エジソンのことをそこまで書く気が無かったのに。
「エミヤ!!」
咄嗟にケルト兵対策として地雷代わりに埋めて置いた贋作宝具を全て爆破させた。
先陣を打ち破り、先ほどとは天と地ほども違う速度で駆けてきたケルト兵は爆発にのまれ消えたがこちらにも仕込みは残っていない。
爆発が収まればまたすぐにシャドウサーヴァント級まで強化されたケルト兵達がエジソン率いる北軍に襲い掛かり、人々の無残な死骸が晒されることになるだろう。
ぶっちゃけ俺には縁もゆかりもない連中が死のうがどうも感じないが、そうなれば俺のサーヴァント達は悲しむだろう。
それが表に出るかどうかは別として仲間が悲しむのは好ましくない。
俺は覚悟を決めて皆に念話を送った。
「X、マルタ以外は全員ケルト兵を押しとどめるんだ!玉藻の前は俺と二人で倒す。」
脚がまた震える。
こんな状態はヘラクレスのシャドウサーヴァント戦以来であるが、知性や宝具などがある分玉藻の前の方が質が悪い。
だがそんなこと気にしていられない。
殺らなければ殺られるのだから。
「ほう・・・妾を三人、いやサーヴァント二人と役立たずのマスター一人で倒す、と。」
玉藻の前が嗤いながら俺を見る。
俺の前にはマルタとXが盾の如く立ちはだかってくれるがその圧迫感は尋常でない。
なるほど彼女は先ほどまでは文字通り俺のことを障害とすら見ていなかったのか・・・。
俺を狙うと言ったのも所詮はマルタ達に聞かせるためにいっただけのこと。
ずっと俺のことなど眼中になかったということか。
「・・・アイツムカつくな・・・。」
いつぞや言った言葉が口を滑った。
ケルト兵達が飢えた獣の如く涎を垂らし血走った眼で駆けていく。
彼らは手に槍や剣こそ持っているが既に技術は錆びつき、ほぼ本能に任せた動きで北軍に襲い掛かっていた。
北軍も重火器による弾幕を形成し近寄られたら銃剣で、機械化歩兵達は金属で覆われた腕で応戦する。
だが、しかし、文明の利器を活用する近代の脆弱な人間が白兵戦で、神話の獣が跋扈する古代ケルトで生きていたケルト兵、しかも理性を代償にバカげた強化を施されている人外に敵うはずもない。
一方的に押し込まれ、ある者は撲殺され、ある者は引き裂かれ、ある者はかみ砕かれる。
戦争というよりも猛獣の檻に入れられた一般市民の末路と言った方が正しいかもしれない。
「くそ!?なんということだ!!我が機械化歩兵が一方的に!こうもあっさりと!負けるとは!?」
指揮を行っていたエジソンはそれを見て頭を抱える。
それもしょうがない事である。
彼は本来は科学者、いくら歴代大統領の妄念に取り憑かれて大統王となったとしても、その本質は変えられないのだ。
頭を抱えて自らの内に埋没してしまうエジソン。
ついにそんな彼の前方に位置していた機械化歩兵達もスクラップと化してしまいケルト兵達が現れてしまった。
「マハトマよ!」
魔導書を掲げ金星からの光で敵を焼く少女、エレナ・ブラヴァッキーは果敢にも敵の真正面に立ち魔術で応戦していた。
幼い少女の姿とはいえ彼女もキャスターとして呼ばれた英霊、彼女が放つ強大な魔術が獣と化したケルト兵達を紙屑のように吹き飛ばしていた。
「何ボサッとしているのよ!?エジソン!このままでは負けてしまうわ!指揮を執りなさい!?大統王でしょ?」
エレナは目をケルト兵から離さないまま背後のエジソンに叫んだ。
その声に頭を上げるエジソン。
「無理だ・・・。私の優れた知能により分かってしまったのだ・・・。唯でさえ強靭なケルト兵達を相手に私たちが打ち勝つには、重火器による弾幕で一方的に倒すしかなかったのだ。いや・・・それ以外の方法では勝ちえなかった。それがどうだ?玉藻の前による強化により理性こそ削られているが銃弾すら物ともしない身体能力、痛みを気にしない精神性、異常な殺戮衝動。」
「エジソン・・・。」
「弾幕が聞かなくなった時点で我らがケルト兵を倒せる手段は無くなった。そうなれば後は一方的な敗北だけ、玉藻の前という一級の敵もいる、もう駄目なのだ・・・。」
そのまま両の手を地面に着き項垂れるエジソン。
そんな彼を守りながらエレナは魔術を行使する。
「ふざけないでよ!?私達が、アメリカ兵たちがケルト兵達に負けるなんてことは薄々だけど、最初から分かってた!歴代大統領に憑かれて勝ち目のない大量生産に拘る貴方以外の皆が!」
「・・・」
エレナの言葉を聞いて顔を上げるエジソン。
その眼は大きく見開かれ驚愕を現していた。
「ど、どういうことだね?何故なのかね?」
「それでも!それでも貴方ならどうにか出来るんじゃないかと皆期待したのよ!世界を切り捨ててアメリカだけを存続させるとか、大統王とか、馬鹿な事を言い出した時は頭を抱えたけど。」
「私が・・・馬鹿?」
「そうよ!大馬鹿よ!どれだけ荒唐無稽でも貴方は皆に夢を見せて戦った。その結果として特異点崩壊を押しとどめてカルデアが間に合った!無駄じゃなかった!」
叫びながらも魔術を行使し続けるエレナ。
だが徐々に彼女が放つ熱閃の壁を破りながらケルト兵の影が浮かんでくる。
「勝算が無いなんて最初から分かってたけどそれでも貴方の行ってきたことは無駄ではなかった!もう一度言うわよ、あなたはいつも通りにやればいい。三千回の挑戦でダメなら三千一回目に挑戦する。何度失敗してもへこたれず、まわりにさんざん苦労を強いて、自分だけはちゃっかり立ち上がる。
それがあなたの人生じゃない。トーマス・アルバ・エジソン。
あなたの長所って、つまるところそういう才能だったでしょ?」
「あ、ああ、そうだったよ。」
遂にケルト兵達が魔術を打ち破り、エレナの前に立った。
数十人ものケルト兵が立っているが、彼らが此処に立つまでにその何倍もの兵が倒れていた。もちろんエレナの前に立った彼らもその多くが身体中に重度の火傷を負っている。
エレナは再度強力な魔術を行使しようとするが、獣の如く俊敏なケルト兵達により両腕や両足を抑え込まれて拘束されてしまった。
「くっ光よ、此処に。天にハイアラ、え?ちょ、イヤ!?イヤアァァ!?どこ触ってんのよ!?」
これまで同様、眼前の敵を無残な方法で殺すものかと思われたケルト兵達。
だが彼らはこれまでと異なり、痛みを感じないかのように力づくでエレナを取り押さえ衣服を破り取ろうとする。
「ひぁ、いや、やぁ、あ!!やめてぇ、どこ、触ってぇえ、はぁん!?」
彼女の慎ましい胸はケルト兵達の腕に揉みしだかれ、身にまとった衣服も端の方からドンドンと破り捨てられる。
重要な部分こそいまだ隠されているが、それも時間の問題だろう。
此処で少し話が代わるが、ケルト兵達は玉藻の前の宝具により大幅強化された。
では、その前は?
彼らは同じく玉藻の前の呪術による強化と傾国の美女としての自己を顧みらないほどの魅了による狂化を受けているのだ。
つまり現在彼らケルト兵達の根底には玉藻の前への情欲があり、彼らへの強化は全て異性への狂った色欲在りきのモノなのだ。
そんな彼らが戦いにより命の危機の瀕し、さらに少々露出度の高い衣装の美少女を見つけたらどうするだろうか?
その答えがこの状況である。
「止めろ!!エレナを離さんかあああ!!」
エジソンは立ち上がりケエレナを助けようとするが、いくら英霊とはいえ所詮は発明家。
異常強化された歴戦の戦士の模造品たるケルト兵には敵うはずもなく、すぐさま打ち倒される。
ただ運が良いのは彼らがエレナへの情欲に支配されてしまっているためか、エジソンへの暴行が最低限であったことだろうか。
普段ならば彼の身体は無数の槍や剣で貫かれ、即死していたのだから。
「んぁぁっ!! い、いきなり、痛い!?やめ、止めてぇ!!」
「うおおおお!!」
エジソンが再び立ち上がるが再度打倒され倒れ込む。
やっとエジソンを静かにさせて再度エレナに集るケルト兵達。
エレナも必死に抵抗するが、か細い少女の膂力では屈強な男たちには勝てず、徐々に蹂躙されていった。
そして其処へ天から人類へと齎された雷が降り注ぐ。
「な、なんだと!?」
「―――――――――ハハハハハ! 無様なり、無様なりエジソン!!!
所詮は凡骨、この私の前に立ちはだかる資格などない! 疾く、項垂れ消え失せるがいい!っと言いたいところだが良くやった!!」
「・・・・この・・・・この忌まわしい声と・・・無駄な高笑いは・・・。ま、まさか・・・おまえは・・・。」
「そのまさか、だ!この真の天才、星を拓く使命を帯びたる我が名は―――――――」
「すっとんきょう! ミスター・すっとんきょうかぁ―――――――!!!」
「ニコラ・テスラ! である!先ほどブラヴァツキー女史が言っていた通り貴様の無様なあがきは無駄ではなかった、なにせ私が現界するまでの時間稼ぎに成功したのだからなあ!!」
「く、非常に!非常に不愉快だが良くやった!もう見せ場は終わったのでさっさと消えるなりケルト兵にでも突っ込んでメルトダウンでもしてくるなりするが良い!!」
「おっと、電気が滑った。」
「うお!?何をするか!?」
「ふん!もう出番がないのは貴様の方だエジソン。私一人でもこの野蛮人共を倒すのは可能だが、天才たる私は現界し、更に此処に来るまでの僅かな時間で野良サーヴァントを説得し増援として連れてきたのだ!どうだ?エジソン君の出番はもうない。どこかそこらへんで体育座りでもして待っていたまえ!」
「増援?どこにそんなものがいるというのだ!?このすっとんきょう。」
「彼ならば野蛮人共との最前線に・・・ああアレだな。」
エジソンは立ち上がり、突如現れたニコラ・テスラに親指を下に向けつつ、最前線に目を向ける。
其処は最もケルト兵達の勢いがあった場所であったのだが、・・・其処は既にケルト兵達の死体が積みあがっていた。
「本来ならばこのような猛者どもとの血沸き肉躍る戦いであったが、情欲に溺れ、理性もない唯の獣など興味が失せた。何よりも殺すならまだしも戦いすらも忘れて情欲に溺れるなど戦う価値もない。どれ、儂が処分してやろう。」
「・・・何だあの色々と突っ込みどころのある御仁は?」
「・・・李書文というチャイニーズ・バトルマスター(?)だそうだ。」
「・・・そうか。」
珍しくエジソンたち二人の間に沈黙が落ちた。
だがそうやって見ている間にもケルト兵が李書文により悲鳴を挙げるだけの肉袋みたいになっていっている。
「・・・だが、まあ女性に暴行しようとする輩など万死に値するというのは同感だ。」
「ふん!甚だ遺憾であるが同意しよう!!紳士として見るに堪えん野蛮人共だ。」
ニコラ・テスラが宙を浮かび、エジソンが魅せ筋を震わせ共に雷撃を帯びる。
「交流!!」
「直流!!」
「ギャアアアア!?」
二人から放たれた電撃は機械化歩兵を蹂躙していたケルト兵を焼き殺し、更に奥へと進んでいく。
「だ、大統王・・・!?」
「すまない、北軍の諸君!!私が不甲斐ないばかりに多くの犠牲が出てしまった!!他人任せなのは格好悪いがカルデアの者たちが必ず大本を倒してくれるだろう!私も共に戦う!!皆「お前が言うな」と思うだろうが、どうか諦めずに全力を尽くすのだ!!」
「「「うおおおお」」」
葉山、マルタ、Xが玉藻の前と戦闘を開始して10分。
二コラ・テスラと李書文という増援、復活したエジソンにより北軍が息を吹き返し、戦線を押し返す。
蛇足
「盛り上がってる所悪いんだけど、なんで誰も私に肩を貸してくれないのかしら・・・?私今回はヒロイン枠よね?」
乱れた髪の毛を直し、敗れた衣服というか要所のみを隠している布きれを整えながらエレナは呟く。
必死に助けようとしてくれたエジソンにも、実際に間一髪助けてくれたテスラにも感謝しているのだがこの扱いは何なのだろうか?
とても納得できない。
「・・・」
エレナが一人行き場のない怒りを滲ませながら衣服(布きれ)を整えていると、どこからか魔猪が歩いてきて袋を一つ押し付ける。
その後魔緒はイキイキとケルト兵に突進していき見えなくなってしまった。
・マスター礼装「アニバーサリー・ブロンド」
「まあ・・・いっか。」
エレナは取りあえず着替えのために岩陰へと移動したのだった。
二コラ・テスラ、李書文「エレナのピンチまでずっとスタンバってました。」
葉山「遠見の魔術でガン見してたら死にかけました。」
エミヤ「鷹の眼でガン見してたら死にかけました。」
エレナ「非道いことする気でしょう!?エロ同人みたいに!!」
野獣と化したケルト兵のみなさん「訴訟も辞さない」
魔神柱「玉藻の前のピンチまでスタンバってます。」