Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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イベントが始まり、仕事もえらいこっちゃなってきたので短めですが、出しておきます。

アナスタシアをどう扱えば良いのかまだ分かりかねてますが、後でコタツを支給しておきますね。


Order.59 アナと雪の?いいえ違うわ。私はそれとは全く関係の無いアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァよ。そのようなデイズニィ感溢れるキャラクターとは無縁です。そうよねヴィイ?「オイラァ!」

 

 

 

 

「近付かないで下さい」

 

それが彼女──アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァとの初めての会話だ。

ダ・ヴィンチちゃんから貰った事前情報によると、彼女は人間不信の気があるらしく、この反応は当然と言えば当然だった。

それにしても、皇女と聞いたものだからもっと凄いのを想像していたのだが、実際会ってみるとぬいぐるみを抱いた少女である意味驚いてしまった。

 

「えっと、初めまして。俺はここのマスターのぐだ男……です」

 

「そう」

 

「そうです……。えー、ステータスを確認しても大丈夫でしょうか?」

 

「……」

 

返答がない。だが、目はやはりこちらを疑っている。

雪のような白い髪で目が少し隠れてるし、身長も自分と比べると小さい為判りにくいが、雰囲気もあって即座にそれを感じ取れた。

 

「や、止めておきます……」

 

不味いな。久々に話しにくい相手だ。

人間不信気味でコミュニケーションをとりたがらないし、何だか腕のぬいぐるみがこっちをずっと見ている気がする。

下手に踏み込むとビームが飛んできそうな悪寒がする。

 

「じゃあ、お昼ご飯はどうですか?丁度良い時間ですし、ご飯を食べながら俺達が何なのかをお話しできればと……」

 

ウオオオッ!?めっちゃこっち見てる(気がする)!めっちゃこっち見てる(気がする)よこのぬいぐるみ!

まるでこのぬいぐるみの前じゃ嘘はつけないような、全てを丸裸にされているような感覚だ!

 

「……そう。では案内して下さい」

 

「ほっ……良かった。ちょっと歩きますけど、勘弁してください」

 

何事も先ずはコミュニケーションをとってお互いの事を分かって貰わなければ、信頼関係も築けない。

例え彼女が俺を信じていなくても、俺は彼女を信じている。だって、本当なら拒否できる召喚に応じてくれたと言うことはどんな理由であれ、カルデアに力を貸してくれると言うことだからだ。

 

「あぁ、そうだ。宜しくアナスタシア」

 

「……」

 

「……よ、宜しくアナ皇──」

 

「近付かないで下さい」

 

「まだ何もしてないよ!?」

 

 

2時間後。

昼食を何とか終え、リッカとアナスタシアの両名を部屋へ案内し終えて自室で一段落。

壁の保管庫から和菓子を取り出して、ノッブから貰ったお茶(多分凄いやつ)をズズズ……と飲んで、取り出した生八つ橋を1つ口に放り込んでホッこりする。

 

「あ"ぁ"~……」

 

流石はノッブが分けてくれたお茶だ。何なのかはよく知らないけど、とても美味しい──筈だ。

味はしないけど、匂いはまだ生きてるしな。それで大体は判別できる。

 

「しかし、夏かぁ」

 

思わずそんな独り言を漏らしてしまう。

いや、発作が起きない時点で独りではないのだが、そんなのはとっくに慣れている。

これもノッブがくれた凄いわびさびっぽい陶器をデスクに置き、椅子に座る。背もたれを倒して天井を見上げると、ふとカルデアに来る前の夏休みを思い出した。

よく友達と海に行ったっけ?キャンプもやったかな?確か花火大会に家族と行ったか?

──あぁ、どれも楽しかったっけ?どれも……思い出せないなぁ。

 

「……さて」

 

感傷に浸るのはお終い。繰り返し言うけど、今俺は独りじゃない。変にセンチメンタルな所を見られて心配されるのも困る。

 

「ハサンも食べる?生八つ橋」

 

「……流石ですぐだ男様」

 

デスク横に声をかけると、静謐のハサンが気配遮断を解いて現れる。

デスクの端に顎を乗せ、小動物がひょっこり顔を出しているような静謐の頭を思わず撫でると「ふみゅ」と、これまた可愛らしく目を瞑る彼女はやはり小動物。カチューシャの形も相まって猫に思えてきた。

さて、そんな猫は生八つ橋を気に入るだろうか。

 

「生八つ橋って知ってる?」

 

「いえ、初めて聞きました。そして初めて見ます」

 

「美味しいよ。チョコもあるから好きに選んで良いよ」

 

「ではチョコを戴きます」

 

チョコ八つ橋を手に取り、一口。その動作までに極自然な流れで俺の膝に座った静謐は生八つ橋の食感とチョコの甘さに感嘆し、残りを頬張る。

やっぱり美味しいんだな。良かった良かった。

 

「繊細なお菓子ですね」

 

「そうだね。あ、気に入ったら持っていっても良いよ。ただし、えっちゃんに見付からないようにね」

 

「分かりました。隠密行動はアサシンの心得。呪腕様達に必ずや」

 

そんなにガチにならなくても良いと思うんだ。だけど、そう言うところがやっぱり静謐らしいと言えばらしい。

 

「あ、それとぐだ男様。スマホに連絡が届いています」

 

「え?あ、ホントだ。ありがとう」

 

「では」

 

静謐が部屋から出ていく。どうやら本当に八つ橋を気に入ったみたいだ。

で、お陰で俺の体は悲鳴をあげ始めた。しかしまだ余裕はある。

スマホの画面を見ると、死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)をアイコンにした師匠からのメッセージ。

 

ししょー『修業の時間た』

 

「……」

 

誤字。これは突っ込まないでおこう。恐らく俺の腹にゲイボルクが突っ込まれる。

 

「……少し楽になった。今日はハードじゃなきゃ良いな」

 

この前の下総の一件から、師匠は何かと修業だー、シュギョウダーとうるさ……積極的になった。

しかも内容がいきなりハードになったもんだから辛いのなんの。いや、稽古をつけてもらえるのはとても有難い事なんだけど……。

 

「取り敢えず行くかな」

 

 

カルデア……一年を通して止まない吹雪と常に活気づいている他のサーヴァント達。

とても人理の危機とは思えない。

 

「……」

 

カルデアは広い。けど、私にはヴィイが居る。迷子なんてならないわ。

現に今もカルデアを知る為に歩き回っている途中。本当は自分の部屋に行きたいのだけれど、このカードキー壊れているのね。

いくら翳してもヴィイイっと音が出るだけでドアが開かないもの。部屋を出る時まではちゃんと使えてたのに。

だからついでにさっきのレオナルド・ダ・ヴィンチの所に行って変えて貰おうと思っているわ。けど彼から貰ったスマホの地図通りに進んだら全く違うところに出たのよ?

確かに間違えてタッチしたら「GPS(ゲーペーエス)」って言うのが無効になったって言われたけど、矢印は消えてないから問題ないわ。変な挙動はするけど。

こんな事でこのカルデアは大丈夫なのかしら。

特にマスター……彼は特に危険。ヴィイが言うには、私の事を雪の女王なんて思っていたみたい。

駄目。駄目よ。それは夢の国からオプリーチニキがやって来るわ。ヴィイもその鼻唄は止めて。どうなっても知らないわよ。

それしにても……ここはどこなの?どうみてもさっき案内されている時に歩いた風景とは……違うのかしら?どこも同じ様な見た目で分からないわ。

取り敢えず、また「GPS」を有効にすれば良いのかしら。

 

「……ヴィイ?」

 

スマホを弄ろうとした時、ヴィイが通路の先に誰かが居ると教えてくれる。

そうよアナスタシア。私にはヴィイが居たじゃない。

彼の全てを見透かす魔眼の前では何もかも無意味。

 

『えー!?ガチマッチ!?』

 

『安心しろ。私は本気を出さん。あくまでお主を殺すつもりで戦うだけだ』

 

『殺すつもり!?サーヴァントでしかも師匠が相手じゃ無理だよ!』

 

『時間は3分。さぁ、生き抜いて男を見せてみろ!』

 

『有無を言わさぬ槍の一撃ぃッ!?』

 

マスターの声。それに殺すつもりで戦うって……あの筋肉は確かに凄いとは思うけど、サーヴァント相手じゃそもそも難しい。

しかも相手は誰だか分からないけど、師匠と呼ばれる人なら尚更危険じゃない。一体どうするつもりなの?

 

「行きましょう、ヴィイ」

 

小走りで通路を抜けると、大きな部屋が現れる。

通路からも見えるように窓ガラスが幾つか設けられていて中の様子が簡単に窺える。

コンクリート打ちっぱなしの殺風景な部屋の中には変な槍を持ったマスターと、同じく槍を持った女性がいた。

マスターもあの女の人も全身タイツ……恥ずかしくないのかしら?

 

『どうした!その程度か!』

 

「あ!」

 

思わず声が出てしまった。

慌てて口を押さえて隠れると、中からマスターの叫び声が聞こえた。

女性の槍が、マスターの右腕を落としていた。二の腕辺りから斬られた彼の腕は槍を掴んだままで、隠れる直前まで槍にぶら下がっていた。

 

『慌てるな!』

 

再び覗くと、今度は何らかの魔術で彼の腕が元通りになっている。

そして体勢を立て直す暇も与えず女性が彼を蹴飛ばす。

ガラス越しでも分かる、嫌な音がした。

壁に激突したマスターは吐血して痙攣を起こしているけど、すぐに何事も無かったように立ち上がって女性の槍を避ける。

 

『はぁ!はぁ!』

 

『バランスを崩すな!相手を見ろ!私を殺してみせろ!!』

 

『ぬぅあッ!!』

 

マスターが自分に強化の魔術を使い、一歩踏み込んで反撃に移るが、その脚が斬り払われてしまった。

続けざまにお腹を槍が穿ち、破裂したように肉片が飛び散る。

 

「……」

 

どこかで見たことがあるような光景。確かこれは……。

 

『子供たちは撃つな!』

 

『お母さん!』

 

……あの時の、地下室のよう。

私がヴィイと契約できたあの時。姉さん達が、アレクセイが無惨に撃たれ、私も殺されたあの時。

銃を向けたチェーカー達に、私達は何も出来なかった。

ただ向けられた銃に怯えて、壁際で怯える私達の前に立って撃つなと叫んだ母の背中を見ているしかなかった。

 

『アナスタシア!』

 

「──!」

 

その声にハッと我に帰る。いつの間にか私は隠れながら見ているのを止めていたらしく、ガラスの前でボーッと立っていたらしい。

それに気付かなかった女性が放った槍が、私の目前まで迫っていた。

ガラス越しとは言え、アレほどの力で投げられたら貫通して死に至るでしょう。あの時自分達に向けられた銃のように、無慈悲な死を感じた。

けど、私の名を叫んだ声の主はあの時の母のようにそれと私の間に立ちはだかった。

 

「きゃあッ!」

 

ガラスが割れ、槍を肩に受けたマスターが通路側に転がり込んでくる。

その際私とぶつかって私自身も転倒してしまったけれど、そのお陰で飛散するガラスを顔に受ける事も無かった。

 

「ぐ……っ、う……」

 

「大丈夫かぐだ男!」

 

先程までの魔術は部屋の外では効いていないらしく、左肩口に深々と突き刺さった槍から血が溢れてくる。

とても痛い筈なのに、怒ってもいい筈なのに、マスターは最初に私に怪我は無いかと言ってきた。

 

「え、えぇ……私は大丈夫です……」

 

「すまないぐだ男。少し痛むぞ」

 

駆け寄ってきた女性にマスターが首肯すると、女性は槍を引き抜きました。しかも怪我が拡がらないように、ゆっくりと。

これで少し痛むだなんて、何を考えているのですかこの女性は。

 

「ぃっつ……助かったよ師匠。俺死ぬかと思った」

 

「死ぬ思って突っ込む馬鹿がどこに居るか。毎回言わせるな馬鹿者が。ルーンで治せたから良かったのだぞ」

 

「だって、あのままだとアナスタシアが危なかったんですよ?それに師匠があんな所に投げなかったらアナスタシアだってこんな怖い思いしないで済んだのに。召喚されて早々にトラウマ出来たらどうするぃぃぃでででッ!?」

 

「まったく……お主。雪の女王とか言ったな?何故ここに居る」

 

「ゆ、雪の女王ではなくアナスタシアです。私はレオナルド・ダ・ヴィンチの所に行こうとして、たまたまここを歩いていただけです」

 

「ダ・ヴィンチの所?全くの反対側ではないか」

 

この女の人……まるで女王の様なプレッシャーを感じるわ。え?何ヴィイ?……影の国の女王?それって……どこの国?

 

「何だ。アナスタシア迷ってたのか」

 

「……迷子ではありません。勝手に決めつけないで下さい」

 

「はぁ……ぐだ男。こやつをダ・ヴィンチの所まで案内してやれ。今日の修業は次回にする」

 

「もうハードなのは勘弁してください……取り敢えず分かりました。彼女を案内します」

 

「それとセタンタを呼んでおいてくれぬか?そろそろいい時期だからな。アサシンの時の武器が鈍っていないか、あやつで確認する」

 

(それって兄貴に対しての死刑宣告じゃない?)

 

「分かりました。そっちも伝えておきます」

 

マスターが立ち上がって私のドレスに付いたガラスを取ろうと手を伸ばしてきた。

 

「あ、ごめん」

 

すぐに引いた彼の手は血が付いていたけど、良く見るとそれ以外にも沢山傷痕があった。

召喚された時には気付かなかった、大小様々な傷痕。

今の会話から思うに、彼はきっとそう言う人間なのね。

 

『子供たちは撃つな!』

 

………。

 

「……まぁ……壁越しに喋るくらいなら、構いませんが……」

 

「え?壁越し?……良く分からないけど、そうするよ。あ、今回は許してよ……?」

 

案内のために振り向いた彼の背中は大きかった。あの時の母の様に。

どうして誰かを守る人と言うのは、こんなにも背中が大きいのでしょうね。あなたもそう思うでしょヴィイ?

 

 





アナスタシアの母親が撃つなと言って子供達の壁になったのは処刑記録として詳細に記述されているそうです。
一応調べてますが、間違えてたらすみません。

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