Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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日本よ、私は帰って来たあ。

2か月ぶりになりましたが、ちょっと海外で忙しくしてました。
マトモなネット環境は無いのでFGOも出来ず、帰って来て久々にログインしたら事件簿コラボを完全に逃してました。

無念。


Order.79 セイレムⅦ

 

 

「という訳で、今日は村に戻ろう。サンソンの考えも訊きたいし、あの村でしか答えは見付からないと思うんだ」

 

 昨夜の騒ぎから時間が経ち、俺達は()()()朝を迎えられた。

 何故わざわざ「無事に」なんて付けたか? それは勿論、その無事に朝を迎えられない可能性もあったからだ。

 その最たる原因がご存知シバの女王の存在。曰く、彼女のスキルには取引において公正厳重が約束される結界の作成が可能だそうだ。つまり、自分達が居る結界がそれだ。

 彼女とは1度森の中で口約束の取引を行ったが、この結界内で再度取引を行っている。これによって俺達や彼女への疑わしき挙動は全て見逃されることはなく公平に処理されるから、互いに手を出したくても出せないようになってる。

 のだが、俺は兎も角他の皆が彼女を信じたかと言うとNOだ。口ではああは言うけど、やっぱり本心ではね……。

 その結果、キルケーが面倒な事をしたから無事に朝を迎えられるか心配で……まぁ、話すと長くなるからそこは割愛しよう。

 シバの女王は悪くはないんだけど、彼女も彼女で強い女性の分類だから商売交渉のように引かないところもあるのよね。それがキルケーの悪いところとぶつかって……はぁ。

 まぁ、流石はあのサイコキャスターとして名高いメディア・リリィを鍛えた女性だよ。そしてそれをあんなにマトモに出来たイアソンにはホント感心するよ。

 

「それは構わないけど、かえって不味いことになったりしない?」

 

「マタ・ハリさんの言う通りです。私は現場を目撃していませんが、先輩達は死刑となったマタ・ハリさんの遺体を奪い、逃亡したのですから村のルールを破った者として罰せられる可能性も」

 

「その可能性、肯定。村到着の後即刻捕縛、大いに有り得る」

 

「だけど彼らにとって夜に襲い掛かる食死鬼(グール)を払い除けられる戦力は私達と僅かな警備隊──とは名ばかりの村の男が慣れない武器を持っただけの集団だ。昨晩の状況を見ただろう? 1日、2日と私達が食死鬼(グール)の対処を積極的に行ったから犠牲者が出たにしても多くはなかった。それが無いだけで彼らは無惨に殺され、食い散らかされる豚と同じさ。少なくとも、それに困らない人間は居ないだろう」

 

 キルケーがそう述べる。

 確かに昨晩の惨状は文字通り(むご)かった。仕方がないとは言え、彼らはあまりに無力。

 戦える男達はどれも農業道具か良くても原住民対策の銃が少し。しかもこんな恐怖になれていないから充分に力を発揮できずにいる。

 そんな状況下なら俺達の力は重宝されるだろう。

 

「それも、所詮は憶測の域を出ませんがね。ま、どのみち行かないとならないっしょ」

 

「ロビンの言う通りね。じゃあ私はここで休んでるから、後はお願いできるかしら?」

 

「うん。2時間後に出るから皆も準備しておいて。俺はちょっと休んでるよ。正直、調子が悪くて……」

 

「それでしたら是非休んでください先輩。目に見えて顔色があまり優れていませんし、マスターである先輩の体調は最優先です」

 

 マシュの心配しすぎな言葉にやや気圧されながらも重たい足取りでテントに入る。

 中に備えられたあまり柔らかくもない藁のベッドに倒れ込み、仰向けになって深い溜め息。疲労から出た物でもあるが、何よりその溜め息が出た理由は他にある。

 

「……爺ちゃん婆ちゃんの顔も声も……家も何処だったか覚えてない……何だろうな……はぁ……」

 

 記憶の欠落がまた酷くなってきた。

 シェラさんが居ないからという訳でも無さそうだけど、忘れるスピードが早まった気がする。でも最早何を忘れたのかすらも忘れてきてるから訳が分からない。

 誰かに相談したいけど、今の状況下でそれは悪手だ。余計ややこしくして任務遂行に影響しかない。

 どうしたものかと悩んでいたら、あっという間に2時間経っていた。困ったな……。

 まぁ、横になって目を瞑っていた分、少しは休めた筈だ。

 

「先輩、そろそろ時間ですけど、お体は大丈夫ですか?」

 

「──大丈夫、もう本調子だよ。行こうマシュ」

 

 こうしてマシュに嘘をついたのも、何度目だろう。流石に数えてないから分からないけど、いつから彼女に俺は──

 

 ◇

 

 村に着くと酷い有り様だった。

 食死鬼(グール)による文字通りの爪跡は村の至る所に見られ、また人にもそれはあった。

 顔や腕に噛み傷があっても助かった者も居れば、腹を開けられて朝までもたなかった者も居る。

 被害は目に見えて大きかった。

 

「……」

 

「今は考えるなぐだ男。オタクのせいじゃ無いんだからよ」

 

 あぁ──

 

「あの、先輩。今更なんですけど、アビーさんに全て話してしまって良かったんですか? 彼女も再現かも知れませんが、見ての通りまだ子供です。それなのにこのセイレムの現実を知らせてしまうのは彼女の精神に大きな負担では……?」

 

 マシュが問う。

 後ろで哪吒と手を繋ぎながらついてくるアビーを一瞥した後、俺はマシュに振り返りながら答えた。

 

「一応彼女には確認とってから伝えたよ。でもまぁ、確かに酷だよな……。それでも、何となくだけど伝えた方が良い気がしたんだ」

 

 本当に何となくそう思ったのだ。

 どうしてそう思ったのかは俺自身分からない。だけど、シバの女王が言っていた、このセイレムに於ける『役割(ロール)』が俺にも有るのだとしたら……何か重要な意味があったりするのかも。

 兎に角、なるべくその『役割(ロール)』に逆らわないようにしよう。曰く、『役割(ロール)』から外れると皺寄せが必ず来るとの事だから。

 昨日のマタ・ハリ処刑を妨害していたらマシュとは会えなかったとはキルケーも言っていた。

 と、色々考えている内にホプキンスが居る屋敷の前に着いた。

 警備の男に事情を軽く話し、サンソンの所在を訊くと屋敷の中にホプキンスと居ると言う。

 面会をお願いすると昨日の事もあったのに意外とすんなりサンソンを呼んでくれた。

 ──が。

 

「はぁー。サンソンの考えが分からない……」

 

 少し待ってたら出てきたサンソンだったが、「特に話すことは無い」「閣下の警護に集中させてほしい」とすぐに屋敷に戻ってしまった。

 ただし、シバの女王の事や隠れ家の事等共有しておくべき情報はメモにしてロビンがこっそり渡していたからそこら辺は大丈夫だろう。

 ……思わず呟いてしまったけど、サンソンはホプキンスの何かを知っている筈だ。それが何かは俺達は分からないが、ここはサンソンに任せるしかない。

 

「俺も分からねえですよぐだ男。話すことは無いってんだし、こっちとは別で行動するってんなら任せるしかないんじゃないですかね」

 

「まあね。俺達は今まで通り村に解決の糸口が無いか捜索。昨日の事もあるから、村人を刺激するのは絶対にNGだよ」

 

「はいよ」

 

 ロビンは哪吒と行動だ。

 前の件もあって船乗りのあんちゃん達と仲良くなったからそっちにまわってもらう。

 マシュはキルケーと一緒だ。俺と居るよりそっちのが安全だしね。ついでにアビーを家まで送ってもらう。

 マタ・ハリは当然ながら隠れ家に待機だ。怪我も癒えてないし、シバの女王ともっと密に情報をやり取りしてもらう目的もある。ま、大きな理由としては一応死人だからね。

 俺は色々皆と話して1人で動く。

 目的はラヴィニアとの会話。彼女はサンソンが気にしていたし、アビーを除いて一番面識があるのはサンソンだ。

 だから本当は彼に来て貰いたかったけど、それは仕方がない。

 

「彼女は恐らく何か知ってる。んー……どこから探したもんか」

 

 ◇

 

 少し時間は遡り、カルデアの一室。

 シェヘラザードから借りたパピルスの記録再生が終わって静けさを得たその部屋では黒と白のサーヴァント2騎が沈黙していた。

 

「………」

 

「……何なのよこれ……」

 

 黒いサーヴァント、ジャンヌ・オルタは無機質な床に転がったパピルスに向かってそう呟く。

 何もこれも、今まで記録を見せていたパピルス以外何物でもない。

 ただ、そこに入っていた記録はカルデアスタッフも把握してない……いや、もしかしたら把握していても手を出せない深刻な内容だった。

 マスター、ぐだ男の記憶の欠落。健忘症候群と言うにはあまりに時間の幅が大きく、バイタルサインを見ても彼の脳波や脳の状態は健康そのもの。

 しかし魔術や呪いで意図的に消されている痕跡も無いため、シェヘラザードは一番妥当なのは任務時のストレスによる記憶障害と断定していた。

 

「何よ……マシュにもダ・ヴィンチにも話さないで勝手に1人で悩んでひた隠しにして……馬ッ鹿じゃないの!」

 

「……本当に、ストレスによる記憶障害でしょうか……?」

 

「え?」

 

 白いサーヴァント、パッションリップが凶悪な爪の持ち主とは想像できない可憐な桜色の唇を少し震えさせながら言の葉を紡ぐ。

 名前の由来であるパッションフラワーにもチューリップにもこのような可憐な桜色はあるまい。

 

「いや、本当かどうかも分からないから消去法的にそう決められただけでしょ? それとも認識障害だった経験から何か分かるのかしら?」

 

「む……」

 

 ジャンヌ・オルタも苛ついているのか、パッションリップの爪を指差してそう語気を強める。

 内容はどうであれ、言い方に少し眉根を寄せたパッションリップ。しかし彼女は月の頃とは違う。

 苛立ちこそすれど、ジャンヌ・オルタへの怒りは角に追いやって彼女の眼を見て返した。

 

「苛立ってるのは分かります。けど、落ち着いて下さい。私に怒ったってぐだ男さんの症状は良くならないんです」

 

「──ぅ、うっさいわね! そんなの、分かってるわよ! …………その……悪かった、わよ……」

 

 ジャンヌ・オルタのぐだ男を心配する気持ちはパッションリップも良く分かっている。

 どうして自分達には話してくれなかったのだろう。

 そんなに無理をして自分の事を大事に思わないのか。

 そう言った色んな思いがぐちゃぐちゃになって、よく分からない怒りが少し溢れただけ。

 パッションリップも内心混乱はしてるが、自分以外に冷静さを欠いた人が居ると本当に自分は冷静になっていられるんだと既に落ち着いていた。

 

「……それで、さっきのはどういう事?」

 

「……」

 

 ジャンヌ・オルタが言う。

 パッションリップはそう思った理由を話そうとして──黙ってしまった。

 理由……知っているのは数人だが、ぐだ男は既に抑止の守護者。人理存続の為の刹那的な英霊であり、抑止力の力が及ばない特異点を攻略する為に遣わされた種火のような存在だ。

 常に座のぐだ男(ぐだ子)は更新を求めている。新たに死んだ彼、彼女らを都度抑止力が拾い上げて英霊に。座の本体と比べて優れていれば上書き。そうでなければ本体は2人も要らないので削除。

 これが意味するのは彼の死後の安寧が無いこと。

 こんなこと話せばどうなるか。そう思うとパッションリップは──

 

「──何となく……、です」

 

「何か隠してる?」

 

「い、いえっ! その、私も混乱してて……言葉が上手く出てこないんです……すみません」

 

「オルタさんと同じです」と付け加えるとジャンヌ・オルタもそれ以上の追及もしてこなかった。

 それからは沈黙が場を支配する。

 ジャンヌ・オルタも、既に秘密を1つ知っているパッションリップにとってもこの事実はそう簡単には処理できていないのだ。

 

「……アイツが黙ってた理由って何……」

 

「多分、こういう事態を招かない為、でしょうか……?」

 

「これだから脳筋は……っ。後になってバレた方がよっぽど騒ぎが大きくなるのが分からない何て、脳筋よ! の・う・き・ん!! どうせ頭の中スターを集めてバスターで殴る事しか詰まってないのよ!」

 

 その戦法をしろと言わんばかりのスキル構成と攻撃力をもったジャンヌ・オルタが言って大丈夫なのかという疑問は飲み込み、パッションリップはどうするかを思案する。

 このまま他に話を拡げると間違いなく混乱が起こる。何がどうなるかまでは想像つかないが、人類史に刻まれる程の偉業を成した人物達だ。

 ただ一言で「大変な事になる」と言えよう。

 

「オルタさん。この事は黙っておきましょう」

 

「……で、しょうね。私としては黙って嘘ついてたアイツが悪いからどうなろうと知った事じゃありませんけど、騒がれてこっちにまで被害が来るのはごめんです。アイツ自身にはどう対応するつもり?」

 

「ぐだ男さんには……打ち明けます。シェヘラザードさんに黙っているように言うのもなんだか可哀想ですから……」

 

「そう……じゃあ、これ返してくるわ。いい? アイツが帰ってきたら先ずぶん殴るから邪魔するんじゃないわよ。バスターの事しか考えてない奴にはバスターをお見舞いしてやるんですからねッ!」

 

 完全に苛立ちは解消できていないが、さっきよりは落ち着いた様子のジャンヌ・オルタがパピルスをポケットにしまって部屋を出る。

 自分の部屋ではないパッションリップもそそくさと部屋を後にし、BBにだけにはバレない様にしないとと気配遮断で人気の少ない道で自室へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……パッションリップにも困ったものですねぇ。別に普段通りしてれば良いのにわざわざ怪しい行動するんですからバレバレじゃないですか。ま、そんな事してもしなくてもこのBBちゃんはかつては月でブイブイ言わせた保健室NPC(の同型機)。契約関係のマスターの状態把握なんてカルデアの技術じゃ無理でも私なら閉じ込めるより簡単なのでした~。──でもホント、お馬鹿さんですね。自分がどこまで壊れているか分からないままひたすら走り続けて──あぁ、そうでした。壊れてると分かってても止まることを考えないなんて、暴走したAIの方がまだマトモなんですよ。センパイ」

 

 ◇

 

「頼むよ! あんた達が仲間の死体を持って行ったのなんてどうでも良いんだ! このままじゃ俺達皆喰われちまう!」

 

「分かってます。私達もお世話になった皆さんを見捨てて逃げたりはしません。今夜も食死鬼(グール)相手に無理はしないでください。先ずは戸締りをシッカリと。窓も板で閉じて侵入を防いでください」

 

「戦える男共はどうする?」

 

「聖句が効くなら聖句を唱えてください。それで少しでも動きを鈍らせておけば戦いやすくも逃げやすくもなります。必ず何人かで1体を相手してください。2体以上は危険なので逃げるように。私達は旅で賊にも襲われる事も多かったので戦いは慣れています。基本は私達に任せてください」

 

 夕方。

 結局ラヴィニアを見つけることは叶わなかった俺はじきに食死鬼(グール)が現れることに恐怖した村人たちを落ち着かせている最中だ。

 昨晩の事もあったが、大体の人達は俺達『ぐだ男一座』の戦力をあてにしている。

 意外にもホプキンスが何も言ってこないのは気になるけど、取り敢えずは村人を助けて明日に繋ぐんだ。

 ……それにしても、今日も丘では処刑されている人が居るのか。こんな事態だと言うのに、ホプキンスは何を考えてるんだ。

 

「こっちの仕込みは完了だぜぐだ男。ほら、雑貨屋のお嬢さんから貰ったパンでも食って腹満たしときな。中々旨いしな」

 

「お。ありがとうロビン。……あー、良いねこの甘味。少し冷えてても食感はバッチグーだ」

 

「確かにそこいらのパンより旨いよな。ちょっとお茶でも飲みながらレシピでも訊いてみますかね」

 

「ナンパしたいだけでしょー? ま、別に構わないよ」

 

 食感は良いが、食べても味は微塵も感じない。甘味? 匂いは生きてるからそれで何となくだ。

 もし嗅覚も死んでたら完全に精神がやられてた。……正直、最近嗅覚もちょっと怪しい気がするけど。

 

「ますたー! 妖気増大、邪気充満! 戦闘開始の許可、乞う!」

 

「哪吒もロビンも持ち場で戦闘開始!皆さん! 食死鬼(グール)は日に日に増えてます! 数に圧されて逃げる場合はあっちの船へ!」

 

 唾液を吸ってふにゃふにゃになったパンを飲み込み、スポンジを食ったみたいな錯覚におえっとなるが、槍を構えて深呼吸をすればたちまち気分が落ち着く。

 改めて考えてみると、普通は「マスターを守れ!」なのに「マスターも前線で各個撃破だ!」となるのは良いのだろうか……。

 そもそも聖杯戦争で何が正しいかなんて無いか。

 生憎俺は魔術師じゃ無いしな。魔術が駄目なら槍。槍が駄目なら殴れば良い。その為に鍛えた筋肉だ。

 

「ふッ!」

 

 


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