休みは有るけど半分は仕事なので9連休とか意味わからない。
船の穂先にニトクリスが立ち、杖を掲げ、声を上げる。
「風よ、しばしその任を解くがいい。ニトクリスの名において、天空の見晴らしをここに!」
「嵐が止みました、先輩、葉山さん!空が――――澄み渡るような、一面の青色です!」
「佳い笑顔です。私も見栄を張った甲斐が有ります。」
「でも、この時代の空にもあの光帯はあるんだなあ。ニトちゃ・・・ニトクリス様はアレが何かご存じだったりしませんか?」
「今なにか不敬なことを言おうとしませんでしたか?・・・ともかく、私にもアレが何かは分かりません。偉大なる太陽王、オジマンディアス様ならご存知かもしれませんが・・・。」
「なるほどあの偉大なるファラオ、オジマンディアスならばあり得るかもしれませんね。」
「「知っているのかマシュ?」」
「先輩・・・葉山さんも魔術師なのですから知っておきましょうよ・・・。コホン、ファラオ、オジマンディアスは紀元前十四~十三世紀頃のファラオです。彼は当時広大な帝国であったエジプトを善く統治し民に慕われて太陽王などの敬称で呼ばれるほどの名君とされています。また敵対していたヒッタイトとは勇猛な将軍として戦い、最終的には和平を結ぶことでエジプトに繁栄をもたらしました。様々な優れた建築を多く後世に残すなど最も優れたファラオに数えられる人物でもあります。」
「「何そのチート」」
「お二人とも・・・まあ確かに凄い人物であったそうです。」
マシュの英雄講座を受けて俺とぐだ男君は頭の悪い感想を返す。
まあ日本人的にはエジプトのファラオとかツタンカーメンやクレオパトラ位しか馴染みがないから仕方ないね。
クーフーリンなどのケルト系英雄はもっと聞き馴染みがないけど、武器は有名なのに。
「本当にすごい人物なんだね。」
ぐだ男君はほえ~とっこれから会う人物の偉業について感嘆しているようだ。
正直中身の薄い感嘆であるが、それを聞いたニトクリスは喜々として答える。
「そうなのです!オジマンディアス様は素晴らしいファラオなのです!」
どうやら本当にニトクリスはオジマンディアスを尊敬しているようだ。
熱いオジマンディアス推しである。
「ちなみにニトクリス様は何をした人なんだいマシュちゃん。名前に聞き覚えは有るんだが・・・失礼ながら俺は彼女がどんな人なのか良く知らないんだ。」
「俺もよく知らないなあ・・・。」
俺とぐだ男君は本人に何した人と聞くのもアレなのでマシュに聞いてみる。
俺的にはニトクリスなんて某荒唐無稽スーパーロボットADVで出てくるニトクリスしか連想できない。
魔を絶つ刃面白いよね、fateの世界観的に見ると敵が規格外過ぎてアラヤもガイアも仕事しないだろうけど。
おっと思考が脱線した。
「・・・ええっとニトクリスさんは先ほど述べたオジマンディアスよりも更に古い時代のファラオで優れた魔術師であり、天空神ホルスの子とも呼ばれています。その・・・ファラオとしては在任期間が短く、これといって・・・その・・・。」
「「?」」
どういうわけかマシュに切れが悪い。
もしやニトクリスは反英雄の類なのだろうか?
邪神崇拝とかそんな感じの。
「・・・良いのです、マシュ。ぐだ男、シンジ私は確かにファラオでしたが、成ってすぐにファラオの位を弄んで私の兄弟たちを謀殺した逆臣達を討ち、自害しました。だから私はファラオとしては何もなしていない未熟者なのです。だからオジマンディアス様を良く知らいなどというのは不敬の極みですが私を知らないというのも仕方の無い事でしょう。」
当人から割と重い話題が出てきて空気が重い。
「まあ確かにそうならマイナーなのは仕方ないにしろ、ニトクリスがファラオとして何も成していないってのは違うんじゃない?」
「?どういうことですかシンジ?後なんでイキナリ呼び捨てなのですか?」
「だってファラオとしてそういった王宮のガンみたいな連中をキレイキレイしたんでしょう?直後はそりゃ混乱しただろうけど、動機はどうあれ長い目で見れば不利益になる要因を事前に排除出来たんだからファラオとして何も成していないってのは違うんじゃないか?あと呼び捨てなのはカリスマが足りないから。」
「シンジ・・・そういう考えはしたことが有りませんでした。でも・・・ありがとう。」
「?どういたしまして。」
俺の特に何も考えてない感想を言ったら感謝されたでござる。
意味わからない。
俺としては特に持ち上げたわけでは無く、素の感想を述べただけなのだが・・・
だってマイナーなのは否定できないけど、悪政を働いたわけでもないし個人で非道を働いたわけでもないのでそこまで自分を卑下しなくていいんでないかと思うのだ。
賢王状態ならまだしも冬木の英雄王とか、征服王とかネロとか庶民感覚だと唯の暴君だし。
ホラ、傾国の大化生とか血の伯爵夫人とか鬼とかミノタウルスとか
せめてその方向性でキャラ立てするのならもう少し話題が欲しい。愉悦とか。
「ですが!!それはそれとしてファラオである私に対して畏敬の念が無さすぎます。出ませい!!」
突如ニトクリスが声をあげ、杖を掲げる。
声に応じ彼女の頭上や足元の空間がゆがむ。
少しするとその歪みの中から中型犬位の大きさで白い布を被りハイライトの無い目だけ露出させた珍妙なナマモノが多数出てきた。
「ファッ!?」
何アレ恐い。
「メジェド神よ!ファラオに畏敬の念を持たぬものに仕置きを!」
数十匹(人?)のメジェド神なるクリーチャーが俺を押しつぶす。
うわっ気持ち悪っ!?
俺は咄嗟に助けを求めて周囲を見渡す。
ぐだ男君、マシュはイチャイチャしている。駄目だ。気づいてすらいない。
マルタ微笑んで見ている。助けてくれる気はないようである。
エリザベート。嗜虐に満ちたイイ笑顔である。
他、目を逸らす。
ハサン達「神殿が見えてきたぞ」とかどうでも良いことを言っている。
ニトクリス、イイ笑顔である。
どうでも良いがエリザベートとコイツ似てるな・・・微妙にポンコツっぽいところが。
結論、助けはない。世界は非情である。
「御免なさいっ!?」
謝ったけど駄目でした。
途中ヒドイ事件(俺にとって)が発生したがそれ以外は特にトラブルもなく神殿に着いた。
神殿は色々な様式の神殿が複層したような形となっており、その威容、美しさ、巨大さは今まで見た特異点の中でも最も美しいといえるだろう。
護衛と思われる兵士やスフィンクスが周囲を警戒し、侍女と思われる女性や文官と思われる男性も忙しなく歩いている。
「!凄い・・・。」
ぐだ男君も思わず声を上げているが、俺も生命を許さぬ過酷な砂漠のど真ん中にこのような人の営みが有るとは思わなかった。
今までの特異点と比べてもその生命力溢れる人の営みはローマ位ではないだろうか。
・・・俺は入院してて見てないけど。
しばしオジマンディアスが統治する此処エジプト領の威容、生命力に圧倒されていたが、気を取り直し俺達は動き出すこととした。
居心地の悪いであろうハサン達は一部のサーヴァントと黒ヒゲと共に船に残り待機、その他は俺やぐだ君の護衛としてニトクリスの仲介の下、オジマンディアスなる公式チートに謁見を求めることとした。
俺達は案内の兵士に連れられ荘厳な、長い回廊を進んでいく。
通路の壁には美しい色彩の壁画が刻まれ、その反対側は更に美しい庭園を眺めることが出来、その庭園にも水を波々と湛える池や色とりどりの美しい花々が存在している。
あまりそういった見識の無い俺にも素晴らしいものだと分かる。
流石は世界の四大文明の一つ、オジマンディアスの統治したエジプトとは相当豊かな国だったのだろう。
俺は王城に入った経験など無いのでお上りさんのように周囲を見回していたのだが、
ふと王族出身者や王様経験のあるサーヴァントはどんな様子だろうと思い眺めてみた。
どうにか気を持ち直したラーマは普通で、メディアも余裕の態度で庭園を楽しんでいる。また一応皇子であったジークフリートは興味なさげである。
そして非公式ながら明らかに某王様であるXを見てみると、今運ばれている盛り付けられた果実の山を見たり、笑顔の民を、誇りをもって働く兵士や文官たちを見て既に涙目である。
コレは流石に可哀想になってきたが、戦力的にも護衛として彼女は外せないので我慢してもらうしかない。
大丈夫、この後色々拗らせて円卓同士殺し合わせるような獅子王とか!無辜の民虐殺してる円卓の騎士とか!もっと黒歴史と直面するけど大丈夫!
ストレスと同時に発散先(円卓)もたくさんいるから!
だからXには頑張って耐えてほしい。
それからしばらく回廊を歩き進むと大きく立派な門、謁見の間の前に到着した。
「謁見を希望する者たちを連れてまいりました!」
俺達を先導していた兵士の発した声が響き渡り、門が開く。
内部には先ほどまで一緒だったニトクリス、その他いずれもただ物では無い気配を放つ他のファラオと思われるもの達が両脇に立ち並んでいた。
そして彼らの奥、一段高い場所に位置する玉座に座るカリスマ溢れる美男子。
「――――ふうむ。眠いな。余は、とても眠い――――」
彼はめっちゃ眠そうに瞼を擦っていた。
書き終えた後、見返して思ったのは・・・
主人公ヒロインの地雷を踏み抜く
それで落ち込んだヒロインを無自覚にフォロー
ヒロインの好感度アップ!しかし鈍感主人公は気づかない!
ヒロイン照れ隠しのツン(メジェド神)
何だ・・・このラブコメは・・・!?