Red Planet   作:Bishop1911

13 / 19
どんな栄光を手に入れようとも、
光に照らされるそばでは闇が生まれる。


12「殺しと金と正義と」

俺は助手席に相棒ことエリック、

後部座席に監視任務に必要な装備が詰まった

ボストンバックを載せて、

アレス州を囲う防壁に沿って

構築されているスラム街へ向かっていた。

 

「タカ、ロシアンマフィア相手だろ?

あと2、3チーム連れて

突っ込みゃ楽勝じゃねえのか?」

 

「理由はいくつかあるが、

1つ目は俺が少人数で静かにやりたいから。

2つ目はちょっとした軍隊並みの武器を

持ってるロシア人と正面からやりあったら

こっちにも損害が出る。」

 

「そんなのは付き物だろ?」

 

「わかってないな。

これは戦争じゃない、ビジネスだ。

必要最低限のコストで

最大限の利益を挙げないといけないんだ。」

 

エリックは納得できないというように

うーんと軽く唸って

窓の外に視線を戻す。

どうやら正義感や倫理感は

捨て切ってないらしい。

 

「それで、今回の仕事でいう利益ってのは?」

 

「アレス州から出る報酬、

ロシア人が密輸した武器とクスリ、

この地域での支配力拡大ってとこだろな。」

 

「……。」

 

「考えるのはいいことだ。

B.M.S.はいい会社だが、

やってることは白と黒のちょうど中間。

マフィアと違うのは

法を守る側についたことくらいだ。

組織に呑まれないようにしろ。」

 

「ああ…タカの気持ちがわかった気がする。」

 

 

いや…それだけじゃ無い…。

俺が1人を好む理由は

誰かに理解できるもんじゃない。

お前なんかに理解されてたまるか。

 

 

俺はエリックの

同情ともとれる呟きを無視して

車を路肩に停めた。

 

「交戦規定は?」

 

「命令あるまで待機。」

 

「了解。」

 

スラム街といっても

トタン屋根が並ぶほど荒れてはいないが、

アパートやマンションは

廊下にまで人が溢れ、

隣り合う建物の屋上はいつの間にか

橋が架けられていたりする。

高架橋には毎朝のように死体が

吊るされていたり、

路地や酒場の隅っこで密売人が

取引をしていたり、

自動車の修理工場で車に密輸品や奴隷を

隠していたりと、

挙げたらキリがない。

俺が車を停めた地域は、

最近B.M.S.とFBIの合同部隊が

マフィアのアジトを潰したおかげで

治安が安定し始めた。

 

 

 

 

「うわっ!?f◯ck!」

 

車を降りた直後に何か踏んだらしい。

エリックが放送禁止用語を連発し始めた。

 

「どうした?」

 

「わざとここに停めただろ!

目玉と舌を踏んじまった!」

 

車の反対側に回ると、

エリックに踏まれて潰れた目玉と

切り落とされた舌、耳、鼻、唇が

散らかっていて、

血でロシア語の警告文が書いてある。

 

一応さっきの説明は訂正しておこう。

治安は以前よりマシになった。

 

「すまん、隣の車の影で

気づかなかった。」

 

俺は端末を取り出して写真を撮ると、

位置情報を添付して本部に送信する。

 

「警察ごっこかよ!?

少しは俺の心配してくれよ!」

 

「お前は死んでないし全部付いてるし、

それに◯◯◯も付いてる。

でもこいつのはここに転がってる。」

 

俺が車の下に転がっていた

一物を指さすと、

エリックは今度こそ我慢の限界が

来たらしく、

口元を手で抑えて

何処かへ行ってしまった。

 

俺は本部に電話で

報告と片付けを頼むと、

後部座席から

装備の詰まったボストンバッグを

取り出してエリックの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地に入ると、

案の定エリックが地面に

昼食をぶちまけた後だった。

 

「はぁっ…はぁっ…クソっ…

なんか…あれはエイリアンが

殺ったんじゃねえのか?」

 

「いや、たぶんロシアンマフィアだ。

本部のやつによると

B.M.S.の隊員がこの前の掃討戦で

捕虜になったらしい。」

 

「んで…あの…顔のパーツは

その捕虜?」

 

「…かもな。

ついでにそれも調べるか。

ほら行くぞ。」

 

夕日すら差し込まないくらい路地を

俺とエリックは急ぎ足で通り抜ける。

ゴミ箱やちょっとしたくぼみに

麻薬中毒者や死体が転がっていて、

以前来た時同様に

虚ろな視線を向けてくるが、

特に救いを求めるでもなく

ただ見つめてくる。

 

端末のマップにも載っていないような

角を何度も曲がってたどり着いた

アパートの一室に入ると、

クリアリングと盗聴器の有無を調べて

機材を広げる。

 

「タカ、ここは一体なんなんだ?」

 

「俺の隠れ家の一つだ。

誰にも言うなよ?」

 

「………。」

 

「冗談だ。

協力者に手配してもらった監視拠点だ。

見ろ、向かいに見える整備工場が

監視対象だ。」

 

カーテンをめくって外の様子を伺った

エリックの肩口から俺も外の様子を伺う。

 

道路を挟んだ向かい側には

自動車整備工場があり、

ゲート前のAKとボディーアーマーに

身を固めた男たちが目を光らせている。

 

奥の方に視線を移すと、

工場の入り口からは溶接用のバーナーが

発する火花が時折姿を見せる。

 

「整備工場にこんな警備が必要か?」

 

「この地域ではこれでも足りない。」

 

「観た感じ普通だぜ。」

 

「観た感じはな。

依頼者の見立てでは

武器の密輸拠点らしい。

俺たちはここに出入りする人物の

情報を集める。

あとは任せていいか?」

 

「ああ、任せとけ。」

 

「2時間交代で頼む。」

 

俺はエリックにそう告げて

ボロボロのソファーに身を預け、

少しの休憩を取った。




<B.M.S.>
B.M.S.はアレス州を拠点に展開する
民間軍事会社で、
ベンジャミン・ミリタリー・サービスの略。

代表を務めるベンジャミンは
アメリカ海兵隊を退役した元士官で、
社員のほとんどが海兵隊を
退役した者で構成されている。

海兵隊員が社員の大部分を占めるため、
雰囲気は海兵隊に近い。
武器も一世代前のAR-15系ライフルを
メインに使っているが、
一部の元SEALs隊員やDELTA隊員などの
特殊部隊経験者はそれに限らない。
アレス州と正式に契約を結んでいるため、
武器の調達は
アレス州を介して行なっているが、
B.M.S.も独自の調達ルートを持っている。

依頼される仕事の多くは
警察業務や要人警護、アレス州の防衛など
多岐に渡る。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。