マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者 作:ジャム入りあんパン
誰もが緊張の面持ちでディスプレイを見つめる。
この場にいる誰もが、ハイヴを初めて攻略するのだ。かくいう俺も、あれだけぶち上げておきながら、彩峰司令の隣で握り込む拳は、汗に濡れている。
この世界はスーパーロボット大戦ではない。万が一にも、アムロ、甲児、リョウ、隼人、武蔵の誰かが帰ってこないかもしれない。それを考えると不安が押し寄せてくる。
だが今更止める訳にはいかない。あれだけみんなを戦場に駆り立てたのだ。降りる訳にはいかないし、降りるつもりもない。
ふと、隣の焔ちゃんが俺の手を握る。戦術機の訓練を受けていない焔ちゃんは、俺の隣でゲスト席に腰を落ち着けている。
「大丈夫ですわ。拓哉様の、拓哉様たちが作り上げた部隊ですもの」
「焔ちゃん・・・。ああ。みんなを信じよう」
ふと隣の彩峰司令を見ると、微笑ましいものを見るような目で見ている。俺達はブリッジ要員の癒やしかい。
『くぉら!拓哉ー!』
突如として馬鹿でっかい声がブリッジに響き渡る。
「なっ、武蔵!?」
『お前はオイラたちを信じて、どっしり構えていればいいんだよ!』
『そういう事だ。俺達は、絶対に生きて帰る』
『フッ。だから、大将はじっとしていろ』
「俺は指揮官じゃないぞ」
ゲッターチームからの茶々が入る。
『みんな、君がいなければ集まらなかった人材だ』
『そうとも。ロンド・ベルは君が作り上げた部隊だ。指揮は取らなかろうが、トップは君だと思っているよ』
『おっさんたちの言うとおりだぜ。しっかりしろよ、大将!』
『私はまだおっさんという年じゃないんだけどね』
アラサーのお二人は立派におっさんです。
『僕は、拓哉がいなければ戦術機には乗らなかったと思う。でも、ここに来たことを後悔してはいないよ』
『おっ、アムロにしては前向きじゃねえか』
『くっそー!俺も戦術機に乗れればー!』
甲児の茶化す声と、ボスの悔しそうな声が響く。
ボスがボロットで出撃できない理由は単純だ。技量が追いついていない。単純に足手まといだからだ。勝手に出撃されたら困るので、マジンガーとゲッターの力を使ってがっちり機体を固定して封印しているため、出撃することは出来ないのだ。
まあ、それでも無理やり出撃しそうな輩では有るが、武器を一切装備していないガンダムに完封された時点で流石にやつも諦めたらしい。
単純にアムロが強くなりすぎているだけじゃないかという気もするが、そこは気にしないことにしておこう。
「さて、そろそろいいかね」
「すみません、私的な通信で」
「ハッハッハ!気にすることはないよ。どうやら、いい具合に緊張もほぐれたみたいだからね」
『この部隊はいつもこうなのか?』
「いつもというほど実戦は積んでませんけど、大体こんな感じですよ。ソフィア少尉は大丈夫ですか?」
『は、はい!火器管制システム、問題ありません!!』
第三計画部隊で唯一ホワイトベースから出撃するアントン中尉達だ。アントン中尉は流石に慣れたものだが、火器管制だけとは言え、実質初陣に近いソフィア少尉はまだ若干緊張気味だ。
「さて、それでは諸君。我々はこれよりBETAの本拠地に突入する。力及ばず倒れるか、後に続く標となるかは諸君次第だ」
急に空気がピンっと張り詰める。
「だが私は、諸君ならばやり遂げられると信じている。これよりオペレーションSRWを開始する!!」
『SRWってなんの略ですか?』
「そんなもん、
17・「スーパーロボット大戦に決まってるだろ?」
『スーパーロボット大戦?』
「こっちのことだ」
流石にそれは言えないよ。
「だが、言い得て妙だな。ガンダム、マジンガーZ、ゲッターロボ。いずれ劣らぬ超戦力だ。これだけお膳立てが整った上で負けたら笑えないぞ」
『大丈夫ですよ、司令!俺達は生きて帰る!必ず!』
彩峰司令の号令とともにホワイトベースのカタパルトハッチが開けられる。
まず一番最初に飛び出したのは甲児のマジンガーZだ。
『行くぜ、マジーン、ゴー!!!』
紅の翼をまとった黒鉄の巨人が飛び出し、続けてゲッターチームが飛び出す。
『行くぞ、みんな!チェェェェンジ、ゲッター1!スイッチ・オン!!』
3機の戦闘機が合体し、赤い巨体が現れる。
そして、最後に出撃するのは。
「アムロ、行きまーす!」
オオトリストライカーを背負ったガンダムが飛び出した。
頼むぜ、みんな、生きて帰ってきてくれよ。
正面からBETAの群れが押し寄せる。
アムロは操縦桿を押し込んで一気に加速させる。
いま、彼の思考は驚くほどクリアになっている。不思議とBETAの次の手の内が読めるのだ。これが拓哉の言っていたニュータイプなのだろうか。
拓哉は言った。ニュータイプとは、戦争なんてしなくてもいい人類なのだと。
だとしたら、BETAとも戦争しなくてもすむのではないだろうかと。
「いまは、目の前の敵を片付ける!」
ビームランチャーを展開し、正面から迫っていた突撃級の群れに狙いをつける。
「そこぉっ!!」
放たれた閃光が、正面の突撃級と、後ろに隠れていた光線級を焼き尽くす。続けてアムロは機体を横にスライドさせつつ、ミサイルランチャーを放つ。
正面に迫っていた突撃級を全て爆砕しつつ、更にレーザー対艦刀を構えて突撃をかける。爆炎の向こうには案の定、光線級が待ち構えていた。だが、レーザーを放つよりも先に両断する。
「突っ込み過ぎだぜ、アムロ!」
アムロの隣に並び立つように、マジンガーが降りてくる。
「こいつがもりもり博士から受け取った遺志だ!アイアンカッター!!」
『おい、もりもり博士は死んでないからな!』
拓哉のツッコミと合わせて、要撃級を複数体まとめて切り裂きながら、超合金Zの刃をまとったパンチは飛んで行く。
いつもの調子の甲児に、アムロは少しペースを取り戻す。確かに突っ込みすぎていたかもしれない。それを再確認したアムロは少し後方に下がりながら、ビームライフルで小型種をなぎ払いながら甲児の援護をする。
「ドリルアーム!!」
要塞級の巨体に大きな穴を開けるゲッター2。そこにさらに突撃級が押し寄せるが、コクピット内の隼人たちは小さく笑みを浮かべる。
「ゲッタービジョン!!」
超高速移動による残像めがけて突撃級が殺到し、そのままお互いに激突して砕け散る。
「速度もオツムも、大したものじゃなかったな」
更には高速移動の余波で、小型種が軒並み消し飛んでいるのは流石だ。
次の瞬間、アムロは脳裏に嫌な予感を感じ、すぐさま機体を横に倒す。そしてその予感の方向にビームライフルを斉射する。
いつの間にか近づいてきていた突撃級だった。突撃級は正面からビームで大穴を開けられ絶命する。
「おいおい、今の分かったのかよ」
「何となく、予感がしたんだ」
「すげーなー。それが拓哉の言っていたニュータイプってやつか?」
「油断は禁物だ。今、ギリギリまで気づかなかっただろう」
「隼人の言うとおりだぞ、みんな」
アムロたちに近づいてくるBETAを排除しつつ、シローのガンダムが近づいてくる。
「力を過信するな。それでは容易く命を落とすぞ」
「は、はい!」
珍しく硬い士郎の言葉に、ここが戦場であることを思い出す。
そして、人類初のハイヴ攻略を成功させるつもりなのだと。
改めて気を引き締め直したアムロたちは、目の前の敵に向き直る。
「天田少尉も随分と隊長らしくなってきたな」
「私達の見込んだ通りの人材だったな」
巌谷と篁の二人も、ビームライフルを斉射しながら周囲の様子に目を配る。
ロンド・ベルの第2戦目は非常に順調だ。ジム部隊も順調に戦果を稼ぎ、随伴している第三計画のA-01にも脱落機がいない。
やはり超兵器じみた機体が中央で敵を集めているのが大きいのだろう。巌谷たちの見間違いでなければ、ガンダム、マジンガーZ、ゲッターロボに敵の攻撃が集中している。
巌谷はここでBETAの習性を思い出す。高度なコンピューターを積んでいる機体に集中する癖があるということを。
だからこそ疑問に思う。マジンガーZとゲッターロボはまだ分かる。あれは拓哉と並ぶ超頭脳の持ち主が開発した、独自規格の機体だ。だが、ガンダムに敵が集るのはなぜなのだろうか。
巌谷と篁は、いや、この場で知っているのは拓哉しかいないことだが、ガンダムに積まれているバイオセンサーに引かれているのだ。
しかしこれは他の部隊、特にレナード大尉指揮下の新人部隊にとってはありがたいことだった。あまり敵が寄ってこず、新兵器のジムの火力でどんどん敵を打ち倒すことが出来るのだから。
既に彼らは『死の8分』を超えている。だが、今は初陣の緊張でそれに気づいてはいない。レナードはあえてそれを口に出さない。
「大したものだ。これが日本の新型の力か・・・」
「大尉、戦闘開始より15分が経過。脱落者なしです」
メリッサからの通信に顔にも態度にも出さず、レナードはポツリと呟く。
「時代が変わったな・・・。私たちは時代の変わり目にいる」
レナードのジムに装備されたオオトリストライカーのビームランチャーが火を噴く。あれほど撃破が困難と言われた要塞級の胴体に大穴を空けて、あっさりとその命脈を立つ。
本当に時代が変わったと思う。彼が新兵だった頃からは考えられない。いまからF-4に乗れと言われれば、鈍臭くてとても乗れたものではないだろう。
「私達は彼らに武装を提供してもらった上に楽までさせてもらっているのだ。無様を晒すなよ!」
『了解!!』
「認めるしかないか・・・」
紅蓮は自身の機体、紅蓮ガンダムを駆りながらそうつぶやく。
今まで以上に自分の動きについてくる機体。軽やかな、舞うかのような機体の挙動に驚きを禁じ得ない。
マグネットコーティングなどという、訳の分からないものに不信感を持たないでもなかった。
だが、急場で機体の性能を上げるという無茶を、見事に通してみせた。
と、その時、部下の白いジムの背後に要撃級が迫ってきていた。紅蓮は素早くビームバズーカを構えると、一撃でそれを撃ち抜いた。
「気を抜くでない!」
「も、申し訳ありません、中将閣下!」
「貴様にも娘がいるのであろう。ワシに貴様の死の報告をさせるではないぞ、神代よ」
「は、はい!」
そして再びビームサーベルを構える。ハイヴに突入するために。人類の勝利を得るために。そして、愛しい娘の元に帰るために。
やはりと言うべきか、敵の攻撃がガンダムに集中している。
ガンダム、マジンガーZ、ゲッターロボがひとかたまりになっているからこそ気づかれていない・・・いや、彩峰司令は気づいているだろうが、アムロたちの技量の高さゆえに目をつむっていると言ったところだ。
だが、逆に考えれば今がチャンスだ。切り札の一枚を切る。
「彩峰司令、切り札を切ります。艦正面の機体を下げさせてください」
「何、切り札?」
「今なら正面のBETA群と、ハイヴ地表構造物をまとめて撃ち抜けます」
「分かった。君の言うとおりにしよう。全軍に通達。全速力でホワイトベースの正面から退避せよ!」
俺はポケットからキーを取り出し、それを司令に渡す。そして、司令の目の前のコンソールにある鍵穴を指差して言う。
「そこの鍵穴、メンテナンスハッチじゃないんですよ」
「このタイミングで聞かされたくはなかったがね。ところで、切り札とは何かね?」
戦艦の切り札といったらそんなもん、決まっている。馬鹿でっかい主砲だ。
ホワイトベースのサイズが一回り大きくなったのは、実は原作には積んでいなかったこの装備も原因だ。
「ハイパーメガ粒子砲です」
司令が鍵を回すと同時に、ガコンッと艦体が揺れて艦底部が開く。ハイメガ粒子砲の砲身がせり出し前に伸びる。こうしないと前足にビームが引っかかるからな。
「ホワイトベースより各機へ。これより本艦はハイメガ粒子砲を発射する!射線上より退避せよ!」
「聞こえるか、アムロ、甲児、ゲッターチームはそのまま真っすぐ下がってこい!薄々気づいていると思うが、奴さんらはお前たちを集中的に狙っている!」
『やっぱりかよ!』
『なんでそんな!』
「お前たちの機体は特別製だ!光子力にゲッター線、とどめに熱核エンジンだ。BETAから見れば最高の餌なんだろうよ!」
『どうせなら可愛こちゃんに追っかけられたいぜ!』
軽口を叩きながらも、しっかりとBETAを引きずりながら正面に逃げてくる。ジムの部隊も指定された範囲から上手に逃げていく。
スパロボ的に言えば最高のシチュエーションだ。思わず笑みがこぼれるが、発射のタイミングは彩峰司令任せだ。
アムロたちが艦の後方に下る。そして。
「ハイパーメガ粒子砲、いけます」
「よし、ハイパーメガ粒子砲、発射ー!!!」
カッと目の前で光がきらめく。そして、巨大なホワイトベースそのものを後ろに押し返すほどの猛烈な衝撃が走る。
「きゃぁぁっ!!」
オペレーターの悲鳴が聞こえるが、誰もがこの衝撃に構う余裕はない。
一瞬とも永劫とも取れる光が過ぎ去った後、そこには抉られた地面と、わずかに残っただけのBETA。そして、先程まで威容を誇っていたハイヴ地表構造物は、跡形もなく消し飛んでいた。
『す、すげぇ・・・』
甲児の何気ないつぶやきは、この戦場にいた全員の心を代弁したものだった。
一番最初に正気に戻った俺は、まだ呆然としている彩峰司令の背中をたたきながら声をかける。
「司令、指示を!」
「ッ、すまない!全機無事か!」
「確認します!全機のシグナルあり。脱落機はありません!」
「よし、ならば、全機帰投せよ!これより本艦隊はハイヴへと突入する!紅蓮中将、ラダビノッド司令!地上の残敵は任せます!」
『一番美味しいところを持っていかれるのは癪だが、頼むぞ、彩峰!』
『残敵はこちらで掃討します。彩峰司令、ご武運を!』
次から次へと激励の通信が入ってくる。
そう、ここからは俺達だけ、ロンド・ベルとA-01だけが突撃する。
大丈夫なはずだ。あいつらを信じよう。
「よし、全機収容後、本艦はハイヴへ突撃する!帰投した機体は整備を急げ!」
「俺も行ってきます。手はいくつあっても足らんでしょうし」
「頼む!衛士は全員、体を休めておけ!」
俺は司令の指示を聞きながらブリッジを飛び出す。焔ちゃんを置いてきたが、あそこより安全な場所はない。
さあ、これはまだ前哨戦だ。そして、俺の手から完全に離れる戦いだ。
アムロ、甲児、リョウ、隼人、武蔵。全員生きて帰ってこいよ。
セリフをコピペでやった時に上書きした分を修正しました。