とあるIS学園の整備員さん   作:逸般ピーポー

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感想が100件超えてました。いつも励みになっております。毒にも薬にもならないほのぼのな感じを目指して行きますので、どうぞ良しなに


シャルロットのおはなし

私が小さい子どもの頃は幸せだった。

お母さんは私に優しくしてくれたし、お父さんは普段会うことはなかったけど、お母さんがそれはもう幸せそうにお父さんとの話をするものだから、きっと素敵なお父さんなんだって信じて疑わなかった。

その幸せがあっけなく消えたのはお母さんが死んで、お父さんに引きとられた時から。

「この、泥棒猫の娘が!穢らわしい!」

その言葉と共に、強烈な衝撃が私の頬を襲った。あの時の痛みと、継母の恐ろしい形相の恐怖は今でも覚えている。

その後、父に引きとられた私には居場所などなかった。

味のないごはんを食べ、義理の母からはいつも疎まれ、父は私をいないものとして扱う、そんな生活。

お母さん。お母さんの言っていた、大切なものなんて見つからないよ。

お母さん。本当に大切なものは失う前からわかっているものだから、絶対に離しちゃいけないと言っていたお母さん。

私には、失いたくないものなんてありません。むしろ、今すぐ全てを失ってしまえたら、どれだけ楽でしょう。

お母さん。頭でも、感情でもなく、心で感じるのよ。そう教えてくれたお母さん。

私の心は、今にも壊れてしまいそうです。

ねえ、お母さん。私って、何のために生まれてきたのかな。

 

その後、私に偶然IS適性があることがわかってからは、ますます私は自分の居場所が分からなくなっていった。

父からはただの道具として。義母からはもはや顔を見ることさえ避けられて。

そして父の会社が経営難に陥ってからは、私は自分の性別と名前さえなくなった。

私は僕に。シャルロットはシャルルに。言葉使いから立ち振舞い、常にコルセット入りのISスーツを着用している習慣付けまで。

私が私じゃなく感じるようになるまで、そう時間は長くかからなかった。

デュノア社のテストパイロットになってからというもの、なんとか父の元から逃げ出したい一心で自由国籍権を取ろうとしたこともあった。当然父が握り潰していた。嫌になる。

私の立場も、私の生活も、私の性別さえも。

私というちっぽけな人間の全てが父に握られている日々は。

私から、感情をじくじくと削ぎ落としていった。

 

IS学園に男として転入した。

同室になったのはターゲットの織斑一夏。世界初の、そして唯一の男性操縦者。()は彼に、自分が彼のISのデータを盗むために来たことを打ち明ける勇気もなく。しかし彼のデータを盗むことも出来ないままに、時間はただ淡々と過ぎていった。

 

そんなある日のことだった。今日もデータを盗む勇気も出ず、しかし彼に自身の秘密を打ち明けることもないまま、私は(一夏)に連れられて何故かISの整備庫に来ていた。一夏は僕の顔色がよくないから、と言っていたけど、そういうことに気がつくくせしてどうして女の子の恋心には鈍感なんだろう。理解に苦しむ。

 

そしてそこで出会った人は、とても怪しかった。胡散臭いと言ってもいい。彼は僕の姿を認めると、無言で僕を手招きした。

正直付いて行くのを躊躇ったけど、一夏もよく相談に乗ってもらっているらしいし、悪い人ではない…はず。

そう思って彼に付いて行った。

 

 

そこからはあっという間だった。

気付いたら父からは謝罪の言葉と共に、これまで酷いことをしてしまったと。どうか、やり直したいと頭を下げられた。びっくりして固まってしまったけど、この人とやり直すのは絶対に嫌だったから断った。

そしていつの間にか僕は私として、シャルルじゃなくてシャルロットとして、IS学園に再入学することになっていた。

そしてラウラが同室になってから、私は彼の言っていたことが全て現実になったのだと気付いた。まだ彼にはお礼も言えていない。彼に会うことが、ちょっぴり楽しみになった。

 

それからラウラと一緒に彼のもとを訪れた。相変わらず、私にはしばらく胡散臭い笑顔で対応してきたけど、ある程度一緒に過ごすとそれも消えていた。後で聞いた話だけど、見ず知らずの他人を簡単に信用しないように、ってことで、わざとそういう態度を取っていたみたい。もう。私はもうこれまで散々嫌な大人にも、自分のことしか考えていない大人達にも触れて生きてきたのだから、もう少しくらい優しくしてくれてもいいのに。

そう思っていた。そしたらラウラにこう言われた。

 

「む?嫁はいつも言っているではないか。何かあったら相談しろ、と。そう思っているなら嫁に直接言えば良いんだ。言わないのに文句ばかり言うのは筋違いだぞ?」

 

確かに。思い返してみると、確かに彼はいつも私に言っていた。何かあったら相談してね、と。ふふ、彼の優しさは不器用だね。そう返した。ラウラもふっ、私の嫁だからな!と笑っていた。ラウラ、それはちょっと違うと思うよ。

 

 

最近一夏が鹿波さんにいろいろ相談してるらしい。その影響か、一夏はたまに篠ノ之さんやオルコットさん、凰さんに良く言っている。

あんまり暴力ばかり振るってくるなら、お前らと距離を取る、と。

正直一夏があの三人から距離を取るのは賛成だけど、あの三人が鹿波さんに何かしないか心配だ。それとなく、探りを入れておいた方が良いかも知れない。

 

 

ラウラが鹿波さんに、水着を買いに行くのを誘うらしい。私も一緒に。

 

「ね、ね、ラウラ、本当に?私も鹿波さんと一緒に行って良いの?」

 

どうしよう。まだ鹿波さんとの関わり方が良くわかってないのに。恩人?それもある。けどそれ以上に、私の中では鹿波さんの存在は大きなものになってきていた。

そんな中で、ラウラが私も一緒に鹿波さんを誘うと言う。

 

「うむ。というか、私だけではどれが良いのかなど分からんし、嫁も女物に詳しいか分からんしな」

 

当然だ!行くぞー!と気炎を上げてラウラは走って行ってしまった。あっ、待ってよ!

 

 

ラウラは無事に鹿波さんと水着を買いに行く約束をしてきたらしい。やったあ!日にちは?今度の土曜日だね!分かった!うーん、嬉しいなあ!

 

ただ、なんだか篠ノ之さんとオルコットさん、凰さんが最近よく集まってひそひそ話をしている。…なーんかやな感じ。まあ、いざという時には…

そう思って無意識にこぶしを握りこんでいた。

 

「シャルロット」

 

はっとしてラウラを見る。ラウラが僕を見る表情は真剣で、軍人としての顔つきをしていた。

 

「早まるなよ」

 

「うん」

 

危ない危ない。つい鹿波さんが絡むと物騒な思考になり勝ちなことがある。こういう時のラウラは本当に頼もしい。手を出す、出さないの境界線がちゃんとしっかりあって、感情では絶対に動かない。僕も見習わなきゃなあ…。

 

 

そして土曜日。僕とラウラは鹿波さんの車に乗せてもらった。ゆっくり座れる車で、鹿波さんの匂いがした。

レゾナンスについたラウラはいつもよりもさらにはしゃいでいて、鹿波さんに注意されていた。本当、ラウラと鹿波さんが親子みたいでくすっとした。その後鹿波さんに手を繋いでもらった。えへへ。

 

 

水着売り場ではなんだかやけに視線を感じた。僕とラウラは専用機持ちだからまだわかるんだけど、店員の人がやけにチラチラと鹿波さんに注意を払っているのはなんでだろう。この店員のお姉さんからは敵意を感じないし、どちらかというと心配してるような気配だから良いんだけど。鹿波さん、有名人なんだろうか?

 

そして僕が水着を試着している間に、鹿波さんは鬱陶しいおばさんに絡まれていた。ああっ、鹿波さん大丈夫!?

そう思ったけどラウラがやっつけてくれた。軍人なのに一般人に手を出していいの?と思ったけど、今回絡まれたのは鹿波さん(一般人)だから問題ない、らしい。

あ、さっきの店員の人がすぐそこにいる。やっぱり鹿波さんの知り合いか何かかな?やたら来るの早いし、いつトラブルがあっても対処できるようにしてたみたいだし。

 

午後からは山田先生と織斑先生に会った。そのときに山田先生から鹿波さんのファンクラブがあることを聞いた。IS学園の卒業生の中には、鹿波さんのファンクラブの人もいるらしい。ちなみに鹿波さんのファンクラブかどうかは知らないけど、IS学園の卒業生の一人がここで働いているらしい。さっき山田先生と会って話をしてきたんだって。なんでも、被害届を出すために先ほどまで付き添いをしていたのだとか。…あれ。すごく思い当たる節が。

そしてこれからどうするのか聞かれた。はい、今からラウラの水着を選ぼうかと思ってます。そう答えたら山田先生は嬉しそうに

「じゃあ良ければ一緒に行動しましょうか!」

と言ってきた。午前中の件で鹿波さんに保護がもっと必要なことがわかったので、この申し出はとても助かるね。

その後は織斑先生とラウラの水着選び。と言っても試着して鹿波さんに見てもらうだけだけど。…やっぱり織斑先生くらいのスタイルじゃないとだめなのかな。ちっさくはないはずなんだけど。思わず自分の胸に手を当てる。…いや!でも鹿波さん私の水着に顔赤くしてたし!多分大丈夫!がんばれシャル!がんばれ私!いけるよ!

 

 

 

そして臨海学校から無事に帰ってきた後、生徒会長の更識楯無さんに話かけられた。なんだろう?

 

「シャルロットちゃん。…鹿波さんファンクラブ、って知ってる?」

 

「あ、はい。聞いたことはあります」

 

「そう。なら、これに入会してもらえないかしら。今ちょっと人手不足で、猫の手も借りたいところなのよ~」

 

「えっと…。ファンクラブだと何かするんですか?」

 

「んーん♪ただ、鹿波さんの身の周りに危険が来ないように見守るだけ。…ただね」

 

そう言って、()の耳もとにひそひそ話をする会長。なんだろう。

 

「…今回の銀の福音の暴走。鹿波さんは独自の情報源から可能性は知ってたみたいなの。それに、最近一夏君の周りの女の子達にも不穏な動きがあるでしょ?そっちの警戒をお願いしたいんだけど」

 

そこまで言った後、普通にパッと離れて笑顔で聞かれた。

 

「お願い、できるかしら~!」

 

…うん、とりあえず現状では特にデメリットもないし、この話は受けて損はないはず。鹿波さんはどこか、死に急いでいる節があるし。

ただし。

 

「…会長からも、情報がわかり次第連絡してくれるのなら」

 

「うん!じゃ、決まりね!」

 

そう言って、会長は僕の手を握ってぐいぐい引っ張っていった。

その後鹿波さんファンクラブのカードをもらい(No.602だった)、お互いにIS同士で連絡先を交換。これでいざという時も秘匿回線からやり取り出来る。あと、会長ではなく楯無さんと呼ぶように言われた。…多分あの人、普段の私達の様子を観察してたからこのタイミングで接触してきたんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、鹿波さんが意識不明の重態で緊急搬送されてきた。

日常の壊れる、音がした。

 

鹿波さんの様子を見に行こうとしたけど、織斑先生に止められた。意識が戻るまでは面会は禁止だって。そんな…。織斑先生もしかめっ面してた。やっぱり鹿波さんを守りきれなかったことに何か思うところがあるんだろうか。でも私にはそんなことはどうでもよくて。

ただ、もう一度。鹿波さんと会ってお話がしたかった。今日もこんなことがあったんだよ。ねえ鹿波さん。明日はどんなことがあるんだろうね。

明日にはまた明日の風が吹くさ。そう言って笑うあなたに、私はどれだけ救われてきたのだろう。

 

「鹿波さん…」

 

ねえ。神様。鹿波さんを、私の大切な人を。やっと見つけた、本当に大切だと思える人を。私から奪わないで。

やっと見つけた私の希望を。私から奪わないで。やっと見つけたんです。やっと側に居られるようになったんです。あの笑顔を。あの優しさを。あのぬくもりを。あの楽しみを。冷たくなった日々にあたたかさと面白さと楽しさをくれた、私の大切なあの人を。色褪せた日々に華やかさと美しい色彩を教えてくれた、私の大好きな人を。どうか私から離さないで。

お願いします。

お願いします。

お願いします…。

どうか…。

私から鹿波さんを、奪わないでください…!

 

 

 

 

 

 

 

次の日、織斑先生から鹿波さんが意識を取り戻したことを聞いた。意識ははっきりしていて、身体に欠損などもなし。明日から面会もして良いらしい。

 

「よっ、良かった…!本当に…!」

 

胸の奥から溢れる安心と安堵。良かった…!ああ、力が抜けて立っていられない。目頭が熱い。本当に、本当に良かった…!

 

「ほら」

 

そう言ってラウラが僕を支えてくれた。本当はあまりよくないけど、あまりの嬉しさで気にせず袖でぐしぐしと涙をぬぐう。はああああ…!良かっだよおお…!

 

その日は1日勉強も何もかもが手に付かなかった。明日は鹿波さんに会える。また鹿波さんとお話が出来る。たったそれだけのことなのに、私にとっては本当に大変なことなんだ。ああ、明日は何を話そうかな!楽しみだよ。

 

 

そして次の日。私が鹿波さんの顔を見に行くと、そこにはリクライニングベッドにゆったりと座って寝ている鹿波さんと、楯無さんがいた。楯無さんは鹿波さんの正面にじっと立ち、何か考えているみたいだった。

 

「楯無さん」

 

近づいて僕が呼びかけると、楯無さんは僕の顔を見て、鹿波さんの方を向き目を閉じた。…どうしたんだろう。

 

「…さっきね。鹿波さんに面会しに来た中国の代表候補生がいたのよ」

 

…凰さん、だろうか。それ以外の中国の代表候補生で鹿波さんと接点がある人を僕は知らない。でも、鹿波さんと凰さんに面会しに来るような接点なんてなかったはずだけど…?

楯無さんは続けた。

 

「…鹿波さんは今もまだ安静にしてなきゃいけないような状態だし、本当なら余計なストレスなんて与えたくなかったの。だから部屋から強制的に排除した方が良かったかも知れなかったんだけどね」

 

…?なんだろう。話が見えてこない。

そうは思うも、最後まで話を聞くことにした。目の前の楯無さんからは、確かな怒気と冷徹な雰囲気を感じたから。

 

「やっと意識を取り戻したばかりの重傷人に、見舞いというでもなくずかずか入って来ては『ちょっと見に来ただけ』?『気にしないで』?何様よ。

その上織斑君に謝りなさい、ですって。…鹿波さんはただ付き添いを頼まれただけなのによ?

違うでしょうが。織斑君に心配をかけることになったから謝りなさいと言うなら、鹿波さんを守りきれなかった私や織斑先生に言いに来るべきでしょうが…!」

 

そう言う楯無さんの扇を握る手はかすかに震えていた。ああ、そうか。凰鈴音。君は僕の、いや。僕達の敵だったんだね。そう。そうか。そうか。

 

「…それが私や織斑先生には何も言わず、何の力も無い鹿波さんには大上段から偉そうに高説垂れるのよ…?うち(更識家)の護衛から聞いた時はふん縛ってやろうかと思ったわ」

 

「…それで、その後は?」

 

気になってつい聞いてしまった。しまった。

幸い楯無さんは激昂することもなく話を続けてくれた。良かった。

 

「…鹿波さんに友達無くす、なんてとっても素敵な捨て台詞を吐いて出ていったらしいわ。

ま、友達を無くすと言った相手に想い人が相談してて、友達を無くすと言った自分からは想い人が離れていってるんだからーーーーー。

まあ、滑稽と思うことにしましょ」

 

そう言って楯無さんは振り返ることもなく出ていった。

…やっぱりあの三人には警戒しておいた方がいいみたいだね。鹿波さんは優しいから気にしないだろうけど、あまりに鹿波さんに肉体的や精神的に危害を加えるつもりなら、その時は。

僕の胸元で、ネックレスになっている相棒(ラファール)がちゃりっ、と鳴った気がした。

 

 

鹿波さんのベッドの隣に丸椅子を引っ張り出して座った。鹿波さんの無事な右手をそっと包む。鹿波さんは眉間に皺を寄せて、不機嫌そうな表情で寝ていた。

ねえ。鹿波さん。私はあなたが助けてくれた。

ラウラもあなたが助けてくれた。

織斑君もあなたに助けられていて。

じゃあ、鹿波さん。

あなたは一体、誰が助けてくれるんだろう?

いつも自分で抱え込んで。なまじ能力があるから解決できて。そして周囲はそんな優秀なあなたが当たり前で。

私一人を助けるだけでも、デュノア社社長の父やフランス政府、IS学園に干渉しないといけない。私みたいにISが使える訳でもなく、織斑先生みたいに何か肩書きがある訳でもなく。

ねえ。鹿波さん。あなたは私一人を救うために、どれだけのものを犠牲にしたの。

ねえ。鹿波さん。あなたはラウラを助けるために、どれだけ頑張ったの。

ねえ。鹿波さん。あなたは織斑君のために、どれだけ心を砕いたの。

鹿波さん。いつも頑張っている人を応援して。さりげなく手を差しのべて。

そんなあなたを、一体誰が助けてくれるの?

そんなに頑張ってたらさ。きっといつか。

 

「壊れちゃうよ…」

 

そんなに頑張らないでと言いたい。もっとわがままになってと伝えたい。自分を大事にしてと叫びたい。でもきっと、あなたは優しく笑って首を横に振るんでしょ?

今までそうしてきたように。これからも他の人のために。

 

ねえ。鹿波さん。

私はあなたの事が好きだよ。とってもとっても、大切な人。だからね、鹿波さん。私、きっといつもあなたの隣に居るから。いつも何度でも、あなたの隣で支えてあげるから。

だからね、鹿波さん。いつか、私の気持ちを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無は無表情を顔に張り付けながら、生徒会室までの廊下を歩いていた。普段表情豊かな楯無が無表情になるときは二つある。一つは交渉の場でのポーカーフェイス。

そしてもう一つは、怒りのあまり無表情になる場合。

 

楯無は生徒会室の扉を開けた。

 

「おかえりなさい」

 

そう言って虚が私に声をかけるがそれには反応しない。ただ言った。

 

「虚ちゃん。凰についての情報、調べてもらえる?」

 

「ここに」

 

そう言って虚から手渡された資料の分厚さに目を瞬かせる。あれっ?

 

「虚ちゃん。私、もう調べてもらうように言ってたっけ?」

 

「いえ。でも、鹿波さんの敵はお嬢様の敵。そして」

 

そこで虚は言葉を区切り、底冷えするような笑顔でこう言った。ニッコリと。

 

「鹿波さんの敵は、我々(更識家)の敵ですから」

 

「…本当、頼もしいわね」

 

全く、本当に。

さて、最近は亡国機業も鹿波さんのことを探ろうとしてるみたいだし、色々とやらなきゃね。内憂外患とはまさにこのことねぇ…。ふう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ア。……ノア。おい、シャルロット・デュノア!」

 

「はいっ!」

 

呼び掛けられてビクッとする。あれ?織斑先生?

 

「おいデュノア。既に寮の門限は過ぎている。…今回は不問としてやる。だからさっさと戻れ」

 

織斑先生の視線は私が握っている鹿波さんの右手に向いていた。でも、何で不問?…ああ、そっか。織斑先生も気にしてたのかな。鹿波さんを守れなかったこと。

 

「全く…。本来なら懲罰ものだぞ。いいなデュノア。次はないからな」

 

「はい」

 

そう言って椅子から立ち上がる。最後に鹿波さんの顔をちらりと見る。眉間の皺は消えていた。…また、明日。




シャルロットちゃんの魅力よ伝われ

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