マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者 作:ジャム入りあんパン
雷電様から相談されたのは、雷電様の二人の孫娘のことだ。
これが普通の姉妹だったら問題ないのだが、双子の姉妹だという。
双子は国を割る。その迷信によって姉妹は引き裂かなければならない。これが江戸時代や戦国時代なら、片方は殺されることもあるのだろうが、この時代にそれはない。
だが、二人は別々に育てられることとなる。寝ている時に無意識に手をつなぐぐらいに仲が良く、顔を合わせれば抱きしめずにはいられない可愛らしい孫を、この爺様は手放したくないのだとか。
いや、知らねーよ。
俺に武家の仕来りをどうしろと。
呆れ半分で聞いている俺と、涙を堪えるかのような雷電様とそのお付の男性。なんでも、月詠さんだとか。真那か真耶の父親か?そして、俺の側で困ったような顔で話を聞いている焔ちゃん。
「正直、俺の手に余りますが」
「どんな無理も押し通してきたお主なら、なんとかなると思ったのじゃ」
「俺の専門は兵器の開発ですよ。それでもどうしてもと言うのなら、一言だけ言わせてください」
俺はすぅっと息を吸い込んで、腹に込めた一言を放った。
「アホかと。つーか、武家はアホの集まりかと」
瞬間、傍に控えていた月詠さんが刀を抜いた。俺の首に向けて放たれたそれを、焔ちゃんが扇子で受け止める。
「月詠様、刀をお収めください」
「ならぬ!この小僧めが!雷電様がどのような思いでこの話を持ってきたと思っている!!」
気持ちは察するよ、俺もな。だが、それでももう一度言っておこう。
「もう一度言っておきますよ。武家はアホの集まりかと」
「なぜそう思う?」
「双子が生まれて国が割れる?馬鹿な。世界は今、滅亡の危機ですよ。現地を見てきた俺がいいます。国どころか世界が割れる寸前です。俺が生まれるよりも前からね。悠陽様と冥夜様?そのお二人が生まれた頃にはとっくにそうなっていたはずですが?」
本当に、武家もこの国の政治家も、頭の中が湧いてやがる。
「双子で国が割れるなら、三つ子なんていったら世界が割れて、四つ子になったら滅びますか?六つ子なんて言ったら宇宙が滅びますよ。そんなわけあるかい!」
「うぬ・・・」
「そもそも、この国の中だけで双子の兄弟姉妹がどれだけいると思っているんです。まさか、血筋が違うだとかアホな事言わないでくださいよ。双子なんて、母親の腹の中で卵が二つあったか別れたかの違いでしか無い。言ってしまえば、奇跡的な化学変化の産物ですよ」
そう、ただそれだけだ。
「馬鹿馬鹿しい。国が割れるというのなら、悠陽様と冥夜様のいずれかを殺してみますか?そうすれば日本にBETAが来ないとでも?ありえない」
「だが、貴様がそう言ったところで武家の仕来りは変えられん!」
まだ俺の首を切り落とすつもりなのか、月詠さんは焔ちゃんと鍔迫り合いをしながらそう言う。
「変えてしまえばいいでしょう。前例があることも、最初は前例がなかったんですよ。戦国時代の人に今の日本を見せてみます?馬鹿でっかいビルが立ち並び、鉄の箱が海に浮くわ空を飛ぶわ。挙句の果てに巨大な人形の巨人がそこらじゅうを飛び回っているんですよ。更に、月よりも遠いところからわけの分からない連中が押し寄せてきていて。言い出したらキリがない」
なんでこんな話をしているんだか。
「どうしても二人を一緒に育てたいのなら、仕来りをぶち破るしか無いですよ。仕来りを守りたい。でも孫を手放したくない。これ、通用しないですから」
むっつりと黙り込む雷電様。だが、俺もこれ以上を譲るつもりはない。何しろ、俺にとっては完全に他人事なのだから。
結果、二人が別れて育てられてもそれは原作通りだし、一緒に育つことになったからといってどうという事はない。
俺にとっては本当に些細な事だ。本人が怖気づいているのに、俺がこれ以上後押しする理由はどこにもない。
「で、結論は?」
「無論」
覚悟を決めた爺様の動きは、それはもう見事なまでに早かった。
後先がないから爺さん婆さんは何をするか分からんと言うけど、これはまさにその典型だった。煌武院家の当主の座を息子に譲り渡し、アッという間に身軽になった雷電様は、親戚筋の御剣家に二人共預けてしまったのだ。そして、自らも名を御剣雷電と変えて、二人を同時に養育した後、姉の悠陽様に煌武院家を継がせると宣言したのだ。
勿論、煌武院家を出たからと言ってなかったことになるわけじゃないと、多くの武家が騒ぎ出したが、それを黙らせた。武力で。おいおい。
帝国三武神の一人が本気を出せばこんなものだろう。内二人は海外に出ているから止めることの出来る人間はいないし、息子さんは止める気はサラサラ無いそうだ。小さい娘さん二人が、姉妹で離れ離れになることを嫌がったからだ。
で、俺の方に抗議文が大量に届いている現状を誰か説明してくれんかな?
まあ、色々書いてあるよ。武家の仕来りがどうだとか、一番切実なあの爺をどうにかしろとか。
結論、知らん。俺は知らん。いつの時代に誰が作ったかわからない、科学的根拠も怪しいものを後生大事に抱えてきた結果がコレだ。
変革の時には大山が動く。大山鳴動して鼠一匹。なんて言葉があるが、出てきたのはドラゴンだったというわけだ。良かったな、しょぼくなくて。
俺はガンダムMk-Ⅱ制作の傍ら、それを横目に見て、内心では腹を抱えて大爆笑していた。
議会が荒れに荒れて大暴走状態らしい。今は必死に沈静化への道を探しているそうだ。榊是近外務大臣・・・もとい、総理大臣。多分だけど、史実より大分早く出世したんじゃないかな?
この人、いい人なんだけど不思議とヘイトを集めてしまうからな。おやっさんの従兄弟だと言うし、ぜひとも守らなければならない。クーデターで死ぬにはあまりにも惜しい傑物だ。
その前に、胃の病気で入院してしまいそうだけど。
しゃーない。スコープドッグとソルテッカマンの量産体制を急いで、歩兵戦力の拡充を手土産にヘイト減少に協力するか。
そうそう、ソルテッカマンも出来たよ。ただし、やっぱりATに比べればコストがかさむというのがな。
ATはすでに製造ラインが作られた。驚くほど簡単に組むことが出来、オプション次第でどんな戦況にも立ち向かえ、何よりお安い。
逆にあんまり評判が良くないのが、ソルテッカマンだ。意外だと思うだろう?意外でもなんでもないんだ。コストがかさむ。ソルテッカマン一体で、スコープドッグを4機作ることが出来るってなったら、その金があるんだったらジムを作れと言われているぐらいだ。流石にソルテッカマンはジムより安いが、量産するとなると、微妙なお値段のようだ。
まあ、それよりも気になるのは、だ。報告書の中にある第666戦術機中隊って、シュヴァルツェスマーケンじゃなかったっけか?俺、あれ完結まで読んでないんだよな。アニメの方は見たけど、読み切るより先に死んじゃったし。
どうする?俺はこの物語に介入すべきか?だが、ロンド・ベル本体は動かせない。ボパールハイヴ攻略戦があるからだ。俺の体も一つ、行けるのは二つに一つ。これは早くに結論を出さないといけないかもしれない。
さて、話を本筋に戻そう。
煌武院家のお姫様問題だ。
結論から先に書くと、解決した。有り体に言うと、煌武院家がバックに付いた俺がさらにバックに付いた。俺が戦術機を用意するからそれで我慢しろということだ。お陰でジムの斯衛軍使用機を作らなければならなくなってしまった。
実に面倒な話だが、煽るだけ煽ったのも俺だ。これに関する国内折衝を全部榊総理に任せて知らん顔も、流石に悪いと思っているわけだ。
そして、もう一つ餌を用意した。それが水陸両用艦フリーデンだ。そう、ガンダムXに登場したあの船を作った。元々はこれをロンド・ベルの旗艦にするつもりだったのだが、ロンド・ベルの規模が思った以上に大きくなりすぎたためにお蔵入りしていたやつだ。
ちなみに、これは呉の造船所で建造させていた。が、ホワイトベースの、天馬級の二番艦の就航で後回しにされていたのだが、それはケツを蹴り回して急がせた。
これにもラミネート装甲とビーム砲を装備してあるため、そこらの船を出すよりは十分に戦力になる。更に言うなら、スコープドッグやソルテッカマンを乗せるだけならば十分すぎる船になる。
艦長には歴戦の提督、小沢提督を指名してある。なんか、原作に出てきた人っぽいけど、よく覚えていないからまあいいや。
さて、俺の結論だが、行かないことにした。
正直に言うと、現状がよく分からん上に、ハイヴ攻略戦を控えているところを放置するほうが怖い。無責任とか言うなよ。そのへんはキリコに言い含めてある。不幸な目に合うやつは一人も出すなよ、と。
多分、これで彼が原作キャラを生き延びさせてくれるはずだ。もう丸投げに等しいが、そこは戦術機ともやりあえる歩兵用装備だ。BETA相手にも十分に通用する。
これで、俺の日本国内での仕事はすべて終了。後は、ゆったりとロンド・ベルに帰るだけ。
の、はずだった。