Red Planet   作:Bishop1911

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16「殺しと金と正義と」4

その翌日、

俺とエリックはB.M.S.の社長室、

つまりベンの部屋で

事情聴取のようなものを受けていた。

 

「…つまりこういうことか?

無線に入ってきた声が

ウチの突入チームのコールサインを名乗り、

お前らをまんまと騙して

ロシアンマフィアのアジトから

"何か"を盗み出して行った。」

 

半信半疑と言いたげな表情で

応接机の向こう側に座る社長殿は腕を組むが、

俺だって自分が騙されてただなんて

未だに信じられない。

 

「ああ、でも社長。

俺らを騙したヤツらは日本人だったんだぜ?

01にカマかけりゃ

なんかわかるんじゃねえのか?」

 

エリックの提案を聞いたベンは、

眉間に皺を寄せて思考を繰り返しているようだが、

おそらく無駄だろう。

ヤツらの装備を見ても

所属を示すものは無かったし、

使っていた拳銃も日本では大戦前に

正式採用の座を降りた謂わば骨董品だ。

それに何より顔を見せたのは隊長だけだから

身元を突き止めたとしても、

『ソイツは退役軍人だ。』と言われれば

何も言い返せない。

退役軍人なんて火星じゃほぼ確実に傭兵になって

どこかの誰かに札束積まれて戦ってる。

ベンも俺と同じ結論に至ったらしく、

報告書が映し出された端末を閉じて

事情聴取の終わりを予感させる。

 

「いや、俺も調べておく。

2人はしばらく警備部で仕事を頼みたい。」

 

「ああ、わかった。」

 

処分は意外にも警備部への配属に留まった。

事情も事情だし、

俺としてもこれ以上01関連の事件に

巻き込まれるのも飛び込むのも御免被りたい。

俺は二つ返事で了承するが、

エリックはそうはいかないらしい。

 

「じょーだんだろ!?

スナイパーとレジェンドの息子に

ドーナツ食いながら違反切符切ってろってか!?

ベン、これじゃあいい笑い者だぜ?」

 

と、かなり興奮しながらベンに食ってかかる。

 

「そんなつもりは無い。

それじゃあ効率が悪いからな。」

 

「はあ…?」

 

警備部でしばらく平和に

やっていくつもりだった俺は思わず声を上げる。

 

「まあいい、この際だ。

もう任務内容のファイルを送信しておこう。」

 

俺のことは完全に無視して話は進んで行き、

ベンが端末を操作した直後に

俺とエリックの端末がメールを受信した。

 

「なんだこりゃ?」

「…護送任務…?」

 

「そうだ。

地球の方でアメリカに喧嘩売ったバカが

エリア04で捕まったらしい。

ソイツを迎えに行ってくれ。」

 

「何かと交換か?」

 

「いや、そんな面倒な話じゃ無い。

本国はソイツを吊るし上げたい。

中国は面倒事を避けてアメリカに

恩を売りたい。そんな感じだ。」

 

そして端末をベンはデスクの引き出しを開けると、

 

「それと…」

 

今度は今時珍しい紙のファイルを

俺の前に滑らせて来る。

 

「本国の方から来た紹介状だ。」

 

「こんなの星間通信を使えば

すぐ準備できるじゃねえか。」

 

「それなんだがな…」

 

ベンは伸ばされた俺の手からファイルを

取り上げると、真剣な表情を浮かべる。

 

「ペンタゴンがわざわざ3ヶ月かけて

持って来やがった。

それだけ重要な人物のファイルなんだ。」

 

それを聞くと感じる重みが変わって来るが、

それに比例して好奇心も大きくなる。

だが今回の護送任務で運ぶ

テロリストのことも考えると、

とても国防総省だけで終わる話では無いはずだ。

おそらくもっと他の組織も…

 

「…ラングレーか?」

 

思考の中からこぼれ落ちた単語を口走った俺に

ベンは軽く2度頷いた。

 

「やりたく無いならこの話は断っておく。」

 

「……。」

 

「俺は乗った。」

 

黙り込んだ俺と逆でエリックは即答だった。

俺は普通の傭兵なら嫌がる

諜報機関絡みの仕事なのに

すぐに決断できたエリックの方を向く。

一体俺がどんな顔をしていたかは判らないが、

エリックは俺の疑問を察したらしい。

 

「俺はCIAに1つ借りがあるんだ。

それに、今のうちにささっと返しときゃ

変なとこで取り立てられることも無さそうだしな。」

 

「わかった。俺も行こう。」

 

「それじゃあそういう事で。

2人は明後日にまずそのファイルの人物を

空港まで迎えに行ってから

護送部隊と合流してくれ。」

 

「わかった。」

 

俺は軽く手を振って了承の意を示すと

ファイルを受け取って席を立つが、

ベンに引き止められた。

 

「それと…そのファイルは持ち出すな。

ここで見て暗記しろ。」

 

やはりかなり重要な人物らしい。

俺とエリックは席に座ってファイルを開いた。


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