マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者 作:ジャム入りあんパン
あの後、鏡で自分の顔を見てチェンゲ版になっていないことを確認した俺は、暴力外交で手に入れた、もとい、使えることになった権限で第三計画の部隊から数名の人員を引き抜いた。
露骨にホッとしたような顔をした大使殿。どうせ第四計画に移るまでの数年だ。
この間日本から届いた情報で、香月夕呼という天才少女の話を聞いた。
あー、夕呼先生が因果律量子論を発表したのって今年だったのか。
原作キャラが動き出していることを確認した俺は、大体の時間を把握した。と言うか、同じ年だったんだな。となると、まりもちゃんも同じ年か。
まあ、関わるようになるのはもっと後だろう。第四計画に協力すること自体は問題ないが、接収されるつもりはない。その間に今ある権力を使って、国連にもなんとか関わりを持てるといいなと思っている。俺の権力じゃないけど。
大丈夫大丈夫。ソ連のものは俺のもの。俺のものは俺のもの。
さて、接収した人員を確認しよう。
接収したと言っても、その数はたったの二人だけ。俺が欲しいものは第三計画にはないし、むしろ、メインは今現在持っている権力の方だ。
大丈夫大丈夫。俺は、魚は骨まで食べるタイプだから。中途半端に手を付けて後は知らん顔、なんてしないよ。食べられるところは余すところなく全部食べ尽くして、ポイするところなんて無いようにするタイプだから。
話を戻そう。
接収した人員の内、一人はアントン・ガバレフスキー中尉。熟練の衛士で三十路絡みの厳つい人。この人を選んだ理由は、思想的にクリーンだったこと。ソ連内部では思想犯一歩手前だったということ。大丈夫大丈夫。ちゃんと祖国に帰っても大丈夫なようにしてあげるから。
そしてもう一人が、アムロが気絶させたESP能力者。ソフィア・ビャーチェノワ少尉。この時代では最新の第五世代能力者だ。
気絶させた張本人のアムロより、俺の方を見て怯えていたのはどういうことだろう。やっぱり顔が石川賢風の顔に変質しているのだろうか?
この子を選んだ理由は単純だ。後の子たちは物理的にボコられた子たちの思考をリーディングしてしまい、こちらに対して完全に恐怖心を持たせてしまったこと。主な原因は隼人だが。
「お前な、いくらなんでも髪を掴んで引きずるなよ」
「敵に容赦する理由がないだけだ」
そう言ってそっぽを向く隼人。どうやらこいつはこいつで、ゲッターロボに対して特別な思い入れがあるらしく、勝手に触れられたことが許せないらしい。
話を戻すと、こちらに怯えず、ある程度使い物になるのが、一人しか残っていなかったということだ。
そのソフィア少尉だが、アントン中尉には懐いている。これは偶然の産物だが、A-01でマインドシーカーという機体に乗る際に、一緒に乗るのがアントン中尉だとのこと。
腕が立つというのもあるが、それ以上に使い捨てする気満々だったらしく、結構ヤバイ作戦に投入されていたことを知った。
アントン中尉は結構そっけない態度を取っているが、ソフィア少尉のことをそれなりに気遣っているらしく、俺が近づくと威嚇するんだ。
・・・・・・俺の顔ってそんなに怖いか?
さて、俺の目下の仕事はマインドシーカーを使えるように改造することだ。
ってのも、マインドシーカー自体が相当特殊な機体で、ジムで代用できないからだ。
そして、もう一つの問題が、ソフィア少尉がまともな衛士訓練を受けていないことにある。どうやらリーディング能力だけを頼りにしていたらしく、戦術機では副座席でじっとしていることが多かったのだとか。
アントン中尉の実力が確かだからこそ出来ることだけどな。
シミュレーター訓練をやった時には量産型とはいえ、ガンダムに乗っている巌谷大尉と結構いい勝負をしていた。
シミュレーターにマインドシーカーのデータがないから、代わりにジムに乗ってもらったといってでもこれはかなりの腕だ。
だからこそ目下の目標は、マインドシーカーを大改造してジムと同等かそれ以上にすることだ。
とりあえずまずは、動力源をジムと同じものに変える。これだけでも大改造だが、武装をビーム兵器主体に変える。射撃武器の換装は簡単だが、背中に背負っているヒートサーベルはどうしようか?あの人の実力ならそのままでも問題ない気はするが、せっかくだからビームサーベルは腰にマウント、つまりゴッドガンダムとかあのへんと同じようにマウントさせて、背中のバックパックのみをストライカーパックに・・・いや、いっその事アントン中尉用にはもうすぐ日本から届くアレを装備させるか。
元々はアムロ用のストライカーパックとして開発したのだが、少数だが量産することが決定したらしい。テストで乗った衛士からの評判も良く、こちらには10機程度が届く。
バックパックと、腕をビーム兵器のコネクトを装備するために大改造するから、コクピットも全天周囲モニターにタイプに変えて・・・ヤバイ、原型が残らないな。それだったらジムを改造して乗せるか?いやいやいや、ここまで図面を引いてなかったことにするのはどうだろうか。
それに日本にはこういう格言がある。『魔改造は男のロマン』。俺と技術廠の一部局員の間で流行った言葉だ。一時期は撃震をどれだけ魔改造できるかを競い合ったなー。コストが高騰しすぎてどれも採用されなかったけど。
さて、改造するには一週間はかかるから、その間はアントン中尉にはジムにでも乗っていてもらおう。全天周囲モニターに慣れるにはいい機会だ。
一方その頃、アムロは。
ハロを抱えて部屋にこもっていた。
自分の中にある違和感、それは日増しに強くなっていった。元々6:4程度の勝率で巌谷や篁を押していたシミュレーター訓練の勝率が、最近は8:2にまでなった。その内の2も半ば自爆戦法のような手によってもぎ取られた勝利だ。
相手の動きが手に取るように分かる。巌谷などは「君に衛士としての才能があるのだよ」と気楽に言ってくれているが、アムロはそう簡単には考えられなかった。
自分が気絶させてしまった少女、ソフィア・ビャーチェノワの来歴を知ってしまったからだ。
ESP発現体。有り体に言えば人の心を読むことが出来る超能力者のような存在。そんな彼女が自分に何をしようとしていたのか、何の目的で自分に近づいていたのかを知った。
そして、なぜ彼女があれほど自分に対して怯えたのかも。
『アムロ、アムロ!ドウシタ?』
「なんでもない」
最近は甲児たちも心配なのか、頻繁に様子を見に来る。
アムロとしては心配をかけないように出来る限り表に出ているのだが、それを表情に出さないようにするには無理があるらしい。
そんな中、一人だけこの現状を相談できそうな人物がいる。友人でロンド・ベル直属の天才科学者、新塚拓哉だ。
あのおかしなバンダナをするようになった辺りから、彼に拒絶されているように感じている。勿論、彼にそんなつもりがないことは態度を見ていれば分かるし、親友の甲児などは絶対にありえないとまで断言した。
アムロは抱えていたハロをベッドに置くと立ち上がり、軍服を身にまとった。
こうしていても話は進まない。直接問い詰めにいこう。アムロにしては非常に前向きな考えだった。
『ニアワナーイ!』
後、最近ハロが饒舌になっていることも問い詰めよう。そう考えるアムロだった。
「ふむ・・・。各国の戦線は思っている以上によろしくないようだな・・・」
「はい。閣下。現状遅延戦術もまともに機能していない状況です。ここ数年は特にBETAどもの攻撃も苛烈で、せっかくの新型装備も生かせず・・・」
話を聞きながら俺は頭を抱えたくなった。
どうも、新塚拓哉です。マインドシーカー改の設計も終了して、焔ちゃんとイチャコラしようと思っていたところに彩峰司令に呼び出された俺は、ラダビノッド司令から現状のアジア戦線、いや、世界の戦線の深刻さを知らされた。
マズイ方向で原作ブレイクが進んでいる。おそらく、いや、ほぼ間違いなく原因は俺だ。
畜生!前にも言ったばかりじゃないか!BETAは学習するって!
奴らはレールガンの火力、そして学習型コンピューターに寄って得られる高い機動力に対抗するために、単純に戦力を増強してきやがった!
BETAの脅威はその学習能力の高さと、数だ。そう、数だ。奴らは単純にその戦力を増強することで、こちらの火力に対抗してきた。
小難しい戦略の話をしている二人の司令。俺、この場にいる意味あるの?
そう思っていたら話を振られた。
「ところで拓哉くん。F-4やF-15にビーム兵器を搭載することは出来るのかね?」
「エネルギーを機体から直で引いてますからね、大規模改装が前提で可能です。今はアントン中尉のマインドシーカーを改造するので一杯一杯ですよ」
と言うか、あの程度の数のファントムでもちょっとした騒ぎになるレベルの改造が必要だ。特に、エネルギーコネクターが必要になる腕から先は丸換えが必要だし。
俺にあるのはあくまでも頭脳チートで、生産チートじゃないのだ。
製造プラントを作ることも考えないでもなかったが、それを作るためにさらに物資が必要というおまけ付きだからな。そこだけは転生特典として失敗したと思っている。
「武器が通用するかしないかで言えば、レールガンとヒートサーベルでも十分にやれていますからね。ただ、数に対抗できないだけで」
「数、か・・・。それだけではないのだろう?」
「ええ。間違いなく、奴さんらは対応してきていますよ。ここ数年で攻勢が苛烈になっていますよね?」
「うむ。以前はこれほどでもなかったのだが、ハイヴも次々と建設されて、私達も対処に苦慮している」
もう一つマズイのが、ハイヴの数が増えている。
俺もうろ覚えなのだが、確か横浜ハイヴが甲22号だったはず。にも関わらず既に20のハイヴがユーラシアに建設されているらしい。
らしいというのは、俺がその辺の情報を軽視していたからだ。
やってしまった。情報が何よりも重要だということは、どんな二次創作でも書かれていたことじゃないか。現実の歴史でも情報を軽視して滅んだ国だとか、敗戦した国なんてくさるほどあるんだ。
完全に俺の油断だ。戦術機さえ開発していればいいと思っていた俺の油断だ!
と、彩峰司令が俺の背中に手を乗せる。
「大丈夫かね?具合がわるいのなら部屋に帰るかい」
「っ・・・!」
表情に出てしまっていたか。心配そうに俺の顔を覗き込む彩峰司令と、やはり心配そうにしているラダビノッド司令。
「すまない。科学者のあなたに無理をさせてしまったようだ」
「いえ。お気になさらず。自分の不甲斐なさを悔いているところです」
「現在の戦況は君のせいではないよ。むしろ、君がいなければどうなっていたか、想像したくもない」
違う。違うんだ。俺がいなければこれほどの事態にはならなかったんだ!
だが、一度付いた表情を隠す癖は抜けきらないらしく、一息ついた時には再びポーカーフェイスに戻っていた。
「お言葉に甘えて部屋に戻らせてもらいます。お力になれずに申し訳ありません」
「君が気にすることではないよ。こういう事は私達軍人の仕事だ」
「そうとも。むしろ、せっかく君が作ってくれた発明品を有効に使えず申し訳ない。あまつさえ、新型機をねだるなど・・・」
違う。本当に違うんだ。だが、俺はそれを口に出さず体を引きずるように会議室を後にした。
艦内の廊下をトボトボと歩いていると、何かが俺の足に当たった。ハロだ。
「ハロ?こんなところでどうした。アムロは一緒じゃないのか?」
『探シタ!探シタ!アムロ、コッチ!コッチ!』
ハロがぴょんぴょん跳ねながら、廊下の向こうを振り向く。
そこには、今まで見たことのないほど固い決意を宿したアムロが立っていた。