とあるIS学園の整備員さん   作:逸般ピーポー

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何か面白い小説がないかと思ってランキング見てたらさっき日間ランキング5位に載っていた。意味がわからない。嬉しい。ありがとう。
でも私は細々とひっそりと、コアでマニアックな人達とちまちまやっていきたいので、このままユニークアクセスとかいうのが全然伸びないままでお願いします。切に!


簪の記憶2

お父さんが復帰した。とは言っても相変わらず身体は不自由なままだから、前のように動くことは出来ないけど。

それに伴って、お姉ちゃんがIS学園に戻って行った。正直自分でも意外なほどにほっとしてる。

今までのお姉ちゃんが、実は凄く私を大切に思ってくれてたんだと思った。はっきりいって、今のお姉ちゃんは怖い。なんか不自然な笑顔を張りつけて他の人に対応している所を見たときに、すごくそう思った。私や本音ちゃん、お父さんやお母さんくらいしか気付けないくらいそれっぽい笑顔だったけど。あの時のお姉ちゃんは、無表情だった頃よりも怖かった。

 

私は私で、日本の代表候補生になったため忙しくなっていた。倉持技術研究所、という所が私の専用機を用意することになったらしい。らしい、というのはまだ計画(プロジェクト)が発足したばかりで、作りはじめたばかりだということだ。一応基本的には打鉄をベースとした、重装甲かつ扱いやすい機体を設計しているらしい。ほんのちょっぴりとはいえ、お姉ちゃんに近付けたみたいで嬉しくなった。今のお姉ちゃんは怖いけど。

 

お姉ちゃんがIS学園に戻ってしばらく。たまに家に帰ってくるお姉ちゃんが、前の明るさを取り戻しはじめた。前は完全に無表情が基本で、他の人に応対するときは張りつけた笑みをたたえていたけど、最近はちょっとずつ前の表情豊かなお姉ちゃんに戻ってきたみたい。まだ他の人に対して警戒心はあるみたいだけど、一体お姉ちゃんが仕事をしていた時期に何があったんだろう。まあ、お姉ちゃんが前みたいに明るくなってくれるのは良いことだ。

そう言えば、お姉ちゃんがロシア代表になっていたこと、自力でISを作っているらしいことを虚さんから聞いた。ああ、またお姉ちゃんに差を付けられた。せっかく代表候補生になって、少しは追い付けたと思ったのに。

 

 

ある日、家に帰ってきたお姉ちゃんが遊びに行った。お姉ちゃんが珍しく上機嫌だったのを覚えている。お姉ちゃんは

「デートよ!」

と言っていたけど、誰と行くのかは教えてくれなかった。IS学園に同年代の男の子なんていないはずなんだけど、どうやって知り合ったんだろう。

そう思っていたら、虚さんが教えてくれた。なんでも相手は鹿波さん、と言うらしい。

どんな人なのか聞くと、とてもお世話になっている人だそう。うーん、そういうことが聞きたいんじゃないんだけどな。

 

 

4月。私はIS学園に入学した。入学式で見たお姉ちゃんは、また昔みたいに茶目っ気たっぷりに戻っていた。壇上での挨拶の終わりに、私を見てウインクしてきた。無視した。涙目になっていた。無視した。

お姉ちゃんはとぼとぼと戻っていった。

私の後ろがざわざわしてる。私は目立ちたくないんだからやめて欲しい。

入学してしばらく。倉持技研から連絡がきた。なんでも織斑一夏君のISを作らないといけなくなったらしい。うん、それはいい。でも、そのせいで私の専用機を無期限凍結するのはやめてほしい。せめて他の企業に外注すればいいじゃん。

担当の人は本当にすまなさそうにペコペコしてきたけど、それで何が出来る訳でもない。どうして他の企業に依託しないのか聞いたら、上層部が聞かないんだそう。開発する利権が手放せないんだろう、ということをこっそりと教えてくれた。それと、計画は無期限凍結されたけど、作りかけのISとISコアを確保してくれた。手伝ってあげることは出来ないけど、自分で開発することと、それにかかった部品代とかは持ってくれるらしい。上層部はそこまですることはない、と突っぱねようとしたらしいけど、開発の人達が無理やり話をつけてきたらしい。そんな不義理なことはできない、と。この話が通らなかったら開発チームが全員辞める、という所まで来ていたらしい。上層部には腹が立つけど、開発の人達には助けられたんだ。そう思って、開発の人達にお礼を言い、連絡先を交換した。なかなか時間がとれないけど、わからないことがあれば何でも聞いてくれ。とか、友達と一緒に、頑張って作ってね!何もしてあげられなくてごめんね。という、温かい言葉をもらった。

 

それ以来、私は一人でISを組み立て始めた。うん。IS学園に入学しても、私には友達作りは無理だったよ…。

本音ちゃんとも別々のクラスになっちゃったし、相も変わらずクラスでは孤立。

でも、お姉ちゃんも一人でISを作ったって聞くし、私も負けていられない。たまにISを組み立てている時に、お姉ちゃんらしき視線を感じるけど、やっぱり話かけられることはなかった。もう。本当にお姉ちゃん臆病すぎ。

他の人とはすぐに仲良くなれるのに、なんで私にはこんなにもなかなか来ないんだろう。

 

はっ。まさか。

 

私、お姉ちゃんに避けられてる…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時鹿波さんに会った。鹿波さんはIS整備庫の責任者らしく、私がISを組み立てる時にはよく姿を見かける。今までは大体3時過ぎから何事かしていたらしく、最近はそれが終わったから普通に仕事場たるここにいるらしい。最初は挨拶をするだけの間柄だった。

でも、私がプログラム部分でうんうん言って、どうしても詰まってしまった時。もしかして分かるかなー、と思って聞いてみたら、とても分かりやすく説明してくれた。

それからは、ポツリポツリと話をするようになり、ある時鹿波さんに叱られた。

叱られたと言っても怒られた訳じゃなくて、どちらかと言うと諭されるような感じだった。

いわく、私がISを道具としてしか見ていない、と。

確かにそれまでの私は、組み立てているISに関心を向けてこなかった。お姉ちゃんを見返すための、悪い言い方をすれば道具だとしか見てこなかった。でもISにはISの、意識とも呼べるものがあるんだから、大切にしてあげてほしい。そんなことを言われた。

 

そうだ。私はこれから、このISと共に空を飛んだり、銃を撃ったりすることになるんだろう。それはつまり、私の相棒になるということだ。

それなのに、私はあくまでもただの道具としてしか見てこなかった。さすがにそれはあんまりだ。

そう思った。

 

それ以来、鹿波さんとはちょくちょく話をするようになった。

 

 

ある時、鹿波さんに言われた。

相変わらず、お姉ちゃんとは仲直りできてないの?

 

ドキッとした。どうして鹿波さんがお姉ちゃんとのことを?

そう言うと、鹿波さんは教えてくれた。

 

いわく、たっちゃんーーーお姉ちゃんのことだーーーが一年生の頃から簪ちゃんと仲直りしたいという話を聞いていてね。カードゲームにも付き合ったし、今も簪ちゃんと仲直りしたそうにしてるのは知ってるんだけどさ。

ほら、たっちゃんって、実は凄く臆病なところあるでしょ?

 

そう言われて思わず深く頷いた。お姉ちゃんは私に対してだけ、もの凄く臆病なのだ。

 

で、多分このまま待っててもたっちゃんずーっと、ずぅぅぅぅーーーーーっと言い出せないと思うんだ。

 

そう言われたところで首をかしげる。さすがにそこまでひどくないんじゃないかな?

 

よし、じゃあ今までたっちゃんが仲直りしようとして出来なかったのはいつからか思い出してみて?

 

そう言われて思い出してみる。たしか私がお姉ちゃんを避け始めたのは小学校の頃で、それからずーっとお姉ちゃんは柱の影からひょっこり顔を出してこっちを見つめてくるだけだったからーーー。

5、5年か6年くらい…。うわぁ。

 

…たっちゃんが勇気を出して、簪ちゃんに話かけてくると思う?

 

ないな。うん。ない。ないです。だって5年も6年も待っているのに、一度も私にまっすぐ仲直りの話をしに来たことないもん。

 

うん。でもさ、元々たっちゃんは簪ちゃんに、何かしたのかな?

 

それは…。

 

うん、でしょ?多分たっちゃんは簪ちゃんが大好きで大好きで大好き過ぎて、簪ちゃんにこれ以上に嫌われることを過剰に恐れているんだと思う。だって、こんなに好きなのにいつの間にか避けられてるんだから。

だから、簪ちゃんから歩み寄ってあげたらどうかな?

 

私、から…?

 

まあ無理にとは言わないよ。だけど、たっちゃんがどんな思いで頑張ってきたのか、わかってあげてほしいんだ。

 

 

そう言われてから、お姉ちゃんの気持ちを考えてみた。

小さい頃はいつも私のそばにいて、いつも助けてくれた。

私が頑張っていて、周りの皆が私に失望して離れて行っても、お姉ちゃんはいつも私を応援してくれた。

私がお姉ちゃんを避けだしても、私のことをいつも気にかけてくれた。

 

そう考えていくと、私がひどくちっぽけなことで意固地になっていたんだと気付いた。

お姉ちゃんがいつも私を気にしてくれるのが当たり前で、自分からお姉ちゃんに歩み寄るなんて考えもしなかった。

お姉ちゃんがカードゲームで私と仲直りしようとしてた時だって、お姉ちゃんから話かけてきたら仲直りしようかな、なんて。なんてひどく傲慢だったんだろう。仲直りも何も、私が勝手にお姉ちゃんを避けて、意地になって張り合って。それで私が自分の結果に勝手にすねて、ますますお姉ちゃんのことを嫌いになる、なんてーーー。

 

 

 

 

私は思った。お姉ちゃんごめん。妹は謝りに行きます。

 

そして気付いた時には、お姉ちゃんを探して校内を駆け回っていた。よく知らない二年生の先輩に話かけ、お姉ちゃんがいるらしき生徒会室に急いで駆ける。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!」

 

勢いよく木製の扉を開けて、生徒会室に駆け込んだ私が見た姉の顔は。ひどく驚いて、真顔のまま固まっていた。

 

「お姉ちゃんごめん!」

 

そう言って私はお姉ちゃんに、思いっきり抱き付いた。

私はお姉ちゃんの温かさを感じながら、これまでひどいことをしてきたこと。私が勝手にお姉ちゃんを避けていたこと。全部全部、涙ながらに謝った。ごめんねと。私はひどい妹だったねと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんは、私の背中を優しくさすりながら、いつまでも抱き締めてくれた。




たっちゃんとのデート回を入れるかどうか、それが問題だ

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