境界の彼方 ~next stage~   作:眼鏡が好きなモブ男

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煎餅美味い


第2話 手紙

6月。それは日本で梅雨の時期として、恵みの雨を降らす反面、水害をもたらす時期である。ココ最近太陽が顔を見せることがなく、どこまでも曇り空が広がっている。

博臣(元)先輩に病室を退室させられてから早くも十分が経っていた。

未來は眠そうな目を開いては閉じ、また開き…を繰り返していたのだが、やがて目が開かなくなり、代わりに穏やかな寝息が聞こえてきた。

…何を話してるんだろう。私達2人に聞かせたくない事なのか?あるいは……私と未來に流れるこの「血」の事なのだろうか……。

未來が2歳の頃、何でもない段差で転んでしまった。普通の子なら泣き出し、親は絆創膏を貼るなり相当過保護な親なら病院に行くのだろう。

しかし、未來は違った。泣き出す所までは一緒だったのだが、血が一瞬で固まっていた。騒がれると困るのでおぶって早足で逃げる様に帰る事にしたから、大事には至らなかったが。

それはそうと、何故人の寝顔とはこんなにも眠気を誘うのだろうか…。

ヤバい、寝ちゃう!と思った所で丁度博臣先輩が出てきて、廊下で寝ているのを目撃されずに済んだ。

心の中でお礼をしつつ、再び先輩の病室へ。持って来たリンゴは何切れか食べられてあり、「美味しかったよ。」と先輩は言っていた。私も料理頑張らなくちゃな…。

…先輩の顔が暗い。何かを隠しているような、そんな目をしている。思い切って聞いてみると鍵を渡された。

どこの鍵なのかと問うと、引き出しの鍵という答えが帰ってきた。ついでに、見ても見なくても良いと。

引き出しというのは、良く勉強の時に使うあんな感じの鍵付き引き出しの事だ。

そう言えば、結構昔に先輩の部屋の掃除をしていたら「そこはやらなくて良いよ」と言われた記憶がある。

鍵を貰った後は、流れるように時間が過ぎて行った。下らない事を話したり、ほんの少しだけ…いちゃいちゃしたり…。

面会時間が終わって帰ることに。帰宅後もご飯を食べて、未來と一緒にお風呂に入って、歯磨きをして寝た。

 

翌日。やはり空は生憎の天気。そうだ、引き出しの事を忘れてた。鍵は…あった。鍵を右に回して、あったのは……手紙?

「栗山さんへ」と書かれた部分にバツ印が付いてあり、その上には「未来へ」と書き直されていた。

封を開け、中身を見ることに。

 

ーーーーーー

僕は今、名瀬家の家の扉の前に居る。

要件は一つ。

僕を……殺してもらう。

「ようアッキー」

「よう。…早速本題に入らせて貰うぞ。僕を檻に入れて圧殺しろ」

…自分から殺すように言うやつはなかなかいないだろうな。

ーーーーーー

 

「未來…ちょっと家でお留守番してくれる?」

「おっけー!」

ニコッと笑いながら未來を撫でてあげると、やはり気持ちよさそうに笑っている。

焦っているのを悟られないように落ち着いて準備をし、外に出る。ドアが閉まった瞬間、私の出せる最高のスピードで走る。

息が切れてきた。構うもんか。

足が自分の物じゃないみたい。知らん。走れ。

嗚咽が止まらない。諦めるな。まだ間に合う…!

溢れ出る涙を堪え、力の限り走った。

 

「未来へ…

これを読む頃、キミはおばあちゃんなんだろうか。なんちゃって(笑)

本当は40歳になる頃に話すつもりだったけど、これを読んでいるということは僕の命が危険な状態って事なんだろう。

これから書くのは、ずっと知りたがっていたであろう君の忘れてしまってた事についてだ。

まず、血を刀の形にする事が出来る能力について。

君は「妖夢」という、人の怨念とかが姿を持ったのを狩ることを仕事とする異界師としても特異な存在として生まれた。そう、「呪われた血の一族」として。

そして、呪われた血の一族には現在僕の体にいる、「境界の彼方」を殺すという宿命がある。高校生の頃、普通の高校生でいて欲しかったから、君を避けていたんだ。ごめんね。

今までありがとう。君と未來がいて、本当に幸せだった。」

 

勝手な事を言って…!残された私と未來はどうなるんだ。そっちが幸せでも、こっちは悲しいんだ!

怒りを胸に秘め、病院に到着した。しかし、既に先輩はいなかった。

…博臣先輩の所だ!

間に合うよう祈りながら、再び本気で走り出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「言い残す事は無いのか?」

言い残す事か。なんだろうな。…あ、そうだ。

「もしもの話だけどさ」

「何だ?」

「未来の記憶が戻っていたなら…ざまあみろって言っといてくれ」

「……分かった。にしても、最低のヤツだな。妻にざまあみろとは」

「お前が伝える頃にはもう妻じゃないし…神原秋人はもういない」

博臣は少し悲しそうな顔をして、僕のいる檻を縮めていった。

…未来は何て言うかな。いつも通り「不愉快です」とか言うのだろうか?それとも泣くのかな。

「……さらばだアッキー!」

そう叫ぶ博臣の目には涙が浮かんでいた。

 

この光景を最後に、神原秋人はこの世から文字通り消えた。そして、彼の中の境界の彼方が遥か上空に打ち上がった。




2話終了。鍵の下り、強引過ぎましたかね?(笑)
今まで0話の東雲を見た事は無かったんですが、本当にたまたまアニメの流れに合ってたという奇跡…

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