Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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今年のサンタはサンタムだな(千里眼:D


Order.73 セイレム Ⅲ・カルデアサバゲー Ⅱ

 

 

「何よあのアサシン! 巧過ぎるにも程があるでしょ!」

 

「アサシンのエミヤ……何故だか知らないが、アイツを見ていると無性に後ろから撃ちたくなってくる。関わった記憶は無いが……」

 

「申し訳ありませぬ。あの銃声が偽装だと分かった時には既に……」

 

 瞬く間に倒された黒の一同。

 カウンタースナイプは勿論、ジャンヌ・オルタ達を屠った一撃は全て眉間を撃ち抜いていた。そのレベルの高い技術力と味方の偵察兵を囮として殺らせる決断力に舌を巻くばかりだ。

 

「すまない……俺がもっと君の指示通りに動けていれば良かったのだが」

 

「いいえ。(ひとえ)にあのアサシンが巧かっただけ。アンタは良くやってくれたわ」

 

「私も頑張りましたよオルタ」

 

「アンタはバカスカ撃つだけでちっとも当たってないしすぐ死んだし役に立たなさすぎて忘れてたわ」

 

「酷い!」

 

 黒の一同の中に紛れた白い少女。ジャンヌ・オルタの姉(と言い張る)であるルーラーのジャンヌだ。

 彼女は仲間を守るタイプの装備とは違い、フルスキンの防弾スーツ(それでも眉間を撃たれた)に16歳の()()と言うにはやや高めの筋力をフル活用した両手にガトリング装備の周囲一掃型超脳筋重装歩兵。

 背中や腰にはそのガトリングの弾薬(弾帯)が大量にマウントされていたので、戦闘開始から退場まで自然破壊の限りを尽くした。

 因みに、彼女が使用していたガトリングは『GAU-8 Avenger』。航空機搭載機関砲なので人サイズで扱うような設計はされていない。そもそも何でそんな兵器が登録されているのか知らないが、彼女はこの兵器のパワーに惹かれて2個使いにしたようだ。

 対戦車砲(アヴェンジャー)を片手持ちで進行方向を全て木っ端微塵にするルーラーとは思えぬ行いは流石である。

 

「ジークフリートも私を気にせず前に出ても大丈夫ですよ?」

 

「……すまない。俺はルーラーの邪魔になると(本音を言うと巻き込まれると)思って及び腰だった」

 

「竜殺しの英雄に及び腰させる聖女、いや凄女なんてルーラー失格でしょ。第一、その脳筋戦法は元々ぐだ男のスタイルでしょ。何? パクったの?」

 

 そう。元々そのフルアーマーじみたバトルスタイルは同じく脳筋のぐだ男が始めたものだ。

 ジャンヌのように対戦車砲は使わないが、両手に『M134 Minigun』とセットの弾帯。背中に『SMAW ロケットランチャー』1個と腰のタクティカルベルトにその他諸々を引っ提げたある意味ジャンヌよりも馬鹿な、考える事を止めた装備で囮になりつつ敵を殲滅する。

 このゲームをやる時はぐだ男と必ず組んでいるジャンヌ・オルタはいつもその援護をしていたので狙撃が巧くなった。

 何故わざわざガトリングを使うのかと言うと、こういった森林地帯で敵を見付けた際に「いたぞおおおお!」と叫びながら掃射したいから。

 

「えぇ。あまりにも気持ち良さそうだったので真似しました。こう、なんか、良いですね」

 

「うわ。まだぐだ男の方が扱いやすいヤツじゃない」

 

「そうですか?」

 

「そうよ。アイツは馬鹿みたいに突撃してるけど、実際パーティーの様子をちゃんと把握してるし状況の共有は忘れないからアイツだけ孤立するなんて事は殆ど無い。囮になるのも、アサシンをして危険感知は一流と言わしめるそれで適度に引き付けられるから。その間に私が狙撃して援護する。その流れで大体は上手く事は運べるのよ。それに引き換え火力しか頭にない脳筋聖女(自称)は囮にもならなくて困ったものよ。アイツならミニガンでも敵の1人や2人は──あ」

 

 そこまで熱弁してジャンヌ・オルタはジャンヌの見る目が身内を温かく見守るそれになっていると気付いた。

 いつの間にか、ぐだ男がどれだけ凄いのか。自分とアイツで組んでいる時がどれだけ息ピッタリなのかを大きな声で説明してしまっていた。

 これではまるで、自分の最高のパートナーがぐだ男と言っているようなものではないか。

 

「あー、あー知らないけど、それくらいやれなきゃマスター失格でしょ! ちょっとここ暑いから外出てる!」

 

 と苦し紛れにそう吐き捨てて待合室を出ていってしまった。

 一応彼女はオートマッチングで出来たとは言え、このパーティーのリーダーだ。彼女が居ないのでは次の戦闘は開始できない。

 メンバーが離脱するなら自動的に解散になるので問題ないが、取り敢えず皆も休憩したかったのもあってそのまま待機することにした。

 

「エアコンの温度を下げてこよう。俺も少し室温が高いかと思っていた。しかし、俺は今回初めてやってみたのだが、ぐだ男はそんなに巧いのかルーラー」

 

「私にもよく分からないですけど、彼はオルタの腕を信じて前に出てる。オルタも彼の腕を信じて後ろに居る。そう言うものだと思うんです」

 

「成る程。言われてみれば、近代の戦闘も俺の時代の戦闘も、共に戦う仲間の事を知らなければ充分な実力を発揮できないな。ありがとうルーラー」

 

「……やっぱりジーク君に似てますね。いや、彼が似たんですかね」

 

「ジーク……そうか。あのホムンクルスは俺に似ていたのか。もし俺の心臓が影響したなら、申し訳ない事をしたな……」

 

「そんな事は──ジーク君は貴方に感謝してました」

 

「こんな俺の力が役に立ったのなら、それは嬉しい限りだ」

 

「おい。どうやら決着がついたようだぞ」

 

 レオナルドに作って貰った対神秘リボルバーに弾丸を込めていたアルトリア・オルタが顎で待合室のモニターを指す。

 こうして待合室や外で今行われている戦闘を見ることが出来るのだが、先程ジャンヌ・オルタ達を負かしたパーティーが開始から4分で相手を全滅させたとそのモニターに映っていた。

 キル数が最も多いのは件のアサシン、エミヤ。主武装『WA2000』の今日の命中率は驚愕の90%。恐らくジャンヌ・オルタを外した分が10%のそれだろう。

 狙撃手の性質上撃つ数は他と比べて当然少ないが、それでもこの命中率は高い。

 

「抑止力は伊達ではない、と言うことか。次は負けん」

 

 画面に映し出されたエミヤを見、アルトリア・オルタは弾丸の装填を完了させた。

 

 ◇

 

 2日目の夕方。昼間にホプキンスの所に行った俺達は、あろうことか犯罪者扱いをされてしまった。

『ぐだ男一座』なんて聞いた事はないし、何故そこまでティテュバを気にするのかと。それらの要素があり、俺達は旅劇団を謳う盗賊と言われたのだ。

 その後も酷い言いように腹を立てたメディアさんがホプキンスに怒鳴り付けて、サンソンは何か考えがあるのだろう、村人を診させて欲しいとの事で許可を得ていた。

 俺も埒があかないと腹を立てたが、今の俺は一座の代表だ。我慢し、冷静に対応しているとホプキンスは何を思ったのか俺達に芝居をしろと言ってきた。

 お題は『魔女の火刑』で、メディアさんはホプキンスへの暴言と俺達が逃げないように、要は人質としてティテュバの隣の牢に入れられる事になってしまった。

 指示通り、そのお題で芝居をやったが、流石はアンデルセンの組み上げた物だ。悲劇ではなく、喜劇として村人を楽しませることが出来たし、漸く旅劇団として認められた。だが──

 

「私達を嵌めたのね!」

 

 マタ・ハリがそう声を荒げる。

 ここは村の“丘”。処刑が成される場所だ。

 今から5分程前、芝居を終えて地下牢にメディアさんを迎えに行ったのだが、そこにはティテュバの姿は無かった。

 隣の牢に居たメディアさん曰く、1時間以上前に何人か連れ出されていたと言う。

 見張りに問い詰めるとこの“丘”へと連行したと言うのでアビーを抱え、全力疾走してきたのだが……既に遅かった。遅すぎた。

 “丘”に作られた絞首刑台にはティテュバを始め、地下牢に入れられていた他の人も吊るされていた。

 ロビンの見立てでは既に吊るされてから1時間以上は経っていると。

 ホプキンスの野郎……俺達が邪魔になるからと芝居の最中に刑を執行したんだ。

 

「この女は何に酔っている。礼儀を忘れず、冷静に話せ」

 

 こいつ……!

 

「……ティテュバ……ティテュバを、もう解放してあげて。彼女をこれ以上苦しませないで……お願い」

 

「遺体に触れてはならん! 罪人の共同墓地への埋葬は禁止されている。今人夫(にんぷ)に任せて“丘”のふもとに墓穴を掘らせているところだ。それまで遺体を動かしてはならん」

 

「そんな……」

 

「手遅れだったのかね……」

 

 膝が悪いカーター氏が遅れて到着した。

 彼もアビーにあまり首を吊った彼女達を見せないようにするが、彼女はティテュバを降ろしてくれと諦めなかった。

 カーター氏も彼女の亡骸をこのように辱しめられるいわれは無いと抗議するが、村の決まりで許されることはない。

 ホプキンスにも抗議したものの、彼はセイレムの習慣まで干渉しないとほざいた。ふざけるな。もう充分干渉している癖に、今更どの口が。

 ロビンの呟きではないが、その重い髭を蓄えた口は余程歳に見合わず元気なようだ。法の番人が聞いて呆れる。

 

「ほざいておれ」

 

「ティテュバ……ぅぅっ……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

「アビー……」

 

 カーター氏が慰めている。

 俺は、今までも特異点でこんな風に大切な人を失った人達を何度と見てきた。

 その度に俺は、自分の無力さに憤りを覚えた。だから体を鍛えた。だから魔術を学んだ。だから武器を手にした。

 たかが人間の力なんて知れている。それでもこんな思いを誰かにさせたくないから死ぬ思いで自分をいじめ抜いた。それなのに……この前のアガルタでも、下総でも、そしてここでも何も出来てない。

 彼女に何て声を掛ければ良いのか分からない……俺は無力だ。余りに……。

 

「よし。遺体を運べ」

 

「ティテュバ……」

 

 ホプキンスとの衝突もあったが、漸く遺体が処刑台から降ろされて人夫達に運ばれていく。

 彼女達はすぐに“丘”のふもとに埋められるだろう。

 

「何故ティテュバを死刑にした! 彼女はまだ疑いだっただろう!」

 

「無論、女が魔女だと告白したからだ」

 

「何だと……」

 

「……ぐだ男。遠目からだが、ティテュバの顔に傷があったのが見えた。ありゃ拷問の痕だ。奴さん、やりやがったぜ……」

 

 それじゃあティテュバは拷問を受けて……この外道が! 貴様は今まで出会ってきた奴らの中でも特に醜いぞマシュー・ホプキンス!!

 ──だけど、ここでそんな事を叫んだら今度は俺が地下牢行きになるかも知れない。そうしたら特異点の解決に支障が出る。

 俺が冷静でなくてどうする。一番辛いのはアビーなんだぞ。今は耐えなければ。

 

「アビゲイルをお願いしても良いかねミスター・ぐだ男。私は少し彼等と話してくる。場合によっては明日、私はボストンに向かうだろう。もしそうなった時、貴方達にアビゲイルを支えていて貰いたいのだ。彼女は貴方達を信頼している。私も貴方達なら任せられると思っている。……客人であるのに申し訳ない」

 

「いえ、お気になさらずカーター氏。我々も食住を分けていただいてる。幾らでも力になりましょう」

 

「おぉ……助かるミスター・ぐだ男。アビゲイル、今日は1度帰りなさい」

 

「………」

 

「アビー……海辺の夜は冷える。 それを知らない君じゃないだろ?」

 

「……えぇ」

 

 何と声を掛ければ良いのか分からない俺は、兎に角自然にそう紡いだ。

 とても小さい声で返事があったが……半ば目の光が失われたアビーが辛うじて返事をした感じだ。

 仕方がない。ここは彼女を背負って行こう。

 

「ごめんよアビー。よいしょ」

 

「………」

 

 彼女を背負い、そのまま“丘”を下りていく。

 早く離れるべきかゆっくり離れるべきか、どっちが良かったのか分からないまま、なるべく普段の歩幅で歩いた。

 離れていく絞首刑台とティテュバ。

 とても辛い筈だ。こんな形で身内が、今の彼女にとって最も支えになっていた人が居なくなってしまっては。

 

 ◇

 

「ん? あちゃ、不味いな……いつの間に傷が……」

 

 夜。夕方のあの出来事から少し経って、漸く村もアビーも落ち着き始めていた。

 カーター氏も戻ってきたが、やはり遺体は“丘”以外には埋められないと断られたそうだ。

 それにしてもこんな切り傷いつ……? 服も破けてないし、森で切ったか?

 

「ま良いや。ちゃんと洗っておこ」

 

 泊まらせて貰っているんだから、不潔では相手に不快感を与えてしまう。

 だから毎晩、こうして水を浴びてなるべく清潔感を保っているのだ。ただ、カーター邸の裏とはいえ外なので真っ裸は出来ない。上だけ脱いでズボンを濡らさないように……。

 

 パキッ……。

 

「……ん? 犬か?」

 

 カーター邸の裏は少し歩くだけで森がある。

 そこから野性動物が出てくることもおかしくないだろう。実際犬みたいな唸り声が聞こえるし……あ、狼か。初日にアビー達に襲い掛かっていた奴らの仲間だろうか。

 

「水が飲みたいのかな……でもここであげると人の環境に依存し始めるかも知れないし……困ったな。取り敢えず追い払おう」

 

 外壁に立て掛けてあった箒を取り、音がした方へ歩く。

 ……唸り声が近くなってきた。あの暗がりだな。

 

「ほら。駄目だよ。ハウスハウス」

 

 相手はただの獣だ。狼位なら群れで襲われても大丈夫だし、小動物を追い払うように箒を振って更に森の中へ歩みを進めた。

 森の中まではメディアの設置した結界は届いていないから危険だけど……最悪人目ついてないから魔術で──

 

「ヴゥ……ヴ、ぎっ……」

 

「──お前、なん」

 

「ギシャアアアアアアアアアアアッ!」

 

 暗がりから飛び掛かってきたのは狼なんかじゃ無かった。


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