とあるIS学園の整備員さん   作:逸般ピーポー

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どうにも説明不足だったので追記

思い付いたので書いた
サカキ様(仮)側のお話です
ちなみにこの人物がこの後も出てくるかどうかは未定


モノノミカタトラエカタ(スミス)

私は生まれてから、ずっとひとつの違和感を抱いていた。そう、違和感だ。

 

物心ついてから、ずっと感じていた。

友人とはしゃいで遊ぶ時も。

下らない、退屈な授業を寝て過ごしている時も。

父や母とその日の出来事で話をしている時も。

意味があるとも思えない、学校の宿題をする時も。

 

およそ私は恵まれている環境だったと思う。

父や母、祖父母は私に優しくしてくれたし、私が間違った事をした日にはこんこんと説教もされた。

人に優しくすることの大切さや、人と助け合って生きることの大変さを、共に学ぶ姿勢を忘れない両親だった。

口喧嘩をしたこともあったし、私が意味も無く両親に対して反抗した時もあったが、ふたりは私に真剣に向き合ってくれた。

それがこそばゆかったり気恥ずかしかったことこそあったものの、やはり私はこの両親のもとに生まれて良かったと思う程には幸せだった。

 

しかしながら、私が私という個人として成長していく日々の中に、私の胸の内には常に違和感があった。

なんとなくしっくりこない。なんだか違和感がある。

だけどその違和感の正体がわからなかった。

 

学校で友人と仲良く談笑しながらご飯を食べることの何がおかしいのかわからなかった。

学校の先生や教師といった職業の人々が、口うるさく私たち生徒に対して注意することの何がおかしいのかわからなかった。

気の置けない友人たちと、小さな公園でサッカーボールを追いかけ回すことの何がおかしいのかわからなかった。

 

私が違和感の正体に気が付いたのは、ちょうど町の小さなプライマリースクールを卒業した頃だった。

その頃の私たちは動物の飼育を何年間かしていた。

敷地の中には大きな動物の飼育小屋があり、私たちは鶏の飼育をしていた。

そして私たちが卒業する直前あたりに鶏の卵が産まれ、私たちが卒業した後、すぐにひよこたちが産まれたというので、私たちは卒業した後にも変わらずスクールに来ていたりした。

 

そこで卵から孵ったひよこたちがふわふわと温かそうな愛くるしい見た目で、よちよちと歩く姿に私たちは癒されていた。

しかし私が見ていたのは、一匹のはぐれたところにいたひなだった。

そのひなは他のひよこたちよりも一回り体が小さく、また、足取りもおぼつかない様子だった。

私はそのはぐれのひなが、なぜだか強く印象に残った。

 

 

それからしばらくして、私たちがセカンダリースクールの準備を始めた時期に、再び私たちは卒業した学校に集まった。最後に飼育してきた鶏達に別れを告げに。

 

そして私たちは飼育小屋で見た。

以前よりも一回り体が大きくなったひよこたちと、そこから外れたところにある、一匹のひなの亡骸を。

私以外の級友たちは、そのひなの亡骸を見て悲しげに眉を垂らしていたり、感受性豊かな子では泣いている者もあった。

そんな中、ただ私は納得していた。

ああ、これなのだ。これだったのか。

 

私は胸の中にこれまで常に燻っていた違和感が、とんときれいに腑に落ちたことを理解した。

人は、死んでから完成する。

そんな言葉を聞いたことがあるが、今の私に一番近い納得の言葉だ。ただ、私の言葉だと少しだけ違う。

 

死んでいることこそ自然なのだ。

 

だからこそ、これまで生きてきたことに対して常に違和感を抱いていた。当たり前だ。生きていることは、不自然なのだから。

 

もちろんこれは人の暖かさや優しさを否定するものではないし、人の営みがおかしいというものでもない。

ただ、死んでいることが最も私にとっては自然なことなのだ。しっくりくると言ってもいい。

 

あのひなは、生まれて、生きて、死んだのだ。一切の誇張なく、あのひなは、生まれて、懸命に生きて、そして死んだ。私たちが卒業して、次の学校に通い始める前というこの短い、とても短い間に。

何のために生まれてきたのかも分からないくらい、すぐに。

もちろんこのひなはただの一例だ。当然他のひよこたちはこれからすくすくと成長し、大きくなり、やがて子孫を残すのだろう。それを当然のように。当然のこととして。

 

そして私たちも同じように成長していくのだ。生きる意味や目的をさも素晴らしいものとして。当たり前にあるかのように。

 

 

反吐がでる。

 

 

生きることは素晴らしい。それを私は否定しない。

生きることに意味などない。それも私は否定しない。

生きることは苦痛である。それは私もそう思う。

生きることは冒険だ。私も夢やロマンは理解出来る。

 

だが、違うのだ。根本からして違うのだ。

 

ある少女は言った。

どうして私は生きているの?

 

違う、そうじゃない。

どうして私は死んでいないの?

まるで生きていることがおかしいみたいじゃないか。

おかしいのさ、私から言わせれば。

 

とは言え別に、生きていることを否定するつもりはない。現に、私は生きている。

死んでくれ、と遠回しに言っている訳でもない。

どうせ生き物はみんな死ぬ。

早いか遅いかの違いでしかない。

ならば私が早く死んでくれと願うことの、どこに意味があるのだろう。

 

ゆえに私は言うのだ。

ゆえに私は思うのだ。

 

人生なんて、誰しもつまりは生まれて、生きて、死ぬんだろ。

 

そこに意味や目的を求めることも、意味や目的があると思うことも信じることも、私は否定はしないけど。

 

ただ、私にとっては死んでないというのは、ひどく摩訶不思議なことだというだけだ。

不思議、不自然、おかしい、変。

生きるというのは、そういうことだ。

 

思うに、生きることが当たり前だと思うから、死ぬことが怖いのではなかろうか。

むしろ、死ぬことが当たり前ならば、生きていることは不思議なことで。

死ぬことが当たり前ならば、生きているのは奇跡とかそんな表現をされるのも頷ける。

 

そして、生き物はみな、死ぬことが当たり前なのだ。

 

 

つまり、不自然に生きている私は、これから死ぬまでこんな変な感じを常に胸の中に抱きながら、不自然に生きていくのだろう。

なんで生きているんだろう、なんて。

そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が不思議な感じを受けながら歩いていたある日。

真っ黒な、深い闇を思わせるようなスーツを着た男性が私に声をかけてきた。

すまない、ナンパならもうお腹いっぱいなんだ。来世でお願いしたい。

 

そう思っていたが、その男性は私のような人間を探していたという。

 

『キミなら他人の人生を終わらせることに、違和感など覚えないだろう?』

 

正直言って驚いた。

私は既に一般人として一般人の中で、ごくごく普通の銀行員として働いているし、この私の感性については親にだって話していない。

親や友人に話したところで、病院に連れていかれるのが落ちだと分かっているからだ。

私は私の感性が飛び抜けておかしいとは思わない。ただ、私の他の人間からすれば、ひどく異様なのだと思われるだろうことも理解している。

理解した上で、私は自らの感覚を変えようとも思わないし、その必要性も感じない。

ただ、死んでいることが最も自然だと思うだけだ。

それを理解しながら普通の人間として過ごしてきた。

 

 

 

ああ、そういえば。

祖母の亡くなった時、ひどく冷たくなった祖母を見て、私以外の親族たちは息を呑んでいたが、私だけが、

ああ、自然に還ったんだな、と思ってのんびりしていたことを思い出す。

 

良き祖母だった。

私にいつも頑張りなさいと言い、いつも私や父たちを応援してくれる、太陽のような人だった。

私の記憶には、いつも暖かかった祖母の優しさがあったけれど。

自然な状態になった祖母というのも、また良いと思ったものだ。

 

 

 

男の探している人間というのがどんな人間なのか気になって、私は男の話を聞くことにした。

 

適当なカフェの隅の席で、男の話を詳しく聞いた。

男は壮年の熱意と落ち着きが同居するような、そんな人間だった。

顔は中東系かアジア系で、背は高くない。

だというのに、とてもそうとは思えない覇気と重厚感を纏う人間だった。

 

はっきりいって、私の背は低くない。180cmまではいかないものの、178cmあるから、高いヒールを履くと男性とあまり背丈が変わらなくなる。

だけど、目の前にいる男性は違った。

お互い座っているのに、自然と怖じ気ついてしまう程の何か。

そんな何かを持っている。

 

ただの野心家ではない。

かといって、やり手の社長とも違う。

彼らは彼らで皆違う凄みがあるけれど、私がこれまで銀行員として働いてきた中でも、出会ったことのない輝きを秘めている。いや、輝きというよりは全てを焼き尽くす程の業火と、ありとあらゆるものを飲み込まんとするブラックホールという方が近いかもしれない。

 

男は自分のことを、『サカキ』とでも呼んでくれれば良いと言った。偽名だろうか。

サカキ…聞いたことがない。これほどの人物だ、間違いなくどこかの界隈で有名なはずなのだが…。

銀行で働いていれば、嫌でも世間の有名なものの名前は頭に入る。私が関わっていた人々は、特に情報の速さには間違いがない人たちばかりだったから、私がこれほどの人物の名前に全く心当たりがないというのは不思議なのだ。

…やっぱり偽名だろうか。

 

男は私に声をかけた理由を話し始めた。

 

『ISを知っているか?』

 

当然知っている。いくら極東での出来事とはいえ、私の職業柄知っていないとおかしい。

ついこの間、ミサイルや戦闘機をことごとく撃墜したパワードスーツ。それがISだ。

開発者は篠ノ之束。私が開発したんだから日本語を勉強してこい、という発言に憤慨している事業主も何人かいたと記憶している。

私個人としては、別におかしなことを言っているとは思わない。

ただ、私の仕事に私の感想は必要ない。その人に合わせた対応をするだけだ。

 

だが、まだこちらのメディアではそこまでの話にはなっていなかったはずだ。

もちろん情報が速い一部の人間たちには根底から衝撃が走る出来事であるため、何よりも重要な課題だが…。

しかし、そのことを既に把握しているあたり、やはりこの男性はただ者ではないはずだ。

 

『今私はある企業の代表取締役に近いことをしている。研究者、人員はある程度揃ったが、実働部隊が足りない』

 

少し待って欲しい。私は見ての通り、ただのしがない銀行員だ。運動だって得意じゃない。そもそも、そのISについてだって詳しく知っている訳じゃない。本当に私用の仕事かい?

 

そう尋ねると、サカキと名乗った男性は頷いた。

(私はまだ偽名ではないかと疑っている)

 

『もちろんだ。

実働部隊と言っても、既に戦闘力のある人員は揃いつつある。私が求めているのは、脅威の排除が終わった後の掃除屋だ。後片付けのポスト、と言ってもいい』

 

…やはりこの人物、ただ者ではない。良くも悪くも。

既に話している内容は、カフェでコーヒー片手に気楽に会話するそれではない。

目の前にいるこの男は、間違いなく武力を保持している。それも、おそらくISに匹敵するような、もしくはISにすら対抗できる程の、武力。

 

…あなたは戦争を求めているのか。

 

『…ふむ。

やはり私はキミが欲しい。私のしたいことが、多少なりとも理解できるほどの観察力を持つ、キミにね…』

 

…私が求められるものは、何だ。

 

『簡単なことだ。抵抗するだけの強さも持たず、私と同じく人の道を外れた研究、その成果。

それらと研究者達の骸を片付ける。

まあ、葬儀屋の真似事だとでも思ってくれたまえ』

 

 

なんだろう。

非常に非国家的な事を言ってる気がする。テロ的な。

この男性の言い回しは分かりにくいが、おそらくはこういうことだろう。

 

これからISが台頭するにつれ、間違いなくISという武力を用いた冷戦の時代がやってくる(ISが台頭するのはもはや議論の余地はない、と考える)。

そうすると、ISというのは個人が操縦するものだから、間違いなくISに乗るためだけの個体が発生する、もしくは造られる。

その研究の成果…つまり、おそらくはデザイナーベビーとか、そのあたり。

抵抗するだけの強さがないというのは、研究者か、造られた子供たちか、それとも他の何か。

当然研究機関は秘密裏に稼働するだろう。その襲撃後の片付けが私の仕事…ということだろうか。

 

言っていることは分かった。

だが、やはり腑に落ちない点がある。

何故私なのか、ということだ。

私はごくごく普通の人間として過ごしてきたし、傍目にはただの働き者の銀行員だ。

 

何故私に?

もしかしたら、あなたのことを言いふらすかもしれないぞ?

 

そう言ったところで、さもおかしなものを見た、とでも言いたげな、面白いという表情をされた。失礼な。

 

『ッフ…。

眼だ。私が見たのはキミの眼だよ。

人を人として、これ以上ないほどにキミの眼はまっすぐに捕らえている。

 

この私がゾッとするほどに、ね…』

 

どういう意味だ。

 

『キミは、間違いなく異常だよ。異常者だ。

しかも自身が異常であることを理解しながらも、何一つおかしいと感じることなく一般人と共に過ごすことも出来る…。

だが、キミのような、生粋の化け物を私は欲している。

キミならば、人をまさにゴミのように片付けることが出来るだろう?それも、平然と』

 

人の尊厳は、汚されるべきではない。

 

『そうだ。だが、キミは人が死ぬことに悲しみを覚えるか?それこそがあるべき姿だと、感じないと言いきれるか?』

 

…私とて、友人の死には悲しみを抱く。人が死ぬべきだとも思わない。

 

ただ、それはそれとして。

死んでいることこそが、最も自然な状態だと感じない訳でもないだけだ。

 

『そうだ。それだよ。

キミは、人の尊厳を犯すことなく、丁重に弔ってやることが出来る。

そこがどれほど血にまみれ、凄惨な現場であっても。

私が求めているのは、キミのような人物だ…』

 

…話はそれだけかしら?

 

『…そうだ。

キミが私の元に来ることを考えたなら、ここに連絡したまえ。

私は、いつでもキミを待っている』

 

そう言って男は私に名刺を差し出してきた。

…黒地に金字は読みにくいと思うの。

 

私が名刺に気をとられている間に、男は背を翻し店を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、すいません店員さん。モカを追加で。

ちなみにお代は…。あ、お連れ様から100ポンド頂いています?ラッキー。じゃあケーキも追加で。




サカキ様(仮)側に集まる人たちはこんな感じというお話

そろそろちっふーの回にしようか検討ちぅ
すねたちっふーとか良いよね!

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