Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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やっぱり黒髭はイベント映えするな!


Order.72 セイレム Ⅱ・カルデアサバゲー Ⅰ

 

 

 

「よし。殲滅するか」

 

 開口一番、俺は周りの状況を見てそう口にした。

 

「おいおいおい! 冗談だろぐだ男!」

 

「よく言った! 良き判断、聡明也!」

 

「とでも言うと思ったか! 落ち着け哪吒太子! うちの団員がご迷惑を」

 

 そして直ぐ様頭を下げて元気に謝った。

 ここ、セイレムの港酒場で騒ぎが起きたと聞き付けて駆け付けてみれば偵察に出ていたロビンと哪吒のペアが船乗りのおっちゃん達と喧嘩をしているではないか。

 哪吒は武器を構えて臨戦態勢であり、船乗り達も銃を構えていたりと一触即発の雰囲気。

 しかし、ロビンが哪吒を宥めていたのを途中から聞こえていたから状況はある程度理解しているので、俺は穏便に済ませるべくこうして俊敏:A++で頭を下げた訳だ。

 それに対して哪吒は納得いかぬと俺を糾弾するが、ロビンに抑えさせて船乗りらに事の詳細を問うと思いの外深刻でなくて逆に変なため息が出た。

 

「成る程……うちの団員が体の事を言われて怒り、更には武器を取り出した事に関しては謝罪致します。しかし、生憎彼女(今は女の扱いが良いだろう)はうちの団員であり、()()()()()()をさせるつもりはありません。本人がそれを言われるまで気にしていなかったからとやかく言いませんが……我々は旅劇団です。そこは勘違いしないで頂きたい」

 

「ぉ、おう……こっちこそ済まなかった」

 

(へぇ……ここで座長らしく振る舞っておこうって事か。中々やるじゃないの)

 

 ロビンは俺の意図に気付いたようだ。

 それなら説明は要るまい。

 

「さて、皆さんのお邪魔をしてしまったのはどうあれ我々ですので、お詫びに飲み物の支払いは私が。遠慮なさらず楽しんでください」

 

「良いのか?」

 

「馬鹿お前、そう言う時は素直に頂くのが礼儀だろ。この若ぇ座長さんだってそれを望んで俺達に言ってるんだからよ。ただし、俺らも払うからな? それが一番良い収まり方だろ若座長さん」

 

「分かりました」

 

 これで丸く収まったぞ。いやぁ、良かった。

 しっかし、哪吒の奴すぐ頭に血が昇るから扱いづらいんだよなぁ……後で叱っておこう。サーヴァントだから、神様だからなんて関係無く確り意見を言ったり怒ったりするのはコミュニケーションとしてとても良いことだ。

 まだ哪吒はカルデアに召喚されて間もないから分からないだろうけど……(そもそもいつ召喚したか分からないけど)それを教えてあげないと進展はしないからな。

 そんでもってお金をロビンに預けて酒場を後にしようとすると、一番出入口近くで飲んでいた村のお爺さんが話し掛けてきた。

 マシュも丁度来たので2人で聞くと、俺達はまだ怪しいと思われていてあまり皆が不安になるような事はしないでほしいとの事。ただ、こんなセイレムの状況じゃ子供達が昨晩のように出掛けたくなる気持ちも分かるらしく、子供達には芝居で楽しませてくれないかと言う依頼をしてきたのだ。

 要するにこれはこのセイレムに居て良いか駄目かの判断になる。無論、俺達は今は旅劇団なのだ。二つ返事でそれを受け、今夜芝居をすることになった。

 演目は──『ソロモン王とシバの女王』

 

 ◇

 

 ぐだ男達がセイレムで必死に芝居を見せている頃、カルデアでは相変わらず訳の分からない盛り上がりを見せていた。

 今回はサバイバルゲーム。

 前回茸筍戦争で作製されたシミュレーションプログラムを流用した安心安全のゲーム(設定は実弾で環境設定は現実と遜色ない)で、夏のレースでドンパチしたのにまだ撃ち足りない王や、魔改造した2丁拳銃を手に背中で語る男、トマホークを撃ちたい王などが挙って参加する程非常に完成度が高い。

 そして今は絶賛試合中。

 赤と黒の陣営に別れたサーヴァント達が銃やナイフ、CQCを駆使して戦っていた。

 

「……ふッ」

 

 そんな戦場の中、黒の陣営のサーヴァントがスナイパーライフル片膝立ち撃ちで重装歩兵の右肩を撃ち抜いた。

 キルにはならなかったが、肩を撃たれた事で命中率も下がったし他の誰かに任せておけば残り少ないHPを削いでくれるだろう。

 彼女は素早くライフルを担いで速やかに移動を開始する。撃つまで動かない事が大半のスナイパーはヒットアンドアウェイと一発確殺が基本だ。

 今みたいに仕留めきれず、敵に己の大まかな位置がバレた時は彼女の様に速やかに移動しないと敵のスナイパーにやられるか、爆撃等を食らう可能性がある。

 だから彼女は周囲を警戒しつつ、なるべく音を立てず、草木を揺らさないよう狙撃時以上に緊張しているのだ。

 

「ちっ……あの重装歩兵(パンツァー)誰よ……私の黒き獅子(シュバルツェア・レーヴェ)で倒せないなんて」

 

 木々の間を駆け抜け、時には忍者のように枝を伝って足跡を残さない素晴らしい動きを見せるそのサーヴァントは一言で色白い。

 長い白髪は動きの邪魔になるからか、ポニーテールの様に後頭部で纏められた後無造作に団子にされていて、森林に溶け込んでしまう迷彩の上下がよく似合っている。

 

『狙撃は上手くいった?』

 

 そんな彼女の右耳のインカムから中性的な声が出力される。

 相手は早撃ちの天才、ビリーだ。同じ陣営で彼女が呟いた重装歩兵と今現在交戦中のサーヴァントだ。

 通信を受けた彼女は咽頭マイクの為、首のスイッチを押しながら小さな声で返答した。

 

「上手くいってたらアンタはそいつと戦ってないと思いますけどね」

 

『ヒュゥ。確かにそうだ。じゃあ僕もそろそろ本気出そうかな──』

 

 イヤホンから音が聞こえてからすぐに銃声が2発響いた。

 どうやらビリーが敵を仕留めたらしい。それを合図にしたかのように彼女も手頃な木の太い枝に腰を下ろし、光反射防止の処理を施した双眼鏡で戦場を見下ろす。

 見通しの悪い山・森林エリアでの戦闘は彼女が想像していたよりずっと敵を捉えにくいし捉えられにくい。30秒程注意深く探ってみたが、やはり敵のスナイパーは見当たらなかったが──

 

『敵の狙撃手が俺を狙っているようだ。同じ狙撃手はそちらから探せるか?』

 

 今度は申し訳なさそうな声音がインカムから。この声はジークフリートのもの。

 彼は先程倒れた敵の重装歩兵と同じ最前線に出るタイプの装備で、自分を丸々隠せる大楯で銃弾を防ぎながら前進していた。

 その途中で敵スナイパーから狙撃を受けたらしい。

 

「確か偵察情報じゃ、相手の狙撃兵(ファルケ)は1人だったかしら?」

 

『はっ。その通りでございまする。敵は()()()()()なる者が3人と()()()が1人で件の()()()()が1人の5人組で森林内に展開しております』

 

 偵察兵であるアサシン、加藤団蔵は即座に応答した。

 彼女のチームは重装歩兵(パンツァー)が2人。偵察兵(ヴォルフ)が1人。狙撃兵(ファルケ)が2人。

 バランスを取ったチームだ。

 因みに各々の呼び方をドイツ語にしたのは彼女……狙撃兵のジャンヌ・オルタの意向だ。

 ぐだ男が大浴場掃除の時に使ったとある水圧洗浄機の名前が格好良いと彼女に話したのが影響している。

 

「じゃあそいつを叩けば後は楽勝ですね。ちょっと待ってなさい。今探──」

 

『その必要はない』

 

 被せて入ってきた更なる通信相手。同じ狙撃兵であり、ジャンヌ・オルタとは仲が悪いお馴染みの王。

 アルトリア・オルタはジャンヌ・オルタが話している間に既に敵スナイパーを見付けたらしく、この程度も出来ないのかと言いたげな声音でそう報告した。

 これには彼女もカチンと来る。

 

「はいはい流石は王様。上手じゃないの。てっきり聖剣ぶっぱなすしか出来ないと思ってたけど、器用な事も出来るのね」

 

『……』

 

 聞こえてないのか、聞いていないのか分からないが、アルトリア・オルタからの返答は無い。

 代わりにちょっとしたらスナイパーを倒したと連絡が来る。

 別に競っている訳ではないが、こうも簡単にやって見せられると彼女の対抗心にも火がついた。今度こそ一撃で葬ってやるわと意気込んでスナイパーライフルの弾数を確認した刹那、1発の銃声が響いた。そしてその直後、チームの通知にアルトリア・オルタが死亡(ゲーム上での表記)したと一文が走る。

 

「は!? あの冷血女なにやってんの!?」

 

『……囮だ! 彼女が倒したスナイパーは囮だったんだ! ジャンヌ、敵スナイパーはまだい』

 

 ブツッ! とビリーからの通信が途絶える。同時に静かな森林に響く2発目の銃声。

 続けざまに2人が殺られたことに動揺したジャンヌ・オルタは思わず確認中だったマガジンを落としてしまう。しまったと木から飛び降りようと下を覗き込んだ瞬間、寄り掛かっていた木の幹に風穴が空いた。

 

「……」

 

 即座に理解する。

 これは狙撃だ。たまたま下を覗き込んだから助かったが、相手は確実にこちらを捕捉していてかつ、寸分違わず眉間を狙ってきていたと。

 狙われると言う恐怖を知った彼女は兎に角逃げた。マガジンを拾い、背中からズドンされる恐怖に耐えながら木々の間を駆け抜け、そして大きな岩影に身を潜めた。

 そこで漸く荒くなった呼吸を無理矢理落ち着かせて音を立てないようにマガジンを嵌め直しながら味方へ通信するが……誰も応えない。

 必死に走ってきていた間に全員殺られてしまったのだ。

 

「……嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ……一体誰なのよ……」

 

 このゲームにおいて、サーヴァントのスキルや宝具等は効かないようになっている。

 ただ元来銃を扱っていた者が扱い方を忘れるわけではない。つまりはそう言うことだ。

 

「こうなったら……せめて1人だけでも……」

 

 岩影から少し頭を出して双眼鏡で敵を探す。

 わざわざ相手は銃声を出しているのだ。今もどういうつもりか銃声が響いているし、音である程度方角も絞れる。後は目を凝らせば──

 

「……見付けたっ……あのフード……抑止力の……道理で巧いわけね。だけど……」

 

 認めたくは無いが、自分よりも巧いアルトリア・オルタが殺られたのだ。焦らず、慎重に狙いを定めて、引き金を引いた!

 

「──やった! 当たった!」

 

 思わず声を出してガッツポーズをした時だった。

 

「……思ったより時間が掛かった。まったく……手こずらせる」

 

「…………」

 

 真後ろに、フードを()()()()()()()()()死んだ目の男が立っていた。

 

 ◇

 

 残念ながら、劇は自分の目で見てほしいッ!

 

「どうしたんですか先輩……?」

 

「ごめんマシュ、気にしないで。それより、俺はカーター氏と一緒にホプキンスの所に行ってくるからアビーをお願いしても良い?」

 

「勿論です。気をつけて下さい先輩」

 

 芝居が高評価で終わってすぐの事だ。村の広場で何やら大人達が騒いでいるのを聞き付けて外に出てみると、村人に拘束されたティテュバと彼らと話しているカーター氏の姿があった。

 どうやら、今朝聞いた話と同じ内容で、昨夜アビー達と森の中で()()()()をしていた女の子達の内の1人が悪魔に取り憑かれたと言う。

 それによって、()()()()を教えたティテュバを魔女として捕らえていたのだ。

 カーター氏は冷静に場を収めようとし、ティテュバの魔女疑いを晴らそうとしていたのだが……途中から最悪なのが割り込んできた。

 それがマシュー・ホプキンス。セイレムに赴任した判事らしい。彼はティテュバが渡した(実際はその女の子が勝手に持ち出した)と言う()()()()の道具を見せ、間違うことなき魔女の仕業であると断言したのだ。

 その一言でティテュバは魔女として再度拘束。地下牢に押し込まれてしまった。

 当然、カーター氏はこれを認めなかった。これからホプキンスに直談判をしに行くところで、俺も()()が魔術の道具であるかの確認と昨夜の目撃者としてついていく。

 

「済まないミスター・ぐだ男。貴方は客人だと言うのに」

 

「気にしないで下さい。私も()()()()の道具は旅の中で何度と見てきたので参考になればと」

 

 もしや、魔神柱はホプキンスか? けどそうだとしたら目的が分からない。判事なんかに成り済まして何を……?

 どちらにせよ、まだ情報が足りなさ過ぎる。慎重に動かないとな。

 

「ロビン、一応ついてきて貰っても良い?」

 

「了解」

 

 そこからはもう大変の一言だ。

 ホプキンスはティテュバは魔女であるの一点張り。面会も許さないし、道具を見せてもくれない。俺ぁ疲れた……。

 対してカーター氏は俺達と違って一歩も退かず戦っていた。ティテュバは自分の私有財産であり、不等な差し押さえには法的手段を取ると。成る程……従軍歴があるとは聞いていたけどこうも違うか。

 

「……と色々あった」

 

 翌、セイレム滞在2日目の朝に俺は皆に昨晩の事を共有した。

 皆からの報告もあり、主にあれだけ嫌がってたのに何故か同行してくれたメディアさんからのカーター邸工房化の話は特に重要だ。

 曰く、セイレムを覆っている神霊クラスの結界によって、俺達の認識が阻害、もしくは干渉されていて誰1人として捕らえられたティテュバの外見を思い出せなくなっている。これにより、メディアさんはホプキンスより姿を偽っていたとされるティテュバが怪しいと言っていた。

 ただ、あくまでも可能性としての話だ。これを証明するには彼女に直接会って精査してみないと分からない。

 それにその呪具の事も気になるようで、ホプキンスに午後イチに会いに行きたいと言う。

 またアイツの所に行くのか……気が重いな。

 

「気が重いのは分かります。ですが時間が無い」

 

「? どう言うこと?」

 

「ホプキンスはティテュバに自白させるつもりです。彼はその道のプロですから」

 

「しっかし、あのホプキンスって爺は一体何者なんだ。何か、奴さんこそ取り憑かれたみたく魔女だ魔女だと五月蝿いが」

 

「では彼については僕から話しましょう」

 

 ロビンの疑問に同じく同行してくれたサンソンが答えてくれた。

 何でも、あのマシュー・ホプキンスという人物は英国の弁護士らしく、今を17世紀後半とするなら高齢で、老年期を前に死んだともされているので、もし生きていたとしたら大体あんな感じの外見になるそうだ。

 そしてそのホプキンスの生涯で最も呼ばれた名を『魔女狩り将軍(Witchfinder General)』と言うらしい。

 正当な手続きを踏まず、魔女狩りそのものを生業とし、3年で300人を絞首刑にした事もある故にその名が付いたのだろう。恐らく、いや、確実に無実の犠牲者達だ。

 魔女狩り何て大義名分を掲げているが、やってることは金目当ての人殺しだ。

 特にそれが顕著に見られるのが刑の執行方法だと言う。

 魔女狩りと言えば火刑が想像されるが、彼が絞首刑にした理由は効率化の為。

 わざわざ見せしめにするわけでもない。脅すわけでもない。ただ円滑に、効率的に刑を執行する為に絞首刑を採用したのだと。

 ……聞けば聞く程胸糞悪くなる男だ。だが腹を立ててる場合じゃない。

 

「さっきロビンが言ったけど、地下牢は最悪みたいだ。このままだと、彼女はやってもいない罪を告白して絞首刑にされる。確かに時間が無い……メディアさん急ごう。あとサンソンもお願い」

 

「えぇ」

 

「分かりました」

 

 セイレム2日目にしてこの混沌とした様相は結界によるものだろうか?

 もし、もしティテュバが絞首刑になった場合、魔神柱はどう動く? 本当に魔神柱と関係があるのだとしたら、ティテュバよりホプキンスなのでは?

 だって、ロビンからの報告では、セイレムの特徴的地形や建物は一致しているが他はあまりに()()()()だと言う。村の中も若干時代のズレも見られるし、外部から来る人なんて居るのだろうか。

 だけど魔神柱の目的は「セイレムの再現」が最も有力だ。再現するなら、確かに魔女とされる人達を裁く人間が必要だ。

 いや、もしかしたらホプキンスは人間等ではなく魔神柱のサーヴァントでは? 新宿でも、サーヴァントになるには霊基が足らない幻霊を使っていたし、その線も……ああ! 駄目だ! 訳が分からなくなってくる。

 止そう。1度考えるのを止めよう。今はティテュバだ。

 

「行くぞ」

 

 




カルデア側でも相変わらず騒いでいる描写を入れたら思いの外書いてしまった……どっちがメインの話なのやら。

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