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者   作:ジャム入りあんパン

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お待たせしました。


29・考えすぎるのか、考えが足りないのか?

 マシュハドハイヴに俺たちが当てられたのは至って単純な理由だ。

 世界で初のハイヴブレイカー。それも二つ。機体の損耗こそ出したものの、人的被害は出さなかったことが評価されている。

 その為、指揮権の移譲はすぐに済んだ。ラダビノッド司令と再会した俺達は、つかの間の休息を楽しむ。

 まあ、楽しむっていうか、子どものお守りがな。

「アムロ!!なんで何も言わずに帰ったんだよ!!」

 アムロの胸ぐらにしがみついて、必死に揺すっているのはタリサだ。そう言えば、前回の時は俺達のことだけで一杯一杯で子どもたちに何の挨拶もなしに帰ったよな。武蔵のこともあったし。

 ああそうそう。武蔵だが、ホワイトベースに乗っている。名目上は武術顧問という形で。弁慶に大雪山おろしを教えるつもりなのだとか。時々ドッシンドッシンと派手な音がしているのはそのせいです。

「色々あったんだよ。それより、服が伸びるから降りてくれ」

「むー!分かった、ガンダムに乗せるので勘弁してやる!」

「それは流石に「別にいいぞ」拓哉!?」

「操縦させるのは論外だが、膝にでも乗っけてそこらを飛んでこい。お嬢ちゃん、中ではアムロの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」

「おう、まかしとけ!」

「いいのか、こんなことに使って?」

「大丈夫。俺が許可出したことにしとくから」

 俺はすぐさま内線電話を取って彩峰司令から許可を取り付ける。あっさりと降りた許可はすぐに伝える。

「というわけだ。行ってこい」

「分かったよ。ほら、タリサ」

「やった~!ありがとな、拓哉!」

 アムロは子どもサイズの衛士強化装備を探し出すと、それをタリサに身に着けさせた。まあこうなるだろうと思っていたから用意しておいたんだけどな。

 さて、オオトリ装備のガンダムMk-Ⅱが飛んで行くのを見送って、俺は再び自分の仕事に入った。

 平和は、今の内だけだぞ。

 

 およそ一時間の遊覧飛行に、タリサお嬢さんはすっかりご満悦なのか、衛士強化服のままで友達に自慢している。

 羨ましそうにアムロと俺の方を見る子どもたち。だが残念、もう時間だぜ。

 館内放送で俺とアムロが呼び出される。近いな。

「シゲさん!Mk-Ⅱの整備をお願い!」

「あいよ!行ってきな!」

 シゲさんの声に押されて俺たちは飛び出していく。

 

 俺達がブリッジにたどり着いた時には全員揃っていた。

「遅くなりました」

「いや、構わないよ。まだ余裕はある」

 ブリッジに集められたのは、俺とアムロ、士郎さん、甲児、ボス。リョウ、隼人、武蔵、弁慶だ。それ以外のメンツとしては各部隊の中隊長以上のクラスの人達が揃っている。

 そしてモニターの向こうでは神野中将とその側近が数名。そして、鹿島大尉とキリコ准尉の姿が見えた。

 別のモニターには大東亜連合軍の衛士たちが映し出されている。その中央にはラダビノッド司令と、レナード少佐、メリッサ中尉と言った良く見知った顔が移っていた。

 更にもう一つのモニターには国連軍の指揮官が映っていた。知らない人だな。

 そして、問題の5つめのモニターでは。

 テオドールの腕を取ってご満悦のカティア。反対側の腕を取って幸せそうなファム姉さん。そしてその後ろで目線だけで人が殺せそうな女性陣と、それをガン無視でヴァルターと恋人繋ぎしているシルヴィアさん。

 生で見ると破壊力すげーわ―。このラブの波動が画面越しに伝わってくるのが。

 よし、見なかったことにしよう。

 全員同じことを考えたのか、彩峰司令の方に視線を向ける。

「さて、それでは作戦の概要を説明しよう」

 流すことに決めたようだ。まあ、無難だな。

「とはいえ、説明することはほとんどない。いつも通りに正面から突破して内部に突入する。それだけだ」

「なっ!?そんな狂気じみたことをしているのか!?」

 驚きの声を上げるのは、アイリスディーナだ。さすがはあの曲者ぞろいの部隊を束ねるだけあって、話はしっかりと聞いていたらしい。

 いや、全員が一応話を聞いていたのだが。特にドイツ陣営は驚きの表情を隠せていない。

「いつもの事だぜ。真っすぐ行ってぶん殴る。これはロンド・ベルの伝統だな」

「嫌な伝統もあったがな」

 うるさい、隼人。

「今回はいつもより人が多い。その上、水陸両用艦の火力も当てに出来る。そういう意味では、少しは楽をできるかもしれんぞ」

「楽って、こんな無茶苦茶なものが作戦なのかよ!」

「はっはっはっ!それがロンド・ベルの流儀だよ。なに。慣れれば存外、悪くはない」

「これが世界最強の部隊のやり方・・・」

「世界最強って、今そんな評価なのか?」

「ほとんど単独でハイヴを落としているのよ。そういう評価にもなるわ」

 そう言えば、突入部隊はほぼロンド・ベルだけだったような。それに、戦死者を出していなかったな。

 機体の損壊はあっても、戦死者は無しってのは結構広まっているからな。

「それでは司令。作戦の目標をどうぞ」

「うむ。みんな死なないように。特にエーベルバッハ少尉」

「俺だけ名指し!?」

「それは勿論。そこにいる見目麗しき女性陣を全員未亡人にするつもりかね?」

「まだ誰とも結婚してねー!!」

「お兄ちゃん、相手は中将閣下よ!」

「うぐっ!」

 いじる相手がいるってのは便利だよなー。こっちに矛先が向かないだけで、平和なものだ。

「拓哉くんは何かないかね?」

「強いて言えば、そこのリア充」

「リア充って何だよ」

「重婚するなら日本へ」

 むせた。俺の一言で辺り構わずむせた。

 いやー、実は日本国内ではまだ深刻ではないのだが、これからロンド・ベルとして戦っていく内に、衛士の死者が出てくることが予想されていた。

「という訳で、日本に帰化した上で、重婚済ませろ」

「そ、そんな素敵な法律が日本に!?」

「ロンド・ベルが大ダメージを負うことを前提で作っていた法律だからな」

 ところが、ロンド・ベルは多少の負傷者こそ出したものの、死亡者ゼロで帰還。完全な死に法律になったのである。

 俺は焔ちゃんに首ったけだし、アムロはどうも同年代の女の子が苦手みたいだし、甲児にはさやかさんがいて、隼人にはみちるさんがいる。士郎さんは相手いないし、武蔵とボス、弁慶はかわいそうになるぐらいモテない。逆にモテすぎるのがリョウだったりする。とはいえ、リョウ自身は脅威の鈍感スキルの持ち主だから、その法律が適応される心配はなさそうだ。

 それじゃあ一般隊員はどうなのかと言えば、実は8割ぐらいが既婚者だったりする。普通に考えれば分かってくれるだろうが、ロンド・ベルの他の一般隊員とかはみんな成人している。奥さんや旦那さん、子供がいる人が普通なのだ。

 結婚していない隊員でも、恋人や婚約者がいたりする。

「という訳で、日本はいつでもウェルカムだ」

「そんな勧誘があるかー!!!」

 分かりやすくていいと思ったのだがな。ま、それはさておき。

「変な緊張は取れただろう?」

「緊張以外は増えたけどな・・・」

 贅沢なやつだ。あんな美人に囲まれて。

 その美人さんたちはテオドールの後ろで何やら話し合っている。どうやら本気で日本に移住するかを考えているようだな。

 俺の知っているシュヴァルツェスマーケンはどこにもないようだ。

 まあ、平和ならそれでいいか。余計な敵も減ったことだし。

 

 

 出撃すると余計な緊張がなくなるのは、徐々に日常から切り離されているからではないだろうかとアムロは思う。

 ガンダムに乗る度に、アムロの感覚は研ぎ澄まされていった。これがニュータイプというものかという思いがよぎる。

 ニュータイプ。その言葉にアムロはまだ実感がない。少なくとも、自分に新しい人類などという言葉はあまりにも重すぎた。だからこそ、拓哉の言う勘のいいただの人間という言葉を今は信じている。

『そろそろ作戦領域だ。気を抜くなよ』

 篁の声に、意識を戦場に戻す。ニュータイプがどうとかは戦闘の後でもゆっくりと考えることが出来る。アムロは操縦桿を前に押し込んだ。

 

 戦場での戦術機の役割というのは、早々変わるものではない。だが、スコープドッグ、いや、ATの登場によって戦場が様変わりしたことは否めない。

 ATは戦車級BETAより少し大きいぐらいだ。それでいてローラーダッシュの素早い機動で戦車級を屠っていき、時には要撃級や突撃級といった大型のBETAも屠っていく。

 その中で一線を画した機動をするのはこの男、キリコ・キュービィーだと誰もが言うであろう。メインの標的である戦車級を確実に的確に屠っていく。

 この男、本来ならAT部隊の隊長を任されてもおかしくないだけの実力を持っていながら、単独での行動をしている。その理由も単純だ。無口がすぎる。言葉が少なすぎてまともについてくることの出来る衛士が一人しかいないのだ。その衛士こそが、ファンタム・レディの二つ名で呼ばれた女性、フィアナである。

 比翼連理。それはまさに二人のためにある言葉と言ってもいいだろう。お互いがお互いを補い合い、敵を屠っていく様は芸術的とすら言えた。だからこそ、AT部隊の隊長は二人に簡単な指示だけを出して後は放置しているのだ。同時に、自分にはあの二人を指揮することは出来ないと思っている。

 そして、その二人と同じく単独での作戦行動をしているのが、ドイツでの戦いで戦果を残した男。鹿島優大尉だ。シュタージの衛士からは蒼き死神と恐れられ、新塚拓哉博士から独自のコンセプトを持つジムを送られた男。

 いや、あのジムがあったからこそ戦果と言うべきなのだろうか。それでもあれほど無茶な機動をする機体を、普通の人間は乗ろうなどとは思わない。あの加速力は並の衛士では扱いきれないだろう。

 以前の戦術機に比べれば、最近の戦術機は圧倒的に乗りやすい。それもリニアシートという、新しいコクピットシステムを採用してからだ。モニターが見やすくなったのもあるが、一番恩恵があるのはコレだろう。事実、戦車隊から戦術機隊に転属してきたものも少なからずいる。

 それでも、あのブルーデスティニーという機体だけは異常だ。更にリミッターを解除することで、より振り切れた加速をする。いくら専用機が羨ましいからとは言え、あんな機体が羨ましいとは誰も思っていないのだ。

 今回の戦いでも駆り出された縁の下の力持ち、ガンタンク部隊は実にいい仕事をしている。

 古参の戦車隊員。それも、高齢のものほどそのまま戦車隊に残って奮戦している。それは彼らが戦場での戦車隊の役目を分かっているからだ。

 240mmキャノンから放たれる大火力は突撃級すら正面から吹き飛ばし、時には要塞級をも屠る。近づかれたら最後と言われた戦車の時代は終わった。近づいてきた相手には、両腕の120mmが容赦なく火を吹き消し飛ばす。

 戦場は本当に多彩になった。かつての戦場は戦車と戦術機だけだった。そして、圧倒的な物量に押しつぶされるだけだった。だがそれも終りを迎えつつある。

 BETA。それが何であるのかは結局わからないまま、それらとの戦いの終わりに希望を見出していた。

 

 

「主砲!光線級を重点的にねらえ!撃てー!!」

 彩峰の指示によって放たれたメガ粒子砲は、後方からレーザーを撃ってきた光線級をその周囲もろともに消し飛ばす。

 艦体でダメージを受け止めてその方向に打ち返すなどという無茶なやり方は、ラミネート装甲の特性とその分厚さがあるから出来ることだ。

 彩峰は次から次へと目まぐるしく動く戦場に、的確な指揮を執る。

 最初は不満があった。彩峰は今でこそ戦艦の艦長と艦隊司令をしているが、そもそもは戦術機の衛士であった。だが、政威大将軍殿下からの命令である。断ることなど出来るはずもない。

 そうして向かった先は、ごく普通の武家屋敷。聞けば白の武家の家だと言う。なぜこんなところにと思った彩峰は表札を見てすぐに思い直した。新塚と書かれたその家は、本当にごく普通の武家の家だった。だが、その家の奥方に案内された先には奇跡の光景が広がっていた。

 広大な地下空間。その先で建造されている見たこともない戦術機。そして、更に奥に隠されていた巨大な戦艦。そのブリッジでは一人の少年が待ち構えていた。

 

 ドンッ!!

 

 我に返る彩峰。

「左舷!弾幕薄いぞ!何やってんの!!」

「損傷は軽微!まだ行けます!」

「当たり前だ!天馬級だぞ!すぐに撃ち返せ!」

 かつては戦場で、出会えば最後とまで言われた重光線級のレーザーでさえこの程度のダメージだ。光線級吶喊。レーザーヤークトはもはや時代遅れのものになりつつあった。

「よし、敵が集まってきたな。神野中将につなげ!」

『もう繋いでおるぞ、彩峰よ』

「閣下。船速を合わせてください。ハイメガ粒子砲で一掃します」

『うむ。聞こえたな!タイミングは彩峰の艦と合わせよ!』

「これよりハイメガ粒子砲を発射する。前線の機体に退避勧告を行え」

「はい!全機に通達します、これより本艦隊はハイメガ粒子砲を並行斉射します、射線上にいる機体はすぐに退避してください!」

「ハイメガ粒子砲。充填率80%を突破!」

 彩峰は戦術機を降りたことに少なからずの不満があった。

 だが、この楽しみだけは誰にも渡すつもりはない。

「全機、退避完了です!」

「エネルギー充填120%、行けます!!」

「よし、閣下!行きます!」

『うむ。任せる』

「ハイメガ粒子砲、発射ー!!」

 天馬級二艦から放たれる圧倒的な光は、無数と言ってもいいほどにいたBETAたちを飲み込み、その奥にあった今までよりもさらなる威容を誇っていたハイヴ地表構造物を消し飛ばした。

『すごい・・・あんなのがドイツで使われたら・・・』

『統一どころじゃなかったですよ!』

 市街地戦でハイメガ粒子砲など、狂気の沙汰としか言いようがない。そういう意味では、あの当時搭載されていなかったのは運が良かったと思っている。

「よし、全機帰投せよ。衛士は休息に入れ」

 その命令だけを出して、彩峰はキャプテンシートにどっかりと腰を下ろす。

「ふぅー」

「お疲れ様、彩峰司令」

 そう言って、ヒョイッと目の前にコップを出したのは、戦闘中にも余裕の表情だった少年博士だ。

 本当に、彼は敗北など微塵も信じていないのだろう。

 眼下の映像はホワイトベースを守るように展開された水陸両用艦が、残ったBETAを刈り取っているさまが映し出されていた。

「変われば変わるものだな。今やBETAが脅威と思えぬとは。」

「その認識、止めといたほうがいいですよ。将の油断は軍の敗北。奴らはいつだって脅威です」

「うむ。たしかにそうだな。これが慢心というものか・・・」

 自分にはないものだと思っていた彩峰は、気を引き締めなおして戦場に目を移すのだった。

 

 

 

 だからこそ、徹底的に一匹も逃さないようにしているんだけどな。

 ここまでリフレクターのたぐいを作ってこなかったってことは、反映がうまく行っていないのだろうな。

 いや、むしろ俺がリフレクターを作っておいたほうがいいか?ディストーションフィールドで防ぐか、陽電子リフレクターを用意するか、どちらかを考えておいたほうがいいかもしれない。

 しかし、この漫然とした不安は何だ?未だに脱落者はなく、これ以上無いぐらい順調に進んでいる。そのはずなのに、この手のひらで踊らされている感覚は何だ。順調すぎる。このままでは普通に甲2号ハイヴを攻略して、オリジナルハイヴを攻め落としてしまうぞ。

「重慶ハイヴ攻略中の艦隊より通信です。これよりハイヴに突入する。そちらも奮戦されたし」

「そうか。いや、当然だな。紅蓮中将がおられるのだからな」

 俺はたしかに戦力を拡充した。だが、それだけの問題か?俺の気にし過ぎか?

「どうかしたかね?」

 考え込んでいる俺に、彩峰司令が話しかける。

「いえ、ちょっと違和感を。難易度ゆるすぎないかって」

「君のシミュレーターが厳しすぎると思うのだが」

「違いますよ。まるで、誘い込まれているような感じがするんです」

 俺がマブラヴという物語を知っているからこそなのか、それとは別の違和感なのか。だからこそ、最初の分水嶺となるのはここだ。マシュハドハイヴで何事もなければ、問題が出るのは多分、オリジナルハイヴ。カシュガルだ。

「考えすぎだと思うのだが」

「だと、いいですね。司令。司令の名前で油断しないように警告を出しておいてください」

 俺は席から立ち上がると、すぐに自分の部屋に向かった。

 今は余計なことを考えたくない。部屋で焔ちゃんに癒やされるのが俺の仕事だ。

「とりあえず、俺は部屋に帰ってますんで」

「無理はしないようにな」

 今は無性に焔ちゃんに会いたい。

 

 

 


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