Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
更新頻度が亀過ぎるッ! だけど続けるよ!
人が襲われている。
悲鳴を上げ、逃げまとい、
俺はそんな風に襲われる人達を助けるようにとロビン達を向かわせた。だが、やはり数が足りない。
現に救いきれず何人もの遺体を尻目に森の中まで走ってきた。
助けられたのに……俺は見捨てたんだ。
「気にする事はない。どのみち彼等は再現だ。元のセイレムの住民じゃないんだ」
「キルケー。オタクはカルデアで過ごした時間がほぼ無いから分からないだろうが、ぐだ男はそう言う男だ。今更なんであまり周りの奴らも言わんけども、そういった所を知ってカルデアに協力してくれるのが殆どだ。初めて会ったときは殺しに来たサーヴァントであってもな」
「だろうね。それは今日まで見てきて分かっているよ。だからハッキリ言わせてもらう。自惚れるより現実を見ろ。確かに君は凄いさ。だけど目の前の人を誰でも“自分なら”救えたなんて勝手に思い込んで勝手に後悔するのは自分も周りも見ているようで見ていない愚か者の言葉だ。現実を見て何が一番重要なのか見定めて、“大”を為す為に“小”を切り捨てる。分かるかい? 今の君にとって“大”は己の命──この特異点を修復してセイレムの人達を救うの君の任務だ。そして“小”は再現で創り出された偽りの民達。救っても救わなくても後に影響を及ばさない宙に浮いた要素だ。そんなもの、天秤にどうやってかけるって言うんだい」
……分かっている。
ついこの間、下総でも自分達の命の為に村1つ分の人達を見殺しにした。それがどんなに悔しくて、どんなに自分が情けなくて、どんなに
そんな事があって間もないなら誰も彼もを救いたいと願うのは当然の事だ。
俺だってキルケーの言っている正しさは充分分かっている。──だけど俺は話に聞く時計塔の魔術師のような価値観でも、過去の英傑や神みたいな価値観でも無い。ただの人間なんだ。
「キルケーは正しい。だけど俺は──」
「ストップだぐだ男。……どうやらここら辺は
ロビンの言葉に皆一斉に身構える。群がってきた
俺は背中で大人しくなったマタ・ハリと怯えるアビーを庇うように重心を落とした。しかし逡巡。アビーにバラしても良いのかと。
……ここまで来たらアビーに俺達が魔術を使えると知られても構わない。右手にゲイボルクを喚び出そうとして、尻の刻印を叩く。
刻印を通じて魔術回路が励起。瞬く間に右手にゲイボルクが召喚された。
「キルケー! ロビン! 哪吒! ここを切り抜けるぞ!」
「任せてくれ
「いや、キルケーは程々で。森が燃えたら大変だ。哪吒も火(過)力厳禁ね」
「座長さん……? 今どこから槍を……」
「ごめんねアビー。俺はね……魔術師なんだ」
キルケーが炎の魔術で近くに居た
もしもの為、なるべく魔術の跡を残してほしくない。だから程々にするように言ったのだが……随分派手な魔術だ。あれで燃え移ったりしないのだろうか。
「キルケーさんが魔術を……座長さんも……」
「……」
突然魔術が飛びまくるようになった森。しかも炎の魔術一撃であれだけ対処に苦労していた
俺の上着を掴む手は震えていて、その問いに対して答えを待っている。そりゃそうだ。普通に生きてたら魔術なんてもの目にすることも体験することもないんだ。
俺だって全く魔術を知らなかった始めの頃にそれを目の当たりにした時は現実とは思えなかった。そんな俺もこうして誰かにその体験をさせる側になるとは……良くも悪くも感慨深い。
「正確には魔術
「座長さん達の秘密……」
「マスター! そっちへ行ったぞ!」
「きゃっ!」
一際動きの良い
アビーに魔術使いと言った手前、見せるのは魔術よりも遥かに得意な槍術。持ち手側で
流石に怯えてその一連を見ていなかったアビーみたいだったけど、音で何となく襲い掛かってきた
「──綺麗……」
分かりやすく強化の魔術で両腕に淡く光った魔術現象を見てアビーがそう漏らした。
あぁ……良かった。怖がられたらどうしようかと。
「俺の後ろに。キルケー、数は?」
「どんどんお代わり追加されるから減らないね! いや、寧ろ増えてきたか。うわっ、危な! もう森を焼け野原にしても良いかな!?」
「駄目だよ!」
「けどこの数はちとヤバイぜぐだ男。逃げる準備しておけ」
「後退推奨。あびーの安全確保したい」
「──では、私の出番ですねぇ」
声。それは変に語尾が締まってない女性のものだが、それでいながらどこか気品を感じさせる。
忘れがちな俺でも、すぐに思い出せるその声の持ち主は森の闇の中だったけどアビーはすぐにその名を叫んだ。
色んな感情がない交ぜになった声……しかして近くで聞いていた俺には再開の喜びの声音を強く感じた。
「ティテュバ!!」
◇
突然だが、流石の俺も褐色ケモミミ巨乳サーヴァントは初めましてだ。
いや、それこそカルデアには似たようなサーヴァントが多く居るから、そこに変に反応したりもしない。のだけれど……立ち振舞いと言うのだろうか。カーター邸に居た頃よりもっと
確かに、彼女が使役している殴るフォウ君みたいので助けられたし、何よりアビーへの態度が親愛のそれだから敵である確率は無いだろうけど……誰かに似てるんだよなあ。
「君はあの場で死んだものだと思っていたけど……それも偽装なのかい?」
「いいえ。私自身意図してこのような形で再会できたのではありません。ただ訳が有るのだとしたら恐らく私が──っと、どうやらここもまた騒がしくなりそうですねえ。こんな所で立ち話も何ですから、私の隠れ家へどうぞお」
「そんな事言って罠に誘い込まれてお陀仏しちゃ笑えねぇな」
「座長さん……私」
「分かってる。ティテュバ、案内をお願いしても良い?」
「ちょっ、おいぐだ男! この女はキャスターだぞ!? サーヴァントだぞ!? 工房に誘い込まれたら一瞬で存在証明を消し飛ばされることだって──」
「畏まりましたあ。話の分かる
適当に自称大魔女を宥めてティテュバについていく。
俺との付き合いが長いロビンは「じゃあ何時も通り適当に警戒しますよ」といつものやり取りで後ろに。
キルケーは「乳か! あんな脂肪が良いのか!」と意味不明。
哪吒はティテュバを始めから疑っていないアビーを信じて文字通り矛を収めてついてきてくれた。
しかしティテュバが真名とは思えない。
「ティテュバ。1つ、教えてもらいたい」
「どうぞ。その代わり、お代は頂きますよお」
「何を出せば?」
「今回は状況もあるのでぇ、私への信用、でしょうか」
「乗った」
「交渉成立。では私の真名を告げましょう。私はシバの女王。もっとちゃんとした名前はあるのですが、サーヴァントとしてはこちらで登録されているのでそう名乗らせていただきます」
成る程。シバの女王と言えば俺達も芝居でやった。
ならばその名前が適切だろう。残るは──
「……マタ・ハリ的にはどう思う?」
長いことおぶっている背中の女性に投げ掛ける。
顔を振り向いて様子を伺う事は出来ないものの、密着している体の動きで彼女が顔をあげたのが分かった。
「……私も彼女についていくのに賛成よ。体が怠くて動けないもの。安全地帯ならそこで横になりたいわ」
「え!? マタ・ハリさん!?」
「やっぱりか。ぐだ男に余裕が見られたんで仮死状態かなんなのかと思っていましたよ。なぁキルケーさん」
「む? 何だよその嫌みったらしい言い方は。あの時ネタバラシしたら緊張感が無くなるじゃないか。それにせめて森に逃げきるまでは纏めて騙さないと危険だったからね。因みに
まぁ、俺もマタ・ハリの言葉(読唇したもの)で何かしている事は気付いていた。ただ、確信は無かった。
きっとキルケーが仕掛けた何かで彼女が助かるかも知れない──情けないけど、俺はそんな僅かな希望にすがってあの場所に立ち、吊るされる様を見ていた。
だからマタ・ハリが魔力を求めて血を啜った時は言葉とは裏腹にとても安堵して、思わず彼女の太ももを抱え込む腕がそれの反動で震えていたのは内緒。
「それにしてもごめんマタ・ハリ……俺の魔力──血を啜らせてしまって……」
「確かに血なんて美味しくもなければ喉越しも最悪。あれなら消毒用エタノールの方がマシね。けど……そのお陰で私は生きられたわ。いくら仮死薬を使っても体へのダメージはあるから、ありったけの魔力で首の骨の回復に当てないといけなかった。私は元々魔力量もなければ強いサーヴァントじゃないから、ね」
「エーテル体なら魔力で体を再構築するから良いけど、受肉状態とあっちゃ話は別なのか」
首こそ治っても体全体に脱力感があるマタ・ハリ。
後ろのキルケーに後で彼女の治療を任せるとしよう。
「よっこいしょ」
「……ねぇ。私重くない? 大分血も魔力も吸っちゃったけど」
ちょっとした段差を乗り越える時に「よっこいしょ」と言ったのが気になったのだろうか。小声で囁やかれた左耳に
彼女の体重は確か随分前にステータスを確認したときは49kgだった筈。であればその程度はこの筋肉にとって重たい内には入らない。
だから、そんな事ないよと返す。ただの口癖なんだ。
「……ふふ。優しいわねぐだ男。けど──女性の太ももにそんなに強く指を食い込ませるのは減点。柔肌を味わいたくなったのかしら?」
「あ、ごめん……気付かなかった……」
「そうだろうと思った。気にしないから大丈夫よ。所で、さっきから何か言いたげそうにしているアビゲイルを放っておいて良いの?」
「え? あっ、ごめんアビー! そうとは気付かないで……」
「そんなっ、気にしなくて良いの座長さん。確かに色んな事訊きたいけど……何だか座長さんが別人になったみたいで……」
「そりゃあそうですよお嬢。何しろぐだ男は村では丁寧な物腰でそれこそ座長らしく貫禄充分で振る舞ってるが、実際はマタ・ハリやオレらの
「……っ」
そう言われると恥ずかしい。
他人……ましてや人類史に刻まれた英雄から誉められるなんて特にそうだ。
「人類史……人の歴史を?」
「そうよ。実は私達は──」
◇
──鼻☆塩☆塩。
あれは今から360000……いや、16000回前だったか……まぁいい。
俺にとっては遠い過去の出来事だったが、君にとっては多分……これから先の出来事だ。
暗い、暗い闇の奥底。
視界に映る物は一面の闇で覆われ、一寸の先すら見通せないそこに男の人の声が響いた。
立っているのか座っているのか、歩いているのか走っているのか、前後左右上下あらゆる情報が殆ど確認できず、どうにも浮遊感が気持ち悪い。
しかし響く声は何とも不気味さを感じさせるものではない。寧ろ安心すらさせる。一体それが何故なのか考えるものの、夢というのはそう上手くいくものでもなくて自分の中の名前すら出てこなかった。
この声も知っている筈なのに……兎も角埒があかない。
私はこの奇っ怪な場所を調べる為ゆっくりと声の方へ歩き始めることにした。
──と言っても、彼には覚え切れないほどの旅路があったかし俺もここに居るのも何回目か……記憶が磨り減って分からなくなってるから何を話したものか……。
声は悲しそうにそう言う。
一体何をしている人なのだろうか。記憶が磨り減るなんてまるでサーヴァントの方々みたいだ。もしかして貴方はサーヴァントなのですか?
──急に
さて、その問いに対しての返答はNO……でありYESと言っておくよ。
何しろ、俺の役割は他のサーヴァントの皆みたいに立派なものでも無いしそもそも英雄でもない。それっぽい力と役割を与えられてここに居続けるだけだし。
……声は一向に近くならない。いや、そもそも声の方へ歩いたは良いが本当に進んでるのだろうか。
と言うか鼻塩って何でしょう……。
──ルシフェル知らない? そうだよね……マシュもそこまでは知らないよね。ごめんごめん。久々に話をしたから嬉しくて。
まぁ、それは置いておいて。…………君は早く帰った方が良い。
ここは……そうだなぁ……一種の座みたいなものだから、夢でも迷い混むのは良くないよ。
そうだ。思い出した。私はマシュ・キリエライト。当たり前の事を忘れていたなんて……夢はいつ見ても不思議なものです。しかし、貴方は何故私の名前を?
──大切な後輩だから覚えてるさ。何度世界を救おうと、何度世界に殺されようと、何度自分の死を味わおうと………俺はこれだけは絶対に忘れない。
どの俺も長くは生きられないから、いつも泣かせてしまう。ただの1度も残酷じゃない別れは無い。
だから俺は今度こそ、俺がマシュに辛い思いをさせないようにと願いながらあの
だからマシュ…………今度こそ──
……まさか、貴方は──
──時間か。
さよなら、俺が初めて会うマシュ。どうかこの事は夢だから忘れてくれ。
俺だって忘れられるのは寂しいけど……同情してほしくて話したんじゃない。認めてほしくて話したんじゃない。分かってほしくて話したんじゃない。助けてほしくて話したんじゃない。
一方的で悪いけど、君にこうして話す事で俺の活力になるから。
………ふっ、はっはははは! こんな所でまで湿らせるのはごめんだぜ! さらばだ!サラダバー!
サラダバー……!
ラダバー…………。
バー……………バー………………
声が遠ざかる。
待って、行かないで下さい!
訊きたいことがあるんです! だから待って下さい!
先輩ッ!!
「………ュ、…………、マ……、マシュ…………」
「──ぁ」
「マシュ。良かった……無事で」
「せん、ぱい……?」
簡易的なテントの隙間から差す光に眩しさを覚えながら、深く暗い何処かから意識が浮上。覚醒して自分が先輩に起こされているのだと理解する。
そうだ。ここは私を助けてくれたシバの女王の隠れ家。結界で守られていて
先日カーター氏と別れて森で迷っていたところを助けて頂き、何とか先輩達の所に戻ろうと体力を回復すべく休んでいたらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
「お、おはようございます先輩」
いつもは先輩を起こしにいく立場なのに、今はこうして逆に起こされている。
それに先輩達がどうやってここに辿り着いたのか。アビーさんは、マタ・ハリさんはどうなったのか色々と訊きたいことがワッと出て来て、それを抑えた為か変にぎこちない挨拶をしてしまった。
それに先輩を見ると何か伝えないといけない事があると思うのに……それが全く出てこない。と言うより、始めから伝える事は無かったのでは……?
「マシュ? 大丈夫?」
「すみません……お恥ずかしい事に、寝起きでどうも頭が回らなくて……先輩こそ、色々と大丈夫でしたか?」
「お陰様で。マタ・ハリは助けられたし、シバの女王とも協力関係になった。これから彼女と話をするんだけど、マシュも加わった方が良いと思って起こしに来たんだ。もう良い時間だしね」
ここには時計はない。
しかし太陽である程度の時間は割り出せるし、先輩もそのスキルを既に得ている。これも何だかんだ言いながらも教えてくださったロビンさんのお陰です。
「あぁ、寝坊とかじゃないから安心して。別段急ぎじゃないし、準備が出来たら向かいのテントに来てね」
「分かりました。ありがとうございます先輩」
何て事はない、カルデアの日々と同じ様な挨拶。だけど、その何て事はないやり取りに私は何故か強い喜びを覚えていた。
命の危険があったものの、無事再会出来たから? ……そうじゃない。考えてみてもピンとこない。
──止めましょう。先輩は急ぎではないと言っていたけれど、待たせてしまうのは良くない。それにこれ以上先輩達に迷惑をかけるわけにもいきません。
やや乱れていた髪の毛を直し、テントの骨組みに引っ掛けていた上着を羽織る。
メイヴさんにもっと身嗜みを気にしなさいと言われる所でしょうけど、任務中はそうはいきません。今までだって特異点に赴いた時はこんな感じで気にする暇は無かった。
……悲しい事に、最近は先輩と一緒に特異点に行くことが無くなったのでこうした状況は久し振り。体を綺麗に出来ないのに物足りなさを感じないと言えば嘘になります。
今、少しでも先輩にちゃんとした私を見て欲しいと思ったのは……任務には持ち込んではいけない事なのでしょう。ましてや無理に同伴したのにそんな事を考えるなんて先輩のサーヴァント失格です。
「しっかりしないと」
油断は命取りになる。特にこの狂気が蔓延してきたセイレムでは。