マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者   作:ジャム入りあんパン

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23・ヒステリーなヒストリー

 

 

 俺はこの日、一人の天才と出会う。

 正直、厄介なものをセッティングしてくれやがってというのが本音だ。

 できる限り、紅蓮中将や神野中将、雷電様の後ろ盾を得たままの状態で合わずに済ませたかった人物だ。

 この世界における公式頭脳チート。因果律に魅せられた女。

 

 その名は、香月夕呼。

 

 おそらくは、俺の正体を暴くであろう女だ。

 

 

 そもそも、この会談自体がよく分からん。戦意高揚のために?何だ、同世代の天才二人の会談を載せたい?とか?

 どうするんだ、そんなもんやって。戦意高揚を狙うんだったらロンド・ベルがハイヴを攻略する映像でも流せばいいじゃねえか。

 何?刺激が強すぎる?知るか、そんなもん。

 とはいえ、この女と絡むことだけは全力で避けたかった。おそらくだが、何かしらの手段を使って俺が日本にいるタイミングを狙ってやりやがったな。

 そしてこれもおそらくだが、あの女は俺を自分の手駒にする気なんだろう。第三計画がぶち壊しになったことで、第四計画、オルタネイティヴ4に移行することは確定だ。

 だが、これも推測だが、第四計画に移行するにはまだ早すぎる。余計なことをしてくれやがった俺を、多分だが、嬲りものにする目的もあるのだろう。

 最後の可能性は、2周目の香月夕呼である可能性。二次創作SSではよくある定番の設定だったな。

 俺は着慣れないスーツに辟易しながら、その時を待つ。

 いいじゃねえかよ、軍装で。そっちのほうが楽なんだから。

 

 待つこと実に二時間。まあ、この程度は予想済みさ。

 仕事の片手間に作ったゲームでのんびりと遊んでいる。ゲーム自体は携帯型の戦術機シミュレーター。ぶっちゃけ言ったらアーマードコア風だ。

 実はこれ、俺の実家の地下で働いている人たちの間でめちゃくちゃ流行っている。ポケットに入る大きさっていうのが肝だよなー。

 そんなこんなでゲームのミッションを進めていると、誰かが部屋に入ってきた。ノックもなしかよ。

「待たせたわね。極東の最強頭脳」

「うん、待った。でも今いいところだから、一時間後に出直してくれね?」

 ゲーム機から顔も上げずに答える。

 いや、時限イベントのハイヴ攻略ミッションの真っ最中なんだよ。無線で整備班連中のゲーム機とつながっていて、今は中隊規模で戦いに挑んでいる。俺の機体はガンダム、オオトリストライカー装備だ。

「よし、中層部超えた!」

 右耳にセットしているインカムから、仲間の声が聞こえる。なるほど、これがアムロたちの立っている戦場か。

「俺がフルバーストで薙ぎ払う。みんなはそれに合わせて突っ込め」

 オオトリストライカーのEXアクションはフルバーストだ。右手に持ったビームライフルと、背中のビームランチャーにレールガン、ミサイルランチャーを一斉に発射する。

 派手な音とともにBETAが消し飛ばされる。見事!

 開いた穴に一斉に飛び込む俺たち。道を塞ぐやつだけを効率良く切り飛ばしながら、反応炉のいるメインホールにたどり着く。

 だが、このゲームで反応炉は一番弱いボスキャラだ。そして俺達が挑んでいるのは黙示録級だ。

 しかし、この機影は。

「よりによってヴォルクルスかよ!」

 魔装機神シリーズで猛威を奮った、破壊神サーヴァ・ヴォルクルス。ご丁寧なことに、ビームを吸収する特殊技能を持っている。

「ちっ!全員!そいつはビームを吸収するぞ!気をつけろ!」

 悲鳴のような声が聞こえる。そりゃあみんな最新兵器を使いたいだろうよ。となると、戦えるのは俺ぐらいか?

 俺は機体を倒すと、ヴォルクルスの下に潜り込みつつ、頭部のバルカンを斉射する。分かっちゃいたが、あんまり効いてねえ!

「ちょっと、人を待たせて何をやっているのよ!」

「あんたが言うセリフかよ、ちょっと待ってろ!」

 有効な武器はレールガンのみ!ミサイルは使い切ってしまったから、これ以外に方法はない。倒せるか?

「全機、武器を実弾に切り替えろ!根気で勝負だ」

 さあ、破壊神。覚悟を決めろよ?

 

 

 一時間後

「やっぱり破壊神撃破は無理だったよ・・・・・・」

 ものの見事にフルボッコにされた俺、そして通信機の向こうの同士たちは多分だが、ぶっ潰れていた。

 俺、こんなものをアムロたちにやらせていたのか。今度からもうちょっと自重しよう。

「で、人を1時間も待たせて何をやっていたのよ!」

「人を2時間も待たせたやつに言われたくはない」

 ゲーム機の電源を落として、インカムでゲーム仲間に挨拶を済ませた俺は、ゆっくりと椅子に座りなおす。

「さて、はじめましてと言っておこうか」

「ええ。初めましてのはずよね。まるで私を知っているような口調の貴方」

「それは気のせいだ。間違いなく初対面だぜ。少なくとも、2時間も待たせる女とはな」

 俺はあくまで頭脳チートだからな、あんまり頭の良い会話は得意じゃないんだが。そうも言っていられんか。

 ところで、隅の方にいる記者さん。あんたが前に出てこなければ話は進まんのだがな。まあいいか。

「それで、ご用件は?」

「あんたの化けの皮をはがしに来たのよ」

 だと思った。

「化けの皮・・・ねえ?俺ほど日本の国力増強に協力している男はいないと思うが?」

「そうね。新型戦術機、空中戦艦、ビーム兵器。明らかにこの時代にそぐわない、一歩どころか十歩以上飛び出した兵器の数々」

「別に問題はないだろう。それで誰も不幸になっていない。世界に行き渡ることで最前線国家はBETAを押し返す」

 ニュータイプとして覚醒したアムロ。そして、多分だがゲッター線もそろそろ動き始めるはずだ。マジンガーはその時にどうなる?異能生存体はその時、どんな未来を掴み取る。

 そして、これからの世界に出てくる若者は。この世界の本来のヒーロー、白銀武はどう動く?因果の中心にいる娘、鑑純夏は?

「お前さんの理論は面白かったよ。おかげで次元連結システムなんてものも思いついたぐらいだ」

 コストの面で作らないけどな。

「次元連結システムですって?」

「そう。異次元から無限のエネルギーを引き出すシステムだ。うまく行けば、国内のエネルギー問題は解決だな」

「ふざけてるの?」

「ふざけちゃいないさ。人生はいつだってこんなはずじゃなかったことの連続さ。それでも俺達は進み続けなければならない」

「嫌な現実ね。それで、その次元連結システムはいつ出来るのかしら?」

「俺の気が向いたときだな。正直、仕事が多くてな。あんまり遊んでいられない」

「さっきは十分に遊んでいたわよね」

「2時間も潰しといて何言ってやがる。宮本武蔵のつもりか?」

 だんだんお互いに言葉が荒くなっていく。自覚してはいたが、俺とこの女の相性は最悪だ。間に白銀武みたいなファクターが入らない限り、会話は成立しない。少なくとも、今、出会うべきではなかった。

 俺は大きく溜息をつくと、席を立つ。

「あら、どこに行くのかしら?」

「帰るのさ。俺のいるべき場所に」

「逃げるつもり?」

「逃げる?お前から?笑わせんな。時間の無駄を悟ったからだよ。俺とあんたの間で会話は成立しない。人を挑発するだけ挑発して、それでは敵を増やすだけだぞ。増やすなら味方にしとけ」

「なら、私の目的を話したら、貴方は味方になってくれるのかしら?」

「無理だな。どうせオルタネイティヴ計画だろう?」

 部屋の中の空気が硬質なそれに変わる。そう、この場で口にしてはいけない話だ。何しろ、無関係の記者がいる場所だからな。

「やめとけ。今のお前では、敵を無駄に増やすお前では絶対に失敗する。いや、時間さえかければ成功するだろうが、断言してやる。味方の少ないお前には無理だ」

 そう、それこそが横浜の女狐と呼ばれた所以だ。本人は自分の力を過信する。そして無闇矢鱈と敵を作る。その結果、協力し合うこともしないで一人で突っ走って滅亡する。それがある意味、アンリミテッドという物語の全てと言っても過言ではない。

 いや、マブラヴオルタネイティヴという世界の全てだろう。もし、もしもだ。もっと早い段階ですべての国々が協力し合うことができれば、白銀武も鑑純夏も必要なかった。

 俺がこの年になって得た結論だ。

「敵なんぞ増やしても意味は無いぞ。味方を増やしてみんなで歩け」

「っ!あんたは、何様のつもりよ!!」

「別に、説教のつもりはねえよ。ただ、その勘違いを正さないと、あんたに協力は出来ない。俺は駒じゃないし、俺のダチを駒にするつもりもない。そこは既に俺が通ってきた道だから先達として警告しておく。誰かと手をつなぐ方が楽しいぞ?」

 らしくもない。だが、これで分かった。この香月夕呼は二周目じゃない。二周目だったらもっとうまくやるはずだ。性格に子供っぽさが残りすぎている。年齢に性格が引っ張られているのかと考えないでもなかったが、あれは素だ。間違いなく、知恵が回るだけの小娘だ。だからもし、これから俺の敵になるのならば、躊躇はしない。叩き潰す。

 とはいえ、このまま潰れられても困る。精神的に俺の方が大人な面も合わせて、少々やりすぎたと思っているのもある。

 まあ、プレゼントぐらいはしておくかな。受け取るかどうかは別にして。

 

 

 拓哉が立ち去った後、香月夕呼は苛立ちも顕に椅子を蹴倒して立ち上がった。

 全く相手にされなかった。あの男にはなにかがある。そう踏んでいた。5歳の頃から異様な才能を示し、今もなおこの世の科学の最先端を行く男。絶対に何かしらのインチキがあると思っていた。

 だが、結果は惨敗。子どもに付き合う暇はないと露骨に言われたようなものだ。同じ年だと言うのに、なぜこれほどの差があるのか。それを見せつけられるだけに終わった。

「何よ、私なんて眼中にないって言うの!?戦術機バカのくせに!」

 近くに記者がいることもお構いなしだ。だが、それだけ悔しかった。

 あの背中に、沢山の人の手があるように見えた。それは気のせいかもしれない。だが、自分にはないものをあの少年は持っている。それだけが、ただ悔しかった。

 

 

 数日後、香月夕呼のもとに拓哉のゲーム機が送られることになる。

 更に数日後、ガッツリゲームにハマる香月夕呼の姿を見ることが出来たとか。

 

 更に後日談。

 とてもではないが、あんな会談の内容は雑誌では使えないと泣きが入った。

 知らんがな。

 

 

 


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