マブラヴで楽していきたい~戦うなんてとんでもない転生者   作:ジャム入りあんパン

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10・やるからには遠慮しない

 

 その機体を誰もが呆然と見上げる。

 白を貴重としたボディにゴーグルタイプの目。そして、背中には長刀を背負っていない代わりに、2本の棒が飛び出ている。腰には従来のものより大型のライフルがマウントされている。

 日本帝国が誇る最新の第3世代機、ジムだ。いま彼らの目の前には3機のジムが並んでいる。

「これが、第3世代機・・・・・・」

 生き残った唯一の部下、メリッサ少尉が見上げながらつぶやく。

 誰もが信じられないような思いで見上げる。つい先程まで戦場で猛威を奮っていた、人類史上初の光学兵器を搭載しているのだから。

 その威力は要塞級を物ともせず、突撃級や要撃級を一撃で塵と化した。機動力に至っては信じられないことにレーザーを回避するほどだ。

「なんで、タダで貰えたのでしょうか・・・」

 やはり心ここにあらずと言った風で問いかけるのは、整備士長だ。

「博士の言葉を信じるのなら、後方国家として当然の支援、だそうだ」

「額面通りの意味だとおもいますか?」

 それを信じるのはお人好しがすぎるだろう。そう思いつつも口には出さない。何しろ手元には第3世代機の現物があるのだから。

 新塚拓哉にはいろんな噂、いや、噂を通り越した伝説が付き纏う。

 曰く、皇族や有力武家との強いパイプラインがある。

 曰く、実家の地下の秘密の研究施設がある。

 曰く、驚愕の新型装甲素材を開発した。

 たちの悪い事はそれが噂のレベルではなく、事実であるということだ。

 そして今度は婚約者同伴で、おそらくではあるが、私設独立部隊を率いての戦場介入だ。

「何者なのだ、新塚拓哉とは・・・」

「答えられる範囲なら答えますよ?」

 突如聞こえた声に、全員が体を震わせ振り向く。

 そこには黒髪の美少女を連れた新塚拓哉が立っていた。

 

 

 俺、世界でどういう風に思われているんだろうな。

 裏はあるよ。俺が戦場に出たくない。焔ちゃんと結婚したい。焔ちゃんも戦場に出したくない。日本を戦火に巻き込まない。聞かれたならば冷たい視線が降り注ぐことうけあいの内容だ。

 最初の戦場に出ないってのは、もうここまで来た時点で反故にしたに等しいけど。アムロや甲児、リョウたちとあれだけ関わって知らん顔が出来るほど、俺も非情ではなかったという訳だ。

 まあ、そこはいいや。もう自分から飛び込んだってことで諦めよう。だからみんな、俺たちを守ってね?

「さて、何を聞きます?」

「君の事も気になるが、この機体のことを教えてほしい」

「分かりました。それじゃ、ざっくりレクチャーしますね」

 さて、ここからは説明回だ。

 ジムはガンダムの量産型として作られた機体だ。ってのも、ガンダム自体がハイスペックに過ぎた。少なくとも、日本で量産するには強力すぎて、何よりもコストのかかりすぎる機体だ。日本の国力ではこんなもの量産した日には速攻で干上がってしまう。

 だからまずは量産型として陸戦型ガンダムを作った。名前は量産型ガンダムだけどな。だけど、これもお値段がかかりすぎるということでさらに質を落とした、それでも第3世代機に分類される最新型機を作り上げた。それがジムだ。

 原作のジムとの違いはストライカーパックを使用するという点。これはガンダムも量産型ガンダムも同じだ。エール、ソード、ランチャーと3つのストライカーパックを使い分けることでいろんな戦場、そして衛士に合わせることが出来る。アムロのような天才や、巌谷大尉たちのような熟練衛士ならエールストライカーだけで十分。そうでなくても狙撃の名手がランチャーで高い戦績を上げたりもしている。

 コクピットブロックはこれも最新型の全天周囲モニターとリニアシートを使用。これによって衛士適性試験のハードルが格段に下がった。撃震と瑞鶴に搭載するのはちょっと無理がある、と言うか、大幅に改造する必要があるので無理だが、日本では後の量産型は全てこのシステムを使うつもりだ。

 当初は戸惑いが見られた全天周囲モニターも、今では網膜投影システムより見やすいと好評を持って受け入れられている。

 そうそう、もう一つ忘れていた。ジムと量産型ガンダムは最新型の動力源を使用しているので、F-15を圧倒する出力を持っている。

「ってな感じだけど、質問は?」

 勿論、原作だとかのメタな部分は排除して説明したぜ。

「最新技術の塊じゃないですか!そんな機体を3機も渡して、あなたの立場は大丈夫なんですか!?」

「大丈夫。それは俺の発明品だからな。だから俺の好きにしていいんだよ。そういう風に決まっているし」

「そんな無茶苦茶な・・・」

「後、気になっているだろうけどホワイトベース、空中戦艦の技術はそのうち日本から渡されると思うから、それはそっちで作ってくれよ。流石にそこまでの余裕はない」

 帝国軍で作っているペガサス級、もとい、天馬級は流石に国内運用分だけで終わるだろう。

 だから、設計図と理論書だけ渡す。後はそっちで作ってくれってことだ。

「もう一つの目的は、世界の技術レベルの底上げだ。その為にジムの予備機を大量に用意している。この後はEUとかソ連も回らないといけないからな。大事に使ってくれよ」

「米国の影響力の排除・・・・・・ということか」

「そ。一国だけが最新技術を持つのは望ましくない。それは余計な勘違いを生む。曰く、アメリカに逆らえない。ってな」

 アメリカは俺をアメリカに留学させるつもりだったんだろうけど、当時の俺がすでにやりすぎなぐらいだった。撃震改と学習型コンピューターにレールガン、ヒートサーベル。

 アメリカにだってないようなものを日本で作って、コピーするなら好きにしろとばかりにばらまいて、学習型コンピューターは容易くライセンス生産を認めた。

 面目丸つぶれってところでF-15のお披露目会だ。瑞鶴改を叩き潰して今度こそ優位に立つつもりが、俺でも予想外の結果になったからな。

 だから俺はアメリカに嫌われている。命を狙われていると言っても過言ではない。何しろ、アメリカを無視して第3世代機を世界中に配布するわけだからな。ビーム兵器のおまけ付きで。

「俺は逆らう。BETAにもアメリカにも。そして目指すはハッピーエンドだ」

「君ならばできそうな気がしてきたよ」

 そう言って手を差し出すレナード大尉。

 レナード大尉の顔はさっきまでの不安は払拭された、明るいものになっていた。

 俺もいたずら小僧のような(と最近言われる)笑顔でガシッと手を握り返す。

「君との出会いに感謝を」

「光栄です」

 短く答えてがっしりと手を握る。

「第3世代機の操縦レクチャーは巌谷大尉たちから受けてください。俺はその間に、余った1機で整備の仕方とか教えてきますんで」

「君が整備もするのか?」

「ええ。第3世代機は出て来たばかりですから、ちゃんと教えることが出来るのは俺とうちの整備士長だけなんですよ」

 お陰でホワイトベースの格納庫はてんてこ舞いだ。おやっさんも毎日、血管が切れそうな勢いで怒鳴りっぱなしだし。

 シゲさん、死んでないといいな。見込みがあるからってめちゃくちゃ仕込まれてるけど。

 さてと、

「教導を開始しようか」

 俺はこの上ないいい笑顔を浮かべたつもりなんだが、なんでだろう、整備の皆さんの表情が引きつっているのは?

 

 

 その頃、アムロたちは休息を取っていた。

 自分の機体の整備も済ませた衛士の仕事は、もっぱら休息を取ることである。

 ホワイトベースの食堂でまったりしているのは、決してサボっているわけではないのだ。

「あー、疲れたぜ」

「何だ、甲児くん。あれぐらいでだらしないぞ」

『ダラシナイ!ダラシナイ!』

 机でヘタれる甲児に竜馬とハロが言う。

「いや、戦闘でじゃねえよ。おやっさんにどやされてさ・・・」

「アレは甲児が悪いな。シゲさんに整備を丸投げしようとしていただろう」

 隼人に突っ込まれて、反論の余地もないのか甲児はブスッとした顔でそっぽを向く。察した竜馬も呆れたような面持ちで甲児の隣に腰を下ろす。

「自分の機体の整備も衛士の仕事だぞ。それに、マジンガーは君のおじいさんが作ったんだろ?」

「うっ、そうだけどよ・・・。ああいう機械は難しくて駄目なんだよ」

「ハッハッハッハ!分かる分かる!おいらも未だに苦手で隼人の手を借りてるからな!」

「お前はいい加減覚えろ」

 ゲッターチームも勢揃いしたところで、一度ホッと一息つく。

 しばらく誰もが口を開かない。それも無理がない。何しろ全員これが初陣となるのだ。

 『死の8分』。新米衛士が乗り越えるべき壁の一つ。それを乗り越えたのだから。

「俺達は、生き延びたんだ」

 アムロの何気ない一言が、この場にいる全員の心境を表していた。

 甲児や武蔵でさえも緊張を強いられていたのだ。ナーバスなアムロには相当な負担となっていただろう。

 かすかに震えるアムロの手を見た竜馬は、何も言わずにそっと手を重ねる。続けて隼人、甲児、武蔵も手を重ねる。

 ハッとして皆の顔を見回すアムロ。

「強がるなよ、アムロ。お前に『俺』なんて似合わねえぞ」

 この中で一番付き合いの長い甲児が、ニカッと笑みを浮かべて言う。

 確かに、いつの間にかアムロは自分のことを『俺』と言うようになっていた。竜馬達は知らないが、それでもアムロが無理をしているのは感じ取っていた。

「そうだぞ。正直に言うが、俺も怖かった。何しろ映像じゃない本物のBETAと向き合うんだからな」

「フッ。そういうことだ」

「それでも拓哉のオリジナルBETA程じゃなかったけどな!」

「それもそうだな」

 誰からともなく笑みが溢れる。そして気がついた時には全員に笑みが伝搬していた。

 誰もが無理をしていたのだ。その事に気づいた時に誰もが緊張から開放されたのだ。

「やれやれ。俺の出番はなかったかな?」

 食堂の入り口から聞こえた声に振り向くと、そこには士郎が立っていた。

 人の良さそうな顔に困ったような笑みを浮かべた彼は、アムロたちの机にやってくる。

「天田少尉、お疲れ様です」

「そんなに堅苦しくなくていいよ。君たちはまだ軍属というわけじゃないからね」

「それじゃあ士郎さんと呼ばせてもらおうかな」

「俺は妙な気分だなー。弟の名前と一緒だから」

「はははっ、気楽に兄貴が出来たつもりでいいよ。彩峰中将もああいう方だから」

「中将とは思えないぐらい軽いおっさんだもんな」

「調子に乗りすぎだ、武蔵」

 陽気な笑い声が食堂を包み込む。

 

 巌谷と篁はともにその様子を遠くから見ていた。

「やはり士郎くんに任せたのは正解だったな」

「ああ。彼には人をまとめる才能がある」

 2人は拓哉がアムロたちをロンド・ベルに組み込むと知った時に、そのまとめ役となる兄貴分を探したのだ。

 実力があり、その上でまとめる事が出来る人物となったときに、彩峰中将から直々に紹介されたのがまだ新米少尉と言ってもいい天田士郎だったのだ。

 当初は不安こそあったものの、いざ顔を合わさせてみればあの通りだ。

「さて、私たちは大人の仕事をしてくるか」

「そうだな。大人には大人の仕事を、な」

 あの少年たちならば、この鬱屈とした世界の未来を変えることが出来るかもしれない。

 その希望をつなぐために、二人もまた、動き出した。

 

 


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