「スーパージャイアントスコーンッ!」
「いきなりどうしたの鹿波さん」
うん、特に意味はないんだたっちゃん。
さて、今俺は臨海学校でお世話になった旅館に織斑先生共々お礼をしに来ている。決してお礼参りではない。
俺の隣にいるのはたっちゃん。というか、今回の俺とちっふーのお仕事は臨海学校で不慮のアクシデントがあったことで迷惑をかけたことのお詫び。それとお世話になった礼、そして出来れば来年もよろしくお願いしたい、という交渉らしい。今ちっふーが旅館で多分女将さんとお話をしてる。
俺?原作の浜辺に来たならそりゃもう当然見に行くしかないよね!ってことで海へ。
そして海を見たら叫ばずにはいられなかった。スーパージャイアントスコーン!特に意味はありません。
今回のお仕事の護衛は更識家。旅館の周りでは更識家の人々が警護しているらしい。まったくわかんないけど。気配とか音とかしないし。さすがプロ。
千冬が女将さんから来年もオッケーだと行く返事がもらえたら、この後俺とちっふー、あとたっちゃんでオリエンテーリングのために雑木林を下見することになっている。
…たっちゃんもいつもの制服だし、ちっふーも普段通りスーツなんだけど、ちょっと君らアクティブすぎない?俺みたいに整備ツナギに白衣という、いつ汚れてもいい服装じゃない。うーん、やはりIS乗りで強い人々というのは、もう身のこなしから違うんだろうか。わからん。
あ、ちっふーが旅館から出てきた。
「お疲れ。どうだった」
「ああ、なんとか来年も許可をもらってこれた。まあ、来年も同じようなことがあれば考えさせてもらうと言われたがな」
はっはっは、と鷹揚に笑うちっふー。その考えさせてもらうって、絶対遠回しなお断りだよね。大丈夫なんか。
「ん?まあよほど心配いらんだろう。来年は一夏の奴がここに来る訳でもない」
あいつがいる場所ではトラブルばかりおきるからなーーー。
と、冗談なのか本気なのかよく分からないことを言う。まあなんでもいいよ。それよりはよ帰ろう。なんか嫌な予感するんだよね。特にちっふーがたっちゃんからISブレードを受け取ってぶんぶん振り回し始めたあたりから。
「ふん。お前がそう言うなら楯無に預けておくとしようか?」
そう言ってちっふーはたっちゃんにISブレードを返した。そもそもオリエンテーリングの下見にISブレードもったままとか絶対おかしくない?そんなに今回のお仕事危ないの?
そう思ってたっちゃんを見るが、たっちゃんは笑顔のままでこちらに首を傾げるだけである。まあ、何も言わずに以心伝心とか無理だよね。知ってた。
うーん、こういうときにはアンサートーカー先生探知型使用法だな。
説明しよう!
アンサートーカー先生探知型使用法とは、アンサートーカー先生に
『自分が生き延びるために最適な行動を示せ』
という質問を、頭の中に描き続けることである!
これにより、自らの生存率を高めるありとあらゆる行動が示される!
ただし問題点がいくつか。
一つは、現在時点で特に出来る事がない場合には、何の回答も示されない点。
そしてもう一つは、単純に、ずっと思い描いている必要があるため疲れる点である。
それらの欠点を除けば、『自らの生存率を高めるために』味方の気付いていない攻撃に対して、味方に回避命令が出せたり、また、視認出来ない、もしくは本来感知出来ないような攻撃(空気砲、衝撃砲、超超遠距離からの狙撃など)に対してすら回避行動や回避命令が出せる。非常に有用な使用法なのである。
ただし周りの人からは『なんでわかるんだコイツ』となってしまい、下手すると超能力研究所などにつれていかれて人体実験されかねないのがネックである。
それゆえ、なるべくなら使わないに越したことはない。更に言うなら、使っても何事もないのが最上である。
さて、アンサートーカー先生探知型使用法(以下先生探知)を頭の中に思い描いている間にちっふーはさっさと雑木林へ入ってしまった。たっちゃんが隣にいるのは、おそらく俺の方が護衛が必要だと判断したからだろう。
ぼやぼやしないでちっふーを追うとしましょうか。
千冬、いや織斑先生は鬱蒼としげる林の中を、ずんずん歩いていく。木と木の間はわりと余裕があり、三人くらいなら並んで通れそうな幅がある。歩きやすく、見通しが悪いというほどでもない。そして木と木の間に余裕があるからか、林の中は太陽の光がけっこう入ってくる。
そのため明るく、オリエンテーリングにはいいかもしれない。なるほど、これなら充分条件としてはよさそうだ。
あと、さっきから20分ほど歩き回っているのに景色がほとんど変わらない。多少の高低さはあるのだろうが、それも気にならない程度である。この林、けっこう、いやかなり広いな。
しばらくすると、広く拓けた場所に出た。うん、ここなら100人くらいは余裕で座れそうだ。お昼ご飯に良いね。広さはIS学園のアリーナくらいか?つまりここならIS同士の戦いも出来る。それくらい広い。
広場を一回り見終わったのか、ちっふーが戻ってきた。どしたん。…先生探知に感はなし。よし。
「ふむ…。楯無。どうだ」
「そうですね…。少し雑木林全体の規模が広いように感じます。とは言っても、生徒もみんな優秀ですし、引率者の先生が何人か居れば問題無いんじゃないでしょうか」
「そうだな。有事の対応については」
「この広場を避難場所として、教師の増員と専用機持ちを分散させることで何とかなると思います」
「よし。では、来年はここで…ん?」
なにやら二人が話しているうちに先生探知が来た。なになに、前方から8人。その後方から3機の敵性反応。…3機ってことはISですか?ISですか。あぁ…。来ちゃったか…。
敵は?8人が亡国機業の構成員。3機はそれぞれ、アラクネにゴールデンドーン、そしてテンペスタ。
アラクネはオータム、ゴールデンドーンはスコールだな。テンペスタは?アリーシャ・ジョセスターフ…?誰だ。とりあえずテンペスタは純格闘機だというのは分かった。あと先生、アリーシャのこれまでの詳細を表示されても確認する余裕はないです。
ん?オータムとスコールは林の前で停止したな。アリーシャはぐいぐいこっちに…?いや、林の中に入っているはずなのに速度が落ちていない?これは、林の上空か!
「楯無、ブレードを寄越せ」
そう言ってたっちゃんからISブレードを受けとる千冬。その目は俺達の前方、林の奥を睨んでいる。たっちゃんも既に自身のIS、ミステリアス・レイディを纏って臨戦体制である。
あ、何ですか先生。ふむ。上空注意告知。了解。
「千冬、楯無。敵は8人プラスIS3機。そのうち1機は上空だ。注意してくれ」
俺がそう言うと、千冬から言葉が返ってきた。
「何故貴様がそれがわかるのか、今は聞かん。が、後できっちり吐いてもらうぞ?」
「それは勘弁」
そう言うが早いか、千冬は前方から来た8人の構成員たちに向かっていった。黒い服に黒いマスク。…特撮かな?
今ちっふーが既に5人を無力化した。俺はISを纏った楯無越しにその様子を確認しつつ、アンサートーカー先生で敵の居場所、そして先生探知で自分のしなければいけないことに集中していた。
!!
上空から狙撃。回避。
「楯無上だ!」
エリック上田。それは死亡フラグなのでアウト。
楯無に回避するようそう言って、俺は攻撃範囲外へ勢いよく体を飛び込ませる。そして楯無が俺に一瞬遅れてその場を飛び退いた。
瞬間、一条の白い光の束が俺達の居た場所を吹き飛ばす。
おいおい、アリーシャってやつは近接特化のはずだろ!?なんでこんなゲロビみたいなやつを撃ってくるんだ!
答:一度限りの使い捨て型レーザを携帯
先に言ってよ先生!あと何本あるの!?
答:残り本数無し
あ、オータムとかスコールも同じようなやつ持ってたりしないよね!?
答:オータムは同型レーザを一本所持。スコールは広範囲殲滅型爆弾を複数所持
広範囲殲滅型爆弾って、つまりグレネードじゃん!何個!?
答:3個
はいありがとう先生!このへんの融通の聞かなさがほんと面倒ってああ、また回避か!
今度は真っ正直から俺と千冬を同一射線上に、先ほども見た白い光の束が飛んで来た。千冬は既に構成員たちを既に全員なぎ倒しており、広場の向こうに構成員たちを吹き飛ばしていた。今のがオータムの一本か。あとはスコールのグレネードがいつくるか、だな。
「楯無」
「何?」
「敵の中に高威力のグレネードを持っているやつがいる、注意して」
「了解」
短いやり取り。そして千冬の元にはアリーシャらしきISが、上空から勢いよく飛んで来た。
「ひっさしぶりだなァ、オイ!」
「貴様…アリーシャ・ジョセスターフか!」
勢いよく飛んで来たアリーシャのIS、テンペスタと千冬が打ち合う。アリーシャの姿は両手、両足に標準的な装甲。手には赤と緑のガントレット、両足はいかにも格闘用な短めの黒の装甲。一番近いのはシャルロットのラファールか?それを一回り格闘用に分厚くしてあるような攻撃的なカタチ。そして両肩近くに一対の浮遊ユニット。スラスター、もしくはブースターか?
しかし俺がゆっくりと攻めるアリーシャと生身で凌ぐ千冬の戦闘を見ていられたのはそこまでだった。
先生探知来た!
「楯無!来るぞ、左だ!」
真横から楯無に強襲してきたのはオータム。くそ、右からはスコールが来ている。俺は戦力にならないし、3対2か。不味いな!
「楯無、救援は!?」
「既に呼んだわ!」
ちっ、楯無がオータムとスコールの相手をしている。それゆえ、具体的に何分後に援護が来るかは言えないって感じか!
先生!何分?
答:5分
くそ、戦場の5分は長い!
お!先生探知!
「楯無!左下上!」
「っ!」
オータムの姿に隠れて左からスコールの狙撃。俺が伝えたことで楯無はギリギリそれに気付き、なんとか耐え凌ぐ。くそ、まだ一分も経ってない!早く!
「…へえ、さっきから目障りなのがいるわねっ!」
やばっ、スコールの奴こっちに狙いをつけて来やがった!ゴツい銃口がこちらを射抜く。
先生!ヘルプ!
くっ、うおおっ!危ねえ!避けるだけで精一杯だっつーの!
スコールはオータムが楯無を引き付けているからか、余裕の態度でこちらをちょくちょく狙ってくる。千冬の方にもたまに視線をやるが、千冬に撃つことはなかった。…?何でだ?
まあ、今はともかく回避に専念。なるべく的にならないように、先生探知の指示通りにちょこまかと位置取りを変えて楯無の気づけていない攻撃を予告する。あと2分…っ!
すると、突然スコールが攻撃の手を緩め、耳に手を当てた。…どこかと通信してるのか?なんにせよ、
「楯無今だ!」
「オッケー、行くわよ!」
楯無のISの武装は俺も全て知っている。共に作ったのだから当然だ。そして、ナノマシンを薄く散布させていたことは(先生のおかげで)知っていた。やるなら今!
「
「!?…ちぃっ!」
莫大な熱量と衝撃がオータムとスコールを包みこむ。
しかしそれは決定打にはならなかったようで、爆煙の中からそれぞれ飛び出して来た。くっ、まだか、まだなのか!
しかしオータムとスコールはこちらの様子を伺うばかりで攻撃してこない。…何だ?
楯無は俺を守るようにこちらに背を向けてスコールを睨み付けている。その手に握るランスはピタリとスコールに向けられており、いつでも動き出せる臨戦体制のままだ。
向こうでは相変わらず、テンペスタの猛攻を凌ぐ千冬。しかしどうも旗色が悪い。あと一分、耐えてくれ…!
そしたらオータムが背を向けて飛んで行った。そして先生探知!スコールの手から3つのグレネードが。
そしてそのグレネードは真っ直ぐ俺の足元へ転がり、そしてーーーーー。
「鹿波さん!」
楯無の必死に焦ったような声が聞こえたとき、俺はとっさに頭を出来るだけ守ったまま。
意識を失った。
「…ここは」
知らない天井だ。いや知ってるけど。IS学園の保健室のベッドだろう。ここ、下手な病院よりも最新の設備揃ってるからな。本当に。
俺の全身には至るところに包帯がされていた。頭以外ほぼ全身。あー、グレネードってことは爆炎か。そうするとやけどかな。しばらく安静だねこりゃ。
そんな感じのことを考えていると、誰かが保健室のドアから入ってきた。
織斑先生だ。
「起きたか」
ええ、おかげさまで。あの後どうなったんです?
「あの後か。楯無が応戦していた両名ともに逃げられた。また、私が相手していたアリーシャ・ジョセスターフだが、しばらく追跡していたが途中から反応をロスト。おそらくは妨害電波かなにかによる細工だろう」
…逃げられましたか。
「ああ。また、捕らえた構成員から情報を聞き出しているが、何も重要な情報を知っている奴はいないようだ。おそらくは、使い捨ての人員だろう」
まったく頭が痛いことだ。
そう言って、俺のベッドの隣にある椅子に腰掛け、こちらを向く。あっはい。何でしょう。
「さて、お前には聞きたいことがある。
ーーー何故あの時、敵の人数とISの数が分かった?」
そう言って、嘘は許さんと言わんばかりの視線でこちらを睨み付けてくる織斑先生。うーん、どうしよう。
困った時の、アンサートーカー先生!
ここは正直に話すべきですか?最善の対処を教えてください!
答:NO
マジか。嘘つけと。誤魔化せと。…まあ、俺はアンサートーカー先生に全幅の信頼を置いている。やれと言われればやるまでよ!
と言う訳でアンサートーカー先生の指示する通りに対応することに。
「…そう、ですね。ちょっとばかし、荒唐無稽な話になるんですが。構いませんか?」
「構わん、話せ」
「では。…織斑先生。超能力、と言うのはご存知ですか。念動力とか、ああいうものです」
織斑先生が無言なので続ける。誤魔化しまくっているこっちは、心中冷や汗もんである。
「…僕のはあれの不完全な感じのものでしてね。自分の命に危機が発生した時のみ、自分の最善の対応が分かる時がある。と言うものです」
織斑先生が疑わしそうにこちらを見ている。うう、絶対疑ってるよ、これ…。
「…で、あの時は相手のうち、僕の命を脅かす可能性のある敵の数が十一。そしてそのうち、遠距離からの大型兵器の、つまり死にそうになる可能性の高い存在が3機でした。そのことから、敵の存在が分かったと言うことです」
そこまで言って、織斑先生を見る。織斑先生は目を閉じて、しばらくじっと考えていた。
そしてこちらを見て口を開く。
「…鹿波。本当のことを言え」
そして来るプレッシャー。だがしかし、先生の存在は更に上を行く。甘いぜ。
「…はあ。まったく…カマかけようったって無駄ですよ」
ちゃんと先生の指示通りに対処。わざとらしく呆れた物言いになったが、これが先生の指示なんだから多分大丈夫。
しばらくじっとこちらを疑わしそうに見ていたが、一つため息をついて織斑先生は立ち上がった。
「…ふん。まあいい。そういうことにしておいてやる。
…それと、お前の隣に置いてあるのは差し入れだ。後で礼を言っておけよ」
そう言って立ち去ろうとする
「じゃ、ありがとうございます」
「…ふん」
そう一つ返し、千冬は振り向くことなく保健室から出ていった。…相変わらず、男前ですなぁ…。
「どうだったかね」
「ええ、見事にすっとぼけられましたよ」
所変わって学園長室。そこの学園長が座るはずの豪奢な席には、初老の男性が顔の前で手を組んで座っていた。いわゆるゲンドウのポーズである。決してマダオではない。
正面に立つ千冬の顔を見る表情は穏やかで、安心感を感じさせる。
それとは対照的に、千冬の顔は険しい表情であった。
「しかし、今回の聞き取り調査の結果は…」
「ええ。国際IS委員会に提出します」
そう。今回の襲撃事件の結果は、国際IS委員会に提出することが求められていた。亡国機業と繋がっている可能性の高い、国際IS委員会に、である。
「…君の教えてくれた情報によれば、国際IS委員会は亡国機業と繋がっている、だったか」
「はい。情報源がアイツなので信頼は出来ませんが、情報の正確さは信用出来るかと」
「ふむ…」
轡木十蔵は知っている。世紀の天才、篠ノ之束。彼女の聡明さを。
そしてその彼女が自らの親友に嘘のデータを渡すーーーそうは考えられなかった。つまり、十中八九国際IS委員会と亡国機業は繋がっている。
そしてそのことを知っているからこそ、目の前の彼女ーーー織斑千冬は、彼ーーー鹿波室生の嘘を許容したのだろう。なにも、わざわざ敵に情報を与えることはない、と。
「しかし、彼が本当のことを言っているという可能性は…」
「ないですね」
きっぱり千冬は言い切った。全否定である。
「そんなに彼は分かりやすかったかい?」
「ええ。それなりに取り繕ってはいましたが、そもそもアイツは嘘をつくのが苦手です。そして普段からよく知っている私からすれば、まあ正直に言っている訳でないことくらいは分かります」
さすがに挙動不審になったり、視線があちこちさ迷うようなことはなかったが。少なくとも、彼をよく知る者からすればバレバレな程度の誤魔化しである。
まあ、それだけでなく世界最高レベルの勘の持ち主たる千冬からすれば、大概の誤魔化しは筒抜けになってしまうのだが。
「ふーむ…。いつか、君に彼が素直に明かしてくれる日が来れば良いねえ…」
そう言った轡木に対し、千冬はふっ、と軽く笑ってこう言った。
「さあ、どうですかね」
その表情は、いつもと変わらぬ不敵さに溢れていた。
鹿波さんは隠し事が出来ないタイプ