とあるIS学園の整備員さん   作:逸般ピーポー

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ボルダリングデートとかいう謎の単語が脳裏に浮かんだので書いた。反省も後悔もしていないが、たっちゃんが可愛く描けているかどうかだけが心配だ


【閑話】たっちゃんとデート

たっちゃんのISが完成した後、たっちゃんからデートのお誘いがあった。

 

「鹿波さん、明後日私とデートしない?私に付いてきてくれるだけでいいから♪」

 

後ろで手を組みながらたっちゃんは笑顔で聞いてきた。にぱー♪という音が聞こえてきそうな、満面の笑み。

ふむ。どうするか。

ここで俺が教師であれば、不純異性交遊云々以前にアウトだろうが、あいにく俺は教師じゃないので大丈夫、なのだが。

うーん、どうしよう?

よし、困った時にはアンサートーカーで確認だ!

 

問:このお誘いには乗った方が良い?

答:(話の盛り上がり的に)YES

 

ふむ。答はYESか。なんか珍しく答が出るまでに若干の時間があった気がするが、まあ気のせいだろう。

では。

 

「いいよ。デートコースは任せていいのか?」

 

「うん!私に任せて!」

 

やったー!なんて言いながらぴょんと飛び上がるたっちゃん。>▽<←こんな顔をしながら両手をグーにして突き上げながら、空中で女の子座りみたいに足を曲げている。器用やね。

 

じゃあ明後日迎えに行くからー!と言って、たっちゃんは嵐のように去っていった。うむ。あんなかわいい美少女とデート…。ドキがムネムネするね!ちゃうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デートの日の朝。待ち合わせした場所に行くとたっちゃんはすでに待っていた。まだ時間まで15分以上あるんだけど。早くない?いやマジで。

そんな俺に気付いたのか、たっちゃんがやっほー!と言いながら手をぶんぶんと大きく振って、こちらを呼んでいる。はいはい、今行きますよー。

今日のたっちゃんはカジュアルな私服姿だった。大きな襟がパリッと立った黒の長袖カッターシャツの胸元のボタンを一つ外し、オレンジのベストっぽいのをその上に着ている。なぜベストっぽいのなのかと言うと、真ん中はボタンで止められているベストの形なのだが。両手を突っ込むことのできるポケットが、こう…八の字についているのだ。あ、とあるの絹旗最愛のパーカーからフード抜いたらこんな感じやな。たしか。

下は濃紺のスキニージーンズ。足元は黒の○ンバースのスニーカー。うーんたっちゃん俺の好みわかってるね!

元々のたっちゃんのスタイルの良さも相まって、一見アイドルのような可愛さである。この子お持ち帰りしたい。だめ?だめか。

 

ちなみに俺はクリーム色のチノパンに灰色の長袖インナー。その上に淡い青の襟つきシャツです。なに?分かりにくい?シュタゲのオカリンから白衣をとってクラ○ドの大人ともや君のシャツを着せれば分かる。逆に分かりにくいか。

 

「おっそーい!」

 

笑って冗談みたいに言うたっちゃん。おう、某駆逐艦みたいなこと言うな。まだ時間に余裕あるやろ。許してや。

 

「で、どこ行くの」

 

「その前に!運動の出来る服とタオル、シューズはちゃんと持ってきてくれた?」

 

「おう」

 

そう。俺は今日、運動セットを一通り持ってきていた。これは楯無からあらかじめ言われていたものだ。ちなみに俺はちょくちょく温水プールのトレーニング室で軽い筋トレをしてから泳いでいたりする。たまにだけど。

そんな理由で運動用のTシャツやジャージ、シューズは普通にある。てかこの子、俺が持ってなかったらどうするつもりだったんだろ。レンタル?

 

「じゃ、いこっか!」

 

そう言ってニッコリ笑ったまま歩き出す楯無に付いて行く。うん、良い笑顔だ。

最近はだいぶ以前のように明るさを取り戻してきたが、以前はけっこうひどい有り様だった。なんというか、自分の表情を上手く表現出来ないような、そんな顔をよくしてた。今はだいぶ落ち着いてきたから、まあこれからしばらくすればまた元々のたっちゃんのように、明るく表情豊かなたっちゃんに戻るだろう。

 

さて、歩いておよそ15分。とりとめもない話をしながらやって来たのは、会員制のスポーツクラブ。なになに…。男性一時間10,000円、女性一時間8,000円…。うへ、俺には普段縁のない高級スポーツクラブじゃないの。でもこの女尊男卑が加速している世の中でこの程度の値段差となると、相当頑張ってるな。普通に男性は女性の5倍の値段のカラオケとかあるからね。たしかね。

ちなみにレディースデイとか言うのになると、女性は一時間無料とかザラで男性は普通料金である。その普通料金が高いんだから話にならんっつーの。そして経営破綻するんですね、分かりますん。

 

楯無はその高級スポーツクラブになんのためらいもなく入って行く。うん、こいつ多分常連さんだわ。俺も続いて中に入る。お邪魔しまーす。

 

店内に入ると右隣に受付が。そして受付の端からは土足厳禁なようで、床が一段高くなっている。床は緑色のなんかざらざらしたやつ。正面左手には靴箱が。キーロックできるタイプのが30くらいかな?ちなみに今、キーロックがローキックに見えた人。あなた憑かれてるのよ。俺です。

たっちゃんが受付の人に名前を告げると、受付の人は受付奥のスタッフルームみたいなところへダッシュして行った。とりあえずたっちゃんにこっそりと話かける。

 

「ここ、後払いでいいの?」

 

「ん?今日は私のワガママに付き合ってもらうんだし、私が出すわよ?」

 

「いや、男としても年上としてもそれはさすがにな?」

 

「んー、でもさすがに今日は困るというか…。うん、じゃあ次のデートの時にお願いするわ!」

 

「いや、次にデートする時があるかどうかがまずわかんないじゃん」

 

「いいの!て言うか今日は私に払わせてもらわないと困るの!だから今回はお願い!」

 

「…まあ、そこまで言うなら」

 

本当に本当にこういうのは俺は凄く物凄く嫌なのだが(自分の分は自分で払いたい)。楯無がどーしても、と言ってこちらに手を合わせてお願いしてきたので、今回は諦めることにする。…後でこっそりとこいつの財布に自分の分の料金を入れておいてやろうかしらん。一瞬そう思った。

 

さて、スタッフルームからなんかトレーナーのリーダーみたいな人が出てきて俺達は店の奥へ案内された。あ、ちゃんと靴は脱ぎました。脱ぎ脱ぎ。

そして案内されるままに付いていくと、そこにはちょっと奥まった場所にある、さっきまでの一般向けのスペースよりも明らかにしっかりとした設備があった。これっていわゆるVIP用じゃないのかな楯無さん。ねえ。

 

更衣室はこちらに、またシャワーは更衣室の奥にございますので、と言う説明をした後、リーダーらしきお兄さんはVIPな方のトレーニングルームに戻っていった。

たっちゃん、ぼくまだ何するのか聞いてないねんけど。ねえ。

 

「じゃあ着替えてまたここで落ち合いましょ。鹿波さんはあっちね。あ、覗いちゃダ・メ・よ?」

 

そう言ってパチン、とウインクしてたっちゃんは女性用更衣室に入っていった。うむ。俺も着替えてくるとしよう。

え?なに?覗かないのかって?

だってダメって言われたやん。て言うか普通に他の人の目があるところで覗きとかアカンやろ。現実は二次元ほど甘くないんや。たっちゃんを覗きに行ったら捕まるに決まってるやろ。当たり前です。誘い受け?知らんな。

 

あ、コインロッカーじゃない。普通にただのロッカーだ。ちゃんと鍵かかるやつ。あ、これディンプルキーやん!しかも使いやすい上に大きめ。さすがVIP。ネットのVIPではない。俺達VIPPER!嘘です。

ぱぱっと着替えてシューズの紐をしっかり結び、更衣室前でたっちゃんを待つ。

 

「お待たせー♪」

 

そう言って出てきたたっちゃん。上は赤紫がかった茶色の、つまり普段履いているパンティーストッキングと同じ色のスポーツウェア?かな?ほら、ヨガとかフィットネスで使われるやつ。一瞬スポーツブラかと思ったとは言えない…!

それにしても、おっぱいでかいね(直球)

うん、すごく…大きいです…。しかもきれいな形してる。まあ俺としてはおっぱいよりも、その健康的な色気というか色香にもうやられてます。すべすべの瑞々しさを感じさせる健康的な肌。うむ。たまらん。

下は黒のハーフスパッツ。あ、両横に腰から真下に蛍光緑のラインが入ってる。白地に青いミ○ノマークのシューズ。決まってますね。しかしカモシカのようなしなやかさを感じさせるかわいらしい脚である。触りたいはあはあ。嘘です。いや嘘じゃないけど。さすがにそんなに興奮してません。触りたいけど。重要なことなので(ry

 

俺?下は黒の無地のジャージ。上は白地に胸元にダンロップのロゴが入った半袖。運動用のやつ。以上。靴?普遍的なただの体育館シューズやで。黄色いやつ。

 

さて、さっきのお兄さんの元へ。今日は何をするんですかー!

 

「こちらです」

 

そう言ってお兄さんが手で示す先には、3つほど並んだボルダリングのあれが。何?ボルダリングがわからん?

いくつもある突起に足をかけたり手で握ったりして、ぐいぐい上に登ってくやつ。詳しくはググれ。

一番左は突起がいくつもあり、こちら側への勾配も一番緩い。ほとんど真上に登るようなもんである。あれなら行けそう。初心者用だろうか。

真ん中は少し突起が減り、形も握りにくくなっているみたいだ。また、こちら側への勾配は割ときつくなっており、ちょっと大変そう。俺は多分あれくらいがちょうど良さげかな。中級者用?

一番右のは明らかに上級者用だ。勾配はきつい!突起は少ない!しかも突起は小さい!あんなん出来るの?ってなもんである。はっ!まさかたっちゃん、あれやるのか…?

 

とりあえずお兄さんの説明を聞く。基本は普通にボルダリングである。ただ、安全のため腰から股を通して両腿を器具に固定。それが天井のやつにつながっているらしい。ふむ。つまり一番上まで登ったら飛び降りればゆっくり地上に降りられるようになってるんやね。納得。なんかテレビのアトラクションものでありそう。嵐?何かなそれは(すっとぼけ)

さて、固定具をまずは腰に回す。お相撲さんのふんどしのようなやつだったらあれが痛くなるので嫌だったが、右腿、左腿を固定し、最後に腰の部分をカチン!とはめる。あ、この黒いプラスチックの固定具ってあれよね。ウエストポーチによくあるやつ。

 

さて、たっちゃんは中級者用。俺は初めてのボルダリングということで初心者用だ。ただ、毎日のように重い機械(IS)の整備をし、基本的に毎日自重トレをしている俺である。いけるやろ(慢心)。

なお、自重トレーニングの内容は毎日腕立て伏せ10回、腹筋10回、スクワット10回です。しょっぼ。

 

さて、トレーナーのお兄さんに重心の移動やらコツを聞いてからスタート。あら、案外楽勝?いやいや、油断は禁物。そんなことを思いながら念のためゆっくりやるも、あっという間に終わってしまった。接待用かな?

 

一番上まで来たので、蹴ってゆっくりと地上に降りる。あ、これ最後の降りるやつ楽しい。

地上に降りてきたらお兄さんに褒められた。

 

「身軽ですね!何か運動されてます?」

 

「ええ、軽くですが一応」

 

「そうでしたか!それなら隣に移っても良さそうですね!どうされます?」

 

そう聞かれたのでやることに。や、俺負けず嫌いやし。たっちゃん、つまり年下の女の子が中級者用なのに俺が初心者用で終わるとか認められない。あと待ってる間が

暇。

 

なのでたっちゃんがやっている少し隣から登ってみることに。

む、さっきよりも傾斜のキツさがこれは腕に来そうですね。

多分上を見上げればたっちゃんの可愛らしお尻とおみ足が素晴らしい角度から見えるんだろうが、俺の分身が大きくなってしまいかねないので見ない。こういう場にエロを持ち込むのは俺のポリシーに反する…!ちなみに写真を撮って後で興奮するのはセーフだと思っている。ま、多少はね?

 

そんなわけで、さっきよりもキツさが段違いな所を登っていく。あ、たっちゃん終わった。たっちゃんが降りながら俺に手を振ってくれている。ちょっと舌をペロッとしてるの可愛い。

それにしてもたっちゃん早いな。やっぱり慣れか?とりあえず、足を踏み外さないこと、壁にぴったり体を張り付けること、重心の移動を意識しながら登っていく。ああ、たっちゃんを待たせてしまっている。ちっきしょ。

 

ようやくの思いで登りきり、壁を蹴ってゆっくりと降下。お待たせー。

 

「初めてでこっち(中級者コース)登れるなんて!鹿波さんすごい!」

 

そう言いながらわー!と手を軽くパチパチしてるたっちゃん。や、待たせちゃってゴメンね。

 

隣にいるトレーナーのお兄さんも褒めてくれた。いわく、初めてで中級者コースを最後まで登りきれるのは凄いですよ、と。いやあ、照れるぜ。

 

さて、良い汗をかいたのでこれにて終了。元々たっちゃんは月に一回くらいここにきてボルダリングをしてるらしい。今日は元々来る予定だったらしい。それってデートっていうか?まあ見方によれば体育会系デートだが。

ボウリングも卓球もバスケもバッティングセンターも大好きです。ぜひ次があれば呼んでね。

 

さて、更衣室にお互い戻り、シャワーを浴びてさっぱり。あ、シャワーは温水シャワーでした。やっぱりシャワーは温水に限る。冷水シャワーとか苦行すぎる。なるほど、大きいタオルはこのために必要だったのね。バスタオルでも良いくらいですな。これ。

 

さて、たっちゃんがカードで支払いを済ませ外へ。お次は?て言うかそろそろご飯に良い時間やね。

 

と言うわけでたっちゃんとお昼を共にする。うむ、満足。え?描写?うーん。

パスタを美味しそうに食べるたっちゃんは可愛かったです。まる。

 

 

そしてその後、どこへ行くのか聞いた。

 

「うん、あと一ヶ所だけ付いてきてほしい所があるの。一緒に来てくれる?」

 

そう言ってこちらをのぞきこみながら上目遣いで尋ねてくるたっちゃん。

 

そう、この時の俺は油断していた。体を使って心地よい疲労感。そして美味しいご飯による満腹感。いつもならオーケーを出す前に行き先をちゃんと確認するのに、この時は先にオーケーを出してしまったのだ。

 

「いいよ。どこ行くの?」

 

「じゃ、私の家行きましょうか!」

 

そう言って、良かったー!なんて笑顔で両手を合わせているたっちゃん。えっ?

 

「じゃ、行きましょ♪」

 

待って。ねえ。ちょっと待って。たっちゃんのお家?それって対暗部用暗部とかいう物騒なお家よね?マジで言ってんの?ねえ?

 

「さっきいいよって言ってくれたじゃない。ダメなの?」

 

ぐっ。それを言われるとつらい。俺も男だ。武士に二言はない!くそっ、腹くくるか…。

そして俺はご機嫌なたっちゃんに連れられて、更識家にお邪魔することになった。

あ、たっちゃんのお手てはあったかくてやーらかかったです。いえい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって更識家。つまりたっちゃん家。今俺は、お座敷の大広間みたいなところでたっちゃんのお父さんらしき人物と正座で向かい合っていた。どうしてこうなった。

 

たっちゃんに連れられて、更識家にお邪魔した俺。たっちゃんにとっては実家だが。

そして俺はたっちゃんに手を握られたまま、この大広間みたいなところに連れていかれた。

 

更識家は純和風のお屋敷で、二階のある大きな一軒家のような感じである。ただ敷地が広くて、塀が敷地をずっと囲っており、日本庭園もあった。なんだか忍者屋敷みたいだな。暗部だから間違ってないか。

 

家に入ってからもたっちゃんは俺の手を握り、襖をどんどん開けて奥へ進んでいく。あ、今なんか台所みたいなのが見えた。あれはたっちゃんのお母さんかな?顔が良く似てたし。

挨拶もろくにさせてもらえないまま俺は大広間に連れていかれ、あれよあれよという間にこのたっちゃんのお父さんらしき男性の目の前に。そして挨拶をしたのに無視された。ずっと目をつぶってるし。ダンゾウかよ。

たっちゃんはお母さんらしき人の手伝いに行った。誰かたすてけ。いやふざけないとやってられないんだよ、ほんとに。

 

「…」

 

「…」

 

お互い無言で時がすぎる。…空気が、重いっ…!

この静寂を破ったのは目の前の男性だった。もう面倒くさいんでおっさんでいいか。

 

「…娘とは、どういう関係で?」

 

重々しく尋ねてくるおっさん。ちなみにこのおっさん、左足は膝くらいまでしかなく、左腕に至っては肩のちょっと先くらいから先が無い。しかしそんなん関係ねえと言わんばかりの重圧(プレッシャー)

どういう関係も何も、整備員なんですが。

 

「…ただの整備員です」

 

そう答えると、おっさんはわずかにピクリと片眉が動いた。しかし何も言わない。しばらくの静寂。

 

「…娘とは、どういう関係で?」

 

再び同じ質問をしてくるおっさん。聞いてなかったんか?ん?それともボケてるの?わざとのボケならともかく、マジもんのボケなら病院に行くことをおすすめするぞ。

 

「…整備員です。まあ、彼女のIS作りを手伝いはしましたが」

 

そう言うと、今度は両目をゆっくりと開いてこちらをじっと見つめてきた。おうなんやねん。

 

「…虚からは、基本的に一人で作ったと聞いている。

今の言葉、間違いはないな?」

 

そう言ってこちらをねめつけてくるおっさん。いや、わし嘘ついとらんし。

そう思いながら頷いて返す。

 

「ええ」

 

そう言うと、おっさんは大きな声でたっちゃんを呼んだ。

 

「楯無!ちょっと来なさい!」

 

「はーい」

 

そんなのんびりとした返事が聞こえてからしばらく。たっちゃんが戻ってきた。その手には何かが載っているお盆が。

たっちゃんは俺とおっさんの間、俺から見て右側にお盆を置いておっさんに尋ねる。あ、梨だ。もーらお。

 

「どうしたの?」

 

「楯無。お前、自分のISは自分一人で作ったんだったな?」

 

「そうよ?鹿波さんにはだいぶ手伝ってもらったけど。…あ。お父さん、鹿波さんに迷惑かけちゃ駄目よ?」

 

そう言ってたっちゃんは戻っていった。残されたおっさんと俺の間に微妙な空気が流れる。俺はそんな事は関係ないとばかりに梨をしゃりしゃり食べる。うまい。けっこう大きなお皿の上に、これでもか!と乗っていたので更におひとつ頂いた。これうまいね。みずみずしい。

 

「…非礼を詫びよう」

 

そう言うおっさん。しかし頭を下げる気配はない。なので俺も何も言わない。そもそも俺が下手に出る必要はないし。元々俺はたっちゃんーーー現当主に連れられて来たお客人なのだ。挨拶したのに無視されたことを、俺はまだ根に持っている。挨拶がまともに出来ない人間にまともなやつはいないと俺は思っている。だから何も言わないし頭も下げないし下手にも出ない。ふざけろである。

 

「…それと、先程は挨拶を返さず、失礼した。

よくぞ、いらっしゃった」

 

そう言って握った手を畳につき、ゆっくりと、しかし深々と頭を下げるおっさん。ほう。既に隠居したらしい先代とは言え、歴代当主が一般人に頭を下げるか。仕方があるまい。許す。

俺も膝に手をつき一礼。俺が床に手をつく必要はない。そして顔を上げ、返す。

 

「お邪魔しています」

 

そう言うと、目の前のおっさんはうむ。と言ってゆっくりと頷き、目を閉じた。おねむかな。

 

「…さて。名前を伺っても」

 

「鹿波、と申します」

 

名前を尋ねられたので普通に答える。おっさんの名前?知らんな。聞くつもりも別にない。おっさんでええやろ(適当)。

 

「ふむ。では鹿波殿。貴殿にお聞きしたい。」

 

「はて。なんでしょう」

 

「娘ーーー刀奈のことだ」

 

たっちゃんのこと?俺よりよほどおっさんの方が詳しいやろ。今娘っていったし。このおっさんがたっちゃんのお父さんだと確定した。いやさっきたっちゃんが言ってたか。うっかり。てへぺろ。

 

「私はな。娘が二人生まれた時点で、私が更識家最後の当主になる覚悟でいた」

 

とりあえず黙って聞く。梨も我慢。ちっ。

 

「だが、私が隠居すると言ったら、刀奈の奴は私が継ぐと言って聞かなくてな。

…鹿波殿。貴殿なら、どうする」

 

「はっ倒しますね」

 

間髪入れずにそう言うと、おっさんは驚いたように目をぱちくりしていた。

 

「はっ倒す」

 

「はっ倒します」

 

そんなとんきょうな声で聞かれても、俺の答えは変わりません。

 

「…なぜ、と聞いても?」

 

身を乗り出して聞いてきたので、素直に答えることにする。

 

「だって、暗部としての暗い部分ーーーまあ闇の部分ですが。これを知らない時に継ぐ、と言い出したわけでしょう?継ぐことの大変さも、つらさも、そして覚悟も。全然知らないままでそんな事言い出したらはっ倒してでも止めますよ。

例えば継がざるを得なかったなら分かります。もしくは、仕事の様を見てきて、それでもなお継ぐと言うなら分かります。ですが、そう言った事を知らないままに継ぐ、なんて。私ならはっ倒してでも止めますよ。

なにも自分から家に縛られ、家に苦しむ必要はありますまい…。

親なら、我が子が悪い方に進もうとするのを止めようとする、その気持ちは私以上にお分かりでしょう」

 

そう言うとおっさんは黙って目を瞑り、まっすぐに座り直した。

 

「…ふーむ。はっ倒してでも止める。か」

 

「ええ」

 

とは言うものの、俺は現場を見てきたわけじゃない。実際にできるかどうかは別としてーーー。俺は、暗部としての更識家を、女の娘さん達の幸せを犠牲にしてまで守るべきだとは、とうてい思わない。あ、そう言えば紅にこんな話あったな。真九郎君かっこよかった。

 

「…家に縛られる、と言うのは」

 

「はい。あくまでこれは私見ですが」

 

そう前置きして、言う。

 

「この家にはおそらくかなりの歴史があると思います。しかし、その重みを背負う必要はないかと。

また、この家の当主になるのであれば、恐らく自由な恋愛も結婚も。難しいのではないですか」

 

「…そうだな」

 

「それが、私の言う『家に縛られる』と言うことです」

 

「…ふむ。そうか。いや、そうか…」

 

 

それからしばらくは学校でのたっちゃんの様子などを軽く話した。そしておっさんは黙ってしまった。

…帰っていいかな。

そう思ったタイミングで再びたっちゃんを呼んだおっさん。そして俺の方をちらりと見る。オーケー、頑張れよおっさん。うむ。

 

俺はひとつ頷いて席を外し、アンサートーカーで帰っていいかを確認した。

そして俺は、たっちゃんのお母さんらしき人に礼を言い家に帰った。

 

 

さて、幸せになれよたっちゃん。多分更識の家を、その呪縛を。あのおっさんは幕にするつもりだろうから。




ちなみにこのおっさん、たっちゃんがかなみんのことを好きなことを見抜いてます。そのお話もまたどこかでやりたいけどなー。できるかなー。

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