Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
私は頑張ったわ。
ジルの提案で私以外全員偵察に回して狙撃は私1人。けど、それでもあの男には勝てなかった。
じゃあ皆で焦土作戦と意気込んで全てを焼き払ったけど、今度は格好の的過ぎて早々に決着。
思いきって私も偵察と思ったけど、抜き足差し足忍び足は私には合わなかった。
結果……どう頑張っても本職には勝てない。これを認めるのはまるで贋作が劣っていると言われているようで嫌でしたけど、無理なものは無理。
「あぁー……やっぱりぐだ男の援護で居るのが1ば──はっ!?」
独り部屋でゴロゴロしながらそんな事を呟いているといつの間にか忌まわしい聖女サマが笑顔でドアの前に立っていた。
アンタいつからそこに! て言うかノックしなさいよ!
これだから脳筋は!
「そんな大声だしては他の部屋の住人に迷惑ですよオルタ。それよりこれからエクストラクラスの集いがあるんですけど、貴女もどうです?」
「……ナニソレ。そんなの聞いたことも無いんだけど……」
「この間出来たばっかりなんです。ほら、アルトリアさんも増えすぎた自分との不毛な争いを避けるべく、時折アルトリア集会をしてお互いの──」
「いや、あれと比べるのもどうなのよ……で、何をするのそれ」
どうせ下らない事なんでしょうけど、一応訊いてあげますか。下手に即答で断ると「そんな事言わずに」って何だかんだ聞かされるのがオチよ。
「あ、興味が湧きました? 実はですね、エクストラクラスの方って個性的な人が多いじゃないですか」
「そうね。アンタも充分個性的よね。聖女の癖して大砲ぶっぱなすのが好きな脳筋ですもの」
「? だって
そも発言が考えてないでしょ。何その強い武器は強いって。頭痛が痛いみたいになってるし。
「で、個性的な人は一杯居るけどそれがどうかしたの?」
「あ、はい。それで、個性的な人が多いとお互い何となく近寄りがたいって雰囲気も出てしまうので、少ないエクストラクラス同士仲良くしたいと思って企画してみました」
「まぁ、至って普通? て言うかアンタが企画したのね」
こう言うときの行動力は侮れない女……。何だかそう言うところはぐだ男も似てるし、もしかして同じ脳筋だから喚ばれたんじゃないの?
しかしまぁ、繰り返すけど本当に普通な思い立ちね。別に仲良くしなくたって互いに攻撃しあうことも無いんですから要らないでしょうに。
「いいえ。私達は少ないエクストラクラス同士。他のクラスの皆さんも定期的に集会しているみたいですし、私達もやっておかないと。と言うかやりたかったので」
「……面倒。私今日の夕方からバイトだから寝る」
「バイトを? 何で?」
「はぁ? 普通自分の小遣い位稼ぐでしょ。もしかして……アンタまさか……ぐだ男から未だに貰って……」
「? だって月1でくれるのでそれで遣り繰りしてますよ」
情けない! この女は本当に情けない!
もう子供じゃないのにいつまでもお小遣い貰って満足してるなんて……アイツが毎月お小遣いをサーヴァントに配る為どれだけQPを削っているのか知らないの?
え? そもそも年齢的には私も子供? 喧しい! 私はサーヴァントとしてはまだ何年も経ってないけど、精神年齢はとっくに大人よ。だからコンビニでバイトだって出来るんじゃない。文字も書けないザコとは違うのよ。ザコとは。
「って、行きましょうよオルター。まだバイトまで時間あるじゃないですか。それにしてもカレンダーにしっかり書いてて……真面目な妹で安心です」
「誰が妹か! 私は行かないからね」
「えー。あと参加してないの貴女だけなんですよ?」
「………マジ?」
あの変人の巣窟であるルーラーはまぁ分かるわ。けどアヴェンジャーの面子が参加ですって?
ロボとかゴルゴーン辺りは絶対無いと思ってたけど……。
「……本当はマスターに頼まれたんです。アヴェンジャーは孤立しがちなので、せめてエクストラクラス同士で仲良くしてもらいたいと。だって、折角のカルデアライフを楽しまないと損じゃないですか。もう二度とないかもしれない、とても小さな奇跡を」
「余計なお世話よ。私は復讐者で人を憎むもの。アンタは裁定者で人を救う聖人。私の様な憎悪の塊とつるんじゃ聖人の格ってものが損なわれるわよ」
「心配してくれるなんて、やっぱり貴女は優しいですね。なら尚更参加しましょう! さぁ早く!」
「イダダダダ! ちょ、引っ張んないでよ!」
◇
エクストラクラスと言えば何が思い浮かぶでしょう。
この世界じゃ人理が不安定になっているし、ゆらぎが多い事もあってそんな普通は召喚されないクラスがぽこじゃが出てくるのは仕方がないけど、まさか世界を救う組織に召喚されているルーラーよりアヴェンジャーが多いってどういう状況よ
復讐者の癖して後方彼氏面だったり怨天大聖だったり最早犬だったり性的捕食対象にしてたりだったり復讐者って一体……。
「皆さんよく集まって下さいました。今日はマスターの要望もあって漸くエクストラクラスでの集会を行えます。他のクラス集会では戦略の事を話し合ったり愚痴ったりと集会と言っても自由に過ごしているみたいなので私達もゆるーく行きましょう」
「俺を呼んだ割には平穏な会だな。だが良いのか聖女よ。俺は復讐の焔で己の身を焦がす者だ。そんな俺がここに居続けるとどうなるか……分からぬ訳でもあるまい」
……こうして改めて客観的に見ると、私ってたまにああいう面倒くさい事言ってるのね……。無性に恥ずかしくなってきた。
「まぁまぁ、俺は誘われて嬉しかったぜ後輩。何せ俺達アヴェンジャーはどいつもこいつもカワイソウな末路で歴史に刻まれちゃった、はみ出し者だからなー。ひひひ、そんな中でも大先輩で素っ裸の俺が素直になれない後輩達に先陣切る様を見せる訳よ。てな訳で改めて自己紹介とさせて頂きますぜ。メタ的に最初のアヴェンジャー、お呼びとあらば即参上。名前は無いが名乗りはできる。アヴェンジャー、アンリマユこの世全ての悪。兎に角弱いから仲良くしてくれよー」
「改めてよろしくお願いしますアンリマユ。貴方も大変な生涯だったと聞いてます。そんな貴方が参加してくれたのはとてもありがたいです」
「あらあら、こんな俺ちゃんの何の楽しくもない人生気にしちゃうなんて眩しい聖女様じゃん。なのに何で妹さんはあんなに素直じゃないんですかね?」
「いや、根底ではやはり彼女なのでしょう。ほら、やっぱり脳筋な所とか」
「流石分かってるねぇ。世界は違ってもやっぱアインツベルンに召喚されたもの同士ってところか」
アンリマユは何の抵抗も無くルーラーの面子と会談し始める。
流石というか、やっぱりというか、アイツ前に天草四郎の鋼メンタルで手段を選ばない所が苦手って言ってたけどそんな素振りは一切ない。
先輩ってこういうものなのかと思っていると、他のアヴェンジャーからも談笑が始まった。以外にも話し始めたのは一番新人のアヴェンジャー、ヘシアン・ロボの首無しの方。
彼はノートパソコンに凄い速さで文字を打ち込み、それを合成音声で出力してスムーズな会話を確立させていた。今まで筆談だったから、それよりも早い方に切り替えたんでしょうけど、滅茶苦茶早いわね。一体どこで学んだのか気になりますね……少し訊いてみようかしら。
「ねぇ、その技術力どこで得ました?」
『これですか? タイピング力はティーチさんから。PCはレオナルドさんから頂きました。これのお陰でコミュニケーションが楽になり助かってます』
「へぇ。便利な物ですね」
「あぁー、成る程。道理で黒髭さんのサーバーからデータが盗めなかった訳です。私てっきりカルデアのファイアーウォールに負けたのかと思ってましたけど、あのネットの海賊かなりのハッカーでもあるって事ですか」
「BB……また何かやらかそうとしたの?」
「この前ぐだ男さんがロリ化してアへ顔wピースキメてた時の映像を入手して玩具にしようと思って彼のサーバーに侵入しようと頑張ったんですけどぉ、逆にこちらの中枢に侵入されかけたのでBBちゃん的に凄く悔しいですが撤退しました」
そういえばそんな事もあったわね。たしかこの間……ぐだ男が性転換を完璧なモノにしたとか言って、息を吸うみたいに早変わりしていたっけ。
それで原因不明の突然ロリ化。小学4年生くらいになったアイツに魔力供給とか言ってクロエが攻め立てたんだったわ。その時のあらゆる情報は抹消されたって話だけど、まさか黒髭が隠し持っていたなんてね。
でも何でそれならぐだ男に言わなかったのこの自称小悪魔は。
「えー? あ、もしかしてぐだ男さんのそういったモノって裏で高値で取引されているのご存知ないんですか? この前はぐだ男さんのお風呂上がりのタオルが2500万QPで落札されてましたよ」
「ぐ、ぐだ男さんのタオル…!? BBそれってどこでやってるの?」
「きゃー☆ リップたら欲望に素直でBBちゃん心配です。でも教えちゃいますねー。詳しくはここのURLで主催者の『
「私、今初めてBBに感謝しました……!」
「えー……」
アルターエゴ勢も話に乗ってきた。内容は些かカルデアの治安が心配されるものだけれど……それってもし私がアイツの女装写真とか売ったら結構な金額になるのかしら。
でも大分前だし、他にも出回ってるから価値は低そうね。ぐだ男も私物が無くなったりして大変そう──ていうか、何で私がアイツの心配なんかしないといけないのよ。別にどうでも良いし。
「そんな事して何が楽しいのよ全く……」
「んもー。メルトは相変わらず目に見えるツンデレでオリジナルの私も恥ずかしくなるレベルです。考えてみても下さい……ぐだ男さんの私物ともなればそれは最早聖遺物。普通はサーヴァントの召喚に使う術式を弄ってそれを使えば、過去現在未来のぐだ男さんを自分のサーヴァントとして使役できるかもしれないんですよ(大嘘)」
「いや、流石に無いだろうそれは……。アイツは英霊になれるような力を持っていないだろう」
前に誰かがそんな話をしていた気がする。
内容は今ゴルゴーンが話した通り、ぐだ男が英霊に召し上げられるのかどうかと言う疑問。私は聖杯から生み出されて何とか霊基を底上げしたから召喚されたでど、アイツにはそんな特別な力なんかは無い。精々槍が巧いのと眼ドと筋肉位なものだ。いつも使っている魔術も、結局は礼装のお陰で何とかなっているだけ。ルーン?そういえばこの前は新しいルーンとか言って発酵……違う、発光のルーンで指先を光らせていたわ。ETかっての!
兎も角、アイツが英霊になるなんて言ったらそれこそ世も末って事でしょう。
「……」
「ん? どうしたリップ。腹でも減ったか?」
「ぁ、い、いえっ。ちょっと考え事を……大丈夫ですゴルゴーンさん。私、こう見えてもゴルゴーンさんよりは食べないので、さっきのお昼で満足してます」
「……あ、あぁ、そうだな……私はよく食べるものな……はは……」
あー。確かこのナリで体重気にしてたっけこの女。
カルデアじゃ衣食住が平等に与えられているから忘れがちだけど、私達サーヴァントも暇だからって食っちゃ寝してたら太るわけよ。エーテルの疑似肉体だけど、天性の肉体や黄金律(体)を持たない私達は食事で魔力を貯め込み過ぎると外見に出てきちゃうし、ゴルゴーンみたいに体型が気になるサーヴァントも多い。
私はそんなスキルが無くても、内に燃え上る復讐の炎で常に余分な脂肪は燃やしているので安心ですが。
「第一、そのサイズで体重気にしたところで意味がないでしょう。自身のステータスにも体重を??で載せてる様子から、私は重たいですって公言しているのと同義よ」
「……何だと? 貴様こそ、その体つきで体重が44kgなんぞ鯖読みと公言している様なものであろう」
「そ、そんな事はありませんとも。普通よフツー」
「そうか……BB。貴様のステータスと比べてやれ」
「えー。私なんかのスリーサイズ見ても面白くないですよ。私はちゃーんと正式なステータスで申請してますから」
「そう言うところは真面目よねアンタ」
「都合良く身長に脚は含めても体重には含めないメルトとは違いますー。はいどうぞ」
パチンと指をならしたBBの横に彼女の顔くらいのサイズの空中投影ディスプレイが表示される。
流石はデジタルサーヴァントらしい演出ね。で、問題の体重は……。
「身長156cm。体重46kg。スリーサイズが上から85、56、87……」
「で、こちらがジャンヌ・オルタのステータスでーす」
「あ、こら!」
アヴェンジャーに強いムーンキャンサーだからって強気に出てるわねこのバグ女!
「身長159cm。体重44kg。上から85、59、86か。BBは普通よりやや下で、お前に関しては痩せすぎだ。なのにスタイルもほぼ同じ……やったな?」
「やってないわよ! 私はありのままの数字でちゃんと書いたわよ!」
「測ったのか?」
「──ぇ、えぇ。当然です」
『心拍数の上昇と表情筋の僅かな乱れを感知しましたので嘘ですね』
コイツッ! 顔どころか頭が丸々無い癖に人の事事細かに観察して凄く──えぇと……不愉快! お陰でうまく言葉が出てこないわ!
「は、測ったのは私じゃなくてアイツよ。私はアイツの別側面だから同じステータスなの。あのムカツク騎士王様もそうでしょ?」
「え? オルタまさかステータス詐称を……? それはサーヴァントとしてマスターからの信頼を失う、良くない事ですよ? マスターに謝るなら一緒に行きますから、正直に話して下さい」
「止めて! そんな可哀想な者を見る目は止めなさい! 後私はアンタのステータスを見たまんま書いただけだから! アンタが詐称してるんじゃないの!?」
「そんな……! お姉ちゃんを疑うんですか?」
「誰がアンタの妹よ……兎も角、疑うなら体重計でも何でも出しなさい。今ここで数値に嘘がないって証明してあげます。……白いのが」
「え!? ちょっと待ってください!」
白いのが体重計を持ってきたアンリマユの両肩を押さえる。それだけでアヴェンジャー……サーヴァントとして貧弱過ぎる彼の両肩はミシミシとヤバい音を立てて必死に危険を知らせる。
だが彼女は知ってか知らないでか妙に焦った様子で彼の体を揺さぶりながら続ける。
「その……私のステータス、確かに私のなんですけど……いつかの聖杯戦争で少女に憑依させていただいた時のやつなのでもしかすると違うかも……」
「……」
「……まぁ、誰でも間違いは誰でもあるのです。後でちゃんと測りますから、ここでは許して貰えないでしょうか……?」
こ、この女……ステータスが違うってのを暗に認めたわ! だとすると私も偽っていた事に……いや、でも知らなかったのですから間違いのようなものです。えぇ。私は悪くありません。
だからその体重計を早くしまいなさい。
「まー、BBちゃん的にはどうでも良いので好きにしてください。人間は誰もが自身の欠陥を隠蔽・補完するために嘘をつく生き物ですから、そこにとやかく言うつもりはありません。あのセンパイだって、嘘を一杯ついているんですし、ねぇ?」
「何その意味深な疑問符は。アイツが私達に嘘をついてるって言うの? 別にそんなの普通の事じゃない。アイツは誰よりも人間よ。私達サーヴァントとは違って自分の身を敵から守れる程強くはないわ。……たまにギャグ路線じゃ滅茶苦茶強いけど、弱いアイツなりに身を守るには嘘は必要な武器。それを咎める程アンタは器が小さいのかしら?」
「いいえ。ただ、皆さんが知るべき事まで隠されてしまうと言うのはマスターとサーヴァントの関係的にはどうなのかなーと思ったので」
「……BB。貴女は何が言いたいのですか? いえ、それとも何かを知っているんですか?」
白いのがBBに圧をかける。
クラス相性とかそんなのじゃない。まるでぐだ男が裏で悪さでも行っている言っている様なその雰囲気に物申すような様子だ。
「BB。お前は何かを知っている様だが、ぐだ男は悪を成せる男ではない。ましてや俺達に隠れてなどな。俺達に何をさせたいのかは分からないが、そこの人間要塞に殴られたくなければ素直に話しておくべきだな」
「もぉー。皆さん早とちりしすぎです。流石の私もこのスペックでやりあおうなんて思ってませんから、その旗は下ろしません?」
「貴女は
「じゃあそのままで良いで皆さんにお話ししましょう。センパイ……ぐだ男さんの秘密を」
BBは椅子に腰掛けるといつも持っている棒で今まで自分のステータスを写していた空中投影ディスプレイを弾いて大きくする。
そしてカルデア内の監視カメラ映像とぐだ男の体の様子を数値化した、私達サーヴァントのステータス画面のようなものを表示。
宝具の時につけている眼鏡も取り出して真剣な面持ちで語り始めた。
「ぐだ男さんは19歳男性。突然の人理焼却に巻き込まれたにも関わらず、彼はここまで走り抜けてきました。多くの英霊を召喚、使役して戦い、自身も又戦いを経て強くなりました。ですが、彼には重大な問題がありました。英霊が増え、プライバシーも何も無い彼にとって重大な問題が」
「……っ」
誰かが唾を飲んだ。
余り迫力的ではないのに、何故か重たい話をされているような緊張感。誰かが喉を鳴らさなかったら私が鳴らすところだった。
「それは──年頃の男子の性欲」
……はい?
「えぇ。ぐだ男さんのような年頃の男性はそれはもう内に滾る性欲は凄いものでしょう。プライバシーは無く、次々と召喚されるサーヴァントの皆さんは露出が多いですしスキンシップもまた多い。これで溜まらない道理は無いでしょう」
「黙りなさい殺生院」
「あー、確かに目のやり場に困る人多いよな。ひひひ。こりゃもしかしてやっちまったかぐだ男」
「いくらあれ程強靭な精神のぐだ男さんでも、性の欲求には敵わないでしょう。きっとマイルームへ参ったサーヴァントの方をマスターの絶対命令権である令呪で組伏せ、その昂った欲望をぶちまけ──」
『少し黙りましょうか』
「ぁぐっ、あ、はぁっ」
ヘシアンが殺生院に後ろから変な物を口に装着させる。
ゴルフボール位の玉ッコロが付いた小さいベルトのせいで、殺生院はそれっきりマトモに喋れなくなった。
何だか物凄く嬉しそうな顔をしているのは放っておく事にするわ……。
それにしても、ぐだ男がその……溜まってるって言うのはつまり………そ、そう言うことなの……?
「残念ながらその可能性も否定できません。彼の部屋の監視カメラの映像はアクセス出来なかったので廊下の映像ですけど……ある女性が毎夜、彼の部屋に入って行くのが確認されています。彼女です」
「シェヘラザード……」
「彼女は生きる為に毎夜暴王に抱かれ、そして物語を聴かせてきた者です。彼女はぐだ男さんを善き王として信頼してるみたいですから、彼女が自ら望んだ可能性もありますね」
「待ってくださいBB。確かに彼女にその疑いがありますが、ちょっと飛躍しすぎと言うか……」
確かにそうよ。
もしかしたらアイツが寝れなくて寝物語を聴かせに来てるだけかもしれないのに、少し過剰に反応しすぎじゃないの? 第一、アイツにはそんな度胸も無さそうだし。
不思議と冷静で居られる──イヤイヤッ。アイツが誰と居ようが私には知ったことじゃないし! ただマスターの隠し事はムカツクだけ!
「じゃあ彼の部屋のカメラだけやたらセキュリティが強いのは何でですかね? それこそ、閲覧できるのは本人と所長クラスの人だけ……とんでもないプライバシーがあると思いますよ」
「ならば本人に訊けば良いだろう。あの女性であれば図書館に居るだろう。俺も本はよく読むのでな。大体そこで見掛けるぞ」
「あまり詮索しない方が……」
「これが原因で今後の戦闘に影響が出たら大変です。さ、早く見付けましょう」
◇
キュピィィィィインッ!
「……はっ、これは……もしや私の死にたくないと言う想いが遂にニューなタイプに覚醒を……? 怖いです。死んでしまう前に霊体化しておきましょう」
「えー? シェラさんもう行っちゃうの? 丁度今良いところなのに」
「そうよ。もうすぐ1番の変身シーンなのにここで終わりだなんて私も困ってしまうわ」
「あ、いえ……ただの独り言ですので、お構い無く。確かにここの『じゃあ見てて下さい。俺の──変身』は彼の決意が強く現れている所です。ここを語らずにこのお話を終わらせるのは良くありません。……さぁ、始めますよ」
「「わーい!」」
……我が王。心優しき王。貴方との約束、果たしてみせます。
貴方の秘密を……。それはそうと、雪原の再現はやはり寒いですね……ちゃんと防寒具を装備しないと凍死してしまいます。