Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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ゼロイベやっててふと思ったんですけど、刻印虫の形が変わってるんですね。
まぁ、流石にあの形じゃ出せないですよねぇ……



Order.67 はじめての特異点(おつかい)

 

 

 

 特異点が2つ同時に見付かったと聞いた時、真っ先に何徹になるか予想していた俺だったが、片方はぐだぐだ粒子が濃厚でもう片方は「何か、取り敢えず駄目な人になる」と言った有り様で肩の力が一気に抜けた。

 正直、どっちも行くのも何だか嫌だなぁと思っていると会議室に水着のままノッブが突入してきた。

 

「たのもーう! ぐだぐだと聞いて黙って居られないわしが来てやったぞ。続けてわし参加のイベント開催とかありがたいのぅ」

 

「待ってください! ぐだぐだならこの沖田さんだって主役張らせてもらってますから!」

 

 ぐだぐだしてきたぞぅ。

 会議室が喧しくなってきたし、2人を取り敢えず落ち着かせて着席させよう。

 

「じゃあ、ぐだぐだの方は一度放置して……」

 

「いや、それに関しては私にも考えがあるよ。今回、ぐだ男君にはぐだぐだ特異点に専念してもらいたい。そしてもう片方はリッカ君とマシュにお願いしようと思ってるんだ」

 

「成る程。でも彼女はレイシフトは初めてですよ?」

 

「だからこそ、ぐだぐだ特異点に行かせるのは不味いんだ。彼女達が受けてきたのはそんな緩い特異点における対処のしかたではない。マシュを同伴させたとしても、正直期待が出来ない」

 

 そうか……。やっぱり、ここはぐだぐだで慣れている俺が適任と言う訳か。ウレシイネェ。

 

「彼女は大丈夫と?」

 

「確認は取ってあるとも」

 

 だったら何も言うことはあるまい。

 既に準備中なのだろうリッカに悪いなと思いつつ、ドクターから特異点の資料を受け取る。

 ぐだぐだが起こるのは基本日本だから時代だけを気にする。もし戦国時代なんかだと面倒だけど……今回は何処かな?

 

「明治維新辺り? 随分大まかな……」

 

「何じゃあ、わしがミッチーに燃された後ではないか。もっとわしが輝いてる時代があるじゃろ」

 

「分かんないよ? もしかしたらあまりにもぐだぐだで徳川幕府が織田幕府になってたりしてノブノブしてるかも」

 

 取り敢えずここで考えてても特異点は無くならない。

 急ぎ準備をして対応しよう。

 

 ◇

 

 私──リッカ・オリヴィエは悩んでいた。

 突然言われた特異点の話。私は元よりそれが目的でカルデアのマスター候補をやってたから、体を2つに分けられないぐだ男の代わりに片っ方を担当するのに問題は無い。のだけれど……本当に私で良かったのだろうか。

 自信が無い。いや、マシュもサーヴァントもついてきてくれるから孤軍奮闘にはならなくて安心してるけど、逆に皆の足を引っ張りそうだ。

 こんな時、ぐだ男はどうするのだろうか。

 初めてレイシフトした時はどう対応したのだろうか。訊いてみよう。

 

「え? レイシフトした時の対応? やっぱり緊張するんだ」

 

 彼の部屋に行った時、丁度会議が終わって着替えに来ていたのでそれを見ながら訊いてみた。

 別に男の上半身裸位見て騒ぐ程子供じゃないし、彼も何ら気にとめず私の前で着替えている。

 やっぱり私と同じ様に魔術礼装カルデアでレイシフトするらしい。上着をベッドに放り投げて黒いインナーを窮屈そうに着ている体を見てみると、やっぱり大小様々な傷痕が一杯あった。

 ミミズが這ったように縫い合わせた痕。撃たれた様な痕。火傷の痕……レイシフトは肉体に影響を与えないと聞いていたのに、彼には今までの特異点の“あと”がある。

 何でと疑問するも、さっきドクター・ロマンが言っていた事を思い出してすぐにその疑問を振り払った。

 

「ねぇ。レイシフト適性100%で良かったと思ってる?」

 

「適性が? どうだろう。あまり考えた事無いな……でも適性のお陰で俺は色んな特異点に行けたし人理を取り戻せたから良かったと思うよ」

 

「そうなんだ」

 

『彼はね、何故だか分からないけどレイシフトの際に肉体ごと特異点に跳んでいくんだ。これが適性のお陰かは不明だけど、確実に言えるのは彼の肉体や魂は異常な程レイシフトに慣れている。まるで何百、何千とこなしてきたみたいに……恐らくその異常な慣れ、ないし適応力が彼のレイシフトを後押ししてるんだと思うんだ』

 

 ドクター・ロマンはそう言っていた。

 前々から聞いてはいたけど、彼の環境適応力は凄すぎる。こんな状況になったばかりの時も、自分の役割をすぐに受け止めてこなしてきたんだから。

 もしかして彼の起源は『適応』なんてオチなんじゃないの?

 

「ま、それは置いといて。レイシフトしたら先ずは周囲を確認するかな。マシュや同行した皆は居るか? 自分達はどこに居るのか? 危険はないか? って感じで安全を確保する。安全なら落ち着いて、ドクターやダ・ヴィンチちゃん、マシュ、サーヴァントの皆と話したりしながら方針を決める」

 

「もし通信不能になってたら?」

 

「その時はなるべく戦闘を避けて安全地帯を探す。出来ればそこが霊脈であって欲しいけど、基本そんな都合は良くないからそれは別で探す。後は通信出来なくても目的通り動くけど、慎重にとしか言えないかな」

 

 ある程度は予想してたけど、今教えられたのは訓練でも言われたものばかりだ。やっぱり、作戦の肝になるのは冷静な判断力や行動力等か……難しいのね。

 

「大丈夫だよ。俺達マスターは強くないけど、独りじゃない。マスターはサーヴァントを頼るし、サーヴァントもマスターを頼る。人と言う字は──って話じゃないけど、お互いに支えあってこそマスターとサーヴァントの関係なんじゃないかなって俺は思うよ。だからリッカも一緒に行くサーヴァントに頼りなよ。初めてのレイシフトで上手くいく筈なんて無いんだからさ」

 

 シャドウサーヴァントなら1人で倒せるし、人類悪を殴り倒したし、モツクチュされたのにすぐ走り回っているこのマスターの何処が強くないと言うのか。

 真っ当な魔術師からすれば、そんな芸当やってるのが魔術師の家系でもない、ただの一般人がやっている事と今の言葉に腹が立つだろう。

 私は実力主義だし、特に魔術師だから見下すなんて事はしないから彼の言葉にはとても説得力を感じた。

 代理のマスターみたいなものだけど頼って良いんだと緊張していたのが少し和らいだ。

 

「ありがと。楽になったわ」

 

「どういたしまして。他に何か訊きたい事とかある?」

 

「じゃあ……」

 

 レイシフトとは関係無いけど、この部屋に来てずっと気になってたから思いきって訊いてみることにした。

 彼が放り投げた上着が乗ってるベッド。そこには人1人分の膨らみがあった。それだけでは無い。

 ベッドの下には黒っぽい、暗い色の布が落ちている。パッと見非常に布面積が少なく、最早先程までのレース会場に水着と言い張っても疑われなさそうな中々に鋭角なハイレグ。その下敷きになっている同色のニーソもあって、高確率で女性サーヴァントが裸でベッドINしているのは素人マスターにしても分かった。

 確かに年頃なんだし、ここには彼に好意を寄せるサーヴァントも多いからそうなる事も分かるけど……。

 

「あぁ、静謐ね。よく俺のベッドで寝てるんだ。何で裸なのは俺も理解に苦しむけど……猫みたいなもんだね。別に悪さはしてないし、俺も毒は大丈夫だから気にしなくても良いよ」

 

 いやいやいや! 気にしなよ!?

 女の子が自分のベッドで! 裸で寝てるのよ!? 寧ろこんな状態が普通にあるっぽいのに一線越えてない辺り何て甲斐性の無い男! 抱きなさいよ! 静謐ちゃんなんてすっごい可愛いんだから抱きなさいよォォッ!?

 私だって静謐ちゃんの柔らかそうな頬っぺたツンツンしたいのに触ったら死ぬのよ!? 裏山!

 

「な、何その目……あ! 違うよ!? 流石の俺も裸では一緒に寝させてないからね!?」

 

「それでも一緒に寝てるんかい!」

 

 ◇

 

 経つこと20分。

 準備に然程時間がかからないぐだ男からレイシフトが開始されることになった。

 この前の大調査によって、マスター候補の遺体と共に回収されたコフィン。マスター候補の全員が入れるよう何十基とあったそれらは今や無事だった(爆破時誰も入っていなかった内の)4基しかない。

 自分もその回収された(コフィン)の中の1人だったかも知れない。もしそうだったら、と考えると背筋が凍る。だから生き残った幸運をリッカは噛み締めた。──手足こそ失ったが、自分は生きているのだと。

 同時に改めて緊張と震えが彼女を襲い始める。正直、トラウマにも近いのだ。コフィンの中に閉じ込められ、意識が無くなる寸前まで目の前に地獄が広がっていた。右隣のコフィンは降ってきた大きな瓦礫でほぼ潰されて赤い液溜まりが出来ていた。左隣のコフィンは中のマスターが助けてと悲鳴をあげながらコフィンごと炎の中でもがいていた。

 そのコフィンにまた入るのかと、今まさにそれに入っていくぐだ男を見て思っていた。

 

「怯えてますな魔術師殿」

 

「ハサンさん……バレてました?」

 

 えぇ。と頷く呪腕のハサン。

 生前、山の翁となる為に自らの顔を削ぎ落とした暗殺者のサーヴァント。その削ぎ落とした顔の代わりにハサンの代名詞である白い髑髏の仮面の目が笑うように弧を描く。

 何故仮面がと疑問符を浮かべるリッカ。しかし魔術やサーヴァント等が当たり前のここではその疑問を抱くのが無意味であると切り換えてハサンとの会話に戻る。

 

「恐怖と言うのは筋肉の動きを鈍らせる。精神と肉体は緊密に絡み合ってるとは良く言ったものでしょうな。我ら山の翁は暗殺者故に状況の把握や対象の僅かな変化にも気付くのは容易い。魔術師殿からは、その隠しきれない怯えを」

 

「……そうですね。確かに怖いです。あの(コフィン)はどうにも……すみません」

 

「謝ることはありません。恐怖は至極マトモな事。それにあの様な、棺と称される物に嬉々として入る方が私には理解しかねますな」

 

「たまに先輩が素材集めでそうなりますけどね……」

 

 確かにと心の中でマシュに同意する。

 まだ会ってそんなに経っていないが、ぐだ男とは弾ける時は引く程弾けるし、シリアスならとことんシリアスを貫く両極端な男だと充分に理解していた。

 記録によると、周回の為に林檎を点滴して48時間連続周回耐久レースをやり遂げた事もある。そんな人物と自分を比べるのもどうかと思ったが、今同じようにレイシフトする身になるとどうしても自分が劣っていると思ってしまって嫉妬してしまう。嬉々として入らなくとも、自分もあんな風に慣れた様に入れればと。

 そんな事は知らないぐだ男なコフィンの中のカメラに向かってサムズアップすると、リッカに頑張れよと続けた。

 

「頑張って下さい先輩」

 

 マシュが言い終えるのとコフィンの中からぐだ男が消えたのは同時。

 同様にコフィンの近くの召喚サークルに立っていた沖田と織田もぐだ男についていくように姿が欠き消えた。

 

「じゃあもう少ししたら準備できるから待っててね」

 

「はい」

 

(一般人の彼でも……まぁ適応力が桁違いだけどレイシフトに慣れたんだもの。私だってちゃんとやってみせる)

 

 それから暫くするとリッカもアメリカへ跳んだ。

 心なしか、コフィンの中の彼女の体は緊張していたとは思えない程リラックス出来ていた気がする。もっとも、体はレイシフトしている間は寝ているように脱力するから当たり前なのだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そんな彼女だが1つ、勘違いをしている。

 ぐだ男がレイシフトに慣れていると思っているが、実際には()()慣れていない。突然意味消失してしまう可能性も孕んだレイシフトに対する恐怖が麻痺しているに過ぎないのだ。

 では何故麻痺したのか。()()()そうさせたからだ。

 時間の概念が無い故に数えるのも阿呆らしい程レイシフトをこなしてきた彼の霊基。彼の心臓がレイシフトに都合の良い体に作り替えて、その体には不必要なレイシフトへの恐怖を麻痺させたからだ。

 だから彼は肉体ごと跳ぶし、レイシフトにほんの少しの抵抗を見せない。

 

 

 本人は知る筈もあるまい。自分の体がいつの間にか自分によって作り替えられた事なんて。

 

 

 


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