とあるIS学園の整備員さん   作:逸般ピーポー

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箒ちゃん大人気で草
おかしいなー…原作の銀の福音事件の時そのままの感じで描いたのになー…
あ、だからか


灰色の裏側で

シャルロットが目を覚まし、私がシャルロットに着替えを持って行った次の日。良く晴れた昼休み。うむ、今日も良い天気だな。

私は一夏達と共に、屋上で昼御飯を食べていた。私の他には一夏、箒、セシリアのメンバーだ。

隣のクラスの鈴は、あの後一夏に謝ったらしい。が、当の一夏は未だ返事を保留にしているそうだ。なんでも、釈然としないから、というのが理由なんだそうだ。

 

 

「ところで箒。シャルには謝ったのか?」

 

一夏が箒に尋ねるも、気まずそうに目を逸らす。…おい。貴様、まさか。

一夏も同じように思ったのか、箒の顔をえ、嘘やろ?といった表情で見つめている。

 

「…箒?」

 

「ま、まだだ…」

 

再度一夏が尋ねるも、返ってきたのは蚊が鳴くような細い否定の声。それを聞いた途端、一夏は食べていた弁当をその場に置いて箒に手を伸ばして言った。

 

「箒、俺も一緒に行くから、謝りに行こう」

 

「し、しかしだな…」

 

「箒!!!」

 

ビクッ、と肩の跳ねた箒に手を伸ばしたまま一夏は強い意思を感じさせる声で呼んだ。そしてそのまま箒の手を取り、箒の体をぐいっと引き上げた。

 

「行くぞ」

 

そう言って箒の手を掴んだまま、ぐいぐいと手を引っ張って行く一夏。

 

「…ふん」

 

今の状態の箒を連れて行っても、何も物事は好転しないだろうに。…シャルロットが嫌な思いをしなければいいが。心配のし過ぎだろうか。

 

「…ところでセシリア。この間、教か…織斑先生に呼ばれていた時があっただろう。あれは何だったんだ?」

 

「ええ。織斑先生と共に、先日の戦闘の映像を簪さんとともに確認しておりました。光栄にも、お褒めの言葉を戴きましたわ」

 

「ほう」

 

「その機会に簪さんともお話して、仲良くなることが出来ました」

 

「良かったではないか」

 

「ええ。それと、ラウラさん」

 

「む?」

 

そう言ってセシリアは姿勢を正し、こちらに向かって深くお辞儀をした。どうした?

 

「あの時は見事な指揮、ありがとうございます。助かりましたわ」

 

なんだ、そんなことか。

 

「ふん。任せられた以上、最後まで責任を持って全うするのが軍人の役目だ。礼を言われることではない」

 

「それでも、です」

 

「…まあ、その気持ちは受け取っておこう」

 

「ええ、そうして下さい。…ただ、(わたくし)としては少し箒さんのことが心配です。今の箒さんは、なんだかこう…あまり、良くない感じがいたしますわ」

 

「…そうだな」

 

とはいえ、私やセシリアが踏み込むものではない。これは当人たちの問題だからな…。しばらくはシャルロットの様子を見るか。

 

「…そういえばセシリア。最近、一夏とはどうなんだ」

 

「ええ、まだ少しぎこちない時もありますが、以前と変わらないお付き合いをさせていただいています」

 

「そうか」

 

「本当に、皆さんにはお見苦しいところをお見せしてしまいました…」

 

そう言って苦笑するセシリア。まあ、一夏に対してことあるごとにISの武器を向けるのは、正直見ていて不愉快ではあった。

 

「…たしかに、見ていて気持ちの良いものではなかったな」

 

そう言うと、すまなそうな顔をして言った。

 

「お恥ずかしい限りですわ…」

 

…たしかに今までの態度は目に余ることが多かった。だが…

 

「…変わったな、セシリア」

 

本当に変わったと思う。以前のセシリアは、自らの間違いを指摘されても逆上したり、他人を見下していた。今では自らの研鑽に励み、共に成長しようとする気概が見えるような感すらある。まあ、それもこれから分かること、か。

 

「そうでしょうか?」

 

「ああ、変わったよ。間違いなくな」

 

私がそう言うと、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。笑顔のまわりに花が見えるような、そんな顔だった。

 

「ふふ、ありがとうございます。これ以上、想い人に情けないところを見せるわけにはいきませんもの」

 

「…ふん、あいつら(一夏の幼なじみズ)に聞かせてやりたいな。日本では、『爪の垢を煎じて飲ませる』…というんだったか」

 

「そうですねぇ…。なんだかお二人とも、何かに焦っているような感じがいたしますわね」

 

「焦る、か。一体何に焦っているというんだろうな」

 

「それは、まあ…その…一夏さんと…」

 

最後の方はなんだかごにょごにょ小さく呟いていて聞き取れなかったが…。まあ、どうせ一夏と仲良くなりたいとか、そんなことだろう。セシリアのように自らを磨き、アプローチすれば良いだけだと思うのだが…。

 

「…まあ、あいつらの考えていることなど私にはわからん。…ああ、セシリア」

 

「はい?」

 

「悪いが、シャルロットの見舞いには行かないでやってくれないか」

 

「…何故、とお聞きしても?」

 

何故、か。そうだな。

 

「…今、あいつは一人で居た方が落ち着くだろう。そこにあまり押し掛けても、あいつは笑顔で対応してくれるだろうが…。まあ、なんだ。それでは意味がないと思うんだ」

 

「…つまり、今はそっとしておいた方がシャルロットさんのためになる…。そう言うことですのね?」

 

「ああ」

 

「…そうですね。ラウラさんがそうおっしゃるなら、そう致しますわ。わたくしよりもラウラさんの方が、シャルロットさんについてはよくお分かりでしょうし」

 

「ふっ、当然だ」

 

何せシャルロットは私の親友だからな。伊達に同じ部屋で毎日を過ごしているわけではない。

まあ、だからこそというか。最近のシャルロットの憔悴具合は心配ではある。…いざとなれば、嫁にも相談してみるか…。

 

「セシリア」

 

「なんでしょう」

 

「…お前から見て、今回の箒はどう思う」

 

「そうですねえ…」

 

そう言って、うーんと唇の下に人差し指を当てて考えるセシリア。どうでもいいがお前、あざといぞ。

 

「さすがにあれはない、ですかねぇ…」

 

「ほう?意外だな」

 

正直援護するかと思っていたのだが。それはまた何故だ?

 

「いえ、私もそうでしたけれど…。自分の気持ちを気付いて下さらなくてやきもきする、というのはとても共感できますの」

 

「いくらやきもきしたからと言って、アプローチの方法が悪いかもしれないと考えずに武器を乱発するのはどうかと思うぞ?」

 

まああれは一夏があまりにも鈍感すぎる部分もあるとは思うがな?

 

「もう!からかわないでください!それはこれから信頼を取り戻して見せます!」

 

「ははは、すまんな」

 

「もう…。ラウラさんって、意外とお茶目さんですのね?」

 

嫁のせいであって私のせいではない。きっとそのはずだ。うむ。

 

「で、話を戻しますわよ?こほん。

…今回さすがにひどいと思ったのは、平和な日常ではなく、命を失いかねない戦場だったからです。いくら普段いがみ合っている相手とだって、命の懸かった戦場では協力するものですわ。よっぽど敵対しているとかなら別ですけれど」

 

「ふむ」

 

「それが今回は箒さんがシャルロットさんの足を引っ張るだけでなく、シャルロットさんに大怪我をさせています。映像で見ましたが、その後もずっと一人で暴走しているだけでしたし…。さすがに今回のは、シャルロットさんが可哀想過ぎます」

 

そう言ってこちらを見るセシリアの表情はキリッとして、まさに貴族らしい真剣な顔つきをしていた。

 

「…だが、シャルロットは篠ノ之のことを許すだろう」

 

「あれだけのことをされてですか!?」

 

セシリアが心底驚いた顔で、目を見開き気味にこちらに寄ってきた。ちょっと怖いぞ。

 

「こほん。…失礼しました。でも、さすがにあそこまでされてというのは…」

 

「あいつは許すよ。そういう奴だ。

…まあ、シャルロットが許しても私は許さん。私が許さん」

 

あ、思い出したら腹が立ってきた。ズゴゴゴゴゴッ、とコーヒーミルクを吸う。…しまった。もう残ってない…。もう少しゆっくり飲むつもりだったのに。すべてこれも篠ノ之箒が悪いのだ。うむ。

あらー…。という困ったような笑顔でセシリアがこちらを見ている。なんだ!何か文句があるのか!

 

「いえ、別に?」

 

そう言って澄ました表情で、ひょいっと素知らぬ顔をしてどこかを向くセシリア。ぐぬぬ…。言いたいことがあれば言えば良かろう!まったく。

 

ふう…。いかんな。取り乱してしまった。これも夏の暑さが悪いのだ。さて。

 

「しかし、何故箒は突っ走って行ったのだろうな?」

 

「あくまでも予想ですけれど…。箒さんは、ご自身が初心者です。私達代表候補生のように、必死にISの訓練をし続けてきたわけではありません。

ですが箒さんのISは篠ノ之博士製作の最新機です。多少技術が拙くとも攻撃を浮遊盾が自動で防いでくれますし、絢爛舞踏でシールドエネルギーを回復させることも出来ます。

そして、自分のような初心者がまだまだ大丈夫なのだから、代表候補生の私達ならばもう少し大丈夫だろう…。そう考えていたのではないかと」

 

「ふむ…」

 

なるほど。確かに篠ノ之はIS操縦に関しては素人の域をまだ出ない。以前の銀の福音戦、そして普段の訓練で基礎技術は伸びているが、それもまだ初心者の中では、というくらいだ。

今のセシリアの説明だと、シャルロットが墜ちるまでは理解出来る。だが、シャルロットが墜ちてからも暴走した理由は何だ?

一つは一夏に良いところを見せるため。と考えられるが…。ああ、篠ノ之は絶対防御が操縦者を完全に守るものだと思っている可能性もあるか。

銀の福音戦で一夏が怪我をした事は知っているはずだが…。シャルロットが墜ちてからも、自分が大丈夫なのだから、と感覚的に考えていた…?

いや、まさか。銀の福音戦で一夏が怪我をしたのにも関わらず、自分が大丈夫なのだから大丈夫だろう、なんて考えるとは…。ない、よな?…否定しきれん。篠ノ之は馬鹿だからな…。シャルロットも一夏のように、謎現象によって怪我が治ると思っていてもおかしくない。

あとは、篠ノ之箒という人間の人間性、か?自分が力を持っていると自信過剰な人間特有の考え方。

…VTシステムが発動する前の私、か。力が全て。力を持っていない者に存在する意義はない。…あの時の私ほどひどくはなくとも、力を手に入れて調子に乗っている、というのは有り得そうだ。篠ノ之が力に溺れやすい人間ならなおさらな…。つまりこんな感じか。

 

私は力を持っている…。私は力を手に入れた!私の力があればすぐに状況は切り開ける!だからお前たちは、私の邪魔をするな!

 

…こんな感じか。

 

あ、多分これだ。てぃんと来た。

あの大馬鹿者のことだ、絶対この程度にしか考えていないに違いない。間違いない。

 

「…あの、ラウラさん?」

 

「む?」

 

ああ、考えに没頭していた。なんだ?

 

「その…。もう、その容器には飲み物は残っておりませんわよ?」

 

「…」

 

手にはコーヒーミルクの容器。中身は空。

私の口元にはストロー。…無意識にまたズゴゴゴやっていたようだ。うむ。

 

「…気にするな」

 

「あの」

 

「気にするな」

 

「ええと」

 

「気にするな」

 

「…はい」

 

ええい、あきれたような目でこちらを見るな!見るなぁぁぁぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、篠ノ之。お前、これを見てどう思った」

 

言葉が出なかった。シャルロットの病室に何度となく向かっては、ずっと謝ることの出来ていないまま。

そんなある日、私は千冬さんに呼び出されてモニタールームに来ていた。千冬さんが脚を組んで椅子に座ったまま私に問いかけてくるが、そんなことよりも頭が真っ白だった。

 

私が先ほどまで見ていたのは、先日の戦闘の記録。IS学園のカメラから撮影されていたその記録は、私を呆然とさせる破壊力に溢れていた。

 

「…篠ノ之。篠ノ之箒」

 

「わ、私はなんてことを…!」

 

調子に乗っていた。大丈夫だと思っていた。

私よりも普段の特訓から強いシャルロットやラウラ、セシリアといった代表候補生達なのだから、というだけの理由で。

それだけの理由で、私が少しくらい突入しても大丈夫だと思っていた。

私の武器は近接戦闘でこそ真価を発揮するし、私だって弱いままではないのだと。私だって戦えるのだと。そう証明したかった。

事実、戦っている間も、今の今まで私は確かにそう思っていた。

…醜い、あまりにも醜い我執によって、友人が墜ちていくのを見るまでは。

確かにそこには、張り切って戦う私の姿があった。

しかしそれ以上に、私はシャルロットの援護を無視し、シャルロットの注意を袖にし、シャルロットの警告に耳を貸さず、シャルロットに頬を張られてもなお、シャルロットの主張に取り合っていない、醜い私の姿があった。

なんだこれは。これが私?

はは、道化だとか。滑稽だとか。そんなレベルのものじゃない。いや、いっそそうであってくれればどれだけよかったか。

確かにそこには、シャルロットが私を何度も何度も救ってくれている姿があって。

そして、私の姿をした誰かが、そんなシャルロットに食って掛かるのだ。

戦闘中だというのに。戦場だというのに。

そして私は見た。見てしまった。

最後までシャルロットが私を守り、自らの体で私を護ってくれた、その瞬間を。

シャルロットの頭に、分厚い剣が勢いよく降り下ろされた瞬間を。

そして。

シャルロットが墜ちていく間にも、私に手を伸ばしてくれていたことを。

 

ああ。ああ。私はなんということをしてしまったのか。私自身が慢心し、暴走するだけでは飽き足らず。私はシャルロットのおかげで傷一つなく、シャルロットは私を守ったせいで1週間は安静の身だ。そしてシャルロットを守ったシャルロットのISは、ダメージレベルがCを越えたD。

なんという無様。なんという失態だ。

これは死んでも詫びねばならぬ。腹を切ってでも謝らなければ。

そう思った私は、織斑先生の制止の声も聞かずに飛び出した。


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