マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者 作:ジャム入りあんパン
苦手な人はごめんなさい。
必死に何かをやるのと、死ぬ気になって何かをやるのに明確な差がどこにあるのか聞かれれば、俺は本人の気の持ちようと答える。
例えば俺は死ぬ気になって何かをやっていない。死ぬつもりなんてサラサラ無いからだ。その代わりに、死にたくないから必死に開発や発明を続けている。
で、なんでこんな話をしているのかと言えば、ちょっとアムロたち、いや、ロンド・ベルの初戦が快勝過ぎたおかげで気が緩んでいるかもしれないと思った俺と彩峰中将は、現地の衛士との交流会を行ったのだ。
その時に、生き残ったのはレナード大尉とメリッサ少尉の二人の衛士だけだったが、いかにして彼らが死ぬ気になってこの地を守ってきたのかが知れたのだ。
それは彼女たちの存在によって。
「なあなあ、俺もガンダムに乗せろよー!」
「すげー、このバイク浮いてる!」
「デブー!デブー!」
それで決意が固まるかと思ったら大間違いだ、この悪ガキ共がーーー!!
何がなんでこんな大騒ぎになっているかというと、ホワイトベースの見学会をやろうということになったのだ。
で、その際に彩峰司令がうっかり「お子さんたちもどうですか?」と誘ってしまったのだ。つーか、誘ってしまいやがった。誘うなよ。曲がりなりにも軍事機密だぞ。
初めて見るタイプの戦術機に大騒ぎ。ガンダム、ゲッター、マジンガーと、見慣れないタイプは特に大人気。迂闊に格納庫にバイク(フライトタイプ)で乗り込んできた甲児は子どもにたかられて大騒ぎ。
どうすんだよ、コレ。レナード大尉がさっきから方々に頭下げまくってる。
ちなみにさっきからデブと言われているのは、こっそりホワイトベースに乗り込んでいた棒田進、つまりはボスだ。居たのか、こいつ。
「兜ぉ!見てないでなんとかするだわさー!!」
「諦めろよ、ボス。いいじゃねえか、最初に仕事ができて」
あっちはあっちで大騒ぎだが、俺の知ったこっちゃない。ボスもなんのかんので子どもに暴力は振るわないので放置。甲児も諦めたのか、バイクのケツに子どもを乗せている。
「アムロ、いいだろ。管制ユニットに入るだけでいいからさ」
「駄目に決まっているだろう!いい加減離れてくれ!」
「いーやーだー!!」
そしてアムロにまとわりついている色黒のちびっこは、レナード大尉の一粒種。今は殆ど男の子みたいだがれっきとした女の子、タリサ・マナンダルだ。
なんでかは分からんが、アムロが気に入ったらしく必死にまとわりついている。他の女の子はリョウの方に行っているのにな。
リョウ。手を付けたら国際問題だからなー!
リョーウ。手を付けたら国際問題だからなー!
他のゲッターチームはというと、武蔵がちっちゃい子、それこそ3つや4つぐらいの子に懐かれて、抱っこしてあげたりと大忙しだ。で、隼人はと言うと・・・。
「誰も寄ってこないのな」
「お前もだろうが」
俺は今来たばっかりですー!と強がったところで、俺と隼人の周りに人がいないのは事実だ。
隼人の場合は原作漫画版の殺人鬼みたいな顔をしているからだけど、俺は母上にそっくりな顔立ちで、人当たりもいいと思うんだけどな。
「拓哉様、それは子どもたちが気を使ってくれているからですわ」
「どういうこと?」
俺がちらりと目を向けると、こっちに寄ってこようとしていた子どもたちが、ある程度年かさの少女たちによって引き止められて引き返していく。
少女たち、ここがポイントです。
ああ、気を使ってくれるって、そういう事か。
「それじゃ、みんなに任せて俺たちは行こうか」
「はい。拓哉様」
俺は焔ちゃんの手を引いて格納庫から離れた。
後ろの方から、「しってるー、ああいうのがりあじゅーっていうんでしょー」「りあじゅー、りあじゅー」とか「爆発しろコンチクショー!」とか「逃げやがったー!」とか聞こえたが、俺は気にしない。
テラスまで出てきた俺は、焔ちゃんと二人分の合成茶を持って席についた。
そして、二人で茶をすすってほうっと一息つく。
「拓哉様、どうかなさいましたか?」
「どうかって、何が?」
「先程から思い詰めていらっしゃるようでしたから」
いや、そう言われてもまるっきり分からん。
キョトンとしていると、焔ちゃんも小首を傾げる。
「もしかして、ご自分でもお気づきになっていなかったのですか?」
いや、気づいていないって何さ?
正直、焔ちゃんが何を言いたいのかちょっと分からない。
「少し、昔のお話をしましょう」
初めてその少年の話を聞いた時は、信じられない思いだった。
少女には戦術機の事も軍事の事も、ましてや政治の事はまるで分からない。
だが、自分と同じ年にもかかわらず大人と丁々発止にやりあう少年がいるという話を、大きく偉大な父から聞かされた。
まるで夢のような存在に、会ったこともない少年に、少女は憧れの思いを抱いた。これが少女の始まり。
初めて出会った少年はどこまでも自由というわけではなかった。
自分の立場に息苦しさと、大人たちに怒りを感じているように見えた。
だけど、それは自分と接する時には全く見せなかった。思い違いでなければ、自分は彼の特別になれたのだと、誇らしく思った。
やがて少年はまた新しい発明を作り上げた。大人たちは少年を褒めそやすが、少年はあまり嬉しくなさそう。怖い顔の小さなおじいさんたちだけは例外のようだが、ちょっと動きにくそう。
次に友達が出来た。外国人の少年ということで少女は構えて見ていたが、風邪を引いて寝ている間に随分と仲良くなっていた。
友達というには大分振り回している感が強かったが。
そしてまた友達が増える、増える。それは喜ばしいことだ。少年の環境はおおよそ健全ではない。大人に囲まれて、大人の仕事をして、友達の数は片手の指程度。
そして今度は、戦場に出た。知り合った友人だけを放り出せずに、自分も同じ場所に立つことを選んだ。
こうして少年はまた抱え込む。守るものが一つ、また一つと、本人の気づかない内に増えていく。
彼は非常に強欲だ。友人にしろ知人にしろ、自分のものを絶対に手放さない。
ただし、自分が一番であることは絶対に譲らないし、自信を持って言える。
とにかく、一つ、また一つと守るものを増やすたびに少年は身動きが取れなくなっていく。いや、身動きは取れているのだろう。その度に少年の意志から離れていく。それでもきっと、少年は自分をごまかす。
自分が生き残るため、と。
そして今日もまた、守るべきものを増やしてしまった。名前も知らない子どもたちを。
焔ちゃんの語りが終わった時、俺は自分の手が震えていることに気がついた。
思っている以上に自分の心の中が読まれていたことに、戦慄を禁じ得ない。
やっぱりこの子、あのグレンダイザーの娘だ。俺はどこぞの煩悩GS少年みたいに、うっかり口に出したりしない。出す時はわざとだ。
自分が生き残るためなんて言う、誰にも聞かれたくない思いなんざ誰にも聞かせたことはない。
「焔ちゃんは、いつから気づいていた?」
「秘書をやるようになってからですわ。拓哉様の一番の目的は、自分が生き残ることだと」
「あー、別に俺一人が生き残るわけじゃなくってな」
「分かっています。お義父様にお義母様。アムロくんに甲児くん、竜馬くんに隼人くん、武蔵くん。ボスくんもですか?篁大尉と巌谷大尉。榊のおじさまに、シバさん。彩峰中将や私のお父様、お兄様たち。欲張りすぎです」
嫌な汗が吹き出る。この子はどこまで俺の本音を読んでいる。
「もう、辞めませんか?」
「は?」
「これ以上守るものを増やすこと。正直に申し上げますと、すでに拓哉様の領分を超えています。拓哉様はこれ以上何かを守る必要はないと考えています」
「・・・・・・それは出来ない」
「はい。存じております」
予想外の答えに、思わず肩の力が抜ける。
そんな俺の様子がおかしかったのか、クスクスと可愛らしく笑いながら続ける。
「ですから、もう少し私を頼ってくださいませ。思う存分にすがってくださいませ。その為に、私はここにいます」
「いや、すがるって言われても・・・」
「大体、拓哉様は一人でなんでも決めてしまいすぎですわ。お義母様や兜博士、早乙女博士にはあれほど頼りますのに。これでは婚約者の名折れです」
焔ちゃんは続ける。
「これから先、拓哉様は守るものを増やし続けるでしょう。そして、その重みに潰されそうになった時に頼ってもらえないのは、悲しすぎます」
いつの間にか近づいていた焔ちゃんは、俺の手をキュッと掴むと一気に引き寄せる。もう鼻の先がつくほどの距離まで近づいた。
「私は私の戦い方があります。拓哉様の体調を常に万全の状態に持っていくことです」
少しずつ近づいてくる焔ちゃん。柔らかい、優しい香りが鼻をかすめ、濡れた瞳と唇が近づいてくる。
これはもう、誘ってるんだよな。もう、決めちまうぞ
俺は開いている手を焔ちゃんの背中に回すと、強引に引き寄せた。そして、強引に唇を奪いかかった。唇の柔らかさと、焔ちゃんのいい匂いが同時に、暴力的なまでに俺に襲いかかる。
だけど負けるつもりはない。前世の数少ない経験を頼りに、舌で口をこじ開け焔ちゃんの舌と絡ませる。チュクチュクという水音を立てて、焔ちゃんの口内を蹂躙する。
戸惑ったままの焔ちゃん。悪いが、主導権は俺が頂く。焔ちゃんの唇、舌、口内の粘膜。味わうだけ味わい尽くした俺は、ゆっくりと体を離す。
ツーッと銀色の糸が俺と焔ちゃんの間を繋ぐ。それを指先で絡め取った俺は、自分の口に運んだ。そして、
「ごちそうさま」
「た、た、たたたたた拓哉様!?」
これだけ狼狽える焔ちゃんを見るのは久しぶりだな。
「続きはもっと大人になってから、な?」
「は、はひぃ・・・」
流石に14歳で合体はマズイです。まあ、そのタガが外れてしまう可能性が十分にありそうだけどな。主に俺が原因で!
腰が抜けてしまったらしい焔ちゃんを、ヒョイッとお姫様抱っこで抱きかかえる。
「とりあえず、部屋に帰るか?」
「はい・・・・・・。そ、その、続きは」
「俺達の年で子供が出来ちゃマズイでしょ」
子供が出来るようなことを想像したのか、顔がポンッという感じで真っ赤に染まる。
ムッツリだ。焔ちゃん、超ムッツリだ。
さて、子供が出来るようなことじゃなければ何をやってもいいというわけで。俺の部屋で続きをやろうか。
その後、テラスの従業員が真っ赤になったままで固まっていたと気づいたのは、結構後になってからだ。
今回からちょっと更新ペースを落とします。
そろそろ書き溜め分が終わりそうなので。