ちがうんよ、話の都合上二話繋がってるからこうならざるを得なかったんよ…。許してクレメンス
○月*日
昨日はひどい目にあった。フランスの代表候補生が居たと思ったら、なんか目覚めたら自分の部屋に居たし。やっぱりあの、カナミって奴はあたしにとって疫病神か何かよ。きっと。
そのことを相部屋のティナに話したらため息をつかれた。そんな考え方してるから一夏から避けられるのよ、だって。意味わかんない。
○月×日
今日も一夏に無視された。今日は食堂であたしの少し後ろに居て、あたしがお昼を受け取った時に見つけた。なのに一夏ったら、あたしが一夏を見つけたとたんに購買でパン買ってどっか行っちゃった。さっきまで食堂の列に並んでたのに。なんなの!?そこまでしてあたしのことを避けたい訳?ほんと、だらしないったら。
○月▽日
今日カナミって奴が退院したらしい。ま、どうでもいいけど。一夏だって、いつまでもあたしのことを避け続けたりはしないでしょ。なんだかんだ言っても幼なじみだし。あたしの予想だと、多分反抗期か何かでしょ。まったく面倒ねえ。お子さまなんだから。
○月□日
一夏が最近セシリアとか箒とは話をしてる。前見た時はあたしと同じように避けられてたくせに。なんで?ねえなんでなの?
ついこの間まであんた達、あたしと同じように一夏に避けられてたじゃない。なんで一夏と楽しそうに話してるの?なんで?どうして?意味わかんないんだけど。一夏のわがままでしょ?アンタ達だってそうやって言ってたじゃない。訳わかんないわよ…。
○月☆日
ティナに聞いてみた。そしたら、セシリア達は一夏に謝っていた。で、一夏も一応は和解したみたい。どういうわけなのかさっぱりわかんない。一夏のわがままだったんじゃないの?どうして?
そう聞いてみたけど、当然ティナが知ってる訳もないし。ただ、ティナが言った
「今のアンタだと、謝っても意味ないと思うけどね」
って言葉が妙に頭に残った。
○月§日
一夏が最近生徒会長と放課後に特訓してるみたい。さすがにそろそろ一夏がずーっと無視して来るのがちょっとつらい。でも、元々はあたしがこんなにアプローチしてるのに、それを避けようとする一夏が悪い訳じゃない。あんなにこっちからアプローチしてるのに、全然気付かないし。ほんと鈍感。しかも一夏ったら、あたしのアプローチを
「やめてくれ」
って言ってきたんじゃない。やっぱり一夏が悪いじゃない。そうよ、そう。あたしは悪くないもん。だから謝ったりなんかしない。
○月Ω日
今日はキャノンボール・ファストの途中で襲撃があった。あたしは一夏と協力してなんとかなったけど、フランスのシャルロット・デュノアは怪我をした。なんでも箒が暴走した結果、ってことみたい。あは、カナミって奴といいシャルロットといい、怪我ばっかり。やっぱり天罰ってやつじゃないの?
けどまあ、正直ちょっとだけ同情する。さすがのあたしでも戦場では真面目にやる。命が懸かってるのに敵対なんかしてたら生き残れるのも生き残れないし。足を引っ張る無能な味方って、ある意味敵よりも厄介な敵だし。
そういう意味では、今回は天罰というよりは被害者ね。ここで怖いのは、一歩間違えばあたしがそうなってた可能性があったことね。
さすがにあたしも今回みたいな襲撃にあって、一夏と喧嘩したまま二度と会えなくなる可能性があると思って、一夏に謝った。
でも一夏の奴、
「なんかしっくり来ないから保留な。悪いけど」
とか、どういうことよ!
あたし謝ったじゃない!謝ったのに、何よ保留って!信じらんない!
ティナにそれを伝えたら、
「いや、あんたがそんなんだから保留したんでしょ」
とか言われた。ちょっと、どういうことか説明してくれる?
そう言ってもティナは、
「あんたが何も口答えしないで最後まで暴れたり文句言ったりIS使わないなら説明したげる」
だって。何様なの?ふん、じゃあ別にいいわよ。
○月※日
まだ一夏はあたしを避けてくる。謝ったのに。意味わかんない。
○月∀日
まだ。
○月∬日
まだ。
○月∴日
まだ。さすがにちょっとツラい。
○月◆日
まだ。
○月∋日
まだ。さすがにそろそろあたしも泣きそう。明日あたり、千冬さんにお願いしてみよう。
○月∇日
千冬さんにお願いしてみた。とりあえず動いてみてくれるらしい。3日以内には一度連絡してくれると言っていた。千冬さんは苦手だけど、それでも一夏にずっと避けられているよりはいい。
ティナが何か言ってた気がするけど、多分大したことじゃないし大丈夫。さて、3日後が楽しみ。
○月∝日
今日は千冬さんから連絡は来なかった。明日か明後日かな?
○月∃日
今日も何も連絡は無かった。まあ、千冬さんは最近忙しいのか、なんだか思い詰めてる様子だったし、慌てない方が良さそう?きっと明日には来るはず。
○月∞日
今日も連絡は来なかった。今日までに連絡するって言ってたのに…。千冬さん、忘れてるのかしら?それともまだ一夏が拗ねてるとか?やっぱり反抗期なんじゃない?
○月Å日
さすがにちょっとだけ不安。ティナは何か知ってるみたいだけど、あたしが文句を言うなら何も言わないって言ってくるし。ふん、別にいいわよ。
○月‰日
…千冬さん、あたしのこと忘れてるのかしら。今度聞きに行こう。
○月⇔日
廊下でばったり千冬さんに会った。どうやらあたしに連絡することを忘れてた訳じゃなかったみたい。ちょっと気まずくなって、あたしはそっと目を逸らした。
その後に、千冬さんから一夏がなんであたしの事を許してくれないのか聞いた。
一夏があたしを許すつもりはありそうなこと。
でも、許すことを躊躇う理由がありそうなこと。
千冬さんに心当たりがないか聞かれて、あたしは最悪の可能性に思い至った。
…それってもしかして、あたしが一夏にアプローチすることなんじゃ…。
あたしは一夏が好き。
中学生になる前、小学五年生という微妙な時期にあたしが両親の都合で引っ越して。その時に腫れ物を扱うような態度だったクラスの子たちから守ってくれて。あたしはあの背中が、とても頼もしくて。そのあたたかさが好きだった。まだあの時は、その気持ちが何なのかまでは分からなかったけど。
中学に入って、弾とも一緒に遊ぶようになって。それでもあたしはいつも目で一夏を追っていて。ずっとずっと好きだった。
だから両親が離婚して中国に帰国してからも、一夏に胸を張って再会できるように、中学三年生の一年間で猛勉強した。ISの専用機持ちになれるくらいまで。
軍部があたしをIS学園に入学させようとしてきた時は鬱陶しいとしか思わなかった。あたしはあたしの道を行くんだから、邪魔だと思ってた。
でも一夏の奴ったら、よりにもよってISを動かしちゃうんだもん。男なのに。
だからあたしは軍部にさっさとあたしをIS学園に入学させるように持ちかけた。あたしの急な話に上司はなかなか首を縦に振らなかったけど、あたしは一夏に会いに行くことで頭がいっぱいだった。だから脅す形で交渉することになったけど、そんなことよりも一夏に会いに行くことの方が大切だった。だから反省はしていない。
…まあ、その後であたしの方にペナルティとして、しばらくの期間中国で他の代表候補生達と強化合宿させられる羽目になったけど。
クラス対抗戦ではバカ一夏があたしの約束を覚えてなかったからケンカになったけど、あたしの伝え方にも分かりにくいところはあったし。何よりバカ一夏にそんな察しの良さを期待したのが間違ってたとも思ったから、仲直り出来た。でも、一夏だって少しくらい気付いてほしい。何よ毎日酢豚を奢るって!あり得ないでしょ!?
でも一夏はその後あたしが一夏にアプローチする度にあたしから距離を置くようになって。もう今じゃあたしとすれ違うこともない。
それでもキャノンボールの時に、一夏とケンカしたままもうずっと会えなくなる可能性もあることに気付いて、あたしは一夏に謝った。なのになんでか一夏は許してくれなくて。その理由があたしが一夏のことを好きだからで。あたしが一夏にアプローチするのが嫌で。
あたしが一夏と仲直りするのには、あたしは一夏に好きだって気持ちを伝えちゃいけないの?
あたしが一夏のことが好きだから、一夏はあたしの事を拒否するの?
じゃああたしは、一体どうすればいいのよ…!
千冬さんから話を聞いた後、気付いたらあたしは部屋のベッドに丸くなって泣いた。あたし、これからどうすればいいの…?
○月∽日
今日は学校を休んだ。ずっと1日中おふとんにくるまっていた。ティナが夕御飯を持ってきてくれた。しょっぱい味がした。
○月〓日
ティナが珍しく心配して、あたしに何があったのかきいてきた。あたしは一夏に関して思い付く限りのことを、あらいざらいぶちまけた。
一夏が好きなこと。一夏があたしを見てくれないこと。一夏に振り向いてほしいこと。一夏があたしから距離を取って避けられていること。謝ったこと。それなのに許してくれないこと。全部全部。
話した順番はめちゃくちゃで。支離滅裂で、全然意味がわかんなかったと思う。それでもティナは最後までちゃんと話を聞いてくれた。そして、あたしがひっくひっく言ってるのが落ち着いた頃を見計らって言った。
「うん、まああんたの話はよく分かった。あんたが悪いわそれ」
どうして…?
「え、だって私が話を聞く限りでは、織斑君の評価って悪くないわよ?ちゃんと話せば聞いてくれるし、礼儀正しくてかっこいいよね?って感じ。
で、そんな織斑君が突然あんたと距離を置くとは思えない。一回仲直りした後なんだから、絶対仲直りする前のこと以外で。あんたと距離を置く前にあんたに何か絶対言ってたと思うわよ?ま、あんたがそれを今言わなかったってことは、あんたが意識してないことで何かがあったはずなのよ」
わかる?そうティナは聞いてきた。
…あたしが一夏に言われても気にしてなかったこと…?駄目、出てこない。わかんない。
仕方ないので、あたしは自分の日記をパラパラとめくって、探してみた。びっくりした。
…なんであたし、こんな嫌な奴になってるんだろう…。
一夏を取られたと思いこんでる時には、カナミって人に凄い失礼なことしてるし。一夏に距離を取られはじめた頃は、ただ一夏がわがまま言ってるだけだと思ってる。
…そりゃあこんな嫌な奴に関わりたいとなんて思わないわよね…。ティナがあたしに忠告してくれてたのも聞き流してたみたいだし。
「分かった?あったでしょ、ちゃんと」
うん。あたし、一夏とカナミって人に謝ってくる。
「織斑君が許してくれるとは限らないわよ?」
ーーーそれでも。あたしがやったことだから。
そう言うと、ティナは珍しく、本当に珍しく、優しくあたしの頭を撫でてくれた。いつもは太る太る言ってるか、ものぐさな態度しかしないのに。
「…行ってきな」
うん。行ってくる。
「…はあ」
世話の焼ける。頭に浮かんだ思いはそれだった。ただ、やっと目が戻っていた。私に始めて体当たりでぶつかってきた、生きる怠惰だった私にはっきり物を言ってきた、あの頃の鈴に。
今でも昨日のことのように思い出せる。
『あたし鈴!凰鈴音!あんたがあたしのルームメイト?よろしくね!』
『ちょっとティナ!また今日も休んでたの!?しっかりしなきゃダメよ!』
『ティナ、見て見て!これ!次のテスト対策のプリント!あんたのために作ったんだから、ちゃんとやるのよ!』
『ティナ、あんたはあたしのルームメイトなのよ。あたしが一緒に居ても恥ずかしくないくらいになってよね!』
『ティナ、あんたやっぱりやればできるじゃない!さすがあたしの友達ね!鼻が高いわ!』
『もう、また夜にケーキなんて食べて。太るわよ?』
最近は私が声をかけても無視してきたり、目がどんよりと濁っていたりした。それでも私にはある程度ちゃんと対応してたから、まだ大丈夫だろうと思ってたけど…。
けど、ま。
「あんたなら大丈夫でしょ」
駄目だったらまあ、私が慰めてやるかぁ…。太るなぁ。