時の流れは早く、俺も気づけば受験生である。
去年は本当に色々なことがあった。奉仕部であの二人と出会ってから、それまででは考えられなかったことがたくさんあった。今の俺が居るのはあいつらのお陰といってもいいだろう。
俺は、自らが傷つくことを何とも思わず、いや、何とも思わない振りをして、様々な問題を『解消』してきた。俺が傷つくことで悲しむ奴等がいると考えもせずにだ。
思えば、俺はずっと支えられていた。ぼっちだなんだと嘯いていたころの俺は、今の俺を見たらこんなことを言うのだろう。そんなに人を信じるな。お前はぼっちだ。これまでで散々学んだだろ、と。
しかし、そんな俺にはこう高らかに返してやろう。
『どうだ、羨ましいだろ。これが俺の手にいれた本物だ』と。
俺は、小町、雪ノ下、由比ヶ浜、戸塚、一色、川崎、平塚先生、雪ノ下さん、(あと癪だが材木座にも)には感謝している。未だに俺の言う『本物』が何なのか、それを表現できるだけの語彙が俺にはない。そんな言葉はどこにも無いのかもしれない。けれど、それでいいのだ。俺は、やっと手にいれたこの関係を、大切にしていくから。もう、一人だけではないと、知ったから。
だから、俺はこの関係を、この人たちを、絶対に守り抜く。何があっても。
でも神様、いきなり決意を揺らがすようなことすんなよ。
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時は昼休み。雪ノ下が由比ヶ浜を迎えに来て、一色と小町(生徒会のお手伝い)が生徒会の仕事を俺に手伝わせようと襲撃しに来ている。そこまではしょうがない。いやしょうがなくないがしょうがない。矛盾?なにそれおいしいの?
「由比ヶ浜さん、自分で呼んでおいて約束の時間に来ないというのはどういう了見かしら」
「わ、ごめんゆきのん。優美子達と話してたらいつの間にか結構時間経ってて」
「せーんぱーい。生徒会の仕事手伝ってくださーい」
「いやだ飯食わせろ」
「お兄ちゃんそんなの後、今はいろはさんと生徒会室行く!」
「えー、酷くね」
俺の日常はこんな感じで回っていく。
「あ、れ?お、おい!なんだよこれ!!」
しかし俺の日常はいとも簡単に崩れ去っていく。
その声を上げた生徒の足元には、円に囲まれた幾何学模様。所謂魔法陣が展開されている。いや、意味わかんねえ。異常を察知した何人かの生徒はすぐに教室から出ようとするが、当然のように扉は開かない。段々とパニックが加速して行く。
「みんな!一旦落ち着いて。……戸部!窓を割ってくれ!」
「……ッおっけぇい隼人くん」
葉山はどうにかクラスを落ち着けようとし、戸部は窓を割っての脱出を試みる。しかしその努力もむなしく、窓ガラスには傷一つつかない。いやまじで何が起こってんの?あの雪ノ下でさえ唖然としちゃってんだけど。
そうこうしている間にも魔法陣は紅い光を発しながら拡がり、ついには天井までも埋め尽くす。
なにが起こっているのか、誰も理解できないまま完全なパニック状態に陥る。
「せ、先輩」
「お兄ちゃん」
「ヒッキー」
「比企谷君」
四人の声で我にかえる。いつのまにか俺も放心していたようだ。安心させようと四人の手を握るが、俺にできることは何もない。
やがて、視界が紅い光に埋め尽くされ、俺は意識を失った。
続