さて私達、葉山慎二をマスターとするチーム葉山はマスターや現地のサーヴァンも含めて、エミヤとフェルグスを遠巻きに包囲している。
だが既に包囲してから10分ほど経過しており私マルタは些か、聖女にあるまじき思考であるが、肩透かしを感じていた。
それはというのもエミヤが戦い始めた当初は彼らを包囲しつつも残っていた雑兵を蹴散らすことに力を入れていたのだが、元々エミヤの矢(?)によって殆どが無力化されており2分ほどで全て倒すことが出来たのだ。
私はマスターの事だから、正直フェルグスを包囲して全員で全方向から仕留めるものだと思っていた。(最悪エミヤもろとも)
なぜならフェルグスは間違いなくケルトを代表する大英雄でそれ相応に能力も高い。
だが失礼ながらエミヤはお世辞にも高ステータスとは言えず、武器や宝具すらも投影する能力こそ反則にもほどがあるが、アーチャーであるためこのような近距離で真っ向からセイバーと打ち合えるとは思わなかったのだ。
「信じられない、アーチャーなのにフェルグスと剣で打ち合ってる・・・!」
私は驚きのあまり、小さく呟く。
ばらきーちゃ、んん、茨木童子や黒ヒゲなども同じ感覚なのか、私と同じように目を真ん丸にしているようだ。
だが、私たちに対してとある数人は
「今時のアーチャーは矢なんて撃ちません。弓なんて飾りです。」
「確かに。私や同胞の百貌などは無数の刀剣を飛ばす金色のアーチャーに会ったことがあります故。」
「いや最近はちゃんと矢を撃つアーチャーも何人かいるらしいよ?一部は弓じゃなくて銃だけど。」
「ああ――ソレ余は知っているかもしれぬ。そういえばロビンフッドもアーチャーだったな。」
「いやいや!?何言ってんの皇帝様!ロビンフッドと言えばアーチャーでしょう!?」
「ええー?ほんとにござるかぁ?」
おかしい。
何故マスターやX、その他一部のサーヴァントはアーチャーが弓を使わないことが普通のような言い方をするのだろうか?
普通は私たちの方が正しいはずなのに・・・。
私マルタはエミヤの戦いを観戦しながらもアーチャーって弓兵だよね?っという思考の迷路に迷っていた。
フェルグスの虹霓剣が唸りを上げてエミヤに突き込まれる。
それも一撃ではなく残像により壁が出来たかのように見えるほどの速度で突き込まれているのだ。
しかも刀身が螺旋を描いて回転し続けているため、武器で受ければ武器が砕かれ、運良く砕けなくとも回転により武器が弾かれてしまう。
では剣を受けず、回避はどうだろうか?
受けるよりはマシであるが半端に避けた場合、回転により刀身を囲うように不可視の風の刃が発生しており、剣自体は回避できても風の刃に切り裂かれることとなる。
「ハアッ!!」
「フッ!!ハッ!!」
ではエミヤの場合はどうだろうか?
彼の場合は後者、回避を選択していた。
しかも不可視のハズの風刃の範囲から発生する軌道すらも完全に読み切り、紙一重で回避し、隙をついて浅くではあるがフェルグスの傷をつけている。
もちろん剣の性能も然る物ながら、フェルグスの腕前も一級で、突きによる死角に紛れて薙ぎや拳なども交えており、その絶妙さと速度は名のあるサーヴァントですら無傷は難しいだろう。
「解せぬな。何故貴様は倒れない?いや何故俺が弓兵ごときに接近戦で押されている?」
剣を振るいながらフェルグスは疑問を呈した。
戦えば分かる。
目の前の男は弓兵にしては破格の双剣使いである。
だがその動きに才能の輝きはなく唯ひたすらの研鑽、才能溢れる自分や他のサーヴァントでは決して得ることの出来ない、による武骨な剣であった。
己の命すら囮にして、紙一重で隙を作り、打ち返す。
そんな狂気の果ての、美しい剣であった。
だがそれでも決して自分の動きや剣の性能をこうも読まれ、押されることなどあり得ない。
「何故だ!」
最初こそ己の半身とも言える宝具の不格好な贋作を作られ、あろうことか目の前で剣とすら扱われずに爆破されて激怒してしまった。
だが今では、蛮行を許すことは出来ずとも、その双剣の輝きは称賛に値すると感じていた。
「フッ!どうした?ケルトの英雄は弓兵に剣の腕ですら負けるのか?やれやれこれではまだキャスターとして呼ばれたクー・フーリンの方が強かったぞ?・・っ!非常に遺憾であるが私は彼に別の特異点で一度敗北しているからなっ!!」
「よく吠える!」
フェルグスは話しながらも剣の速度を僅かに遅め、膝や拳などの攻撃も増やす。
急にタイミングも攻撃方法も変えられたエミヤは避けきれず、双剣で防御するも回転に弾き飛ばされる。
だが次の一撃を叩き込もうとすると、未来でも予知したかのように剣から手を離し、新しい双剣を持っている。
負傷こそ多少しているが、致命的な傷はなく、全く持ってやりづらい。
「何、簡単なことだよ。私の投影は少々特殊でね、普通投影魔術で作り出したモノは世界からの修正力ですぐさま砕け、ましてや武器としての実用性など絶無といっていい。」
「・・・だが!貴様のソレは違う。あの贋作もだ!!」
「そう・・・。私の投影は砕けない。しかも先ほど君が見た通り剣ならば宝具ですら作り出せる。剣以外やランクが高い宝具は流石に劣化するが・・・な!!」
言葉と共に刃も交わす。
常に速度も、攻撃の方法も変えているのに全てに対処される。
そう・・・まるで俺の戦い方を長年見ているかのように・・・!!
「そして、投影魔術を詳しく説明するといくつかの段階がある。その中には【憑依経験】という段階がある。これは文字通りある武器を投影する際にその武具の来歴を、担い手の戦い方を経験するのだ。まあ才の無い身なので出来の悪い真似程度しかできないがね。」
「貴様・・・まさか!?」
エミヤの説明を聞き、フェルグスはゾッとする。
コイツは自分のカラドボルグを投影していた。
それはカラドボルグの担い手、つまり自分の戦い方を熟知しているのだ
文字通り、自分の動きを経験して細部まで知っていたのだ。
「といっても改造するために何度も試行錯誤するほど経験したからこその先読みだがな。それに貴方が研鑽した技術にて戦う戦士で良かった。・・・これがもしベオウルフなどであってみろ。技術ではなく単純な腕力やら勘やらで先読みするどころではなく蹂躙されていただろうよ。」
まさにフェルグスにとってエミヤは相性、というか巡りが悪すぎた。
まさか自分の動きを、武器の特性を一方的に知り尽くしている相手がいるとは思うはずもない。
「なるほど!これは俺が不利なようだな。俺の動きを読まれているのならばもう余計な事は考えん!!全力の一撃で砕けるがいい!!」
フェルグスは魔力を込めた剣を振り、旋風を引き起こす。
旋風により自身も裂傷を負うがその無作為の刃は流石に読むことができずエミヤも距離を取らされた。
「全力で往く!真の虹霓をご覧に入れよう……! 『虹霓剣カラドボルグ』!」」
両の手でカラドボルグを構えて全力を込めて真名と共に大地に突き立てる。
そして螺旋により生じた力場が直接大地の下に注ぎ込まれ、エミヤは勿論周囲の葉山たちも大地と共に吹き飛ばされる。
・・・はずだったのだが突如爆発音が鳴り響く。
「・・・それを待っていた。」
ドバン!!
「なん・・・だと!?」
見るとフェルグスの腹部には大きな傷は刻まれ、大量の出血をしている。
傷は小石程の小さな傷がいくつも集中して穿たれ、ズタボロになっていた。
「グ、ガ」
「知っているかどうかは分からないがその道具の名前はクレイモア対人地雷という。現代において作成された火器でね。通常は内蔵された鉄球などを飛ばすのだがソレには宝具を加工して作った欠片が内蔵されていたのだ。流石に効いただろう?」
フェルグスが大地に剣を突き立てる瞬間、先んじて大地が爆ぜて逆にフェルグスを穿った。
それが真相である。
「いったいいつの間に・・・?」
「最初にカラドボルグでここら一帯を吹き飛ばした時、粉塵の中で埋めて置いた。周囲を包囲しつつ戦場を限定し、所定の位置までは私が戦いの中で誘導した。」
更に言うならば通常の近接戦では動きを先読みできるエミヤに対して勝機はないとフェルグスに思い込ませ、動きの止まる宝具の使用に誘導することも策の内である。
本来ならばいくら先読みできてもジリ貧で衛宮は負けていた。
だが奇しくも葉山の「エミヤ勝て!」というガバガバな命令が後押しとなっていた。
「く、ひ、卑怯とは言うまい。生きるか死ぬかの瀬戸際よ・・・!だが!だがもう少し、こう、浪漫はないのか!?」
「浪漫は貴方の剣の形状だけで十分だ。それにこれはマスターの命令で用意しておいた武器なのでね、恨むならマスターを恨んでくれ。」
事実である。
確かに葉山はエミヤの投影や黒ヒゲの部分召喚、タラスクの有効活用、コスモリアクターとは一体?などといったゲームではなく現実に即した戦法を常日頃から研究している。
そしてこの「クレイモア対人地雷・改」は確かにその研究の中で生み出された試作品であるが、決して葉山はこの戦いで使用するようエミヤに命令していない。
あくまでエミヤ式戦闘術の新境地としてエミヤが考え付いた結果であり、さりげなくフェルグスの恨みを葉山に誘導しているあたり、葉山の無茶ぶりへの仕返しだろう。
(・・・使えなんて言ってないのに・・・でもエミヤごとフェルグス倒そうと思ってたら予想以上に有利に戦えてたから期を逃してボーッとしてたなんて言えないし。)
「く、流石最後のマスターに選ばれたことはある。ここまで外道だと逆に気持ちいいものだ!」
「外道・・・。」
「だがそれとこれとは別。絶対殺す。いつか絶対殺す!具体的にはケルトピックアップとか行われたらカルデアに行くぞ!」
「令呪を以って命ずる。エミヤ、全力でフェルグスにトドメを!完膚なきまでに!!」
「―――“偽・螺旋剣”」
大英雄フェルグス・マック・ロイ撃破
格好良く終わらせようとしたけどエミヤ単体でフェルグスに勝つには固有結界プッパか遠距離からの狙撃しか思い浮かばなかった。
そのため父親の武器(クレイモア対人地雷)を息子に受け継がせてみた。
戦闘をその内書き直すかもしれません。