境界の彼方 ~next stage~ 作:眼鏡が好きなモブ男
いずれ何を血迷ったか書き忘れたシーンを集めて投稿する予定です。
乞うご期待
「不愉快です」
その一言は、僕の停止しかけていた思考を再び動かすのに充分過ぎるほど充分な言葉だった。
まずどうするか。勿論決まっている。
「逃げるぞ!」
栗山さんの手を取り、近くの建物の中に入る事にした。
「あー…もう少し遅れてたらヤバかったよ。ありがとう。…にしても、なんで戻って来たの?」
「あの、先輩」
「?」
「そろそろ手を離してくれませんか?」
「うわああ!ごめん!」
今までの人生の中で最も速いんじゃないかというくらい早く、手を離すと、彼女は理由を話し始めた。
「敵を探して走っていたらドアを見つけたんです」
ピンク色ならどこで〇ドアみたいだなと言うのは流石にはばかられた。
「入ってみるとそこは迷路みたいにごちゃごちゃしてたので他のルートで行こうと思ったのですが、ドアを閉めてしまったのが運の尽きでした。
戻ろうとドアを開けるとそこにはまた迷路。
そこを抜けたら丁度ピンチの先輩が居たというわけです。これが主人公補正というやつですかね?」
「メタ発言は止めるんだ栗山さん」
「すいません。…それはともかく、あの人の能力が分かった気がするんです」
「能力?使ってたのか?!」
「確信はありませんが…『物体の質量を変える』とかその類かと。刃の部分が当たる寸前に握る強さを変えていたので」
言われてみれば、手なんて気にしていなかった。
刀身にばかり気を向けていて、凄まじい腕力があるとばかり思っていた。ならば、
「対策は打てる」
簡単な事だ。当たる直前に質量を変えているなら、その前に防げば…
そう考えていた矢先、凄まじい衝突音が鳴り響いた。
「逃げる?戦う?」
彼女は上を向きながら「行きましょう」と言った。
少々説明不足だったので今話すとしよう。
逃げ込んだこの建物は塔のように縦長で、大体マンション5、6階分の高さだと思われる。勿論階段があるので、そう簡単に捕まりはしない。
走り出すと、衝突音ではなく、破砕音が聞こえてきた。土煙の中現れたのは、勿論謎の銀髪女である。
手には今更驚きはしないが、拳銃を手にしていた。
毎度お馴染みの鏡で防いだものの、もう霊力は残っていないというのが本音である。
「早く早く早く!」
「あーもう、急かさないで下さいよ!」
「そんな事言ったって…そら来たぞ!」
僕の脳天めがけた銃弾は、見事に直撃する。…直前に紅い盾に防がれてそのまま勢いを失った。
「私だって守れるんですよ?えっへん」
「キメ顔は良いから早くしてくれ!」
死の危険が迫っているというのになんと緊張感の無い事だろうか。自分にツッコミつつ、新たな疑問が生まれた。
もう既に5分くらい走り続けている。逃げれる状況というのは良い物だが、明らかにおかしい。
そこで、自分の思考回路を疑うような可能性が浮かんできた。
「ドアを探すんだ栗山さん!」
「ここで先輩に問題です。目の前のあれは何でしょう?」
「ふざけてないで開けろーー!」
「言われなくても…!」
よし、間に合った。と思ったのも束の間、拳銃を持った少女がこちらに構えている。
「……」
「遺言は?って顔してるな。じゃあ言っとくよ。『もう二度と会いたくない』ってな」
扉を蹴り、勢いよく閉める。彼女の言っていた通りなら…
扉を再び開くと、もうそこに奴は居なかった。
どうやら逃げ切ったようだ。
しかし、目の前には永遠にも思える迷路があった。沈む心に鞭打って、説明をすることにした。
「栗山さん…恐らくここは…
君の追っているだろう妖夢の中だよ」