境界の彼方 ~next stage~ 作:眼鏡が好きなモブ男
状況というのは急激に変化していく。
それは、悪い方向にも良い方向にも傾く可能性があるのだが、今回は紛うことなき前者だった。
「なんでこんな熱血バトル漫画みたいな展開になったんだろう」
「私に聞かれても困ります」
事の発端は1時間前だったと思う。
学校も終わり、寝ていたら目が覚めた夕方5時、僕の家を走り過ぎていく後輩女子を発見。
怪しく思った僕は尾行を開始し、やがて後輩は森へと入って行った。
現在は凪の時期で、栗山さんが妖夢を狙っているという事を思い出し、引き止めた結果、
「戦いで決めると言うなら…さっさとやりましょう」
「まあ待てよ。一旦この地域に伝わる昔話を聞くのも大事だと思うぞ。RPGとかでもあるだろ?その地に伝わる事が物語のカギになってくる事が」
「…それも一理あるかもしれませんね」
「決まりだな。良く聞いとけよ。コホン」
わざとらしく咳払いをすると、僕は話を進めていく。
むかーしむかし、ある村に子供が居ました。
その子供は、その村の中でも群を抜いて力を持つ異界士の養子になりました。
しかし、その異界士の一族は妖夢の力を自分達の力に変える研究をしていたのです。
もちろんその子は実験台となり、何体もの妖夢を入れられました。
その子は、妖夢を体に入れられたせいか、体に紫の斑点が出来てしまいました。
その奇妙な見た目と名家の跡取りになったことの嫉妬から、その子は段々と集団から省かれていく事になります。
……事件は突然起きました。
その子の中の妖夢が暴れ出したのです。原因は精神的苦痛と言われていますが、未だに判明していません。
話は戻りますが、妖夢が何体も混ぜられていて、手がつけられません。
その異界士の一族は元々、結界で有名な一族だったのですが、その子は結界も教わっていたので、結界は意味を成さず、その一族は滅んでしまいました。
なんとか元に戻ったその子ですが、行く宛がありません。困り果てていると、一命を取り留めたその子の義兄が、この地に行くといいと教わり、今も尚その化物はここで生きているそうです。
「…なんてお話さ」
「なんか…嫌な話ですね…でも、それがなんの関係があるんです?」
「関係は無い!」
きっぱりと言い切った。しかし、飛んできたのはツッコミではなく血の刃だった。
だが、僕まで刃は届かない。
どこかに檻という結界があるらしいが、防御力だけを見れば完全な上位互換、「鏡」に防がれたからだ。
戦闘については正直特筆すべき点は無い。防御能力しか出来ない僕と、その応用まで知っている栗山さんの勝負なんていつまで経っても終わらない。筈だった。
異変が起きたのは約15分後。
体が熱い。まるで僕に流れる血が全て溶岩に変わったようだった。
唯一の頼りである鏡の維持すらままならない僕に、持久戦になる事を意識して力を温存したままの栗山さん。結果なんて目に見えている。
僕が左肩を貫かれた所で勝負はお預けとなった。
あれ、左肩にはアレがあった筈だ。いやいや、まさかピンポイントで当たる訳が…
パキッという破砕音は僕の思考を止めるのには十分な衝撃があった。
本能が見られたくないと感じたのか、全く考えもなしに栗山さんに先を促す。
僕に一言謝った後、栗山さんは走り去って行き、姿が見えなくなってから5分後、二つの人影が現れた。
一つは性根から腐った幼馴染み。二つ目は何度もお世話になった援護主体の異界士だった。
「はぁ…河井さん、勇輝の容態はどうです?」
「すっごいグレーゾーンだなこれ。あー…駄目だな。損傷部位が約10%ぐらいだからキツイや」
そう言って河井さんは僕にお札をぺたぺた貼ってくる。
「一旦出血を止めるだけだから、暫く動くなよ?」
要領よく応急処置を終えた後、河井さんは僕をおんぶする。
「これから僕は何処に行くんですか?」
「ひとまず俺の家だな」
「そうですか…すいませんが、家には1人で行ってください」
僕はそう言いながら、河井さんを突き飛ばす。
離れた所で受け身を取って逃げるつもりだったのだが、相変わらず上手く体が動かない。
2、3度転びそうになるが、なんとか体勢を立て直し、後輩女子への元へと急ぐ。
死ぬなよ…と祈りながら木々を抜けていった。
――――
「これでいいのか?」
「ええ、どうせ栗山未來の所に行こうとしてるのは分かってましたから。それよりも…暴れだした時はお願いしますね」
「そんときゃ時間との戦いだな。どのくらい勇輝くんの中の妖夢が起きてから経ってるかで決まる」
目の前の少女の顔はよく見えなかった。
一つは単純に闇が深かった。もう一つは、顔を伏せていたからだ。
やっぱり適当だなぁと感じるこの頃です