Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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ハロウィンが近付いてくる!
今年はどうなるか楽しみですねぇ


Order.66 ゲーティア「これはパクりではなくオマージュだ」

 

 

 

「アッハハハハハ!」

 

「『グガランナ リビルド計画』ぅ!? 一体どういう事だイシュタル!」

 

 ゴール地点。その最奥にあるお世辞にも良い趣味とは言えない黄金神殿の前で高笑いをするイシュタルに俺は問い掛ける。

 すると彼女は丁寧に全てを説明してくれた。

 この大地はコノートだがコノートに(あら)ず。上から金星のテクスチャを上書きしたモノで、俺達はレースをしながらマシンに組み込まれた儀式用パーツ──とは仮の姿の『グガランナの生体パーツ』で大地に魔力を流して魔法陣的な物を大規模で作成。それらを何やかんやした結果、イシュタルの神格を高めてグガランナの召喚ではなく創造をすると。

 確かに、ウルクで散々グガランナを落としたことを馬鹿にされてたけど……まさかここまでやるとは思わなかった。

 

「そうか……アタランテやアルテミスが出てきたのは金星の地形に由来してたからか。そう言えばメイヴも地名にあったな。気付かなかった」

 

「よく知ってるじゃない。まぁ、スカサハやメイヴ達はイレギュラーだったけど、貴方達が倒してくれて助かったわ。お陰でこうしてグガランナを再建できるんだから! 何より絶対邪魔になるルチャ女神も消してくれた事はとっても感謝してるわ!」

 

「待ってくださいイシュタルさん! あのグガランナはこの特異点を()()してくれるんですか?」

 

「勿論よマシュ。このグガランナでぜーんぶ綺麗にすれば特異点は解決よ」

 

『はーい、ここでちょっと割り込ませてもらうよ女神イシュタル』

 

「何?」

 

『今マシュは修復と言ったんだけど、あのグガランナで果たして修復が出来るのかな? 私の見解だと、あれが出来ると同時に特異点は()()して、人理に大きな影響を残すと思うんだけどね。具体的には、コノートが地球から消える』

 

「あ」

 

 おい。と思わずツッコミたくなる間抜けな声をイシュタルが出した。

 彼女のその一文字で俺は大体の事態が即座に理解できる。つまりあれだ。良かれと思ってやったは良いけど、神様特有の価値観の違いと“うっかり”の合併症だ。これは酷い。

 

「取り敢えず、グガランナ作成を一回止めて降りてきてよ」

 

「……ヤダ。私は失敗なんかしてないわ。ちょっとばかりこの大地はズタズタになるけど、私とグガランナの力があればそれ以上の戦力に、プラスになるのよ? これは貴方達の為なの。だから、私は何としてもグガランナを再建するわ!」

 

「このッ駄女神!! どうして問題事ばっかり起こすの! 止めないなら止めさせるからな!」

 

 そうは言ったものの、遠方からやって来た巨大な竜巻から姿を表したグガランナはその竜巻並みにデカい。

 大体目測で90m……100m近いな。あんな巨大で近付くだけで魔力の奔流に霊核が軋むような相手にどう戦えと。時折降ってくる雷もイシュタル曰く、一撃でサーヴァントの霊核を砕くらしいから迂闊に近寄れない。

 でも、あそこでたった今それを食らったブレイブエリちゃんは「痺れるー!」って言いながらピンピンしてるんだけど。何で?

 

「大人しく退きなさい。そうすれば怪我はしなくてすむわ。あと駄女神発言も聞かなかった事にしてあげる」

 

「……断ったら?」

 

「言わなくても分かるでしょ?」

 

 そうか。

 そこまでやるつもりと言うなら、こちらもそれなりの覚悟で挑まないと命に関わるようだ。

 あのグガランナに挑むのは蛮勇と呼べるレベルだ。すぐに現地のサーヴァントで迎撃舞台を編成して対応しても……難しいだろうな。地球防衛軍じゃあるまいし、あんなKAIJUを──

 

「じゃあ対KAIJU用人型巨大兵器を投入させて貰うか」

 

「「!」」

 

 その声の主はいつの間にか俺の足元に仁王立ちしていたゲーティアのものだった。

 同時に、バラバラバラ……と竜巻の巻き起こす音とは違う、機械的で規則的な風切り音が反対側から近付いてきた。

 この音は良く知っている。カルデアに最初に連れてこられた時にも乗った、ヘリの音だ! でもどうして?

 疑問する俺だが、音の方向を見やるとすぐに理由が分かった。運搬用のヘリが2機、何かを吊り下げていたのだ。そう。それこそがゲーティアが言った『対KAIJU用人型巨大兵器』……こいつの持つ宝具擬きの奇蹟だ。

 それは腕を組んで堂々としていたのだが……何故か頭が無かった。

 

「ビースト・デンジャー! あれは再起不能になった筈じゃ……!」

 

()()()()()()な。……一応お復習(さらい)としよう。あの時、リアクターが2基とも大破して塩基接続(アミノリンク)していた俺達はそのフィードバックを受けた。だからこんなちんちくりんになっちまった訳だ。それにより、俺達の霊基は弱体化してビースト・デンジャーは沈黙して再起不能になった。だが、ティアマトの霊基再臨(かいふく)とリアクターの修理によってこいつは再び目を覚ました。言うなれば、こいつはビースト・デンジャーMk.Ⅱだ」

 

「Mk.Ⅱ……じゃ頭が無いのは……?」

 

「まだ終わってないぞ。ビースト・デンジャーが大破した時、リアクターから放たれた幻想粒子(ふくさんぶつ)がお前に付着した。いや、被曝と言った方が近いか?」

 

「ひば……」

 

 物騒な言葉に俺は言葉を失ったが、ゲーティアは構わず説明を続けた。

 その幻想粒子と言うのはリアクターから放出される熱の様な物らしく、普通の英霊や無機物・有機物には反応を起こさない無害に等しい。

 しかし、リアクターが大破した事で駆動理論が崩壊。莫大なエネルギーを持つリアクター2基の縮退によって、空間を歪めて並行世界へ移動できる程の力場が発生した。

 それが俺の存在証明に影響を及ぼし、幻想粒子が俺と反応したようだ。

 つまりはビーストの因子を担いでしまった訳。ただ、これは何か俺に悪さをするわけでも無いようで、ゲーティアは「ポケルス感染後の様な物だ」と言っていた。

 俺にもあのピンクのニコちゃんマークが付いてるのか……。複雑だ。

 

「アレは人類悪(ビースト)しか乗せられんのでな。で、頭が無いのはお前の機体、対魔力装甲搭載汎用人型人理継続保障戦機 プレマストがあそこに収まるからだ」

 

「はぁ?」

 

「俺はこの通り、魔神王状態にもなれないちんちくりんだ。だから代わりのパイロットがアイツには必要不可欠。アレなら当然、グガランナとも戦えるぞ」

 

「……」

 

 小さいくせに、デカい態度のゲーティアが顎でグガランナを指す。

 確かに今アレに頼るのが一番勝率が高いだろう。

 

「……分かった。その話、乗った」

 

「ちょっと待ちなさいゲーティア! アンタ私に協力してるんじゃなかったの!」

 

「馬鹿言え駄女神。俺はお前に(すべ)を教えただけで協力関係ではない」

 

「皆はイシュタルを頼む! 俺はあっちをやる!」

 

 ライダークラスから本気のアーチャークラスに戻ったイシュタルに皆が攻撃を始めた。これだけの数なのに、同等かそれ以上に立ち回っている彼女もまた、かなり強化されているみたいだ。

 兎も角、俺は皆に任せてプレマストを喚び出した。

 背後に片膝を付いた状態で空間から滲むように姿を表した愛機に搭乗し、全ての情報系統をリンクさせる。すると依然として仁王立ちスタイルのビースト・デンジャーMk.Ⅱからチャットが飛んできた。

 

『乗れた?』

 

「ティアマトか。ゲーティアから話は聞いたよ。で、どうすれば良い?」

 

『先ずはコックピットのコンソールからアセンブリアプリケーションプログラムを起動してからコマンドを打ち込んで。コードは──』

 

 まさか原初の母であるティアマトからスラスラとコンピューター用語が出てくるとは思わなかった俺。

 面食らって呆けてしまったが、すぐに言われた通りアプリケーションプログラムを起動。アセンブリコマンドを打ち込んでエンターキーを叩いた。

 するとスフィア・モニターが明滅。『衝撃に備えろ』と何故かシュメル語で指示されたので踏ん張ることにした。その僅か2秒後にプレマストは自動操縦モードに移行。ビースト・デンジャーMk.Ⅱに向かって跳躍した。

 瞬間的に30Gもの重力加速度の負荷が俺を襲い、たまらず意識を一瞬手離してしまう。いくら何でも慣性制御魔術の保護が弱すぎる。いや、もしかしたら遅いのか。

 実はこのプレマストもあの戦いの後、改修されてパワーアップしたのだが……その皺寄せがここに来たか。

 

「ぅっ……く、落ち着け……すぅ……はぁ。よし」

 

 《ターゲットのマーカー確認。これより機体はターゲットとの相対座標を設定後、格納形態に移行します》

 

 プレマストは空中で斥力(物体同士が反発しあう現象)を展開。ビースト・デンジャーMk.Ⅱの真上で座標の微調整を行った後に体を変形させて相手側の頭、開いているスペースにすっぽりと収まった。

 直後に俺は何らかの魔術でプレマストのコックピットからビースト・デンジャーMk.Ⅱのコックピットへと招かれ、そこで待っていたティアマトにいきなり抱き付かれた。

 

「やっと来た! 遅いわぐだ男」

 

「ご、ごめん。それじゃあ早いとこグガランナを……」

 

「待って。乗せるのと、操縦させるのとじゃ条件は異なる。だから、貴方にはもう一段階上がってもらいたいの」

 

「上? それって大丈夫なのか……?」

 

「大丈夫。(わたし)を信じなさい。貴方は大切な私の子供。過酷な運命を背負った、愛しく尊い私の子……」

 

 な、何か……急に雰囲気が頼光さんに似てきたと言うか、霊基状態も最近安定してきてたからか母性が凄く強くなった気がする。いや、なってる。

 確かに、彼女はその母性故に『回帰』の人類悪になっていた訳で、それが表面化してもおかしくは無い。ただ、この前まで可愛らしいちんちくりんだった相手が急に自分を子供扱いするのは慣れていなくて……取り敢えず、「分かった」と言って彼女を引き離そうとしたが、この状態でも筋力:EXでびくともしなかった。

 

「え、マジ強っ」

 

「照れてるのね。あぁ、可愛い子」

 

 彼女はそんな俺の抵抗を意にも介さず首筋に噛み付いてきた。

 ブツッと皮膚が上下の尖った歯に貫かれて血を流す。しかし、ティアマトは吸血しているようにそれを啜り、一滴も溢すこと無く口腔に溜め込んでから一気に嚥下した。

 何故だがその一連の動作がとても艶かしく感じて目を逸らすと不意に視界が狭まった。だがすぐに正常に戻ったので吸血の影響だろうと納得していると彼女はとんでもない事を言い始めたのだ。

 

「やっぱり塩基契約(アミノギアス)に耐性があるのは霊基が………」

 

「何だって!? 俺人類の敵になっちゃったの!?」

 

「心配しないで。確かにケイオスタイドを入れたけど、お風呂にお醤油を一杯垂らしたようなものだから。私だって極限まで弱めてるから黒化したりは無いから。ちょっと人類悪になっただけだから」

 

 その例えだと、魚は住めないし人類悪になってるし!

 俺大丈夫なの!? ねぇ!

 

「兎に角、これで貴方もこれを操れるようになったわ。さぁ、私の中に入ってきて」

 

「ぉ、おぅ……?」

 

 んん! 落ち着け。落ち着け俺。

 以前ゲーティアから操縦方法は聞いただろ?これ程の巨大兵器を精密に操るには人機一体が有力とされて、1人では大きすぎる負荷を2人で右脳と左脳の役割に負荷を分散させるのだと。

 その都合上、2人の意思を統一させる為に『ブレイン・ハンドシェイク』を行ってどちらかが()()()()()()()()()()必要があるから、その言い方が自分にも入って来いと言うのだと。

 そしてパクりではなくオマージュだと!

 

「分かった。記憶(うさぎ)は追わない、だよね?」

 

「そう。お互いの良い記憶悪い記憶が皆見られるから、自分を強く持って」

 

「おっけ」

 

 ヘッドギアを装着し、直立型のコントロールペダルに足をロック。上から降りてきた操縦桿に五指を通してその時を待つ。

 

 《パイロット認証。ブレイン・ハンドシェイク後、塩基接続を開始します》

 

「……っぢ」

 

 ガツンと殴られた様に記憶が流れ込んできた。

 神々の戦い。ランダムに産み出される子供達。そして地球環境が安定し、その役割がかえって邪魔となった事で虚数の海へ追いやられた事。

 不味い……! これは記憶だ!

 分かってる!

 だから俺を保つんだ! 追うんではなく、全て無視するんだ!

 

「──っくぁ、 はぁッ! はぁッ!」

 

 《ブレイン・ハンドシェイク完了。塩基接続……完了。システムオールグリーン。リアクター起動。姿勢制御を解除します》

 

「ぬぉ!? 一気に感覚が変わった!」

 

「ぐだ男。今は既に私達の一挙手一投足がこのマシンで出力されてる。私達の体はこのビースト・デンジャーMk.Ⅱその物だと思いなさい」

 

 《前方に巨大魔力反応有り。霊基情報……データベースに該当無し》

 

「それはグガランナMk.Ⅱよ。これから、それを倒すわ」

 

 《了解》

 

 ◇

 

「どうやら、無事に乗れたみたいだな」

 

 ゲーティアが短すぎる手足で必死に戦場から逃げながら感嘆していると遂にグガランナとビースト・デンジャーMk.Ⅱが激突した。

 100m級のロボと怪物が、コノートの運命をかけて戦っているのだ。

 その余波は凄まじい物であり、グガランナの雷をものともしないビースト・デンジャーMk.Ⅱが顔面を殴るだけで鼓膜が破けそうな轟音が辺りに響き渡るし、グガランナが反撃と振り下ろした前脚を受け止めたビースト・デンジャーMk.Ⅱの足元は爆弾でも爆発したのかと疑うような岩石を巻き上げて会場まで地面が揺れるのだ。

 

「……壮観だな。人理を脅かす怪物と、人理を守ろうとする獣の力のぶつかり合いと言うのは」

 

「あ、ゲーティアさん! そんな所に居ては危ないですよ!」

 

「マシュか。それは分かっているが、この体では逃げるのもやっとでな」

 

 揺れもそうだが、すぐ近くではイシュタル達の戦いもある。

 避難のため、マシュの脇腹に荷物のように抱えられたゲーティアは不服そうな表情で訴えながらも、大人しく従った。

 

「先輩は勝てますでしょうか?」

 

「勝てるさ。アレはそういう男だ」

 

「で、先程のお話を聞かせてもらったのですが被曝とはどういう事ですか?何故言わなかったんですか?」ゴゴゴ

 

 マシュの腕に力が段々と込められてきてゲーティアのお腹が締め付けられる。

 フラウロスの事もあって彼女の事をよく知るゲーティアからすれば、本当に強くなった(色んな意味で)と名状し難い感情を覚えたが、すぐに苦しくなった彼は話すから離してくれと全身で訴えたのであった。

 

 ◇

 

「ロケットォォォォ……パァァァァァンチッッ!!」

 

 グガランナを転倒させ、顔面に向かって右のロケットパンチをぶちかます。

 前回と同様、エルボーのロケットブースターを点火させて推進力を爆発的に向上させた一撃はグガランナの頭を地面にめり込ませ、そこを中心に放射状に大地が裂けた。

 しかし、これだけの一撃を受けながらもグガランナは尚立ち上がる。流石はイシュタルが俺達に勝ち目がないと言うだけはある神獣。パワーはエグいし頑丈さは筆舌に尽くしがたいし肉体はなく、金色の骨格に嵐を纏ったようなそれには疲労も見られない。

 対してこちらはほぼ永久機関化した2基の超々々弩級リアクターのエネルギーで動く金属の兵器たが操るのはビーストと人間である以上、疲労は蓄積されていく。

 

「ちぃっ……硬いし強いしヤバいなぁ!」

 

「落ち着いてぐだ男。一度プラズマキャノンを使うわ」

 

「分かった」

 

 《プラズマキャノン、スタンバイモードに移行します》

 

『■■■■■■■■■──!!』

 

「うあがっ!?」

 

「やっ!」

 

 プラズマキャノン発射の為、変形中だった所をグガランナが尻尾で凪ぎ払ってきた。

 これだけの質量体が遠心力を伴い且つ鞭のように叩き付けられたのはかなり響いた。思わぬ位置からの攻撃でバランスを崩した俺達は片膝を付いてしまい、グガランナの更なる攻撃を許してしまう。

 前足でこちらを潰すように振り下ろした攻撃を耐えるが立ち上がろうとするとまた前脚で地面に両手をついてしまった。

 そして完全に無防備になった右脇腹にグガランナの蒼角が突き刺さった。

 フィードバックされる情報は脳で痛みに変換されてしまい、俺は右脇腹を襲った痛みに声をあげる。

 

「ぐぅああッ!」

 

「ぐっぅぅ……耐えてぐだ男! 貴方ならそれ位大した痛みじゃないでしょ!」

 

「とう……ぜんッ! 引き剥がすぞ!」

 

 アラートでコックピットがけたたましく明滅していて不安が掻き立てられるが、落ち着いて対処する。

 先ずは脇腹の放熱ダクトを全開にし、リアクターのパワーも全開に。すると熱風どころかいっぱしのスラスターみたいに炎がグガランナの顔面を焼く。

 いや、実際には焼けているような様子はないが、それでも確かにダメージはあったらしい。グガランナは呻きながら角を引き抜いた。

 そしてそれを見逃す俺達ではない。

 すぐにグガランナの両角を掴み、そのまま頭を生物的には死に至る曲げ方をさせて再び地に叩き付ける。

 

「「プラズマキャノンッ!!」」

 

 《プラズマキャノン、発射します》

 

 今度こそ右手を変形。心臓らしき物が見当たらないなら頭を潰すしかないと、連続で5発顔面に叩き込んだ。

 だが、グガランナの顔の破壊はやはり難しく、顎が少し溶け落ちた程度で済んでいた。それでもダメージが通ってるのは目に見えた。それさえ判ればこちらもやる気が出るってものだ!

 

「「はぁぁぁああ!!」」

 

 怯むグガランナに続けて両拳を握って、上段から刀を振り下ろすように一気にそれを振り下ろす。

 三度顔面に重い一撃を食らったグガランナも流石にこたえた様子。立ち上がるにも先程までの俊敏さは無く、震えている気もした。

 しかし目の前の神獣は未だ戦闘態勢のまま。ギルガメッシュのいつかの言葉を借りるなら──

 

「死に際の獣程注意せよ……だな」

 

「下からロケットアッパーを叩き込むわ」

 

「了解! こいつで、終わりだぁ!」

 

 左足で一歩踏み込み、地面すれすれまで降り下げた拳をグガランナの首目掛けて突き上げる。その際にエルボーのロケットを先程と同様に最大出力で唸らせて、グガランナを後ろに1回転させる程までインパクトを引き上げた。

 たがそのインパクトは機体の脇腹のダメージが原因で腰のフレームにかなりの負荷をかけてしまった。骨格ユニットの幾つかが衝撃吸収機能を失って壊れかけている。

 

「腰が……! このままだと倒れる!」

 

「無理に立とうとしないで。腰が折れたらその情報(いたみ)もフィードバックされるのよ」

 

『■■■■■■■■──!!』

 

「なっ──」

 

 グガランナが予想より早く起き上がった。今しがたそれに気を付けようと己に言ったばかりなのに、回避も防御も出来ずグガランナの突進を受けてしまう。

 やや歪んだ右の角が今度は鳩尾(みぞおち)辺りを貫き、いつの間にか俺達が落っこちた崖の近くに来ていたようで、そこに突き落とそうと歩みを止めない。

 ん……鳩尾の角は中々に違和感だ。思わずえずいてしまう。

 

「抑え、きれない」

 

「踏ん張るわよ。落ちたら流石にAパーツとBパーツ化しちゃうわ!」

 

 そうは言っても、そのABに別れる原因の腰が現在進行形でえらいことになってるんだ。

 衝撃吸収機能を失った腰の骨格ユニットではグガランナの歩みを止められない。このまま踏ん張っても、それでABパーツになっちまう。

 何とかしないと……。

 

「じゃあブレストファイアする?」

 

「そろそろ怒られるのではないだろうか!」

 

「じゃあリアクターブラスト?」

 

「そっちもモロじゃん! 何でも良いけど、どっちも同じようなもんだから兎に角やるよ!?」

 

 やることはどちらも同じ。名前から分かるように、リアクターをフル回転させて目前の敵を焼き払うゴリ押し技だ。

 さっきも似たようなことをしたけど、こっちは炎どころか熱線が相手を襲う。正直な所、2万度近いプラズマキャノンの方が攻撃力は高いけどあれは連続使用が出来ない。下手に手も離せないからこれしか無いんだ。

 

「焼けろ!」

 

 リアクターからの熱線がグガランナの背を焼き続ける。

 体に纏っている小規模の嵐が熱を軽減しているが、それでも背骨の突起やグガランナの羽みたいな帯を千切れさせた。

 だが──

 

「いけない! 今すぐリンクを解──」

 

『■■■■■■■■■───ッ!!!』

 

 グガランナは崖に届く前にその巨躯故の膂力をもってしてビースト・デンジャーMk.Ⅱを持ち上げた。

 その時、遂に機体の腰が完全に壊れて最悪のABパーツ化してしまった。

 自分の腰に伝わる痛みの信号。皮膚が裂け、肉が千切れ、下半身の感覚が完全に失せる。それは繰り返すが、本来俺が得るべき情報ではない。

 流石に痛みに鈍くなった俺でも、生きたまま体を引き裂かれる痛みに絶叫した。悲しいかな、パイロットの安全の為に組み込まれたシステムのお陰で気を失うことは許されていない。

 2人の意識が繋がった状態で片っ方が気絶なんてしてみろ。お互いの脳に影響が出るし、何よりマシンの情報を1人で抱え込まないといけないから非常に危険だ。そうさせないシステムだ。

 

『■■■■■■■──!』

 

 グガランナがビースト・デンジャーMk.Ⅱの半身を地面に叩き付けた。

 今までのお返しなのか、何度も何度も地面に俺達を叩き付けた。

 

「この……!」

 

 ティアマトが凄い形相でグガランナを睨み付けている。

 段々髪が伸びてきて、全体的に淡い蒼の彼女のそれが赤黒さを帯びていく。目付きも悪くなり、その両眼にはかつての特異点で戦った時のように強い十字の光が走る。

 不味い……もしかするとここで大怪獣決戦が始まってしまう。

 

「ぉ……お、落ち着け……取り敢え、ず……逃げるぞ……!」

 

 《音声承認。当機はパイロット2名とのリンクを解除。退避を優先させます》

 

 パシュッと小気味の良い音と共に下半身の感覚が復帰した。

 体の固定も外れて自由になった俺は未だ歯軋りをして敵意丸出し威嚇中のティアマトを抱えてビースト・デンジャーMk.Ⅱのシステムに問い掛けた。

 

「プレマストに転移とか出来る!?」

 

 《可能です。……当機はまもなく圧懐します。無事に避難を出来ることを切に願います》

 

「……ありがとう」

 

 《転移開始。プレマストを射出します》

 

 プレマストのコックピットに転移され、俺はすぐに操縦桿を握った。

 刹那、合体していたビースト・デンジャーMk.Ⅱから射出され、斥力やスラスターを用いながら何とか着地。

 そしてビースト・デンジャーMk.Ⅱはその様子を見届けた様に、踏み潰された。

 リアクターが爆発すればこの前のようになりかねない。あのAIはそうならないように最期まで役目を果たした様だ。

 

「あの駄女神のペット……殺す!」

 

「落ち着けティアマト。悪いけどこの機体じゃアレに太刀打ちできない」

 

「ぐっ……じゃあ私が──」

 

『ハァーイ。グガランナの相手、ご苦労様。後は私に任せて』

 

 この陽気でゲス顔が似合いそうな声は……!

 

「高さが足りてマース」

 

『ヤァ! その通りデース』

 

 ケツァ姉さんだ!

 でも彼女はあのメイヴ監獄で倒された筈。どうしてここに?

 

『ねぇ知ってる? あるサーヴァントは霊基すら真似ることが出来るのよ。死ぬ間際までね』

 

「そうか……燕青……」

 

『彼の命、無駄にはしないわ。だから、グガランナはここで倒しマース!』

 

 高さが足りている彼女は高高度から炎を纏ったライダー(クラスの)キックをグガランナの背にお見舞いした。

 ハッキリ言って威力が馬鹿げている。あの散々殴っても折れなかった奴の背骨を簡単にくの字に減し曲げてしまったのだ。

 更に彼女はグガランナの角をネジネジした挙げ句、イシュタル神殿にバックドロップして諸共に木っ端微塵にしてしまった。

 

「……控えめに言って超強くない?」

 

 ◇

 

 事態は収集した。

 イシュタルはグガランナが倒される前に、皆に寄って集ってフルボッコされて既に地に突っ伏して倒れている。その頭の上には重たそうな粘土板に『私はどうしようもない駄女神です』と日本語で書かれていた。

 グガランナはケツァ姉さんの攻撃で神殿ごと木っ端微塵になって2度と立ち上がることは無かった。

 今は崩れた神殿前で粘土板を抱えて地べたに座らされたイシュタルに皆の視線が刺さっている。

 

「はーい皆注目。これからイシュタルに罰を言い渡します」

 

「マナプリだ!」

 

「返金させよう!」

 

「はいはい落ち着いて」

 

「くっ……とっとと殺しなさいよ! マナプリでもレアプリでも何でも好きにしなさい!」

 

「イシュタル。前回はカルデアでやらかしたから始末書で大変だった。3日間寝ずの資料作成に内容の確認や修正。後半は流石にヤバかったな……で、今回も監督不行き届きや始末書の再来だ。コノートを消しかけ、カルデアの中でも特にお金が掛かってそうなビースト・デンジャーの使用に大破させた規模だと、俺は5日間はデスクから離れられないなぁ」

 

 俺は元来、その手の資料作成や書類を書くのは苦手だ。

 ましてや未だに慣れない魔術的、科学的、宗教的な理由を書けなんて言われたら1枚纏めるのに一体どれ程掛かると?

 下手にイシュタルに書かせたとしたら、それがどれだけの価値を生み出すと思う。魔術師擬きの俺が普通じゃ出来ない貴重な体験をしたと書いたら、どれだけの協会関係者に影響を与えると思う。魔術協会も一枚岩じゃない。なるべく多方向で争いを生まないようにどれだけ細心の注意を払って纏めていると?

 無くなるんなら、痛覚じゃなくてこの資料作成の辛さを無くしてくれよと姿形もない何かにすがり付きたい……。

 

「わ、悪かったわよ……」

 

「まぁ、それは俺がやるから別に良い。で、反省してる?」

 

「……してるわ。ちょっと神格が上がってハイになってた……。私、またうっかりして迷惑かけたわ」

 

「……分かれば宜しい! じゃあレースの最後、締めてくれる? 優勝商品もヒーローインタビューも何も無いんじゃ締まらないでしょ。迷惑かけたのは悪いけど、自分で始めた企画を途中で放棄するのは駄目だからね。それを終えたら、後は片付けで今回のは不問とします」

 

「おいおい優しくないか雑種。まさか金で買われたか?」

 

 そうじゃないよと答える。

 今回は確かにえらい事態になったけど、正直疲れた。ここで怒鳴ったりしてもどーせぇ? 俺のやる事は変わらないしぃ? 無駄にエネルギーの消費は抑えたいしぃ?

 それに、実は先程ドクターから特異点が見付かったと連絡が来たんだ。驚くことに2つだ。

 今までに無い事態なので、早めに対策会議を行いたいらしい。

 

「じゃあ俺他にやる事があるから先に帰ってるよ? ネロ、アルトリア改めて1位おめでとう。聖杯の悪用は禁止だからね」

 

 ◇

 

「あ」

 

 おめでとうと言われたネロがぐだ男を呼び止めようとしたが、彼は既にレイシフトしてカルデアに帰ってしまった。

 伸ばした手が行き場を失う。

 

「どうした劇場女」

 

「むぅー。折角この勝利をぐだ男へ贈ろうと思ったのに、あやつはとっとと行ってしまった」

 

「ふっ。あの様子では、特異点が見付かった等だろう。残念だったな。だが安心しろ劇場女。貴様には万雷の喝采と三日三晩のパーティーが待っている。私はそちらには興味が無いのでな。聖杯だけ貰い、内心私の直接報告を待っているであろうぐだ男の元に急がせてもらう。あぁ……『君だけを応援する』何て良い響きか。ではな劇場女」

 

「……待て冷血メイド。よもやこの暑さでどうにかなってしまったのか? ぐだ男は余にその言葉を贈ったのだぞ? それに誰が貴様に聖杯を譲ると言った?」

 

 ぐだ男が居なくなった途端に誰がどう見ても分かる修羅場が発生した。

 ヤバイと察したサーヴァントの皆はイシュタルを置いて散っていき、それに気付かないネロとアルトリアはどんどんヒートアップしていく。

 

「壁ドンだぞ!? ぐだ男が余を壁ドンしたのだ! そして顎クイで余のハートはブレイクゲージからのオーバーキルであった。何としても、ぐだ男に一位を、聖杯を捧げたい。それがあって余のこの劇場礼装は顕現したのだ! 頑張ってクラスも変えたしな!」

 

「壁ドンだと? はんっ。そんな事が出来る男では無いだろう。妄想だ。対して私は手を取られ、腰に手を回しながら熱く見つめあったぞ。物理的に花びらも舞っていた。だから私もクラスチェンジした訳だ」

 

「花びらだとぅ!? 余も花びらを舞わせるぐだ男を見たい! だがそれよりも──」

 

「奇遇だな、私も同じ事を考えてるぞ。聖杯は1つ。ならば目の前の貴様は」

 

「貴様は──」

 

「「──邪魔だッ!!」」

 

 遂に二者がぶつかった。

 お互いクラスチェンジをした癖に、結局剣で近接戦。最近のサーヴァントはクラスが行方不明なのが多いが、彼女達も例外ではなかった。

 

「よくよく考えればイシュタルの企みだろうが、それはそれだ! 後でイシュタルをぶっ飛ばせばスッキリする。今は貴様も倒してスッキリする!」

 

「うむ! 元よりお互いをいつ消すか牽制しあっていた余達だ。ゆくぞ!」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよアンタ達! 私巻き込まれちゃうから他所でぁいたぁ!? ごめんなさいってぇ!」

 

 


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