Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
「そこの海パンマスター。こっちに来なさい」
「……来たな」
トイレから出て来て数分後。
牢へと戻ろうとした所をメイヴが呼び止めてきた。
「何?」
「やっぱりね。貴方ケルト出身でしょ」
「いや。俺は日本だよ。日本の東京生まれで魔術の魔の字も知らない家庭で育ったただの日本人」
「えー? あのニホン? やたらアサシンとバーサーカーが多い国でしょ」
そうだね。
確かに日本のサーヴァントを思い出してみると、アサシンとバーサーカーばっかり思い浮かぶ。いや、ちゃんとセイバーも居るけど、アサシンの方が向いてたりするしなぁ。
「おっかしいわね。確かにクーちゃんの匂いがしたんだけど……」
「匂いって……これの事?」
パンッ! とケツをひっぱたいて魔術刻印を起動させてゲイボルクを喚び出す。
するとメイヴはそれをマジマジと観察してからうんと頷いた。
「クーちゃんのアレとそっくり! 血管が浮き上がってて赤黒くてふっといの!」
「……」
「合点がいった。やっぱり貴方はクーちゃんの事知ってるわね。クーちゃんを呼べるなら呼びなさい」
「断ったら?」
「断らないわよ。貴方は私の好みだし、それに私が微笑んだら皆恋に落ちるのよ? 全て、私に捧げるから」
そう言って彼女は俺に微笑んできた。
こ、この笑顔は──!
「見慣れてるから、ごめん」
「アラー、残念ねメイヴ」
「ちょっと。私がフラれたみたいな雰囲気出すの止めてくれない」
「取り敢えず用が無いならルチャの稽古に──」
「いいえ。貴方は私の部屋よ。これからたっぷり……その体に思い知らせてあげる!」
パシィッ!
メイヴのちょっと卑猥に見える形の鞭が、俺の剥き出しの肌を赤く腫らす。
不覚にも、それでは痛みをあまり感じないのでちょっと気持ちいいと思ってしまった自分が居る。断じてマゾではない! だが、こう、何だろうか。ツボ押しマッサージをされている時、痛いところもあるけどそうじゃない所は気持ちいいと言うか……兎に角そんな感じだ!
「誰も私に逆らえない。先ずは貴方達に嫌でも分からせてあげる。大事なマスターが私に
「気のせいだよ。兎に角、俺はメイヴなんかに屈しない」
「そう言う所もクーちゃんにそっくり!」
モリアーティと目線を交わし、お互いに作戦を遂行すべく行動を開始する。
俺はメイヴの部屋へついていき、暗殺か時間稼ぎ。そして皆はこの監獄結界の核……中庭に佇む巨大メイヴ像の爆発処理。どちらも
「……頼むぞ燕青、メフィスト」
◇
「よし。俺も始めるかね」
影から見ていた∞面相こと燕青が手の甲に付いた誰かの血を拭き取りながらコキコキと首を鳴らす。
燕青の戦闘力は、こと近接格闘においては今はランサーで現界している李書文の次に挙がる程だ。例え囚人だから弱体化していようと、技術までもを失うわけではない。
彼はこの作戦の為、或いはただの準備運動かもしれないがここの看守であるカーミラ、ナイチンゲールの2騎を既に屠って来ている。
「……」
彼が担う役割は大きい。
ぐだ男と共に向かったメイヴになりすまし、像の守りを解く。その為には管理を全て任されているケツァル・コアトルとやり取りをしなければならない。
「副長ー。ちょっと良いかしら」
「アラ? メイヴったら何か忘れ物?」
像の頭に居るケツァル・コアトルへメイヴに成った燕青が呼び掛ける。
彼女は高さ20mはあろうメイヴ像を軽く飛び降りてきて燕青の前に着地すると笑顔で、燕青が知るかぎり普段の様子で話してきた。
「えぇ。ちょっと思い出したことがあったの。あそこの海パンマスターの仲間に私の像を掃除させようかと思ったの。ほら、この監獄の象徴たる私をアイツらに綺麗にさせて精神的に追い詰めてメイヴちゃんサイコー。としか言えなくするのよ」
「うーん、それだとこの監獄結界の核に触れさせるリスクが高いのでは? 幾ら弱っているとは言え、何騎もの英霊が居るのよ。破壊されたりしたら最後、ここはお仕舞いよ?」
「アイツらはアレが核だって気付いていないわ。それに変なことしたら貴女が解決できるでしょ」
「でも少しでも魔力が感知されたらあのアラフィフの紳士は気付くかも。それでもやるの?」
(くっ……意外にしぶといな。どうする?これ以上はバレる……)
「あ、じゃあこうしない?
先程までの心配は何処へやったのか、ケツァル・コアトルが得意の悪い笑顔をしながら燕青にそう提案したのだ。
これには燕青も驚きを隠せかった。何故なら最初から全てバレていたと分かったからだ。
(最初から全部バレてた、って事かよ。恐ろしいなこりゃ……)
「あとそうね。ワタシのお願いを訊いてくれるなら、大人しく逃がしてあげマース。それとも、ここで死にたい?」
「……選択肢はねぇって姐さん……良いぜ。これでも仕事は全うするのが信条でさ。この仕事も、アンタのお願いとやらも」
「ワーオ。それじゃあ安心ネ。約束を違えたら──」
「心配すんな。繰り返すが、仕事を確実にこなすのが俺の信条だ。姐さんこそ、ヤバくなったら逃げるとか無しだぜ?」
「心配には及ばないわ。私も
ケツァル・コアトルが燕青に何かを話す。
内容はやや小声かつ柱の影に上手いこと隠れていて、像の近くから様子を見ていたモリアーティでも読唇も盗聴も出来なかった。
「大丈夫かのぅあやつ」
「あの男なら大丈夫だろう。それよりも、アレの準備は出来ているのか?」
「無論だ。わしだって爆弾には慣れているからの。ちょちょいと設置してボカンじゃ」
「しっ。来たぞ」
「Hola.貴方達に実はお願いがありマース」
(どうやら作戦は成功したようだ。さて、後はぐだ男君が頑張って時間を稼ぐだけだ。頑張ってくれ)
◇
「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたの?」
「うぁっ」
鞭が容赦なく俺の脇腹をシバく。
いやに甘い香りのデカいベッドに縛られた俺はかれこれ数分間、鞭打ちをされていた。
初めは全く痛みを感じなかったが、何度も同じところを叩かれると皮膚も裂けて流石に痛みを感じる。
「……変ね。何と言うか、貴方本当はもっと訓練受けてるわね? 痛みに耐えるのとか」
「生憎、そんな大層なものは受けてなくてね……」
「ふーん。じゃあこっちはどうかしら」
「!!」
メイヴは仰向けの俺に跨がると首からお腹の辺りまでを人差し指で這わす。そのまま海パンを脱がそうと手をかけてきた。
これこそがメイヴがライダーたる所以! 俺が恐れていた男への騎乗が始まってしまう!
「止めろ! 俺は初めては結婚する相手と決めてるんだ!」
「うっそ? 本当に? 今時女の子みたいな事決めてる男が居るんだ」
「……!」
メイヴが可笑しそうに目を瞑った。今だ!
「魔力放出(筋肉)!!」
「うぐっ!? 何、これ……体が……」
「ぬぅぅああ!」
手足を縛っていた縄をマッスルパワーで引き千切り、動けなくなったメイヴを押し倒す。
わざとらしい悲鳴をあげた彼女だが、俺は怯まずポケットから袋に入ったペラペラのチーズを取り出す。
「それ……まさかチーズ!?」
「死因らしいなメイヴ……このチーズの薄さ、形を見てみろよ。これに強化の魔術を使ったらどうなると思う?」
「へぇ。こう言うプレイが好きなのね?」
「ちがわい! 俺はここにただ連れてこられた訳じゃない。お前の暗殺の為にここに来たんだ!」
「チーズで暗殺……? 成る程ね。英霊特有の死因が弱点なのを的確に突いてきた訳」
そうだ。と続け、チーズナイフをメイヴの喉元に近付ける。下手に動けば死ぬぞと言う警告だ。当然ながら、俺には英霊であっても喉を掻き斬って殺すような事は出来ない。
だから彼女が大人しくしているだけで、俺の任務は完了なのだ。
「けど無理よ。だって貴方、言葉で脅してるけど目は嫌がってる。そこはクーちゃんとは全く別ね」
「っ……ぐふっ!?」
もう体……筋肉の自由を取り戻したメイヴの蹴りが出血している脇腹に刺さる。
体に強化をかけるのを忘れていた。意外にも威力がある蹴りでシャワールームまで弾かれた俺は今度こそ意識を切り換えて、時間稼ぎに徹する態勢を取るが筋力:Eとは思えないダメージに一瞬
「幾ら良いカラダでも、サーヴァントのマジ蹴りだったら響くでしょ」
「その蹴りは明らかに筋力ステータスを凌駕してる……本当にメイヴなのか……?」
「えぇそうよ。ただ、貴方が知ってる私とは別ね。私はチーズに勝てないルールを乗り越えたの」
「嘘だろ……絶対『チーズには勝てなかったよ』ってなると思っていたのに……本当にそう言う所に努力と言うか、らしさが出てるよね」
「当たり前じゃない! 女王メイヴよ? 何の努力もしないで欲しいものが手に入るなら苦労なんてしないわ。まぁ、私は割りと何もしなくても相手がくれるんだけど、それに傲っていたら私はそれまで。もっと綺麗に! もっと女王らしく! いつかクーちゃんを屈服させるまで、私は諦めないの! ついでにチーズも恋も!」
「成る程──ね!」
チーズが駄目なら眼ドの出番だ。
この狭い空間、距離、メイヴの姿勢。幾らチーズの為に鍛えていたとしても、マッハの呪弾は避けられまい。
「チーズ!」
パンッ! メイヴの変な掛け声と共に、呪弾が破裂した。言霊か何かと思ったが……続けて撃った時にその理由が分かった。
要するに
メイヴは飛んでくるものをチーズと己に誤認させる事で、一瞬だがそれらに対する絶対排斥概念を付与させている。厄介な……!
「女王たる私の暗殺なんて、終身刑確定ね」
「そりゃありがたい! 嬉しくて脱獄したくなった!」
距離を取り、なるべく戦闘が長引くように立ち回る。
下手に廊下に出ても、彼女は追ってこないだろう。ケルト兵を呼ぶ為に窓を開けられたら作戦がバレるし、この空間で皆の工作が終わるのを待たなければ。
『皆まだ!? こっちはヤバい!』
『あと少しだ! 大丈夫、お主ならまだやれる筈だ!』
『ロシア皇女ならカラシニコの1つや2つ扱い慣れてるから安心して。所で、この線は青を赤に繋げば良いの?』
「何か居るし!!」
あとカラシニコ(フ)はAK-47で有名な自動小銃だからC-4と関係無いし! あと赤青を繋ぐと多分ショートして爆発するよ!
「魔力放出(筋肉)!」
「……」
「何!? どうした筋肉! 何故動かない!」
「あっはは! 残念。やっぱり
「クソッタレ……目を覚ませ俺の筋肉ぅ!」
『出来たー! 私初めて爆弾を触ったけど、意外と硬くないのね。悟空が作ってた時はとってもテカテカしてて硬そうだったんだけどなあ』
よし! これで時間稼ぎは終わりだ!
思いの外早く終わって助かった。後はここからどう抜け出すかだが……。
「さぁ、
「……令呪をもって命ずる──」
(遂にクーちゃんが来るのね! 言いなさい海パンマスターぐだ男! ランサーと叫ぶのよ!)
「──目的を果たせ! バーサーカー!」
「クーちゃ、え? バーサーカー? きゃあっ!」
令呪が弾けると同時にメイヴが尻餅をつくほどの衝撃が監獄全体を駆け抜けた。
そして嫌な予感がしたメイヴが窓から見たのは崩れ行く自分を象った像だった。足元から木っ端微塵に破壊されたそれを見るかぎり、作戦は無事成功したようだ。
これで俺達の弱体化も無くなり、外部との通信も完璧に出来る。
「わ、私の像が……」
「ふっ……! キャット、着地任せた!」
「おうさ」
メイヴを押し退けて窓から飛び降り、着地をキャットに任せる。
改めて状況を見てみると、何が起きたか分からない囚人達が騒いでいたり、ケツァ姉がそれの対応に当たったり、モリアーティ達がメイヴ過激派に像を破壊したことで攻撃を受けていたりと結構カオスになってる。
「皆! 車庫に急ごう! そのままこことおさらばだ!」
「逃がさない!
「ハーイ!」
「仕方ないか……! 皆、計画変更! ここでメイヴ達を倒すぞ!」
◇
「ぐだ男大丈夫かな」
「大丈夫です。先輩はいつだってそうですから」
「凄い信頼ね」
「でも……いつだって無茶をします。私が一緒に特異点に赴いていた時も。先輩1人でも解決できる小さな小さな特異点や問題の時も。先輩はいつも傷だらけになって帰ってきます。ですので本音を言うと……やっぱり心配です」
「……大丈夫。ビーストって言うのと戦って勝ったんだったら、今更脱獄の1つや2つ余裕でしょ。無茶する先輩も先輩だけど、それを信じてあげるのも後輩の努めじゃない?」
ゴール地点。
まだぐだ男の無茶苦茶ぶりを記録でしか見たことがないリッカが時たまトランシーバーから聞こえる爆発音やらかけ声に傾聴しながら、マシュのフォローをしていた。
「あ、ケツァルさんの霊基反応及びメイヴさんの霊基反応ロスト。先輩達の勝利です!」
「遂にやったのね……丸2日間位たってやっと」
「はい! 先輩、先輩聞こえますか?」
『聞こえるよ。やっとこさ監獄を抜け出せたよ。イシュタルもこっちに来てるから、説明聞いた後に出発するよ』
「分かりました。最後までお気をつけて下さい先輩」
『はーい』
通信を切ると今度は巨大スクリーンに荒野が映し出された。
どうやら無事にマシンを回収できたようで、メンテを施したりエンジンをふかして調子を見たりしている。
『大変待たせたわね! 漸く脱獄野郎達を捕まえたから、レースを再開するわよー! この2日間で橋も直したし、皆がメイヴを倒してくれたお陰で邪魔はもう居ない。今度こそ、ゴール目指して突っ走りなさい!』
『『『おおおおお!!!』』』
『因みに、最後だから他チームの妨害が駄目って訳じゃないから注意しなさい』
イシュタルのその言葉は注意をしているのではなく、暗に他チームへ妨害をしろとの意味だ。
これを理解したチームは僅かだが、皆自分にも妨害がされると警戒して一気に場の空気がピリついた。
『スタート!』
『開始早々ご退場いただこう』
『あ! アラフィフ汚ねぇ!』
スタートと同時、モリアーティが超過剰武装多目的棺桶『ライヘンバッハ』で他のマシンに攻撃を開始した。
いきなりの攻撃とは言え、それを回避した他のチームも次々に攻撃を始めだす。アルトリアはハンドガンで応戦し、ノッブはマシンに搭載されている攻撃用レーザービームで焼き払い、頼光は弓でお返しとモリアーティを攻撃する。
『死んでしまいますぅ!!』
『うわぁ! シェラさんがパニクってフレアばら蒔き始めたぞ! ぎゃあああ!!』
「先輩!」
スクリーンは阿鼻叫喚の爆発四散三昧。
レースをしているのか戦争をしているのか分からなくなってきた。
『仕方がねぇ! キャット、応戦だ!』
『うむ! ご主人はバレンタインで貰ったアレを』
バッグから取り出したのはバレンタインでエミヤから貰ったキャリコM950とランスロットから借りたJM61A1、20mmガトリング砲。ぐだ男が運転をカワザキに完全委任してキャリコを牽制で撃ちながら、その後ろでガトリングをキャットがぶっぱなす、何ともおかしな絵面の出来上がりだ。
『アレはランスロットの!?』
「うわぁ……何と言うか、魔術師的にああ言う近代兵器ってなれないのよね。まぁ、ぐだ男は魔術師と言うよりは魔術使いだから抵抗無いだろうけど」
「そうですね。先輩は一般人の感覚ですから、銃器等の扱いには全く抵抗はありません」
そんなレースと言う名の戦争が始まってから約5分後。遂に先頭車輌がゴール地点から黙視できるようになった。
先頭はやはり宝具だけあって速いぐだ男のマシン。その後に何機か続く。無論、集中砲火も続いていた。
『弾切れだ! そっちは!?』
『借りだし期間が終了してしまったワン。それで、延長料金を支払って使うかご主人?』
『大丈夫。もう少しだから返し──』
『ホォォォミング! レェェェェザァァァァッ!!』
『どわぁぁぁああ!!』
先頭を走っていたぐだ男のマシンが後方のレーザー兵器で宙に跳ね上がった。
どうやらノッブチームのガス欠寸前最後の攻撃だったようだ。カワザキは前輪が外れて走行不能になってノッブチームもガス欠で動けなくなった。
『あり……がとう……ライ、ダー……』
『バトルホッ──カワザキー!!』
知る人ぞ知る感動のシーン再現の最中であってもレースは続いている。だが、他にも走れなくなったチームもあった。
モリアーティチームはモリアーティが宝具の解放をした結果、機体がバランスを保てなくなって転倒して敢えなく走行不能。
エレナチームはマシンが度重なるダメージでオーバーヒートを起こして走行不能に。思いの外マシンが繊細だったらしい。
残すは3チーム。アルトリアチームと頼光チームと大穴のニトクリスチーム。
『あぁ……ぐだ男さんまでもが事故で……』
『死んでません! 彼は無事ですから、残りを走り抜きますよ!』
『ぬぅ!? まさか
『白竜は凄いんだから!』
横一列に並んだマシンが残り500mで再度激突する。
4本脚でわっちゃわっちゃと走るニトクリスチームがフレアをばら蒔いて混乱を誘う。しかしそれには惑わされない他のチームはフレアが当たるのもお構いなし。速度を落とさずタックルをしたり相変わらず攻撃で前に出ては抜かされてを繰り返している。
そして残り200m。ニトクリスチームが動いた。
『飛んで駄目なら……跳びます!』
『何!?』
マシンが一瞬屈伸体勢になったかと思うと言葉通り跳躍した。
脚を持つマシンの強みはあらゆる地形の走破性とタイヤと言う固定形状によってどうしても制限される瞬発力、そしてリーチだ。
回転数で縛られない脚なら、一気に跳び跳ねて爪先でゴールテープを切れば良い。それをニトクリスは実行しようとしている。
『させるか』
それに待ったをかけるのがアルトリアの宝具。
どう見てもアンチなマテリアルのライフルで跳躍したマシンの4本脚全てを撃ち落とし、バランスを崩したそれは無惨にもエアバッグを展開させながら不時着させた。
『
『残るは2チームのみ! もう少しよ!』
流石にアルトリアでも馬を撃つのは躊躇うらしく、最後は純粋なスピードで勝負を決めにかかる。
馬とマシン。普通に考えるなら勝負になりそうもない2チームが接戦を繰り広げる。追い抜いては追い抜かれ、ただひたすらに前に走った。
そして──
『ゴォォォォォォルッ!! ここまで良く駆け抜けたわ! 皆、全ての参加者に盛大な拍手を。関係者に拍手を。そして、栄光の1位……チーム『タイラント・シューティンスター』! そのマシンの名は『レッド・ヴィーナス』!』
わぁぁぁ! と盛大な拍手がゴール地点の観客席から送られた。
次々とレッカーされて来る他のチームの皆もアルトリアとネロに大きな拍手で祝福を送る。そんな最中、段々と空が暗くなっているのに気付いた数名のスタッフが傘を持ってきた。
雨が降ってくると思ったからだろう。だが空は更に暗さを増し、遂には遠くの方から巨大な竜巻が雷鳴轟かせて近付いてきたではないか。
流石に観客席の皆や屋台に群がっていた皆は屋内に避難を始めて、軽く会場はパニックになってしまった。
「妙だな。これで儀式が完了したと言うなら、特異点は消える手筈だ。もしアレがその特異点を消すのだとしたら、それは単なる殲滅と同じだ。一切合切を破壊する危険な行為だ」
「やはりそう思ったか冷血メイド。余も同じ事を思っていた」
「つまり……どう言うことなんだイシュタル」
ここで不敵な笑みを浮かべていたイシュタルに皆の視線が向いた。
皆が注目している中、大仰に高笑いしはじめた彼女は凄まじいオーラを纏わせ、宙に浮いてありがとうと言葉を続けた。
「皆のお陰でこの特異点は予定通り解決するわよ。何故なら、私のグラガンナで全部綺麗にするから! アッハハハハハ!」
「……また変な事してぇ……」
女神と聞いたら耳を疑いたくなるような邪神然としたイシュタルはここに、『グガランナ リビルド計画』が最終段階に移ったと高らかに宣言したのであった。