「どーぞー」
誰だよまったく、寝かせろっての。
「入るよ、お兄ちゃん」
「おう、小町か。どした」
「えへへ、何か一人になったら不安になっちゃって」
そういって照れるようにはにかむ小町は、突き放せば壊れてしまいそうで、その表情を見た途端俺のなかに怒りが沸いてくる。どうしてこんなことをするのかと、ここにはいない王女様達や原因を作った魔王やら邪神やらに怒鳴りに行きたい。そして小町にこんな表情をさせたことを後悔させてやりたい。ぶっちゃけ俺は、この世界が滅ぼうと別にどうでもいい。けど俺は、小町を、俺が守ると決めたあいつらを、本物を守り抜く。それが俺の動く理由で、そのためなら魔王でも邪神でもぶっ潰す。
「……そか」
そう言いながら体を起こして、小町を招く。俺の寝ていたベッドに座り、手を握ってきた。
「……うん……ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「今日、一緒に寝よ?」
「!……おう、いいぞ」
俺の答えを聞いて嬉しそうに微笑む小町はとても美しく、けれど手を離せば儚く散ってしまいそうだ。
「お兄ちゃん、小町怖いよ。……英雄ってなに?なんで戦わなきゃいけないの?救世って、なに?話が大きすぎて分かんないよ……」
「……大丈夫だ、お前は俺が守ってやる。安心しろ、俺は基本高スペックだ。今日のステータスの話で証明されたしな」
「うん……」
そう言って項垂れる小町の頭を撫でてやる。すると、こっちに連れてこられたときから気を張っていたのだろう。静かに泣き出してしまう。そうやって泣いている小町を見ていると、居ても立ってもいられなくて抱き寄せる。すると、いつか家出をしたときのように大きな声で泣き出す。どうしてこんなときに抱き締めることしかできないんだと、自分を責めてしまう。
数十分そうして居ると、小町は泣き疲れたのかそのまま寝てしまう。小町をベッドに寝かし、自分もその隣に横たわる。
「俺が守る、か」
そう言って、本当に守れた人はどれだけ居るのだろうか。嘘も欺瞞も嫌ってきた俺が、できるかも分からない約束を口にするなんてな。
それにしても、親父達が勇者ねえ。もっと早く話して欲しかったが、そんな話をされても俺達は信じなかったし割りと本気で引いただろう。今日聞かされた話では、親父達はそれはももう大活躍だったらしい。人の身でありながら悪魔を凌駕し、最早実現不可能とさえ言われた和平を実現させる……。
いやでもなぁ、元の世界での親父達を知ってるとなあ、なんか認めんのが癪っつーかなんつーか。
まあ、親父達のことはどうでもいい。今考えるべきはこいつらをどうやって守るかだ。聞いた話だと策謀でどうにかできる相手でも無さそうだし、やっぱりこいつらのためにも素直にレベルでも何でも上げて強くならなきゃいけねえな。
……なんだ、今までと変わらんな。『本物』を願って、『本物』を見つけて、それが『本物』なのか分からなくて、分からなくても大切にしようって決めて、言いたいことはちゃんと言って、共依存じゃなく、互いに独立した上で支え合う。でも今の俺だと支えられないと感じて、それならまず自分を高めようと数学の勉強を始めたりして。
結局変わるにしても成長するにしても、努力を重ねなきゃあいつらとは並べない。だったらむしろ、こっちなら能力だのなんだのがあるしやり易かろう。いや、逃げる訳じゃないがな。少し努力の方向性を変えるだけだ。だったらできんだろ、やってやろうじゃないの。
続