話が進まない。
これも全部、ドン・サウザンドってやつのしわざなんだ!
「なんだクソ兎、そんなことも知らねえのか。人と人とが理解しあえることなんざ、そんなに多くねえんだよ」
その言葉は、先ほどまでの私を煽るような、馬鹿にしたような言葉とは違い、確かな重みと切実さがあった。
「いいかクソ兎。コミュニケーション能力皆無で人との関わり方がド下手くそなお前に教えてやる。
人はな、特に理由もなく、あ、合わないなって思うことや、大して理由はないけどあいつ嫌い、なんてことは普通に生きてりゃあるんだよ。
それがてめえみてえな、人の心の機敏を察することの出来なさそうな、コミュニケーションや言葉のやり取りの経験値からっきしのやつが、俺のことを理解できないだ?
当たり前じゃねえか。馬鹿が」
そういうその男の顔は、吐き捨てるような文面の言葉とは裏腹に。
どこか切実で、後悔のような、悲しみのような。
複雑な、しかしそれでいて、どこか。
沈痛な面持ちで、こちらを見ていた。
この時の私は苛立ちのあまり気付かなかったが、確かにこの時、この男は、そんな表情で私を見ていた。
どうか、俺のように取り返しのつかない過ちはしてくれるなと。
そう言っているかのような表情で。
目の前の男は、相変わらず見下した目で見ている。
この男は、何か後悔でもあったのだろうか。
私はぼんやりとそんなことを考えながら、やはりこの男の人間性を確かめなければ、と思った。
もし、この男が私の思っているよりまともな人間であるならば。
きっとこの男は、誰よりも私の子どもたちを守ってくれる気がする。
たしかにこいつの言う通り、私はコミュニケーションをとることにかけては壊滅的だ。
私はそれが間違っているとも思えないし、別に構わないとさえも思っている。
だが、私がこいつを理解できないのは、私のコミュニケーション能力とやらのせいではなく、むしろ、こいつ自身が分かり合おうとする気がないのだとも思えてくる。
そして。
私は。
余裕ぶって左手を白衣のポケットにつっこみ、すました顔でタバコを吹かしている、眼前のこの男に。
捕縛用、束さん特性ワイヤー製ロープ弾を。
クソむかつく顔面にシュゥゥゥーッ!
超!エキサイティン!
「なっ…。何しやがるクソ兎ィ!」
ハッハッハー、いい気味だ!
誰がクソ兎か!
そんなことを心の中でだけ思いながら、ワイヤーでがんじがらめになっている目の前の男の情けない姿に心が踊る!
私は知っているぞ。
IS学園は入所時にセキュリティチェックがあるから拳銃とかは持ち込めないし、お前は整備用の道具は整備庫にいつも置いていることを。
それなのに自分の命が握られている状態でも、何一つ気にしていないお前の豪胆さに(ほんのちょっとだけ)敬意を表して!
おまえのその情けないツラを永久保存してやる。
あーっはっはっは!
あ、ちなみに私のメカウサ耳には、カチューシャ部分に4Kカメラと指向性マイク、ウサ耳部分にはそれぞれサーモグラフィーと赤外線カメラがついている。
当然、この男と接敵した瞬間から全部起動して、データを私のラボに送っている。
つまり、この瞬間!
私は、このいけすかない男の上をいったのだ!
眼前の男はなおもじたばたしてるけど、今の私は気分がいい。
特別に、投げ捨てたりしないで私のラボまで連れていってやる!
ほらほら、情けない声だしてないで、おとなしく引きずられて来ましょうねー♪
ずるずると引きずる音と共に。
男の絶叫がこだました。
クソ兎ィィィィ!
なお、この後灰皿を要求されてふてくされた模様。