やはり俺が世界を救うのはまちがっている。   作:カモシカ

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第二話 こうして、彼らは異世界で救世を始める。

 ……目が覚めたら、知らない天井が、天井が、無いッ!

 何言ってんの俺。

 つまり最初に視界に入ったのは空だった。暗くよどんだ、俺の目のような空だ。……どこだよここ。

 っと、少し思い出してきたぞ。確か俺は昼休みに教室に居て、一色と小町と雪ノ下が来て、魔法陣が表れて、光って、気づいたらここ。……なに、異世界召喚かなにかですか。そういうのは材木座にしてあげて下さい。そして魔王に潰されろ。

 ここまで考えて、小町達の確認のため体を起こす。すると周りには、さっきまで教室にいた奴等が倒れていた。

 

「うわー一番最初に起きたの俺かよ」

 

 これで起こすために女子の体なんか触った日には、雪ノ下に通報されて社会的にも物理的にも殺される。殺されちゃうのかよ。

 ともあれここでは小町を最初に起こすのが正解だな。

 

「おーい、小町ー起きろー」

「んぅ……?……むにゅぅ……あとごふん……すぅ」

 

 ……なにこの可愛い生き物。すっげーほっぺつつきたい。怒られそうだしやめとこ。

 

「いや、起きろ。早く起きないとキスすんぞ」

「うっわそれは無い、やめて」

「……泣いていい?」

 

 

 

 ****

 

 

 

 結局その後、小町は女子を、俺は男子(殴っとけばいい戸部)や、戸塚(天使)を起こした。戸塚が寝言で「はち……まん……んぅ」とか言ってて悶えた。小町にそれ見られて引かれた。黒歴史に新たな一ページが……

 

 そうこうしている内に、そこに居た全員を起こし終えた。今は全体で現状についての確認と議論をしている。

 そこで確認できたことをあげていく。

 まず、今俺たちが居る場所には、誰も来た覚えがない。

 次に、ここに居るのは、さっき教室に居た人間で、誰も欠けていないらしい。

 さらに、携帯の電波が入らず、近くには民家も見あたらない。つまり救援は見込めない。

 という絶望的な状況だった。

 なんだよこれまじでどこだよ。つーか帰りてえ。

 さっきまで活発に行われていた議論も今はすっかり静かになり、場の空気が暗く重くなっている。

 その時だ。俺たちの中心に、突然魔法陣が現れ激しい光と共に数人の男女が現れた。……今日は光りすぎだろ。その登場に呆気にとられていたが、現れた中の一人の女性が俺たちに向かって頭を下げる。

 

「皆さん、こんにちわ。私は、アザメス王国の第六王女、フィリアス・アザメスと申します。先ずは、こちらの都合で勝手に呼んでしまい、誠に申し訳ございません。早速ですが、皆さんには聞いてほしいことがあります」

 

 そう言って全員の顔を見回す。あ、この人超美人じゃん。俺と小町を見たときに目を見開いたように見えたが気のせいだろう。

 

「今、この世界は滅亡の危機に瀕しています。そこで、皆さんには勇者としてこの世界を救ってほしいのです。勝手なことというのは重々承知しています。ですが、他に方法が無かったのです。……どうか、どうかッ!」

 

 やべーなにこの罪悪感。ったく。葉山はさっさと場を整えてくんねーかな。なんて意味を視線に込めて見てみるが、フリーズしている。……んだよこいつ肝心なときに使えねーな。

 はあ。このままだと精神的にきついしな。さっきから自称王女様が頭下げてるわけだし、この現象がなんなのか分かってるっぽいし、葉山やら雪ノ下あたりに引き継ぐまでの繋ぎとして、色々と情報引き出しとくか。

 

「あー、えっと、フィ、フィリアスさん?とりあえず頭上げて下さい。……そして、ここはどこなのか、どうして俺たちはここにいるのか。答えてください」

 

 いきなり立ち上がり、発言した俺に視線が集中する。

 

「は、はい。もちろんです。……先ず、ここは、あなた方が居た世界とは違う世界です。勇者召喚魔法でお呼びさせていただきました。次に、先程も申したように、あなた方にはこの世界を救って頂きたいのです」

 

 ふむ。魔法とな。にわかには信じがたいが、自分達で体験しちまってるしな。一先ず信じることにしよう。っと、そろそろ葉山が使えそうだな。バトンタッチしよう。

 

「葉山、そろそろいいか」

「あ、ああ」

「じゃ、後よろしく」

 

 そう言って腰を下ろす。葉山ならこの場をまとめてくれるだろう。THE ZONEとかもあるしね!(偏見)

 

「えっと、幾つかお聞きしてよろしいでしょうか」

「え、ええ」

「先程、違う世界と仰っていましたが、俺たちは帰ることができるのでしょうか」

「現段階では不可能ですが、我々アザメスの名にかけて、必ずや帰してみせましょう」

 

 おー、流石葉山。会話が滑らか。って関心してる場合じゃないな。勝手に呼んでおいて帰れないとか理不尽すぎる。

 

「そう……ですか。では、先程世界が滅びの危機に瀕していると仰られましたが、どういうことでしょう」

「はい。この世界には、魔族、悪魔族、天使族、そして、私達人間族が居ました。今から約25年程前、魔族と悪魔族が結託し、人間族と天使族を滅ぼそうとしました。そのときは、異世界からの勇者によって和平が実現しましたが、最近になって、魔王を名乗る存在と、邪神と呼ばれる存在が現れ、世界を滅ぼそうとしています。そのため、皆さんには勇者となって、世界を救ってほしいのです」

 

 うーん。薄々こんなんじゃないかと思っていたが、こんなことってあるんだな。一応頬をつねって夢かどうかを確認する。……痛い。夢じゃない。どうしよう。

 

「……俺達にそんな力があるとは思えませんが」

「いえ、あなた方異世界の勇者は、魔法や剣技といった力を無意識に押さえ込んでいます。勇者召喚魔法の影響でその枷が外れ、こちらの世界の人々よりも強い『力』を発現していることでしょう。それゆえ私達もあなた方を呼んだのです。しかし、その『力』は絶対のものではありません。それに、戦えば傷つくし、敵の刃に命を落とすこともあるでしょう。私達も全力でサポートしますが、必ず勝てるという保証はありません」

 

 その言葉に皆黙り込む。そりゃそうだ。ここまで聞けば分かる。俺たちに選択肢は無いのだ。王女様の言う通りに魔王、邪神討伐をすれば、いつかは帰してやる。しかし、お前らの代わりはまた呼べばいいから、断られたら切って捨てるというわけだ。あちらさんは召喚魔法だかが使える訳だしな。そこは葉山も分かっているようで、

 

「皆、聞いてくれ。俺は、俺達がこの世界に呼ばれたのは、運命のようなものだと思う。ここには困っている人が居て、俺達にはそれを助けられる力があるかもしれない。……俺は、この世界で、魔王と邪神を討伐し、皆を元の世界に帰してみせる!」

 

 その言葉に、一瞬場が騒然とするが、次の瞬間には数人の男子が賛同をし、追随するように声を張り上げる。

 実際他にあても無い。ここに居ても救援が来る可能性はない。だったら少なくとも、王女様達に着いていくのが賢明だろう。そう判断したのは俺だけでは無いらしく、その男子達以外の生徒も消極的にだが賛成の意思を示す。

 

「ああ、皆さん。本当にありがとうございます!……それでは、私達の城へ転移します」

 

 王女様がそう言うと、地面にまた魔法陣が現れる。そうして俺たちは、今日二度目の転移を体験した。

 

 

 

 続


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