マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者   作:ジャム入りあんパン

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26・今は黙れ。

 ボパールハイヴ攻略戦は無事に終了した。

 それは世界レベルで見れば無事と言ってもいいレベルで、だがロンド・ベルにしてみれば甚大な被害をもたらしてしまった。

 アムロと甲児は無事だった。ガンダムもマジンガーも無事。士郎さんも機体を中破させたものの無事に帰還。篁大尉は無傷だったが、巌谷大尉は機体のコクピット部にダメージを追った影響で、顔に大きな傷が出来てしまった。だが、全体から見れば軽傷といっても良かった。

 ゲッターチームは、リョウと隼人は無事だった。だが、俺がいないところで思わぬ犠牲が発生した。

 

 巴武蔵。機体の損傷により両目を負傷。失明。

 

 

「俺の・・・俺のせいだ・・・・・・!!」

 俺が現地にたどり着いた時に見たのは、武蔵の病室の前でひどく落ち込んだリョウと、それを気遣うアムロたちだった。

「・・・・・・何があった」

 俺の口からようやく出た言葉はそれだけだった。

 この場にいた中で唯一冷静だった、いや冷静を装えた隼人から説明を受けた。

 

 始まりの地上戦は、大東亜連合軍の支援と紅蓮中将引き入る斯衛軍の援護もあり順調に進んだ。

 この時の戦いには、ようやく衛士として仮免をもらえたボスもボスボロットで参戦。マジンガー並みの無茶苦茶なパワーで奮戦したと言う。

地上戦はつつがなく進んだ。アンバールハイヴ線の時と同じように、敵を中央に集めハイメガ粒子砲でハイヴ地表構造物もろともに一掃し、ハイヴ内部へと突入したそうだ。

ハイヴ内部は先のアンバールとは違い、次から次へと無数の敵が襲い掛かってくる、まさにヴォールクデータのハードモードと言っても等しい難易度だった。

 アンバールとの違いに戸惑ったアムロたちだったが、篁大尉の指揮の元、順調に進撃していき、最下層のメインホールへとたどり着く。

 無数のBETAが集まるそこは、先の戦いと同じく激戦の戦場であった。反応炉を守らんとするBETAに、苦戦を余儀なくされた。だが、反応炉の破壊はおもったよりも早く済んだ。反応炉との激戦を知っていたロンド・ベルは、反応炉が動き出すよりも早くゲッターロボとマジンガーZの同時攻撃によって、素早く反応炉を破壊したのである。ここまでは順調であった。

 だが、反応炉を倒したことで彼らの中に油断が生まれた。突如として超巨大なBETAが割って入ったのだ。反応炉の破壊とともに現れたそれは例えるなら巨大なミミズのような。それの正体を俺は知っている。母艦級BETA。それは体内から無数の要塞級を吐き出し、突如として戦場は再び地獄絵図と化した。

 母艦級から吐き出される要塞級。そして、その要塞級から更に吐き出されるBETAたち。しかしそれは、突然の事態に慣れていたロンド・ベルの面々にとって何の障害にもならなかった。

 

 手術は終わったものの、武蔵は両目を失明。二度とゲッターロボに乗ることは叶わなくなってしまったのだった。

 チームリーダーとして、何よりあの時ゲッターのメイン操縦者であったリョウは、責任を感じて見ていられないほど落ち込んでいる。

「すまない、俺がもっと早く到着していれば・・・」

「いや、あんたのせいじゃない。これは、俺たち全員の油断が招いた結果だ」

 だが、もしも、もしもゲッターロボGだけでも早く送ることができていれば、武蔵はこんな結果にならなかったのではないだろうか。

 それとも、巴武蔵は必ず何かを失う結果になるという運命でもあったのだろうか。

 それ以上に皮肉なものがある。それは、スコープドッグ隊とソルテッカマン隊以外の補充人員だった。

「それで、後ろのそいつが?」

「ああ。早乙女博士から預かった、ゲッターチームの補充人員だ」

「く、車弁慶です!よろしくお願いします!」

 武蔵と同じようなでっぷりとした体型の、人見知りからは縁遠い感じの少年だった。

 実は彼、武蔵と同じ学校の先輩後輩の間柄で、既知であると言う。

 彼は当然ながら俺やアムロたちよりも年下なわけだが、武蔵と同じ戦場に立てるということで喜んでゲッターチームの選抜課程へと志願。持ち前の根性と努力によってこの場に立っているのだ。

「ともあれ、今はありがたい限りだな。ゲッターロボは3人揃ってこそだ。歓迎するぜ、弁慶」

「隼人!武蔵は、武蔵はまだ!」

 隼人に掴みかかるリョウ。だが、俺が聞いている限りでは武蔵の状態を一番知っているのはリョウなのだ。帰還して、いの一番に武蔵の惨状を見てしまったのはリョウなのだから。

「だったら、だったらなぜ、もっと早くにゲッターを届けてくれなかったんだ!!」

「リョウ!!!」

 隼人が怒声とともにリョウを殴りつける。

 ドカッという音とともにリョウが壁に叩きつけられる。

「お前は、誰が一番悔しい思いをしていると思っている!!」

「そんなこと、そんなこと俺だって分かっているんだ!!」

「おい、よせよ。病室の前だぜ!」

「落ち着くだわさ!」

 甲児とボスがそれぞれ、リョウと隼人を止めに入る。それでもまだお互いに殴り合いを始めそうだった二人を止めたのは、以外でも何でもない人物だった。

「そうだぜ。騒がしすぎてオイラもおちおち寝ていられねーや」

『武蔵!!』

 病室の戸が開いて、目に包帯を巻いたままの武蔵が出てきたのだ。

「リョウ、お前が気にすることなんてないんだ」

「だが、俺は、あの時ゲッターを」

「誰も、隼人だって、お前一人の責任だなんて思っちゃいねーよ。ゲッターは、ゲッターチームは3人揃ってこそだ。だから、何かがあった時はみんなの責任だ。喜びも悲しみも、みんなで分かち合うのがチームだろ?」

「武蔵・・・俺を、許してくれるのか?」

「あったりめーだ!言ったろ、オイラたち全員がゲッターチームなんだ。まあ、オイラはもう、ゲッターに乗れないけどよ」

 そして、握ったままの両の拳を解きほぐし、隼人の手とリョウの手を重ね合わせる。

「聞こえてたんだけどよ、そこに弁慶がいるのかい?」

「は、はい。ムサシ先輩!」

「よせよせ。そんな固くなるなよ。ほら、こっちに来い」

ついさっきまで手術を受けていたとは思えない力で、弁慶の手を掴んでぐいっと引き寄せる。

「3つの心が一つになった時、ゲッターの力は百万パワーだ。忘れるなよ」

「武蔵・・・」

「リョウ、リーダーが取り乱しちゃ駄目だろ」

「武蔵、お前・・・」

「隼人、リョウと弁慶を頼むぜ」

「ムサシ先輩・・・」

「まあ、こんな感じだ。気楽にやれよ」

 いつの間にか4人の手が重なっていた。全員で戦うことは叶わないだろうが、それでもその思いが途切れることはない。

 リョウたちの目に元の明るい光が灯る。

「そうだな。俺達が、ゲッターチームだ!」

「フッ、そういうことだ」

「がんばります!」

 ニヤリと笑みを浮かべた後、コツンっと拳を当てる。

「これで元通りだな。オイラもゆっくり眠れるってもんだ」

「ほ、本当に大丈夫なのかよ?」

「ああ。目が見えない以外は絶好調の武蔵さんだぜ」

 そう言ってクルッと回って病室に戻ろうとする武蔵。

「武蔵、待て!」

「あっ?『ゴンッ!!』がっ!?」

扉の位置を間違えて壁に激突。目を回してひっくり返ってダウンした。

「やれやれ。どっちみち俺たちに苦労をかけるやつだぜ。リョウ、そっちを持て」

「本当に、いつもの武蔵だな」

「だったら俺達がやることは」

「いつものゲッターチームを取り戻す」

 いつもの笑みを浮かべるリョウたちにホッと胸をなでおろす。と、リョウがこっちを振り向く。

「拓哉、さっきは、すまない」

「気にするな。俺はいいからそっちを見てやれよ」

「ああ。また後で」

 武蔵を病室に運ぶリョウたちに、俺達はホッと胸をなでおろす。

 甲児とボスも、気が抜けたのかその場に座り込む。気が抜けたのは俺だって同じだ。

「何ていうか、ドッと疲れたな」

「思ったより早く片付いてよかったじゃないか。それよりも、遅れてすまん」

「言うなよ。さっき隼人が言っただろ。誰が一番悔しい思いをしたか、俺は分かってるからよ」

 甲児がこっちに拳を向ける。俺もそうするとコツンっと拳同士を打ち合わせる。

「悪くないな、こういうのも」

「だろ?」

 しばしの間感傷に浸る。が、それは本当にしばしの間だけだ。

俺は立ち上がると龍田から移し替えられた機体の整備をしないといけない。今度は遅らせない。

「しているさ。だけど、微睡みの時間は終わった。俺が本気で動き出す必要が出てきた」

 俺に政治能力はない。皇太子殿下や五摂家、雷電様たちにいつまでも頼りっぱなしというわけには行かなくなった。

「今は好きに囀っていろ。すぐに悲鳴に変えてやるよ」

 まずは米国派議員と国粋主義者の燻り出しだ。これはこっちに来る前に皇太子殿下たちにお願いしてある。それならばオレがやることは、私物化と言われようが、ロンド・ベルをとにかく強化することだ。

 衛士の資質?数が足りない?作ってから考えるさ。コスト?それを考えるのは技術廠のお偉いさん達だ。俺はとにかく作る。どれだけ時間がかかるか分からんが、それが多分、最短距離だ。

「一度ロンド・ベルを日本に帰す。このあたりの主だったハイヴは二つも潰したんだ。当面は安全だろう。一度日本に帰って、ロンド・ベルの戦果を国民に見せつける必要がある」

 そうすることで、日本の技術力を知らしめる。アメリカの影響力など必要が無いということを。そして、俺の行いが利敵行為じゃないことを。

 もしそれで俺の自由を奪うというのなら、ロンド・ベル抜きで同じことをやってみればいい。

「そうなると、ここの人たちともしばらくお別れか」

「俺はあのガキどもの面倒を見ないで済むだけで、清々するだわさ」

「そのくせ、結構面倒見てただろ?竹とんぼとか竹馬作ってやったりとか」

「余計なこと言うんじゃないわさ!!」

 どうやら、みんなこっちでそれなりに交友を重ねてきたらしい。

 だがまあ、いつまでもここに留まっている訳にはいかない。

「明日、日本へ帰国する。準備をしとけよ」

「随分と急だな。彩峰司令はなんて言っているんだ?」

「一度帰るってよ。これ以上国連の命令を聞いていたら、使い潰されちまうって」

 このままだと直近の、マシュハドハイヴの攻略命令も出るかもしれない。アンバール、ボパールと立て続けにハイヴ攻略をした俺達は、美味しい餌であると同時に目の上のたんこぶだ。撤退の名目は物資の枯渇、人員の損耗ということにしてある。

 さて、これからどう出てくるかな。出てくる前に撤退するつもりだが。そうでなければ、流石にアムロたちも持たないだろう。

 それに、一度日本に帰って物資を補給しないといけないというのも本当のところだ。物資は何も機体とか弾薬だけじゃない。食料や衣料品も含まれる。二度のハイヴ攻略戦で、こちらもそれなりに消耗しているのだ。

「そうか・・・。帰るのか、僕たちは・・・」

「どうした、アムロ。あんまり嬉しそうじゃないな」

「実感が無いんだ。ハイヴ攻略戦以外にも、ずっと戦いっぱなしだったから」

 俺は一度実家に帰ったけど、みんなはこっちで戦いっぱなしだったからな。

「よし、アムロ。お前、俺の実家に来い」

「えっ!いくらなんでもそれは悪いよ」

「気にするな。母上も、アムロの顔を見たいって言ってたし」

 子供が一人しかいない母上にとって、アムロはもうひとりの息子みたいに思っているらしく、俺と焔ちゃんだけで帰った時は少し寂しそうにしていた。

「というわけだ。遠慮するな。お前の部屋もあるんだし」

「分かった。そうするよ」

 さて、俺も来たばっかりだけど帰る準備をするかな。さしあたっては。

 

 

「それでこちらにも挨拶に来たのかね」

 挨拶に向かったのは、俺の奔放な行動にも大分慣れてきたらしい、ラダビノッド司令だ。

 開発のためだけに日本に帰るといった時は流石にどうかと思ったらしいが、持って帰った成果に大喜びをしているのは実はこの人だ。

 特に大喜びだったのはスコープドッグだ。いくらか予備も用意していたスコープドッグを無償で提供した時は、怪訝な表情をされたが、実際にうちから連れてきたスコープドッグ部隊と、ここのジムの部隊で模擬戦をさせたときから表情が一変した。

 結果は簡単に言うと、スコープドッグ隊の圧勝。小さな機体でありながら、戦術機にも勝利できる機体ということを知って、ガンタンク部隊からスコープドッグ部隊への転属を願い出る兵士もいたぐらいだから、それがどれだけ衝撃的だったか。

 そして、これは俺にとっても意外なことだったが、ソルテッカマンも好意を持って受け入れられた。理由はスコープドッグより小柄だからだ。ほとんど人間大のサイズで動けることから、基地内ではソルテッカマンのほうが有利なのだ。これは日本では考えられなかったことだ。

 それこそしょっちゅう防衛線を突破されて、基地内にBETAが侵攻してくるということがリアルにあったからだろう。

「君には、どうやって恩を返せばいいのか想像がつかんな」

「生きている内のある時払いでいいですよ。全ては、国家の再建がなってから払ってくれればいいです」

 もっといいのは日本にBETAが来ないように奮戦してくれることだけどな。この人は、多分だがそういった俺の思惑にも気づいているだろう。

 だがそんな思惑などどうでもいい程に、結果が出ているのだ。直近のハイヴ二つを攻略。事実上国を取り返したところもあるのだから。

「ならば、次は平和になった国で君を国賓として招待させてもらおう」

「期待して待っていますよ」

 がっしりと握手を交わす。改めて思う。分厚い手だ。この地で苦労してきた猛将の、歴史が詰まった手だ。何度も、そしてどれだけ悔しさに拳を握りしめてきただろう。

 この人達のためにも、俺は自重しない。阿呆な日本の上層部にも、アメリカの馬鹿な思惑にも、自分たちさえ良ければいいというクソッタレ共にも。

 

 さあ、俺の戦いの始まりだ。

 

 

 


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