Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
てっきりカルデア式はそんなものなのかと思ってたのでそう書いちゃいましたよ。
「よい……しょ」
教会の地下、遺体が安置される事もあるそこに俺は最後の犠牲者を降ろした。
男2人、女2人(内1人子供)、決して少ないとは言えない……遺体がどんな状態かは見ていないが、布に巻かれた様子で大体分かった。皆、無惨に
「ありがとうぐだ男。今ので最後……大丈夫?」
「……大丈夫」
「……そう。じゃあ私はカーター邸に戻ってるわね」
「分かった」
マタ・ハリが出ていき、俺は部屋に鍵を閉めてから壁にもたれ掛かった。
特異点において、失った命は無かったことにはならない。特異点で起きた事は基本的にはなかったことになり、カルデアの存在は誰の記憶にも残らないから、死んでいった人達は事故や病気等の違和感がない死因にすり替えられていくらしい。
それを聞いたのはいつだったかもう覚えていない……特異点で一緒に戦った人やお世話になった人。目の前で助けられなかった人も特異点を解決すれば戻ってくる。
そう、心の支えにしていたのがいつか言われた時に崩れた。
だから失うことが無いように。あっても少なくるように俺は──いや、止めよう。
いつもこれで苦しむ。慣れないこの“痛み”は、考えれば考える程。悩めば悩む程“痛くなってくる”から。
「……」
踵を反して教会を後にする。
さっきの遺体をここに持ってくるまでに、家の人を説得したりと大変で気付かなかったが、もう今は昼の12時だ。
俺もカーター邸に戻って……
『皆さん、まだ分からないのですか?』
「ん? この声は……」
外からまた騒いでいる声が聞こえる。しかもこの声は今朝遺体の安置に反対した遺族のおばあさんのものだ。
ちょっとドアを開けて見ると何人か集まって居る。騒ぎの中心はあのおばあさんか。ちょっと苦手なんだけど……仕方がない。
「すみま──」
「そうだ! 俺達の村なのに、どうしてよそ者にデカい顔されなくちゃならない!」
「落ち着け。彼等は良くやっている。アンタは彼等の芝居を見に来ていないのだろう? だったらその様な事は言う権利はない。レベッカもそうだ。妹とその娘がやられちまったのは気の毒だ。だが、彼等は現に牧師様にもボストンの偉い判事さんにも認められての結果だ」
「あの牧師も若いだけが取り柄で宛にならない! よそ者は追い払って俺達のセイレムを取り戻すんだ!」
「ちっ……不味いな……」
主に声を荒げている村人2人はさっきも言った遺族のおばあさんと、俺達が気に食わないのだろう30代半ばの男の人だ。
確か男の人の方は──
「そうだ! お前なんだろう牧師をたぶらかしたのは! 今だってキョロキョロして、男を値踏みしに来たんじゃなかろうな!」
「ふぅ……その掴んだ腕を離してくださらない? もっとも……牧師様より、上演後に舞台裏に押し掛けてきた貴方の方が熱烈に見えたけれど」
「なっ──」
やっぱり。
あの男の人は昨日の芝居の最中には居なかったのだが、上演後に突然舞台裏に押し掛けてきてマタ・ハリに接触をはかろうとしてきたんだ。
あの時の目を見た感じ、マタ・ハリの体目当てだろう。まぁ、彼女はスタイルも良いし綺麗だから無理もない。良くも悪くも、彼女は生前それを武器にしていたのだから。
荒事は避けたかったので座長として俺が対応したが……あの人も興奮すると人の話を全く聞かなくなる。
最終的にロビンが呼んできたセイレムの警官に助けてもらったのでその苛立ち何かもあるんだろう。
「ごめんなさいね。昨日も言いましたけれど、私は貴方の個人的な申し出に応えてあげられないの。これでも私、セイレムの殿方全員を平等に愛しておりますので」
「黙れ! 黙れ! 貴様こそ──」
「止めろ! それ以上団員への侮辱は見過ごせない!」
「ぐだ男……」
「昨晩こちらに押し掛けてきた際に警官を呼ばれたのが不服ですか? それとも彼女が抱けなかったのが不服ですか? どちらにせよ、貴方の言い分は非常に滅茶苦茶で個人的な感情の発露でしかない」
「黙れ! その女は
最悪の事態だな……。とうとう村人に魔女と言われてしまった。
まだこの男1人にしか言われていないが、昨夜の恐怖で皆精神に来ている。このままこいつが騒ぎ立てれば、誰かが賛同してそれが膨らんでくるだろう。今のおじいさんのように俺達を認めてくれている村人は全員ではないのだから。
「違う。彼女は確かにスタイルも顔も良い。蠱惑的な言葉使いも相まって多くの男性を魅了するでしょう。正直俺だって魅力的だと思う。しかし、彼女自身は非常に芯の通った女性だ。他の人同様に純愛を欲す、か弱い女性だ。それを貴方は自分の思い通りにならないからと捩じ伏せようとするのか。それでは暴力だ。貴方の聖書には暴力を振るえと記されているのですか」
「そいつは魔女だ! 淫魔が姿を変えて現れたサキュバイだ! 悪魔は憎むべきなのだ!」
「そんな証拠は無い筈だ。何故なら彼女は淫魔でも魔女でもないからだ。己の劣情を発散させたいならうちの大切な仲間ではなく他を当たってくれ。……皆さん、これ以上の騒ぎは私も好ましくありません。昨晩、あのような事があり気が滅入っているのも分かります。私もこの通り、肩を食い千切られました。あれは人に非ず、得体の知れない恐怖に今も怯えています。だからこそ、ここで協力し合わないと駄目だと思うのです。確かに私達はよそ者ですから、まだ信用なされていないのも分かります。けれど私はここで誓いましょう。決して、このセイレムに恐怖をもたらすような者では無いと。人の笑顔を取り戻す為に旅をしている者であると」
「……オズボーン、少し落ち着け。彼の言った通り私達も怯えからおかしくなっている」
今の内か。
「マタ・ハリ、行こう。下手に居ても今は逆効果だ」
「えぇ。ごめんなさいね」
彼女の手を引き、やや早足でそこから立ち去る。
2分程歩いただろうか。さっきのような声は全く聞こえなくなったので思わず掴んでいた手を離して深く溜め息を吐いた。
「失敗した……ごめんマタ・ハリ。結局村人に魔女と……」
「大丈夫よ。どうせ私が何と言っても彼は変わらず私を魔女と言ったわ。寧ろ酷くなっていたかも。貴方が上手くやってくれたお陰よ。それにしても……」
「ん?」
「あんなにハッキリと『俺だって魅力的だと思う』なんて言われたら私だって恥ずかしいのだけれど?」
「──ぁ、あー、そりゃあ、ねぇ?全部正直に話した方が良いかなって思って思わず……」
相手が興奮していたから自分は冷静になれていたが、今その時の発言を思い出すと俺も大概に興奮していたと思わされる。
若いながら貫禄のある団長の印象は更に強まっただろうが、思い出すだけでちょっと恥ずかしい。
「ふふ。ありがとう。早く戻って皆に共有しておいた方が良いわね」
「そうだね。サンソンにも連絡を──丁度良い。マタ・ハリは先に戻ってて」
「ホプキンスね」
「あぁ」
100m程先に何人か引き連れてホプキンスが歩いていた。
判事からの報告でも受けて見回り──な訳がないか。方角的にもカーター邸に向かう訳でも、そっちから来た訳でも無さそうだけど取り敢えず、サンソンに連絡だ。
◇
『……分かりました。連絡ありがとうございます』
サンソン──僕はぐだ男からの通信を受けて口に出さず感謝を伝えた。
『俺も後ろからホプキンスを追けてみる。動きがあったら連絡するよ』
『はい。こちらが終わったらすぐに向かいます』
念話のように思考することで言葉を伝えられる便利な機械だ。
これなら人前で使ったとしても違和感や怪しまれる事は無い。
「──大分落ち着いてきました。これならもう大丈夫でしょう奥様」
「ほ、本当ですかっ!?」
「えぇ。これは急な発熱による症状で、この歳のお子さんであればままあることです」
「先生は命の恩人です! ありがとうございます……!」
往診に向かった先では子供が“ひきつけ”を起こしていた。
やはりこの時代の医学の知識ではこれを悪魔の仕業と捉えてしまっていて、僕の前に様子を見に来ていたと言う牧師も名前を呼んで気付け薬を嗅がせたり、聖書を読み上げたりと──仕方の無いことだが──的外れな処置を施していたようだ。
命に関わるものでもないので、後は嘔吐物などに気を遣って喉を詰まらせないように指示をして家を後にしようとする。
「待ってください! 何かお礼を……」
「いえ。私は正式な医者ではありません。それに報酬は別で頂くことになっていますので」
「でも……」
「若いの。横から失礼するが、受けた恩に対する蓄えは質素な見た目とは違ってある。我が家は新大陸に渡る以前はそれなりの名家だったからな。だから受け取れ」
「ご老人……」
気付くと奥様の父親が懐から幾らかを取り出して僕に渡してきた。
どうやら出掛けていたのから丁度帰って来た所らしい。
「老人等と呼んでくれるな。ピックマンでいい」
「……はいっ。失礼しましたピックマンさん。ではありがたく」
「……さっきも教会前で言ったのだがな、アンタ達は良くやってる。座長さんも村人の手伝いを良くやるし、子供達とも遊んでやって、アンタはこうして孫を診てくれた。悪く言うのも、他の連中も昨日の事で怖がっているだけでな」
「おきになさらず。我々も幾度とそう言ったことはありましたので」
「昼とは言え、道中気を付けるんだぞ」
「ありがとうございます」
ピックマン家を今度こそ後にし、僕は再びぐだ男に連絡をする。
お礼を受け取ったのも報告しなければ。先ずは閣下がどこに向かったのを訊こうかと口を開いた瞬間。
『サンソン大変だ! ホプキンスがウェイトリー家に入っていった! ウェイトリーってあのラヴィニアの家で間違いないか!?』
『! この村に他のウェイトリーは居ません。すぐに行きます!』
まさか閣下は昨晩の
このままではいけない!
止めなければ……これ以上、彼等の心に悪魔を、偽りの魔女を顕現させてはいけない!
例え過去の幻影の中であろうとも……!
◇
その日の夕方。またも村の“丘”で刑が執行された。
吊られてしまったのは2名。どちらもウェイトリー家の人間で、1人はラヴィニアの父親、ノア・ウェイトリー。もう1人は祖父、アブサラム・ウェイトリーだ。
後にカーター氏に訊いた話だと、昨晩カーター邸での戦いの最中、隠れて見ていた理由を訊きに行ったそうだ。そこにホプキンスが割り込んできて、黒魔術の使用を罪状として2人を処刑にしたらしい。
カーター氏は告発するつもりも無かったようなので、村人の誰かが
結果、彼女……ラヴィニアは独り取り残されてしまった。
サンソンもかなり気にしていた娘だから何か助けてあげたいが、彼女は俺達を信用していない。
ティテュバの死から立ち直ったアビーもカーター氏に頼んで彼女を家に迎え入れようとしていたけど、彼女はいつの間にか姿をくらましてしまった。
アブサラムが連行されていく際、彼女に誰かを頼るように言っていたらしいし、多分そっちに行ったのだろう。
そんな多くの情報の中でもサンソンが負い目に感じていたのはホプキンスに食い付いた事で絞首刑台の修理を命じられた事だ。
生前の行いから処刑人──今はアサシンのサーヴァントとして存在する彼が開発した処刑装置、ギロチンは死刑を受ける人間が苦しまぬよう、罪人であっても心置きなく死出の旅に出られるように考えて出来た代物だ。
それなのに彼が直したのは苦痛の中で少しずつ殺していく処刑構想の絞首刑台。それが堪えたか。
「……以上がウェイトリー家に起きた事です」
「ますたー、さんそん! 傍観とは
「落ち着け哪吒太子。ぐだ男もサンソンも見捨てたくてやった訳じゃあねぇって。それに話は聴いたろ? あの状況で俺達が何かすれば今度こそただじゃ済まない。それこそ俺らの誰かが吊るされるぞ」
「む……確かにボクが浅慮だった」
「おう、理解してくれて助かる。んでだ。もしこれでゾンビ騒ぎが収まらなかったらますます分からなくなるが、そこんとこどうなのよ。教えてキルケー先生」
ロビンがキルケーに振る。バトンパスされたキルケーはそれを快く受け取ると一言目に分からないと言い切った。そしてその上で話を続ける。
「ウェイトリー家の様子は私も見てみた。確かに魔術師の家系……それも錬金術のだ。流石に私も大魔女だけどこのセイレムでは何があるか分からないからね。取り敢えず、深くは漁らずそれ位は見てきた。その結果分からないんだ。何しろ、もしウェイトリーの仕業ならあからさま過ぎる。そしてあのムカムカする男もだ。もしアイツが魔神柱と関わっているとしても、こっちもあからさま、余りに大胆過ぎる。いやぁ、分かんない」
「魔神柱の目的がセイレムの再現なのは分かってる。なら、その先の真の目的は何だろう。マシュ、セイレムは歴史上最後はどうなったの」
「あ、はいっ。セイレムは最終的に1693年5月に終わりを迎えます。告発された約200名の内、19名が処刑。その他は拷問による死亡と獄中にて死亡が合わせて6名。この事は現在においてもアメリカ植民地時代における集団パニックの最も酷い例として語られています。ですが、ここと違うのは判事が違うことで処刑が早いことです。史実のセイレムは約1年で19名でしたが、今はたった2日足らずで6名に……」
「最終的に何か人理に影響が出るところでもないか……何だろうなぁ」
「本物の魔女の発生とかは?」
「人の告発で創られた虚像の魔女なんかじゃ幻霊すら成れないね。だったらティテュバにでも聖杯を持たせた方が早いしローコストだ」
確かにそうだ。サーヴァントだったティテュバに何かをさせれば魔神柱達なりの人類救済はすんなり(勿論阻止するけど)行った筈だ。
それ以外にあるとしたら……
「……俺の殺害、とか?」
今年の前半にあった新宿幻霊事件を思い出す。
バアルが3000年も前に遡って逃げて、モリアーティーと共謀して俺を殺そうとした
同時にバアルは俺を尊敬し、信頼していた。必ず俺が来ると。途中で逃げ出さないと。
そのお陰でチェックメイト手前まで追い込まれたけど、何とか突破できた。そんな事もあったからもしかしたら今回の特異点もそうなんじゃないかと思ってしまう。
「復讐か……もしそうなら君を魔女だって告発して殺せば早いのだけれど、最悪マシュや私達を順々に殺して最後に残った君を嬲り殺すパターンかも知れない。その方がまだマシかな」
「いや、それは最悪のパターンだ。正直俺が殺されるならまだ良い。けど、マシュや皆が殺されるのは御免だ」
「とことん魔術師らしくないね。君が死ねばこの特異点に私達は居られない。マシュは例外だろうけど、そうなるとマシュに全部背負わせる事になるんだぞ」
「……大丈夫。俺だって無責任に殺されるつもりもない。必ず皆を還せる状態になるまでは足掻くさ」
「それは俺達の台詞だっての」
ロビンに後頭部を小突かれた。
少し痛い……。
「兎に角、ここで唸っていても仕方がありません。今は他の知恵も欲しいところですから、カルデアに通信を接続できないか試してみましょう」
「サンソンの言う通りね。私達だけじゃ限界もあるから」
そうだねと返し、今一度カルデアと繋がるか試してみようと立ち上がる。丁度その時、客間の扉がノックされた。
一応キルケーの魔術で俺達の会話は外に聞こえ難くなっているが、それこそ扉に張り付いたら聴こえるような弱い魔術だ。余り本格的なのをかけて何かあったら俺達のみならずカーター氏達までもが危うい。
だから毎回、もしかして聴いていたかも知れないと緊張しながらドアを開けることになる。今回はドアの近くに居たロビンがその役目だ。
「おや、カーター氏。何かありましたかね」
どうやらカーター氏が何か用があるようだ。
ロビンが訊くと、カーター氏は部屋に入ってきて少し小さな声で話し始めた。
「……ミスター。外のホプキンスがミス・マタ・ハリの同行を命令してきた。何か心当たりが無いかね」
「嘘だろ!? あ、すみません……心当たりは──あります。昼間、マタ・ハリが教会前で男に言い掛かりをつけられて……確かビル・オズボーンと言ったか。彼がマタ・ハリを魔女だと」
「おぉ……何と根拠のない事を……君達は昨晩の事もあって恩人だと言うのに、恥知らずな……」
「ぐだ男。今は従うしか無いわ。ここで抵抗なんてしたら貴方も捕らえられるかもしれない」
「………っ」
唾棄したくなるようなオズボーンの行いに怒りが沸き上がるが、抑えなければならない。
そんな俺の心中を察して、カーター氏も同行すると申し出てくれた。正直ありがたい。彼の証言で覆せれば良いのだけれど……。
「皆は待っててくれ。マタ・ハリ、ごめん」
「気にしては駄目。
「あぁ」
俺達は大人しく外へ出た。
外はもう暗く、何人かは松明で簡単に明るくしてカーター邸の前に集まっていた。当然、先頭にはホプキンスが立ってる。傍らには昼間の男……オズボーンも居て、完全にマタ・ハリを捕らえに来た雰囲気だ。
「マタ・ハリとはこの女だが、間違いはないな? ビル・オズボーン」
「えぇ。間違いありません。こいつが魔女です」
「言い掛かりだ。彼等は昨晩の
「ぅ……カーターさん。アンタも騙されているんだ……そいつは男をたぶらかして操る淫魔なんだっ!」
「淫魔? 君に告発され、昨日魔女として処刑されたティテュバの代わりに姪に寄り添ってくれていた彼女を淫魔と?」
「止めろ。ここにはそんな下らない言い合いをしに来たのではない。劇団の座長、ぐだ男。そこの役者の女、マタ・ハリには魔女としての容疑がかかっている。後は言わなくても分かるな」
あぁ、分かっている。
頭に来るほど明快に分かっているとも……マシュー・ホプキンス。
◇
ぐだ男とカーター、そしてマタ・ハリが連行されて数分後、異様な雰囲気を察してしまったのか、アビゲイルが2階の自分の部屋から駆け降りてマシュに説明を求めていた。
先程カーターも外で言っていたが、こうしてアビゲイルが立ち直れたのも哪吒やマシュ。そして今さっき連行されてしまったマタ・ハリのお陰だ。
彼女の親友と呼ぶラヴィニアの家族が処刑されて自分の事のように悲しんでいたのに、今度は自分を立ち直らせてくれた人がと思うと居ても立っても居られないのだ。
「どうしてマタ・ハリさんまで……彼女はとってもいい人なのに」
「あのオズボーンってのが厄介ですかね。アイツが騒ぎ立てると皆が同調しちまう」
「まぁ、オズボーンさんが? 彼いつも大袈裟に騒いで事態を大きく見せようとする困った人だから……でもきっと大丈夫よ。だってマタ・ハリさんは魔女じゃないですもの。それに皆昨日の怪物で怯えきってしまってるだけよ」
「そうだと良いんですが……もしせん──座長も何かあったらと思うとゾッとします」
「マシュさん、座長さんの事が好きなのね?」
「ふぇっ!?」
マシュがすっとんきょうな声を出した。
彼女自身、どうやったらあんな声が出せるのかと後で気になってしまう程で、酷く狼狽したマシュはまず否定から入る。
「せ、先輩はす、すす好きとかっ、そんなんではなくてですねっ!? とても尊敬していると言うかっ!? い、いつも私を支えてくれる大切な方と言いますかっ!?」
「落ち着けマシュ。そんな初々しい反応見せられちゃこっちが恥ずかしいよ。良いじゃないか誰を好きになったって」
「いや、実はマシュと座長は兄弟なんですアビゲイル」
「嘘!? 全然似てないわ。あ、もしかして義兄妹って言うのよね」
「私も知らなかったぞ! て言うか義兄妹で禁断の恋とかフツーにエロいな!」
「え、エロ──!?」
「キルケーには話してなかったな。実はマシュ達はお互い養子同士。2人を招き入れた親はロマニ・アーキマンって言って、とても優しいくてチキンな医者なんだ」
「まぁ。お医者様なのね。そのチキンって鳥の事?」
「いや、腰抜けって意味さ。兎も角、2人はそこで生活していたんだが──」
重い雰囲気になってしまったアビゲイルの為、ロビンフッドはカルデアの事を隠しながら即興で2人の話を作る。
セイレムしか知らない(本は良く読むらしく、一応他の国の事などは知っている)彼女にとって、ぐだ男達の世界を渡り歩いた話はとても心踊らされるものだった。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ──
「──っと、気付けばこんな時間だ。良い子は寝る時間ですかね。褐色の17歳程上手くは語れなかったが、楽しめましたかいお嬢」
「とっても面白かったわ。ロビンさんも話し上手で、まるで私も冒険したみたいよ」
「そいつは上々。役者としてはこれくらい出来ねぇとな」
「……ロビン、家の周り妖気充満。否、村全体」
どうやら哪吒が気配を関知したらしい。
流石の哪吒もアビゲイルに悟られないようにかなり小声でロビンフッドに耳打ちする。
話で盛り上がって時間を忘れていたが、現時刻は既に21時。昨晩
もしウェイトリー家に原因があったら出てこないだろうと少しだけ期待していたものの、結局はこの通り
「全く……