とあるIS学園の整備員さん   作:逸般ピーポー

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ドイツの子と守護霊の導き3

今日もラウラのいる保健室に足を運ぶ。

最近はここで過ごす、穏やかな日常が気に入っている。

今日もベッドの側に行き、椅子に座りながら声をかける。

 

「よう」

 

「ああ」

 

 

あれ以来、ラウラは俺が声をかけると反応を返すようになった。以前よりも顔に生気も戻り、能面のようだった無表情は、穏やかな顔をすることが多くなった。

今日もまた本を読み、ゆったりとした時間が過ぎる。

それじゃあ、と声をかければ、ああ。というソプラノの澄んだ声が返ってくる。

今日もまた、いい時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も声をかける。いつものようによう。とか、おう。とか。そんな適当な挨拶。

ただ、その日はいつものように読書、とはならなかった。その日は声をかけてからずっと、ラウラがこちらを見ていた。

 

 

「…どうした」

 

思わず声をかける。

だが、返事はない。

 

しかし、その顔は何かを言おうとしているように見えたので、何も言わずにただ待つことに。

1分、2分…。

 

ただ過ぎ行く時間の中で、これ俺じゃなかったら相当失礼だよな、なんて思いながら待っていた。

そうしてしばらく、ラウラが口を開く。

 

 

「お前は、何のために生きている…?」

 

思わず眉が上がる。それは俺が関わり始めてから初めての、明確な疑問を聞かれたからだ。

 

 

しかし、これはまた。

 

「…難しい質問だな」

 

何のために、か。

 

 

はてさて、前世の小学生の頃に悩んで以来、全く考えることのなくなった内容だ。

つまり俺にとってはもはや意味のない問いであり、既に終わった(・・・・)質問である。

だか、目の前にいるこいつにとっては重要で大切なことなんだろう。

それゆえ、答えるのが難しい。あっさりと切り捨てたいが、しかし。

そうだな…。

 

 

「お前は、何のために生きていると思う」

 

 

面倒くさくなったんで丸投げ。オウム返しに質問を返す。

 

何かのために生きているなら、その何かが終わってしまえば残りの人生に意味が無くなってしまうだろう。

だが俺は、そんなわけはないと、幼い子供の時に既に思っていた。あるいは、そんなわけはないと信じたかったのかもしれない。

 

ゆえに、生きる目的などないと。

死んだときにようやく生きた意味があるのだと。

 

俺はそう思って生きてきた。

そしてその想いは、二度目の人生でも変わらない。

 

もしくは、これから先には変わることが、あるのかもしれない。

それならそれでいいと、そう思っている。

 

 

「私は…」

 

そう言ったきり、ラウラはうつむいて黙ってしまった。その小さな両手はシーツを力いっぱい握っており、シーツにシワを作っていた。

 

 

 

「お前は、何のために生きるのか、という目的が欲しいのか」

 

 

 

一つ、言葉を投げ掛ける。その目的が欲しいのならばくれてやろう。そんな気持ちで。

目的のためになど生きてはほしくないと、そう願いながら。

 

 

 

「私、は…」

 

 

待つ。じっと。

なんとなく、そうせねばならない気がした。

 

そよ風が優しくカーテンを揺らす。

窓から入る日の光は、彼女を励ましているようだった。

 

 

 

「ラウラ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 

 

ラウラが顔を上げてこちらを見る。

その顔はまるで、泣き出してしまう寸前に見えて。

 

 

そんな顔をされたら仕方ない。

なので俺は、優しく彼女の頭をそっと撫でた。そのとたん、涙腺の防波堤が決壊したのか。彼女は泣き出してしまった。

 

小さな体躯の彼女を優しく抱き寄せ、ゆっくり背中をなでさする。

俺は、落ち着くまで彼女を抱きしめながら、

 

 

 

『24歳男性職員が女子生徒に性的な行為を働いたため、警察は男性職員を逮捕。男性職員は容疑を認めているということです。』

 

 

 

という、ニュースでながれそうな女性アナウンサーの声を、脳裏に思い描いていた。

ふざけてないとやってられない性格なんです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラが落ち着いた頃を見計らい、スポーツタオルを渡す。

その目もとは腫れぼったくなっていて、ひどくぐちゃぐちゃであったが、どこか一種、吹っ切れたような雰囲気と、美しさがあった。

 

「す、すまない」

 

未だすんすんいいながらそう言う彼女に、気にしなくていいよ、と返しながら、俺は話を聞く体勢を取っていた。

 

すん、と一度だけ鼻をすすって話始めた彼女いわく。

 

これまで軍で必要とされていた間は『兵器』として己を高めていれば良く、織斑一夏と戦っている間もそう思っていた。

しかしVTシステムが発動し、織斑先生含む教員の先生たちに制圧されてからは、一体自分は何のために生きてきたのか分からなくなってしまった。

 

 

 

あー、愛しの…というか、尊敬(崇拝?)していた織斑先生にやられたのがトドメだったのね。

で、ただでさえショックだったのに加えて、これまでやって来たことが意味があったのか、これから先、何のために生きていけばいいのか、分からなくなってしまったんだろう。

そうすると、これまでベッドにいたのは、何をすればいいのか分からなくなっていたから、ってところかな。

 

 

やれやれ。考えすぎだと思うけどね。

特に意味なんてなくったって、ラウラのことを大切に思ってくれている人はいる。クラリッサとかな。

 

 

生きる目的がないと生きられないのなら、ラウラに生きてほしいと思っている人たちや、これまでラウラが生まれるまでに犠牲になった子達の分まで幸せになるために生きろ、とでも言うつもりだったけど。

とんだ杞憂で済みそうだ。

 

 

未だにすんすん言ってるラウラの頭を撫でつつ、もう大丈夫だと確信する。

あとは頃合いを見計らって帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから男が少女の頭を撫でさする光景は、10分ほど続いたという。




ラウラかわいいよラウラ
シャルロット?知らない子ですね…

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