境界の彼方 ~next stage~   作:眼鏡が好きなモブ男

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サブタイトル思い浮かばねぇぇぇ!!!


第15話 それぞれの思い

「グウゥ……」

「…弥勒さん、あんた本当にヤバいのを遺したなぁ…」

憎しみに支配された彼女は、先程からずっと俺の命を狙っている。

「こんなんだったらやめときゃ良かったかな…」

ふと耳を澄ませると、ザフザフという荒い足音が聞こえる。

さて、どうしたものか。

━━━━

「栗山さん!!…ってうおぉぉ!!?」

なんだあの黒いカマキリの脚みたいな刃は。いや、どちらかと言うとなぜ栗山さんの髪の色があの刃と同じくらいの漆黒に変わっていることと、問題の刃がこれまた問題の栗山さんの頭から生えている事が問題なのだ。

…違う。

真に問題なのはそこじゃない。

栗山さんがこうなった原因。それこそが真の問題なのだ。

そして、そいつは恐らく…

「なあ、何やってんだよ、河井さん…いや、()()()()

「…驚いた。いつから分かってたんだ?」

「そんな下らない事を言いに来たんじゃねぇ。…こっちの質問に答えてもらう。一体「『彼女に何をしたんだ』ってか?」…その通りだ」

「…こっちとしては殺されそうになったってのにな」

「過剰防衛とは思わないのか」

「思わないね。それより…良いのか?このままじゃ彼女、死んじまうぜ。負の感情に押しつぶされちまってな。それじゃ、俺はこの辺りでトンズラさせてもらうぜ」

「おい、待て!……行っちまったのか…」

突然動かなくなった栗山さんは急に黒い刃を自分の喉元に突きつけた。

「馬鹿な事を…するなッ……!」

どうにかそれを引き剥がそうと触れる。

冷たい。氷のような痛みのある冷たさではなく、金属のような、いや、死体のような無の冷たさだった。

━━━━

「うっ、うぅっ………」

ずっと啜り泣いていた。

ヤツの不愉快な笑い声だけが脳裏に響く。

生きる気力なんて湧くはずが無い。死んでしまいたい。

……死?そうだ、死んでしまえば良い。それだけでこの気持ちは消えるのだ。

自由になった右腕から血の刃を作り出し、喉元に突きつけた。

しかし、そこで刃は止まった。

なぜ邪魔するんだ。

勝手に人を苦しめて。

それなら、勝手に私が苦しみから逃れたって良いじゃないか。

…それでも邪魔するのか。なら、死ぬ前に殺してやろう。死にたいと思えるくらいに苦しめてから殺してやる。

━━━━

「クッソ…昨日の今日でこんなに迷惑かけやがって!」

「グアァァァ!!」

栗山さんの自殺を止めようとした途端に、栗山さんは僕の事を襲い始めた。

というか、二足歩行をしているとは言え、まるでNARUT〇の九尾化状態みたいな感じになって来てる。

この状況を打開する為には栗山さん自身が憎しみに、悲しみに打ち勝たなければならない。

そして、その為の策はある。たった一つだけ。

しかしそれは同時に最も辛い事を無理矢理させる事でもある。

 

人は、脳の記憶領域に無意識で強力な結界をかけている。

それに少し劣った結界を意識の部分に。

意識の部分の結界を解除させるのが名瀬家の白昼夢。

ここまで来れば分かるだろう。

記憶領域の結界を解除させるのが深山家の十八番、そのままの名前で「強制結界解除・極」としている。

それを使えば栗山さんの楽しかった記憶を引っ張り出して救う事も出来るのかもしれない。

しかし、それには希望と絶望を何度も往復させる可能性が付きまとうのだ。

 

「くそ…これしかないのか…?本当に、これ以外に方法は無いのか…?」

「グルアァァァ!!」

「ッ……!」

これ以上暴れている栗山さんを見るのはただただ辛かった。この暴走は考えられないほど深い悲しみから来るものだと思うと、胸が締め付けられるような気がした。

だから――

僕は唯一の方法に、可能性に賭けた。

しかしまだ問題はある。

この状態の栗山さんに近づかなければならないのだ。

せめて体の一部に触れていないと結界を解除させるほどの霊力は送れない。

様子を見て……3つの刃がそれぞれ、肩、首、心臓を狙い放たれた。

それを()()()防いだ。

今だ。

機会を見計らって栗山さんへと駆け出す。

再び何個もの黒い刃が放たれる。しかしそれを避けて意外にあっさりと懐に忍び込めた。

少しでも油断してくれたなら有難い。

そして、僕の手は彼女の左手を掴んだ。

━━━━

「ぐっ……」

何かを流し込まれている。嫌だとも心地いいとも思えない何かを。

しかし、もう一人の私はそれを過剰に拒否した。

私の腕を掴む男を執拗に突き刺す。

しかし男の眼から光は消えない。

それがまた嫌で何度も心臓を抉り取る。腸を掻き回す。

それでも彼は掴む手を離さない。

…やがて再び私に何かが触れた。

それは掴もうとしても私の手から離れて行ってしまう。

逃がしちゃダメだ。

そう思ってもそれは逃げていく。

…これは何なんだろう?

もしかして、これを与えてくれているのは目の前の男なのだろうか?

「…やめて」

私の憎しみは聞く耳を持たず、尚も彼を襲い続ける。

「やめて!!」

叫んだその瞬間、彼への攻撃は止まった。

同時に、私が光に包まれた。

━━━━

「よし!後は霊力を流し込めば…」

直後、ドスッという衝撃が僕の身体を揺らした。

腹に黒い刃が突き刺さっている。

「ぐっ……ごはっ…」

喉から血が逆流してきた。それをアニメのワンシーンのように吐き出すと、再び―今度は心臓を貫かれた。

意識を保てない。

そっと瞼を閉じたその時、声がした…ような気がする。

「君は…僕に似てる。その死にたくても死ねない呪いとでも言うべき能力が。でも、君の方が僕なんかよりもずっと強いんだ。

…目を開けろ。君のその能力は、人を守る為にあるんだろ?だったら折れるな。何がなんでも守り抜け。…未來を頼んだぜ」

「……分かったよ!」

目を開けて再び霊力を流し込む。

何度か体を貫かれるがもう気に留めない。彼女はもっと苦しい思いをするだろうから。

記憶領域の結界…解除。

喜と楽の感情を70%以上感じた記憶のダウンロード…完了。

ダウンロードした記憶の再インストール…完了!

「僕の…最後の復活を…君に…捧げ…る…よ…」

僕はその場に倒れ込んだ。

ひとまず…お疲れ様と言っておこう。




まだ地獄は終わってなかったんや……

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