Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
正直、面倒な復刻ばかりでやる気が出なかったのでありがたい。
今日はいい天気だ。
誰もがそう感じる、晴れた空。広大な大地。
割れんばかりの古今東西様々なサーヴァント達の歓声。
そして太陽光を眩しく反射させた変なマシンに集まる水着のサーヴァント達。
遂に始まった、夏のイベント。
『さぁて!この夏はレースで盛り上がって行くわよー!命知らずの強者共、スロットルを全開にしなさい!イシュタルカップ開催よ!』
水着姿のイシュタルがマイクを高く掲げると、それに呼応して観客の歓声も大きくなる。
「凄い熱気だ。でさ、ふと思ったんだけど、折角の夏で皆水着なのにどこにも海が見当たらないのは何故」
「そこは黙っていましょう先輩。今回はイシュタルさんの開催しているレースですから」
「そうよぐだ男。いちいち気にしてたらキリが無いわ。てな訳で、貴方達も準備しなさい」
「了解」
『じゃあそろそろ命知らずレーサー達を紹介するわ。さぁ、皆各自マシーンに集まりなさい!』
イシュタルの声で日陰に居たサーヴァント達が各々のマシンに集まっていく。
赤いマシンにスチームなマシン……?デッカイマシンに形がモロにロケットのマシン。本当に僅かな時間で良く作れたなと感心するばかりだ。
そんなマシンの集団の最後尾、周りに比べたらちんまりとした、ライムグリーンのバイクが佇んでいた。
何ともインパクトに欠ける見た目だが、一部のサーヴァントはそれが何なのか知っていて更に盛り上がる。
『──で、最後がちょっと変わったチーム。『
バイクに既に跨がっているマスク・ド・メイドTは日本人がやたら好む翼のような白いマスクで目元を隠しており、他のサーヴァントと同様に肌の露出が多い水着になっている。
赤いチューブトップの水着で、布面積はややマイクロ寄り。ゴールデンも顔を真っ赤にして鼻を押さえるセクシースイムウェアだ。
その相棒であるマスク・ド・ライダーCだが、姿が見えない。イシュタルも何回か呼んでみるが、来ないので後回しにすることにしたようだ。
『じゃあ今から儀式用のパーツを配るから、各自マシーンに取り付けなさい』
「ぬぅ……今から取り付けるのか。それにしても仮面の、何者か。ものすごーくピンクの髪に見覚えが無くもないし、水着の色が余と被っているではないか」
「おい貴様。この私を差し置いてメイドを名乗るとは良い度胸だな。名を明かせ」
水着になってキャスターとなったネロとライダーとなったアルトリア〔オルタ〕がマスクのTに詰め寄る。
どう見てもタマモキャットなのは間違いないのだが、手足がまた普通だと彼女達には全くの別人に見えるようだ。
「おっす。アタシは謎のメイド、タマモキャット。名も顔も隠して参加させてもらおうと思っていたが、思わず真名を明かしてしまったキャットであった。おっと、流石のアタシでもパートナーの真名はお口ミッフィーだ。ラビットホーン、宜しくナ水着の王様」
「何ぃ!?キャットまで水着とな!しかし、中々際どい水着よな」
「ふ。貴様だったかタマモキャット。ならば丁度良い。どちらが真のぐだ男のメイドたるか勝負だ」
「ほぅ?既にご主人の専属メイドたるアタシに勝負を挑むとは、胸は無いが度胸はデカいな。委細承知だブリキング」
「勘違いするなナマモノ。今の私は王ではない。メイドだ。精々マシンに風穴が空かないように注意するんだな」
既に戦いはそこかしこで始まりかけている。
何やかんやで皆パーツを取り付け、エンジンが唸り始めた。
イシュタルももう一度詳細なルール等を説明し終え、もうじき試合が開始される。
「よーしっ。じゃあサクッと1発、スタートランプ頼むわよぐだ男」
「イシュタルさん、それが先輩は『ちょっと別の用があるから始めて』と言い残してどこかに走っていってしまいました」
「用事?何かしら……あぁ、さては最後のチームのサーヴァントを呼びに行ったのね。そう言う気が利くけど抜けてるところは嫌いじゃないわ。じゃあマシュ。悪いけど、ぐだ男の代わりお願いして良い?」
「分かりました」
『……っと、ここでマスク・ド・ライダーCがいよいよ登場したわね!』
皆のマシンが唸りを上げる中、ついに最後のドライバーが姿を現した。
タマモキャットが待つマシンに歩いていく1人の男。
バイクの為ゴツいブーツを履いて、何も珍しくもない質素な緑のサーフパンツ。体は筋肉質で、今まで
そして顔を隠すのはキャットと同じくあのマスク。
『あれ?何かどっかで見たことあるような気がするけど……まぁ良いわ。行くわよー!』
「……お待たせキャット」
「遅いぞご主人。こんなに焦らした罪は頭を垂らした猫じゃらしの様に重たいゾ?」
今回俺達は運営側。走ることは出来ない……と、思っていただろ?
いくらマスターだからとは言え、これ程盛り上がっているレースに裏方でなんてあんまりだ。
イシュタルは言ったぞ。最高の夏にするためだって。ならば、俺も最高の夏にする為に走っても良いじゃない。人間だもの。
「いいや、キャット。今の俺はマスク・ド・ライダー
俺の宝具、Kenja400Rに跨がる。
本当はドライバーが水着なのだが、キャットは単に気分。俺こそがこのマシンのドライバーだ。
次いで後ろに乗ったキャットが俺の腰に手を回し、背中に胸を押し当ててきた。
……成る程。布面積がこんなに少ないとは思っていなかったが、いざ背中に触れるとなんか、とても良い(語彙力)。
『──スタート!』
ランプが緑に変わり、イシュタルがチェッカーズフラッグを振る。
それに合わせて皆のマシンが爆音をあげて走り出す。一部恐ろしく遅いマシンもあるが、きっと死にたくないのだろう。そんな想いがヒシヒシと伝わってくる。
「流石にネロ達は速いな!」
「案ずるなご主人。レースはまだまだ序の口。焦ると半生のパンケーキを裏返すが如し。そう、炭火のようにじっくり待つのだ」
「ま、そうだね。ちょっと様子見させてもらうか」
◇
「うはー、皆凄いわね。これなら案外楽に終わるかも」
フラッグからマイクに持ち替え、レースの実況に移ろうとするイシュタル。
だが下からマシュが焦った様子で彼女を呼んでいたので取り敢えずはそっちの対応で下へ降りた。
「どしたの?」
「そ、それが……先輩が帰ってこないのが心配なので望月さんに探してきて貰ったんです。そしたら、燦々日光何たらの控え室にコレが」
マシュが抱えていたものを広げると、眩しい白が視界に飛び込んできた。
黒い胸のベルトが特徴的な魔術礼装。それは先程までぐだ男が着ていたもの、その物だ。
一瞬誰かに襲われたのかと思ったが、すぐにあのマスク・ド・ライダーの姿を思い出して脳内解析。数秒掛かったが、両者の姿が一致したイシュタルは直ぐ様手元のモニターでチーム『燦々日光夏休疾地二輪』を確認。
マイクボタンを押して声を張った。
「こぉら馬鹿ぐだ男!勝手に参加してるんじゃないわよ!!」
『げぇっ!?もうバレたの!?』
『早い真名看破だったなご主人』ムニムニ
「ちょ、ちょっと何やってんのよタマモ!!そんな裸同然の格好でくっついて……!」
『何を申すかこの女神は。今でこそ露出度は控え目だが、いつもは似たようなものでは無いかね?それに勝手ではなくちゃんとエントリーはしているから
「待ってくださいキャットさん。右手の令呪はどうしたんですか?」
マシュが腰に回していた手を見て気付いた。
キャットには以前、ルビーから貰ったぐだ男専用の令呪がまだ残っていた筈。それが無いと言うことは、今のぐだ男はキャットが楽しむ為に従わされてるのではないか?
そう疑問したのだ。
『お。鋭いなマシュ。何を隠そう、アタシはご主人に令呪を使った。なのでご主人はアタシの鮎釣り人形なのだ!だが川がないな』
「操り人形でしょうが……」
『ヤベ。そうだった……カラダガイウコトヲー』
「下手くそな演技ね。取り敢えず戻ってきなさい」
『今から戻ると大地に刻む魔術痕に不具合が出るのでは?キャットは訝しんだ』
げっ、とイシュタルが短く悲鳴をあげた。
それもそうなのだ。今やっているのはレースだが、特異点を収束させるための儀式だ。
大地に刻んだ魔術痕は下手に途切れさせたり、取り除くとなると刻んだ時以上に手間も費用も掛かる。
まさかぐだ男が参加するとは思っていなかったイシュタルのミスだ。
『そうだよイシュタル。それに、俺だって特異点解決を皆に任せっきりには出来ないし、皆と競ってみたいんだ。後でちゃんと罰は受けるから、許してもらえないかな?1位の特典も全部キャットにあげるから』
「先輩……それ程までにレースに参加したいだなんて。イシュタルさん!ここは先輩の想いを汲んでください!日々苦労している先輩にとって、このような楽しみは数少ないんです!」
「ぁわ、分かったわよ。その代わり、本気でやりなさい!」
『おうさ!行くぞキャット!』
『任せたご主人!』
正体が露見したなら隠す理由もないと言わんばかりに、ぐだ男とキャットがマスクを外す。
魔力で出来ていたそれは宙に投げられると光の粒子となって霧散。巨大スクリーンに映し出されている各サーヴァントの情報も即座に書き変わった。
『気を取り直してアプデよ!何と、チーム『燦々日光夏休疾地二輪』は我等がマスターがドライバーとして参戦中!己を隠す仮面を脱ぎ捨て、タマモキャットと大地を駆ける!』
◇
『何と!よもやあの仮面ライダー
『ふっ。流石は私のご主人様だ。ライダー適性も高いようだな。しかし、タマモキャットめ……メイドが主人に運転を任せてどうする』
『いーなー!余だってぐだ男とあんな風に走りたいー!』
『ますたー、はやーい!』
『当然だ!何しろあれは優れた直流V型ファンタズムエンジンだからな!』
『何を言うか!あれは効率の良い交流V型ファンタズムエンジンだからに決まっているだろう!』
『キャットさんまであんなに肌を晒して……密着させて……禁制です!ご禁制ですよ!』
『なんじゃぐだ男だったか。てっきり変態仮面かと思ってたわ』
『あぁ、何て事でしょう……ぐだ男さん。そんな肌を守る物が無い状態で運転なんて、死ぬ確率が……』
ちょっと誰が何を言ってるか分からないなぁ。
まぁ、オープンチャットで話せばこうなる事は分かっていた事。とは言っても、互いの無事を確認し合うための物だから外すとそれはまた困る。
「皆落ち着いて。確かに死ぬ確率もご禁制もそうだけど、俺も今はレースの参加者だ。マスターだから、なんて手加減は許さないからね。まぁ、手加減なんかしたら──」
「何!?」
先頭を突っ走る赤い車輌『レッド・ヴィーナス』の横に並ぶ。
左手で「お先に」と合図をして一気に抜いて、続きを話した。
「手加減なんかしたら、すぐに追い抜くからね。まぁ、手加減しなくても抜くんだけど」
『……ふ。面白い。おい劇場女』
『分かっている。余だってあの様な宣戦布告を受けて黙ってなど居られるか。追い抜くぞ!』
レッド・ヴィーナスのエンジンが咆哮する。数十m離れた俺の腹の底を震えさせるその重低音はみるみるこちらとの差を詰めてきた。
流石にダ・ヴィンチちゃんが担当しただけある。だが、こちらは宝具だ。そう簡単に負けてたまるか!
「お前の力はこんなもんじゃないだろカワザキ!」
俺のカワザキも前輪を上げてそれに応えると、デジタルメーターが時速250kmを示した。
まだだ……全然足りないぞ!お前ならもっと出せる筈だ!あのダッジトマホークの時速600kmだって余裕で越せる筈だ!!
──と、思ったものの早速問題が発生した。
『ぬぅ!?何だ!』
「ご主人!前方1270mに生体反応が集団で感知!こっちに向かっている!」
「皆止まれ!」
ブレーキを踏み、握るとタイヤが乾いた地面をスリップする。
ハンドルと体重移動でそれを対処しながら何とか急停車。皆もそれに続いて周りに集まると、前方から蜃気楼の中を変な集団が駆けてきた。
錆びて茶っこくなったエンジンがむき出しのバイク。それにはスパイクやらチェーンやらの変なアクセサリが多い。
そしてそれを駆るのが、モヒカン頭にまたスパイクの付きまくった服。手には火炎放射機や鉄パイプを皆持っていて、どこか『核の炎に包まれてあらゆる生命体は絶滅したかに見えた』世紀末感が漂っている。
大丈夫だろうか、色々と。
「ヒャッハー」
「あ!キタネェ!犬のフン踏んじまった。フンだけに!」
「つまらねぇ
「あびゃぁぁああ!」
「……」
茶番劇を繰り広げる世紀末グループを無視して行こうかなと座り直した瞬間、キャットがカワザキ横にマウントしてあったゲイボルクを抜いて空中の何かを弾いた。
すげぇキャット……槍使えたのか。オリジナルのランサーよりランサーらしい。
「この
「ほぅ、今の矢を弾くか」
「アタランテ?」
上から聞こえた声に視線を向けると眩しい太陽を背にアタランテが落ちてきた。
世紀末グループの前に着地した彼女はどうやらこの特異点のサーヴァントみたいだ。剥き出しになった敵意を視線と一緒に感じる。
「麗しのアタランテか。何故余達の走りを邪魔する」
「何故?それは汝らが私達の大地を荒らすからだ。このまま進むと言うのであれば、今度こそ私は汝らを射つ」
「もしワシらが進むとしたらどうなる?」
「ここから先には種籾リンゴが植えてある。汝らがこのまま進めばその種籾リンゴは荒らされ、明日はこの子達の腹を満たすことが出来なくなる」
「こんな乾いた地面じゃリンゴなんて育たないじゃないのかしら?」
エレナの言う通り、こんなカラカラな大地じゃリンゴなんて育つ筈がない。それにこの子達って言っていた辺り、大分おかしな事になっているようだ。
見ろよ。その子供達は舌ピアスの付いた笑顔で、刺青でとても子供とは思えないぞ。
「兎に角、大人しく迂回をするか諦めるんだな」
「……アタランテ。事情はこちらも察した」
バイクから降り、武器を持たずアタランテに歩み寄っていく。
慌ててネロ達が出てこようとするが、それを合図で止めさせてアタランテの目の前に到達した。
アタランテも俺の戦闘の意思が無いことを分かってくれたようで、弓を握る手の力が抜けている。
「汝はサーヴァントではなく……マスターか」
「俺は争うつもりも、リンゴの畑を荒らすつもりもない。大人しく迂回して行くつもりだ」
「ならば何故わざわざ私の前に来た」
「まぁ……無理があるとは思うけど、その子供達の為だと言うのなら俺だってアタランテとの約束がある」
「……成る程。そちらにも私が居るのか。通りで妙に信用できるわけだ」
アタランテとの約束。子供達を救うと言うのは例え特異点の子供達であっても同じだ。
恐らくこの(アタランテ曰く)子供達はこの特異点の元々の住人では無いだろう。だがそれでも、いずれ消え行く者達としても今を生きているならそれを救う。
「ありがとう。で、俺がアタランテに渡したい物はこれだよ」
「よく見ておくのだ自称メイドよ。真のメイドならご主人の言葉が無くても何を求めているのか分かるものなのだ。という訳でコレだなご主人」
キャットがバイクのリアサイドのバッグから大量のリンゴを取り出した。金銀銅、カルデアでマスターやってたら必ず誰もがジャンキーになるそれだ。
栽培出来るし、よく貰うから余りに余っていた物だから、何があるか分からないときは擬似ゼルレッチの箱に詰め込んでいく習慣が役立った。
「こ、これは……!いや、あの林檎とは別だが……」
「食べたら元気になるやつだよ。こっちがちょっと元気になって、こっちは50%位。こっちはMAX元気になるよ。ただ、コレだけに甘えてほしくもない。種籾リンゴはいずれ必要になるかも知れないし、このリンゴも腐らないけど数は限られる」
「分かっている。一時的な救いと言うのは、人を惑わせる。汝も知っていると思うが、かつての黄金の林檎のようにな。ありがとう。せめて何か礼をさせてくれ」
「じゃあ、良い迂回ルートを知ってたら教えて欲しい。えーと、ここに行きたいんだけど……」
「うん。これなら獣も少ない良い迂回ルートがある。 貸してくれ」
次のチェックポイントを示したスマートフォンのマップを操作してアタランテがルートを教えてくれる。
ここから南西に行くとどうやら小さな湖があるらしい。そこからチェックポイントまで直進するのが一番危険が少ないそうだ。
それにしても、かなり広い範囲にリンゴを植えてるんだな。
「ありがとう」
「いや、礼を言うのは改めてこちらだ。お前達もお礼を」
「「「ありがとうございます!筋肉のアニキ!!」」」
「じゃあね。行くよキャット」
「うぬ」
アタランテ達に別れを告げ、カワザキ跨がる。すると待っていた他のチームから一斉に通信が入った。
怒ってたり褒めていたりゴチャゴチャしているが、要するに皆迂回を選択したようだ。
「皆も場所は聞こえてたね?じゃあ行くよー」
◇
小さな湖とは言え、実際来てみれば一週5kmはある。周りに木々が生い茂る事は無く、不思議とそこにある、そんな湖に一番最初に辿り着いたぐだ男は地図通りここから南下しようと車体をバンクさせた。
(特に障害物も無い。ここで距離を離す!)
次位との差は凡そ50m。
今まではコースが荒く、速度を出したくても出せない状況だった故に2速で走っていたぐだ男だが、湖を曲がると平らな地面が続いていた。
そこで更に差を広げるべく、遂に禁断の6速へギアを繋ぐ。
彼の
「今こそ禁断の6速!」
『おぉっ!?何このスピード!反則じゃない?って位速いわね!』
『このスピード……まるで私が以前訪れた観測惑星カバディに居た謎のライダーXと同じ!まさか──』
『くっ!流石は同盟者、出力が段違いです』
「ご主人!今こそクイックオイルの出番だ!」
「よし!さぁ、カワザキ!このオイルを──」
カワザキには意識がある。自分の意思で走行も可能なので、ぐだ男は両手を離し、クイックオイルを取り出した。
オイルのキャップを空けて、何故走行中なのに給油できるのか分からないがタンクにそのオイルを入れようとした時、その手が固まった。
「……ごめん。俺レギュラーだから変なの入れたら駄目だった」
『大丈夫。ガソリンだろうがオイルだろうが、マシンじゃないのに与えてる裏生徒会長とか居るのよ?大した問題じゃないわ』
「そ、そうなの?でも……」
確かにあるチームはマシン云々ではなく、馬で走っていた。一体どう言うことなのかと疑問したら世界の深淵を覗く事になる。
そう、あのCOOOOOOLなインスマス顔になりたくなかったら黙って周回をするのだ。
「カワザキも嫌だって言うし、止めておこう。兎に角一度これをしまうかね」
『──止まれ』
「「!」」
キャットにオイルを手渡していたその時、カワザキの進路を妨害するように1本の朱槍が地面に突き刺さった。
流石のカワザキでも、これは回避できない。
朱槍に前輪がぶつかると、転倒防止のスキルがあるにも関わらず、バイクは横転。投げ出されたぐだ男はキャットのお陰で大事には至らなかったものの、首をむち打ちしたようだ。
「カワザキぃぃぃぃぃいい!!」
戦闘機に乗っていたどこかの日本人の名を叫ぶようにぐだ男が叫んだ。
そのカワザキも開けっ放しだったタンクからドバドバとレギュラーガソリンが地面を濡らしていく。
「何者だ!姿を見せよ!」
いつの間にか停車していたネロ達も車輌から降りて辺りを警戒している。
するとその呼び掛けに応じた声の主が陽炎の向こうから歩いてきた。
赤紫色のビキニと透けたパレオ。そのビキニより暗い色の長い髪は汗で体に貼り付くのか、三つ編みで纏められている。
そして堂々たる態度で歩いてきたその女性は……やはり白い羽の仮面を着けていた。
「私は謎の美女X。夏だからと受かれているお主達を倒す者だ。決して出番がないからと拗ねたりした影の国の女王ではない。その人物とは一切関係無いが、同じ様に美しい筈だ。このスタイル素晴らしいなんかは良く似ているだろう」
「「「……」」」
「そして私は謎の皇女EX。体験したことのない暑さと海を楽しむ為、スカサ……はっ、んんっ!謎の美女Xに協力する者よ」
そのス──謎の美女の後ろから白いフリルのビキニを纏った少女が出てきた。
同じく顔にはあの仮面で、右腕には赤ん坊がプールでつけるような浮き輪のようにぬいぐるみが抱き付いている。こちらは目元が隠れていても分かる、嬉しそうに口角が上がっていた。
「……これは酷い」
思わずぐだ男が痛い首も気にせず項垂れた。
この2人、どちらも本気で正体を隠しているつもりなのだ。どうせルーンやらを使っているから分からないとでも思っているのだろう。
残念ながら、認識阻害のルーンは本人がスカサハと似ていると、皇女が「スカサ……はっ」と言ったせいで効果は無くなっている。
「この前から仲良くなったのか……良い事だけど、何かなぁ……」
「どうしたそこの筋肉マン。あぁ、成る程。さてはこれだけの美女に囲まれて立ち眩んでしまったな?」
「いや……何か、凄いなぁって」
「誰ですかこんなに私とキャラ被りする雑種をぽこじゃか増やそうとしているのは!当然私の口座にQPは入れてますでしょうね!?何なら現物でも良いですとも!グルメなら尚良し!」
「落ち着いてX。で、そちらのXは何故邪魔を?」
「……」
「……(成る程。謎の美女と呼ばないと反応なしか)で、何で謎の美女Xは邪魔を?」
「言った筈だ。浮かれているお主らを叩き潰す為だと」
謎の美女が後ろ手に槍を回し、空いた片手に剣を召喚する。
流石のぐだ男達もそれに反応して武器を構え始めた。謎の美女の隣で自撮りではしゃいでいる謎の皇女はそんな様子は一切無いが、辺りに纏う攻撃的な冷気が代わりにそれを成していた。
どうやらヴィイに関してはやる気らしい。
「だが仮にもレースだ。あの“あかいあくま”とやらが何やらしているようだが、私もそれに則ってやろう。何、年ちょ──大人の女としての余裕だ」
「……で、何をするつもりかね?」
「簡単な事だ。私達のマシンとお主達のマシンとで、チキンゲームだ!」
キャットのエミュが難しい……