Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
1度見ただけじゃ分からない所も多いので、クリアした後にもう1度、いや2度は見直してみるとサンソンやホプキンスの行動の意図も分かりますよ。
私ですか? 私はもう3度程見返しましたが……まだ完全には……
10月。
それはカルデアで最も俺がトイレに籠城したくなる時期。
過去2回もエリちゃんの歌を聴かせられて昇天しかけた俺にとっては軽くトラウマだ。そう──ハロウィンだ!!
「──て、怯えてたわけだけど、最後の魔神柱の反応が見付かったって?」
「はい。ゲーティアさん曰く、あの時間神殿から逃げた何柱かの内最後の魔神柱が特異点と共に発見されたようです。場所はセイレム。ご存知無いですか?」
ハロウィンイベントに向けて張り切って準備中のエリちゃんとは関係無く、ガチの特異点が見付かったとマシュから報告を受ける。
セイレムなんて聞いたこと無いけど……有名な所なのだろうか。
俺は素直に知らないと答える。
「魔女裁判は聞いたことありますか?」
「あるよ。え、まさかそう言う事なの?」
「そう言うことだよぐだ男君。セイレムの魔女裁判と言えば多くの犠牲者が出た酷い事件だ。取り敢えず3日前からの調査で内部の様子も少しだけ分かっているからこの資料に目を通しておいてくれるかな」
そう。事態は既に3日前から起きていた。俺は恒例の契約サーヴァントお悩み相談室・夢の中出張所で最近は眠りこけていたので知らされていなかったが、そんな事態になっていたんだ。
そんな事より、今回の特異点は何より異常としか言いようがない。
今まで特異点は過去に遡る時間逆行であって、明確に形として眼に見える物ではなかった。しかし、今回の特異点はどうだろう。
今現在、アメリカはセイレムと言う1つの町を丸々と黒いドーム状の何かが呑み込んでいて内部から一切の出入りを許していない(ただ1つ帰って来たからくり人形は例外)。
明らかに異常だ。魔神柱は何を企んでいる……。
「こちらも色々やる事があるから、一旦1時間後にここに集合。今回はレイシフトにも制限が掛かって居るからチャンスは往復の一度きりだ。アンデルセンとウィリアムに“脚本”は任せてあるから、取り敢えずその資料に目を通してから同行するサーヴァントと諸々調整して貰っていいかな」
「はい」
「……あの、私はやっぱり駄目なのでしょうか……」
「厳しいことを言うようかもしれないが、今の君は戦闘員ではない。今では戦闘力もぐだ男に劣るだろう。そんな君が同行すれば、足を引っ張る事になる」
「……」
ホームズから言われ、確かにそうだと黙ってしまったマシュ。
彼女の行きたい気持ちはよく分かる。ここ最近、ずっとレイシフトはせずにサポートに回っていた彼女は、少しでも役に立ちたいと頑張っていた。
だが、結局は現地に到着すれば連絡は取れなくなるのが殆どだし、サポートしていると胸を張って言える程の働きも実感できていなかった。
例外としてこの前リッカとアメリカの特異点を直しに行ったが、結局戦闘は出来ないし、やはり足を引っ張る結果となっていた。
このままでは駄目だと。今までにない異常な特異点は新宿やアガルタなんかよりもずっと危険だと分かっているが、それでも彼女は自分を押し通す気だろう。
そんな彼女に助け船を出したのは意外にもコンソールと睨めっこをして居たドクター・ロマンであった。
「マシュ。今回は現地に合わせる目的もあって旅劇団で行くのは知ってるね? 幾ら偉大な脚本家が書いたシナリオでも、それを演技する彼らはプロじゃない。誰かの助けが必要だ。例えば──プロンプターとか」
プロンプターとは、劇団に居る裏方の人だ。
俺はそれしか知らないが、マシュはそれをしたいと。
同じ場に居たジェロニモやダ・ヴィンチちゃんは賛同しかねると言った雰囲気だが、作家組は正直助かるとの事だ。
結局は現地に行く俺に決定権が委ねられる。マシュの顔をチラと見てみると、その瞳は時折見せる強い意志を宿していた。
俺もマシュが来てくれるなら助かる。だけど、マシュを危険な目に合わせたくない。何しろ彼女は俺を護る為に1度──
「先輩……」
決めかねている俺にマシュが声をかける。
あぁ……その目は止めてくれ。そんな目をされたら断れなくなってしまう。
「……分かった。じゃあマシュも準備しておいて」
「──ハイッ! マシュ・キリエライト、レイシフト準備の為離席します!」
張り切った様子のマシュを見ても尚、俺は得体の知れない不安に駆られていた。
もしかしたら、選択を誤ったのではないかと。
◇
「……」
「行っちゃったみたいだね。沖田くんは同行できなかったみたいだけど」
「……私は、この通りノーマル私より肌が濃い。この色が、マスター達が向かう時代では不利になるらしい。マスターにも迷惑はかけたくないから、こうして留守番だ。正直悲しみ。抑止力に文句を言うか」
「今回はちょっとばかり難しいらしいからね。それに、まだ僕達はここに来たばかりのようなものだ。先ずは皆とコミュニケーションをとって、連携を深めるのが良いんじゃないかな」
「お竜さんもそう思うぞ。何しろイゾーみたいな雑魚が周りに居たら面倒だからな」
「はいはい。余り周りを挑発するのは止そうね。ほら、以蔵さんも喧嘩を売らないで……あ! ちょっとお竜さんその咥えてるのは何!? え? 赤毛の忍者が召喚したやつ? 駄目だよ!? 彼に返してこないと──あぁっ、以蔵さん待ってって!」
沖田オルタは当たり前のようにぐだ男の部屋のベッドに座りながらライダー、坂本龍馬と話していた。
後から召喚されたアサシン、岡田以蔵も居てやたらと賑やかだが……そんな事より沖田オルタはぐだ男が心配だと、そんな顔をしていてちょっと坂本の話も聞いていなかった。
そんな表情を見て坂本がどうしようかなと帽子を直すと岡田と下らない言い合いをしていたお竜がシャドーボクシングをしながら沖田オルタに大丈夫だと声をかける。
「アイツは頑丈だからな。それに旨い」
「……そうだな。マスターは強い。私よりも多くを知ってるし、経験している。それに──」
カルデアには他の抑止力も居る。
食堂の赤い人や、死んだ眼の暗殺者、凶ってる女だったり……それらに囲まれたぐだ男を見て、改めて契約して近くで感じた結果をもって、彼女はそう呼ぶ。
「──
◇
セイレムは思ったよりも空気が重たい感じだった。
やはり村人(マタ・ハリに見て貰った結果、元のセイレム住人に該当する人は居なかった)も魔女や魔術の話題に関してはかなり敏感で、下手に嗅ぎ回ると簡単に目をつけられてしまうような状況だ。
尤も、旅劇団・ぐだ男一座を歓迎する者は殆ど居ないし全体的に若い──特に俺が座長をやっていてその印象を加速させている──のを不審がられていて既に目はつけられているだろう。
これが急に魔女だ魔術師だなんて言われて裁判かけられたり追い出されでもしたらどうなるか分かったもんじゃない。
今は子供からでも良いから、旅劇団らしくお芝居を披露したり芸を見せたりして少しでも受け入れてもらおう。
「わぁ……座長さんとっても力持ちなのね」
「鍛えてるからね。ほら、旅をしてるとやっぱり危険な事もあるから」
皆各々情報を集める為村に散って行った中、俺は森で獣に襲われかけた所を助けたアビーことアビゲイル・ウィリアムズとその伯父であるランドルフ・カーターの家で埃だらけの部屋を掃除していた。
泊まる所も無い俺達に、姪を救ってくれたお礼にとカーター氏が泊まらせてくれるとの事なので、許された範囲で掃除をしながら彼女とコミュニケーションをとるつもりだ。
カーター氏も使用人のティテュバに任せて大丈夫だと言っていたが、それだとこの大所帯でお邪魔する身としてとても申し訳無いし。
「旅……座長さんはどんな所を渡り歩いてきたの?」
「んー、先ずは俺の国日本。そしてフランス、イタリア、イギリス……オケアノスはギリシャかな? そしてこの国。色んな国に行ったなぁ」
辛くも多くの出会いと別れとはいざ乗り越えてみれば思い出になっている。
俺がここまで歩んでこれた重要な構成要素。救えた命と救えなかった命も……決して欠けちゃいけない物だ。
「凄いですねえ、聞いた事が無い国にも。どうしてそんなに色んな国に行かれるので?」
ソファをどかして箒で床を掃きたいティテュバが間の抜けたような語尾で俺に訊いてきた。
彼女はカリブ海はバルバドス島出身の黒人らしく、その肌は黒人のそれと同じく深い色をしていてどこか不思議な雰囲気を漂わせている美人さんだ。
どうやら先住民に殺されたと言うアビーの両親(父親)に仕えていたらしく、彼女にとってティテュバは家族と同じ様に大切な人らしい。
そんなティテュバに俺はどう答えるか一瞬迷って言葉を紡いだ。
「……生きる為。俺にしか出来ない事があるから。俺がやりたいから。もっともっと色んな思いがあって……」
「もしかして哪吒さんやマシュさん達も?」
「どうだろう。あまり気にしてなかったな」
ティテュバが持ち上げられなかったソファを1人で持ち上げながらアビー達とそんな話をする。
これ以上はあまり詳しく話せないので何か誤魔化せないかと、石製の変な置物を軽く持ち上げて力持ちをアピールする。案の定、アビーはそう簡単には持ち上がらないそれを軽くやって見せた事に驚いて今度はどうしてそんなに力持ちなのかを問うてきた。
それにしてもこの置物は何だろう。何だかタコみたいな変な生き物の形だから非常に持ちやすいけど……趣味悪い……気がする。
「凄いわ座長さん! このセイレムの誰よりも力持ちよ! こんなに力持ちだから昨日の獣も怖くなかったのね。ぁ──」
そこまで言ったアビーがその事を思い出して口を押さえた。
昨晩、俺達がレイシフトをしてすぐの事。森の中で
マシュとマタ・ハリにその子達を任せて残る俺達でそれを撃退して事態は収束し、その後カーター氏が来て何やかんや俺達がここに泊まった訳だ。
勿論、無事だったとは言え皆を危険に晒したアビーはカーター氏から罰としてお客──つまり俺達──との会話を禁止した。今喋っているのは彼女の友達として居るから。
それに何か思うところがあったようだ。
多分、これでカーター氏に俺達も何か言われてしまうのではないかと言った所だろう。
「大丈夫だよアビー。その時は俺がカーターさんに話すから」
「……座長さんはお見通しなのね。本当に不思議な人」
『ティテュバ。ティテュバ居るか?』
「おんや? 旦那様の声ですね」
ティテュバが外からカーター氏に呼ばれて部屋を出ていった。
もしかして俺が余計な事をしてしまったか? 妙に気になった俺は同じく呼ばれたのを気になったアビーと一緒に外に出てみる事に。
すると険しい顔をしたカーター氏がティテュバに何やら問い詰めている様子だ。隣のアビーはそれを見た瞬間、彼女の元へ駆け出していた。玄関前で取り残された俺はどうするか迷ったが、取り敢えず彼女達の所に行ってみる事にした。
「どうかされましたか? カーター氏」
「ミスター・ぐだ男……どうやら、昨晩の悪ふざけは思っていた以上に深刻だったようだ。残念だが、これでは貴方達の芝居を姪に見せる訳にはいかない」
「ただの子供のいたずらでは?」
「それだけでは済まない事態だった。貴方方が居たから難を逃れたものの……」
カーター氏が言うには、昨晩の悪ふざけ……アビーと村の少女達が森で行っていた何らかの
アビーは無理に教えを請うた自分が悪いと終始庇っていたが……それも虚しくティテュバには罰が与えられる事になった。
最後にカーター氏は俺に騒がせて申し訳無いと謝ると、ティテュバとまだ話すことがあるのだろう。家の中へ行ってしまった。
この状況では俺は居ない方が良さそうだ。さて……じゃあどこかに走っていってしまったアビーを探すか。もし森に行ってたら昼間とは言え危ないからな。