Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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ちょっとセイレムの内容は人各々の捉え方や考察があるので、私が書いているこれもその1つと考えていただければ。
全部書こうとするとシナリオの全写しみたいになっちゃうので、結構はしょったり内容を少し変えたりしています。




Order.73 セイレム Ⅳ・カルデアサバゲー Ⅲ

 

 

 

「──妖気! 闇に紛れて何かが居る!」

 

「なんのこっ……いや、確かに外が騒がしい。賊か?」

 

「カーター氏は外に出ないでください。メディアとマシュは氏とアビーについていて。サンソン、ぐだ男は?」

 

「──外で水浴びを!」

 

 それを聞いたロビンフッドはすぐに家から飛び出した。

 水浴びをするのはいつもカーター邸の裏だ。裏口をやや乱暴に開け放ってボウガンを構えるが、水浴びをしていたと思われる場所には彼の上着とインナーがあっただけ。

 争ったような形跡は無い。だがそれはメディアが張った結界の中だからだ。

 そこまで広域の結界ではない為、目の前の森に入ったら結界の加護を失う。だとしたら、もし襲われたのだとしたならその森の中だ。

 夜目の利く彼は森の暗がりに目を凝らした。そして──

 

「アイツ!」

 

 ロビンフッドはボウガンをいつでも射てる状態を維持したまま森へ駆け出した。

 1秒足らずで妙に暗い場所に到着すると、木にもたれ掛かって糸の切れた人形のように力なく俯いているぐだ男の姿があった。

 首元から流れた血が白いズボンと乾いた地面を湿らせていて、今しがたこうなった訳ではないと状況が語っている。

 恐らくはぐだ男が倒れてから2分位か。

 

「おい! 大丈夫かぐだ男!」

 

 返事がない。脈を確認すると、屍ではなく気絶しているだけと分かる。

 

「……ぅぁ、あ……ロビン……気絶してたのか……」

 

「動くな。今止血する」

 

 あらゆる状況が想像される特異点ではそれだけの備えが必要になる。

 ロビンもそれは充分分かっていたのだが、今回は少し違った。メディアがついてきてくれていたので、治療はメディアにお願いして、いつも持ってくるスクロール等は全て劇団として居る為のカモフラージュアイテムの為に置いてきてしまっていた。

 だから今はポーチから適当な布を取り出して止血を施すしか出来ない。

 

「痛いけど我慢しろよ」

 

「うぐっ……!」

 

 傷は獣か何かに食い千切られたような感じだった。鋭い歯で鎖骨ごとズタズタになっている。辛うじて首の重要な血管は無傷だが……出血が思いの外多い。

 すぐに抱き抱えて連れていこうとしたロビンフッドだが、ぐだ男はそれを制止して辺りを見回した。

 

()()は?」

 

「アレ? いや、ここには何も見当たらないが……何か居たのか?」

 

「あぁ。最初は狼だとしたら思っていた。けど違った。俺に噛みついてきて、そこの箒で心臓を潰したのに動いていた。食い千切られた時に今度は首を捻り切ったら漸くソイツは死んだんだ。いや……もしかしたら初めから……だとしたらまるで……」

 

「おい、確りしろ。取り敢えず中に運ぶからそれから──」

 

 バンバンッ!

 

「銃声!?」

 

「ロビン! 治療は後で良いから戦闘に参加してくれ! 今すぐ行かないと不味いぞ!」

 

 ◇

 

 ロビンを先に行かせ、俺は1人になった事による激しい吐き気を我慢しながらゲイボルクを喚び出す。

 普通なら怪しまれる意匠の武器だが、芝居の小道具で通せば問題あるまい。

 しかし……さっきのアレはまるでゾンビだった。今までも特異点でゾンビと戦う事はあったが、それらよりももっと攻撃的で凶暴。何より俺が知っているゾンビとは根本的に何かが違う気がした。

 俺が倒した奴は確か……クソッ。最後に突き飛ばされて頭を打ったからか上手く思い出せない。

 取り敢えず皆と合流しよう。早く倒さないと被害が広がる。

 

「ギアアアアッ!」

 

「!?」

 

 また別のゾンビ擬きが出てきた。

 そいつはさっきの奴と同じ様に俺に襲い掛かってくる。

 

「くっ!?」

 

 攻撃の為咄嗟に振り上げられた腕を槍で斬り払って距離を取ると、丁度月明かりがそいつを照らして漸く全貌が明らかになる。

 犬のように前に突き出た鼻と口。両手足は人のそれより一回り大きく、鋭い鉤爪が伸びている。肌は生命を感じさせない灰に近い色なのに、その眼は強く肉に餓えていた。

 最早こんなものは元が人ではない。見たことも無い新しい化け物だ!

 

「くそっ! 何なんだよ!」

 

 腕を落とされても尚向かって来るそいつを受け流し、素早く後ろに回り込んで首を斬り落とす。

 首を斬り落とされたそいつはそれで漸く動きを止め、先程と同じ様に塵となって霧散した。

 初めて見た化け物だから驚いたが、強さはそんな事無いようだ。ただ、恐るべきはゾンビと違う俊敏さと強い血肉への餓え。

 これはただの村人では対処できない。

 

「それにしてもあの化け物……見たことあるような顔をしていたけど……まさかゾンビなのか?」

 

 確認をしようにもそれらは皆霧散してしまう。

 無力化して確認できないか試すにはロビン達と協力した方が良さそうだ。

 

「……む。血が……」

 

 傷口を圧迫する布が血を吸いきれずまたズボンをヌルヌルにしている。

 ヤバイな……こんなに血だらけにしたらまた頼光さんに怒られてしまう。今度はゴールデンと一緒に寝かし付けられる程度じゃ済まないぞ。後でメディアさんに綺麗にしてもらおう。

 

「ぐだ男!? 中で治療を受けるんじゃなかったのか!」

 

「それは兎に角後回しだ。カーター氏、お怪我は?」

 

「私は大丈夫だ。しかしミスター……君こそ怪我が心配だ。私はこれでも軍に居た。脚は悪いが銃は撃てるから中で治療を受けた方がいい」

 

「いえ、アレは村人では対処できません。少しでも戦える者が対処しないとたちまち被害が広がります。私もこう見えて既にアレを2匹程」

 

「駄目です。ぐだ男、貴方のその怪我は無視できるものではない。どうか中で──」

 

「う……ァア……」

 

「「!」」

 

「む……あれは……もしやティテュバではないのかね」

 

 カーター氏が銃を向けながらそう俺に訊いてきた。

 確かに今メディアさんが張った結界に侵入しようとしているのはティテュバと思われる化け物だ。

 カーター氏だけではなく、マタ・ハリもロビンもサンソンもそう思ったのだろう。成る程これで納得がいった。

 さっき俺が懸念したゾンビの可能性。それが的中してしまった。

 しかし、ティテュバなんだろうが他の奴と比べて上手く姿が見えない。暗いとかそんなのではなくて、まるで認識が阻害されているようにソレを捉えることが出来ないんだ。

 これもセイレムの結界によるものなのか?

 

「やはり君達もそう見えるか。まるで審判の日のようだ……」

 

「カーター氏は中へ。マタ・ハリはカーター氏を守ってくれ。ロビンとサンソンはティテュバを。哪吒と俺は他に来たらそっちをやる」

 

 他の奴と同様、ティテュバと思しき化け物は結界に阻まれてカーター邸の近くまで寄ってこれない。だが、どういう訳か少しずつ結界内に入ってきている。

 ますます謎が深まる……一体このセイレムで何が起きているんだ。

 

「結界に触れて真の姿を表そうとしている」

 

「メディアさん……それって、ティテュバが姿を偽っていたのと関係が?」

 

「分からない。ただこのままでは結界も破られるだろうね」

 

「……」

 

「おい出てきて大丈夫なのかよ?」

 

「中は安心していい。並の化け物じゃ私の結界は突破できない筈だからね。ただこの女はちょっと違う。面白い呪詛(まじない)を使っている……ぐだ男、私も戦線に加えるんだ」

 

「……分かった。()()()()はロビン達のサポートに回りながら目立たないよう独断で攻撃してくれ」

 

 敢えてメディアの事は突っ込まず、戦闘の指揮を飛ばす。

 ロビン達も俺が今は言及しない事に目で同意してくれた。俺も流石に血が無くなるのが怖い。取り敢えずは後ろで大人しく指揮をしていよう。

 

「その前に君の傷を治すよ。そのままでは倒れる」

 

「え、あちょ──」

 

 傷を押さえているとメディアが魔術でササッと治療してくれた。有り難いのだが……まず周りに誰かの目が無いことを確認しないといけないし、カーター氏に既に怪我をしているのを見られている。

 食い千切られた首元も不自然に凹んでいたのに、それが突然元に戻っていたら疑いの目を持たれてしまう。だからこの傷は動きに支障が無い程度に治して欲しかったのに……。

 

「えー……全快は不味いって……」

 

「え? 治したのに不服なのか? まさか痛いのが良いマゾだったりするのかい?」

 

「そうじゃなくて……兎に角ここを切り抜けよう。良い? 目立たないようにだよ?」

 

「わ、分かっているって! 大魔女だぞ!?」

 

「分かってないじゃん! デカい声でそんな事言ってくれちゃって!」

 

 話しているとドンドン不味い方向に傾きそうだ。

 何だか今後がとてつもなく心配になるが、一瞬で俺の傷を塞いで且つ、魔術による身体能力の増強を行った力は本物だ。

 この程度の化け物なら遅れはとるまい。

 

「このティテュバ滅茶苦茶強いぞ! 何か魔術も使ってねえか!?」

 

「俺も加わる! ロビンは俺達の援護を!」

 

 ◇

 

 一方カルデアのジャンヌ・オルタは相変わらず狙撃の練習をしていた。

 改めて自分が使いやすい物は無いかと、あらゆるスナイパーライフルを試していて時間を忘れているのだろう。時刻は既に22:00をまわっていた。

 

「……全然駄目。重すぎ」

 

 そう言って彼女は『WA2000』を消して地面に突っ伏した。

 撃てば相手が倒れる。そう当たり前のように狙撃をこなすアサシンのエミヤに勝つにはどうすれば良いか。

 先ずは単純に狙撃の精度を高める為に使いなれた銃で撃ちっぱなしたり、色んな銃を試してみて特徴を理解したり、敵を倒すには敵を知る事精神でエミヤと同じ銃を使ってみたりした。

 結果はどれも上手くいかず。撃ちっぱなしはまぁ、良い練習にはなったが。

 

「思い切って対物でも……いやいや。アレって使い方違ったわよね」

 

 思い出すのはアルトリア・オルタのセクエンス。ではなく、ぐだ男の対物ライフルを使った時の言葉。

 

『遠くで無理なら近付くしかない』

 

 以前、たまには狙撃手をやってみると意気込んで対物ライフルを使ったぐだ男だったが、撃ってみると当たらないからと前に出て至近距離で腰だめ撃ちをしたり、長いバレルを利用した殴打武器として使っていた時の言葉だ。

 物理的にそれは真理なのだが、あくまでスナイパーライフルを至近距離で腰だめ撃ちするなんて初心者でもやらない。尤も、それで戦果をあげている辺りマトモじゃあない。

 

「……たまには思いきった事しないと気分転換にならないわよね」

 

 周りに誰も居ないのを確認し、いそいそと準備をする。

 コンソールで操作して呼び出したのはぐだ男も使った『PGM ヘカートⅡ』。フランスの12.7口径対物ライフルだ。重さは14kg。

 他の対物ライフルと同様に腰だめ、肩付けで正確な射撃は出来ないので伏射が主な使用方だが、ジャンヌ・オルタはそれを腰だめに構えてみた。

 長くて重いし、取り回しは最悪。撃てば反動でどうなる事やら。

 彼女はサーヴァントなのであまり気にしなくても良いだろうが、生身の人間であるぐだ男がこれで問題なく撃てる事を考えると彼の異常性が強く感じ取れる。

 

「……って、これってどうやって狙い定めるのよ」

 

 試しに1発撃ってみるが、反動によるブレと狙い方が分からなかった為に地面を穿った。

 

「無理! こんなの肩ブッ飛ぶじゃない!」

 

 オラァ! と銃を投げ捨ててシミュレーションを終了させる。

 気分転換にはならなかったようだ。

 

「はぁー……私も重装歩兵(パンツァー)やってみようかな……」

 

「聞きましたよジャンヌ!」

 

「えぇ! 私達ジル・ド・レェがその手助けを致しましょう!」

 

 どこからともなく姿を表したセイバーとキャスターのジル・ド・レェ。

 いつから独り言を聴いていたと問い詰めたくなったジャンヌ・オルタだったが、それ以上に手助けをされることでアイツに勝てるのでは? と希望のようなものが湧いてきて、ビックリしていきなりパンチが抑えられる。

 その静かに驚いた様子にちょっと違和感を覚えた術ジルだが構わず続けた。

 勝ちたいか? チカラガホシイカ? あのアサシンを倒したいか?

 珍しくとてもやる気に満ち溢れている術ジルなのもどこかの聖杯戦争での因縁(そんなに仰々しいものでもないが)があるのと、ジャンヌ2人を呆気なく倒されたのがそうさせている様子。

 剣ジルも因縁は無くても同じ様なものだろう。

 彼等はそうジャンヌ・オルタに迫っていた。

 

「ちょ、落ち着きなさいジル×2。理由は分かったから、どうするのか説明してちょうだい」

 

 剣「では私から。私の調査の結果、あのアサシンは熱探知の装備品を持っていました。そして暗いとこも見える物も」

 

「サーマルと暗視ね。でも狙撃兵(ファルケ)のクラスじゃ持てないわ」

 

 術「失礼ですがジャンヌ。実際の狙撃手と言うのはペアで行動する事も多いそうですよ。スポッターと呼ばれる方が必要では?」

 

「スポッター……そうか。偵察兵(ヴォルフ)なら装備にあったわね」

 

 術「彼はスポッターと連携してジャンヌ達を追い詰めていたのです。ですがスポッターの方もまた隠れるのが上手い……」

 

 曰く、スポッターは偵察兵2人の内どちらかで、先に目を潰した方が元々の実力は高くてもより戦いやすくなると言うことだ。

 じゃあこっちもスポッターをつけるか? そうは言っても相手が上手いのに慣れないこちらが下手にスポッターなんてつけたら見つかる可能性がグンッと上がるだろう。

 ではどうするか。ジャンヌ・オルタが問うと2人のジルは自信ありげに返答した。

 

「「ジャンヌ以外が全員偵察兵になるのです」」

 

 ◇

 

 セイレム滞在3日目。

 昨晩起きた事を村の皆に(必要ないかも知れないが)改めて話そうと公会堂に行ったのだけど、既に朝の7時だというのに多くの人が集まって昨晩の恐怖を語っていた。

 牛がやられた。妹を殺された。悪魔のようだ。人ではない……少し聴いただけでかなり怯えていると分かる。

 

「やっぱり被害は村全体に広がっていたか……」

 

「あ、先輩。判事が」

 

「皆静粛に! 昨晩の事は私も聞いた。誰か犯人を見たものは?」

 

「あ、アレは悪魔だ! 鋭く伸びた爪や歪な蹄、犬みたいな口、うちの牛を殺して(はらわた)を食らっていた……あんなものが先住民な訳があるものか!」

 

「私も見ました……妹がそれに噛み殺されて……あぁ!!」

 

「我が一族の墓を掘り返し、あろうことか骨を……勇気をもってランタンを掲げて聖句を唱えると逃げていきました。アレは人ではありません……」

 

 皆口々に事細かく恐怖の記憶を紡いでいく。

 どうやらあの化け物達がカーター邸にやってくる前の事らしい。て言うことは、俺が最初に倒した化け物は森の中をうろうろして偶々カーター邸の裏に出たのか?

 でもあれだけの行動原理でありながら森の中に入るだろうか。地図を見た限り、あの森から出てくるなら村の外れをぐるっと回ってくるか、海沿いからぐるっと回ってくるくらいしか無い。

 警察の報告にあった、昨日絞首刑にされた人を含めた罪人の墓から遺体が持ち去られていたと言う報告が事実なら、予想通りゾンビの類いで間違いないから“丘”辺りから来たにしては妙にあの化け物に違和感を感じる。頭を打ったからか……?

 森に誰かが居るなんてのも聞いてないし、後で誰か詳しい人に訊いてみよう。

 

「……ふむ」

 

「カーター氏? 何か皆に伝えることでも?」

 

「……そうだな。私は昨晩、その怪物を目撃した。そして私はその怪物を知っていると思う」

 

 場がざわつく。

 昨日の化け物は見た人も多いのだが、その中の誰もが初めて見る、聞くものだと口を揃えている。

 そんな最中、知っていると言われればざわつきもするだろう。

 

「ダレットと言うフランスの貴族が記した文献に登場する怪物と似ている。その名を……“食屍鬼(グール)”と」

 

食屍鬼(グール)……俺の中の印象だと、その名前はゾンビ系なモンスターだな……」

 

「RPG等ではアンデッドとして扱うことも多いそうですね」

 

 周りに聞こえないように小さな声で話している間にもカーター氏は続ける。

 

食屍鬼(グール)は血の通った生き物は好まない。故にその強い食欲を満たすには先ず獲物を殺し、死体としてから食らうそうだ。更には──彼等の元の姿は人間だと言う。神の意に背き、人であることを止めた者共。それが彼等だ」

 

 ざわめきが大きくなる。

 俺達にとってはそんなに驚くことでもないが、セイレムの人々はゾンビやゴーストとは無縁の生活をしているんだ。彼等にとっては冒涜的だが、死者が蘇って食屍鬼(グール)になったと言われているようなものなのだから。

 実際昨晩の戦いで絞首刑にあった人は確かに居た。だがその事実をここで言うべきではないだろう。信仰厚い人々だ。どうなるのかは考えれば分かる。

 

「重大な情報の提供に感謝するカーター氏。しかし……当官もあまりこのような冒涜的な事は口にしたくは無いのだが……もしやその食屍鬼(グール)とは死者が蘇ったものではないのか? その食屍鬼(グール)の中に見知った顔は無かっただろうか?」

 

「……むっ……」

 

「……先輩」

 

「しっ……大丈夫だ……」

 

「………いや、そこまでは何とも言えない。夜の闇で居るのが分かるので精一杯だった。それに、私の読み取った伝承によれば、食屍鬼(グール)と死者は違う。……その筈なのだ」

 

「……え?」

 

 食屍鬼(グール)と死者が違う?

 ではアレがティテュバで無かったとしたら一体……一度昨晩の事を思い出してみる。

 

 確かそう……カーター氏を避難させて俺も戦いに加わった後、俺達は何とかティテュバと思われる食屍鬼(グール)を倒したんだ。最期に「アビゲイル」と消え入る様な掠れた声で彼女はそう言っていた……。やっぱりティテュバで間違いなかった。

 その後は時間を決めて交代で見張りをする事にして、一度メディアと話をしたんだ。

 話せば長くなる為要約するが、俺達がメディアさんだと思っていた彼女は実はそのメディアさんの師匠である魔女キルケーであり、彼女はダ・ヴィンチちゃんの召喚試験によりカルデアに顕現した主人を持たぬサーヴァント。

 どういう訳か、一般知識等のインストールが不十分だったようで、カルデアを信用できず逃亡を図ったらしい。

 そこである問題が起きた。セイレムの特異点だ。

 外部に逃げたい彼女はこれ幸いとメディアさんに化けて俺達と一緒にレイシフト。マスターも必要な為、現地で俺を籠絡するなりして特異点からおさらばするつもりであった。

 カルデアとの通信を試みながら妨げていたのは正体がバレるのを阻止するためだったと言う(ただし、ロビン達からは割りと早い段階で怪しまれていた)。

 しかし、そんな裏工作が必要ない程この空間は遮断されてしまった。

 その事とティテュバの死、俺の魔術師としての器を見た結果こうして俺達に打ち明けてくれたようだ。

 それにしても──

 

「……ティテュバはサーヴァントだった。けど、あの時確かに死んでいたし、食屍鬼(グール)としても……死者とは違うと……分からない。何がなんだか……」

 

「私の目撃した食屍鬼(グール)は、そこのぐだ男達と協力して撃退した。昨夜の銃声や咆哮はそう言うことだ」

 

「そうか……勇敢なご協力に感謝するカーター氏。この一連の事はホプキンス殿にも報告する。誰か、今夜からの夜回りに参加するものは──」

 

「よし。取り敢えず出ようか。昨夜の食屍鬼(グール)騒ぎで被害も出たみたいだし、それの手伝いに当たろう。マシュはキルケーと哪吒の3人でアビーの様子を見てくれる? 昨日あんな事があったから……」

 

 アビーはあれっきり部屋に籠ったままだ。無理もない……。今はキルケーと哪吒がカーター邸で留守番をしているから大丈夫だと思うけど、なるべく歳の近い女の子が居た方がアビーにも良いだろう。

 え? もう年齢的にそれは厳しいのと性別不明が居る? 気にしない気にしない。問題なのはアビーの捉え方だ。

 キルケーはおばちゃんだけど見た目がちんちくりんだから──おや? 今一瞬俺がローストポークになった所を見た気がする。

 

「ぐだ男。昨日亡くなった方を教会の地下に運びたいのだけれど、手伝って貰えないかしら?」

 

「……やっぱりそうなるよな。万が一死体が食屍鬼(グール)になるなら神聖な教会の地下で鍵でもかけて保管しておくべきだろう。分かった。すぐ行くよ」

 

 マタ・ハリに呼ばれ、公会堂から出ていく途中にロビンにこれまた小さな声で耳打ちしていく。

「アブサラム・ウェイトリーを頼む」と。ロビンも小さく頷いた後、アブサラム・ウェイトリーに用があると同じく公会堂を後にするカーター氏についていった。

 昨晩、カーター邸で襲撃を受けた際、木の陰からこちらの戦いを見ていた者が居たとロビンから連絡があった。それがアブサラム・ウェイトリー。アビーの友達ラヴィニア・ウェイトリーの祖父だ。

 屋内から見ていたカーター氏も彼に気付いた様で、元より村の中では忌み嫌われていたウェイトリー家の祖父が、黒魔術を使っていると噂されている事で何をしても怪しまれるのにも関わらず、あの場に居た理由を訊きたいと言っていた。

 もしかしたら、流石のカーター氏も疑っているのかも知れない。アブサラム・ウェイトリーが黒魔術にてあの食屍鬼(グール)達を操った。もしくは呼び出したのではないかと。

 兎も角、それは確かめなければどうしようもない事だ。疑いだけで相手を陥れてしまっては、いずれこの村は少しの恐怖で隣人を悪魔、魔女だと言って処刑させかねない。その為には話さなければ。

 人が恐怖によって虚構の悪を誰かに擦り付ける前に。

 

「ぐだ男。少し良いでしょうか。僕はこれから往診に行きます。気を付けておきますが、もしホプキンス判事が何か行動を起こしたら連絡して頂けないでしょうか?」

 

「分かった。その時は念話──は使えなかったか。じゃあこれを使って。俺の令呪とリンクした通信機の子機みたいな奴。これなら俺と離れていても連絡できる筈だから」

 

「有難うございます」

 

 サンソンもこれから忙しくなりそうだ。

 ホプキンスの事は俺も注意を払っておくから往診に集中してもらおう。

 

「……しかし異端だ……明らかに異端だぞこのセイレムは……」

 

 やはりこのセイレムは今までにない程異常……異端だ。

 後でキルケーに魔術的観点からもう一度話をして貰おう。

 

 




ラウムは特使5柱の中で一番頑張った奴だと思う。

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