Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
【そうです。もうちょっと気にして欲しかったです】
「──」
(うぅ……何だか心が痛い気がする)
「──っはは。どうしたんだよリップ。何かメルトみたいにツンツンしてるね」
「め、メルトみたいですか……?」
「うん。でも、リップには似合わないかなー。可愛いから良かったけど」
「そ、そんな事言ってご機嫌とろうとしたって駄目なんですからねっ!」
ぐだ男の反応が意外だった。
さっきの選択肢よりも落ち込むのではないかと思っていたのを見事に裏切り、むしろそれも可愛いと言ってきた。
流石にこちらをデレさせて来ている以上、普段のぐだ男が言うのか疑問を抱きかねないラインの台詞も惜しみ無く吐いてくるのでリップも負けじと応戦した。
普段とは違う、ちょっとツンとデレを織り交ぜてみたり。
「ごめんごめん。じゃあそろそろ行こうか」
「え?どこにですか?」
「忘れたの?」
忘れたも何も、知らない以上は訊くしかない。
すると返事がこれまた意外過ぎて間の抜けた返事をしてしまった。
「スイーツ食べ放題だよ」
◇
「スイーツ食べ放題だよ。じゃないわよ!!あの娘は腹ペコタイプじゃないのよ!?」
『そうなのですか?カルデアのライブラリにはパッションリップ様がかなりの量を食べていらっしゃると……』
「それはあの娘があの腕だからよ!それだけエネルギーを使えば食べる時もあるわよそりゃ!しかも今明らか昼食済ました場面なのに!?」
『それもそうですね。しかし、彼女はいつもぐだ男様に食べさせて頂いてるようなので良いのかと思いましたが……』
「え?何それ初耳なんだけど」
『パッションリップ様とメルトリリス様は器用な事は出来ないらしく、いつもぐだ男様のルームにて食べさせて頂いてるのです。最近ついた室内カメラにて確認しました』
「え?何それ初耳過ぎなんだけど」
確かに、リップとメルトの手では自分でご飯を食べることすらままらない。
メルトはいつも不承不承といった様子らしいが、リップは対称的のようだ。まぁ、言ってしまえば介護なのだが。
室内カメラに関しては、防犯対策の為ついたらしい。尤も、カルデアで防犯なんて謳ったところで役に立つ確率が異常に低い。
完全にプライバシーが無くなることに関しては、ぐだ男も了解しているので部屋につけたい人はついている。
当然、今の話からぐだ男の部屋についているのは察せるだろう。
「あいつ……プライバシーが無くても大丈夫って一体……」
『いえ。流石にシャワールームなどは見えないようにしていますから。ご覧になります?』
「え!?」
メイドが何かをごそごそと漁り始める。
普通、こう、デジタルらしくスタイリッシュに出すものじゃないの?そんな疑問を投げ付けるものの、メイドら相変わらず意に介した様子はなかった。
ご主人様なのにこの扱いはあんまりである。
(あ、あいつのシャワータイム……まぁ、別に人間の裸なんて見慣れたものよ!えぇ!何も気にすることは無いのだわ!)
『どうぞ』
「ふんっ。別に興味があって見る訳じゃない…………え?」
『がっ──ハァッ!ぅぉ、おぼぇ……!』
「な……」
『ぐだ男様の夜中の様子です。カメラを設置したその日です』
表示されたぐだ男の部屋の様子。
映像の右下を見ると、夜中の2時頃。この日は溶岩水泳部が居ない様で、ベッドの上でのたうち回るぐだ男を誰も助けに来るような様子はない。
カルデアは年中吹雪故に彼が今まで過ごしていた四季は無い。暑くて寝苦しい、と言った事は無かった筈だ。
『この時の彼はバイタルを診る役目もある通信機礼装を外していました。ですので彼のバイタルサインは判りかねますが、出血するまで皮膚を掻きむしり、異常な発汗、嘔吐、呼吸困難……酷いものです』
「………」
言葉が出なかった。
初めて特異点で出逢ったときも、カルデアに来てからも彼のこんな痛々しい姿は見たことが無かった。
──どうしてこの人間はこんなにも動じないのだろう。どうして笑っていられるのだろう。
『その結果、彼は引き出しから錠剤一握りを口に放り込んで噛み砕く様子を見せました。恐らく安定剤のような物でしょう。出所は不明です。ただ、あれを落ち着かせるのなら相当アウトな物だと思います』
──この人間はきっと産まれながらその力を持っていたのだろう。正しく勇者と呼ぶに相応しいものを。
そう、思っていた。
『ストレスやトラウマでしょうね。更には多くの英霊と繋がっている訳ですから、夢でも過激なものを見たり感じたりする筈です。けど、それはあくまで彼が部屋で独りの時だけ。誰かと居る時には嘘みたいに鳴りを潜めているのを見ると、とてつもなく奇跡的なバランスで今の彼は成り立っているのでしょう。それだけ、皆様と一緒に居ることが彼にとっての救いになっているのです』
「……いいえ。私達じゃ全然救いになってない」
『ではどうすると?』
「こういう奴って下手に指摘すると面倒なのよね。だから、私達がぐだ男に苦労させないようにするしかないじゃない。私は何としてもグラガンナを喚ぶわ。駄目なら造る」
『そうですね。今はそれが最適かと』
ぐだ男は人間だ。多くの戦いや殺し合い、苦痛を味わってきたサーヴァントの、ましてや女神のアドバイスなんて価値観が違って役に立つものではない。
だったらサーヴァントらしく、マスターの為に戦力アップをはかった方がよっぽど役に立つと言うもの。
「待ってなさいぐだ男。私がグラガンナを手に入れればうんッと楽になるから」
◇
「大食い選手権……ですか」
「うん。ほら、リップはその腕だから動くと疲れるしお腹も減るでしょ?」
「確かにそうですけど……」
「ん?パッションリップにぐだ男。どうした2人で」
返答に困っていると、聞いたことがある声が後ろからする。
振り返ってみると、開いた胸元の銀のネックレスが目を引く白いシャツに黒いテーラードジャケット。ややタイトな黒いスカートで、髪の毛はポニーテール。更にはアンダーリムの眼鏡をかけていてまるでOLのような格好のランサー・オルタが立っていた。
「アルトリア?偶然だねこんな所で。買い物……にしては何か堅すぎない?」
「いや、買い物だ。そろそろ
「あぁ、リップとスイーツ食べ放題に参加しようと思ってさ」
「──何?スイーツ食べ放題?それは、文字通りいくら食べても良いと?」
「うん。あ、もしかしてアルトリアも行きたい?」
「ハイッ!」
「どうするリップ」
【人数が多い方が楽しいですよね】
【今日は私とのスイーツデートじゃないんですか……?】
(わっ。出てきちゃいました)
再び選択肢。
今さっき死亡を回避したばかりなのに、またあるとは思っていなかったリップは選択肢を選ぶまで皆動きを止めてるのを良いことに思いっきり悩んでみることにした。
「んー……アルトリアさんもぐだ男さんが好きですし、一緒だと困るなぁ。けど、ぐだ男さんはハッキリデートとは言っていないですし……」
頭を捻り、時には歩き回ったりする事3分。カップ麺が出来上がったようなタイミングでリップは選択肢を押した。
【人数が多い方が楽しいですよね】
「ありがとうパッションリップ。私の我が儘を聞き入れてもらって感謝しきれない」
どれだけスイーツ食いたいんだ。と言いたくなってしまうが、そこは我慢。
リップとしては強力なサーヴァントが一緒に居ればぐだ男を守れる確率は最低でも増すことは有り難い事だし、下手に拒否して戦闘にでもなると困るので。と言った具合だ。
(アルトリアさん多分、偶然って言ってるけどついてきたんだろうなぁ)
本物か偽物か分からないが、警戒することに変わりはない。
「その天国は一体どこに?」
「すぐそこだよ」
◇
「あのアルトリアさんも本物そっくりですね」
「マシュ、あれは本人だ。あのメイドから『北海道うまい物展』のVIP優待券を賄賂で受け取ったワイルドハント(笑)その人だ」
「アルトリアさん……」
◇
「うひぃ……全身が甘ったるい」
「なんだ?あの程度で音をあげるのかぐだ男。だらしがない」
「アルトリアは加減しなさすぎ。スタッフが足りねぇ足りねぇって焦ってたよ。皆カルデアで聞いたことある声だったけど」
「ふっ。常に不測の事態にも対応出来るようにするのが店員と言うものだろう。それにしても途中品切を言いに来たパティシエはチョコレートのような肌だったな。それにおよそパティシエとは思えない筋肉量。あれは世界を修行して回った者の境地だな」
「でも、皆美味しかったですよね。あの……また一緒に行きません、か?ぐだ男さん……」
食べ放題を終えて近くの公園でゆったりしていると、リップが攻める。
恥ずかしいので俯きながらぐだ男に訊ねると、自然と上目遣いになっていてひたすら可愛かった。
流石のぐだ男もそれには視線を泳がせながら首肯する。
「む……」
それを快く思わないアルトリア。私も一緒に行きたいと言おうとしたが、同じ事を言うのはインパクトに欠ける。
(そうだ。イシュタルに加担するのは嫌だが、うまい物展となれば話は別だ。前払いで引き受けた以上、一時の仮契約は全うしなければ)
「ぐだ男。甘いものを食べた後はやはりしょっぱい物を食べたくならないか?」
「え?もしかしてまた食べるの?」
(しまった!私は食べれてもぐだ男は駄目だった!)
「す、凄いですねアルトリアさん」
「だ、だったら──」
アルトリアの目的はリップの妨害。どんな手を使ってもそれを成し遂げる必要がある。
何故なら、彼女は成功した暁に北海道うまい物展に加えて世界うまい物展の優待券も手に入れられるからだ。
「私とホテル街で休まないか!?」
「!!」
「ホテル?別にそんな大層な所行かなくてもここで休──あ。いや、ちょっと待って……」
「駄目だ!そもそもサーヴァントとマスターは大体そう言う関係になるだろう!あ、いや、私はお前以外とは認めないと言うかだな……えぇい!ともかく来いぐだ男!私の座にまで強く刻み付けたその罪、体で払って貰うぞ!」
「ギャアアアッ!!??腕がぁッ!!」
「や、止めてくださいアルトリアさん!その……ぐだ男さんは、わ、私……私とデートしてるんですからぁっ!」
「…………リップ………ごめん──」
「………」
「──可愛すぎて死ぬわ」スゥゥ……
「……え」
サーヴァントが消滅するようなエフェクトを放って、いかにもな表情でぐだ男が昇天した。
腕を握っていたアルトリアの手はその握るものを失い、リップは攻略する相手を失ってしまい、数秒の間口が塞がらなかった。
『あー、すみませんお2人様。どうやら私の計算違いでした』
「と言うと?」
『ぐだ男様は理由は良く分かりませんが、パッションリップ様の『デートしてるんですからぁっ!』と勇気一杯で叫んだ姿を見た瞬間に心停止を起こしたようです。これはあくまで推測なのですが、パッションリップ様のような、凶悪な見た目とは裏腹に守ってあげたくなる小動物ライクな少女が好みなのではないでしょうか?更にはそんな娘が自分とデートをしているから離してくれだなんて……ガッツが無ければ死でしたね』
『いや、たった今死んだんだけど』
『ご主人様の言う通りです。まさかぐだ男様の好み?がここでクリティカルヒットするとは思ってもみませんでした』
ぐだ男が昇天したシーンがループで何度も再生されていると、アルトリアが真剣な面持ちでメイドを見た。
「すると、これはプログラム進行とは関係ない
『……いえ、これは所謂キュン死に該当します。実際、ぐだ男様はリップ様のそれで心臓が不自然な挙動をして停止しました。これはリップ様の勝利になります』
「え。え?」
『ぬぐぐ……今回は確かに貴女の勝ちよパッションリップ』
『えぇ。本当はもっと色々仕掛けはあったのですが、負けは負けです』
「えぇ………そんな……」
もっと続けたかったとは言えず、言われるまま心の戦いは終わった。
でも、偽者でも本物に限りなく近いぐだ男から異性の好みが分かったのはリップにとってこれ以上とないアドバンテージとなった。
『では、最後の力に移りましょう』
シミュレーターがホログラムを解いた。
部屋の端では長椅子にモリアーティとケツァル・コアトルが腰掛けていて談笑していたが、ケツァル・コアトルがすぐに自分の番だと気付いて軽い準備体操を始める。
かなりやる気があるようだ。
「ケツァルさん、次お願いします」
「モッチロンよリップ。出し惜しみはしないわ」
『次の戦いでは肉体のみで戦っていただきます。武器、スキル、宝具は禁止。相手をKOしてください』
「ワオ。面白そうデース!」
『では……
部屋の景色が変わることなく、奥の扉から最後の守護者が現れる。
女性だ。ただし、頭には3を逆にしたような大きな角が2本と長い蒼銀の髪。眼はピンクに煌めいており、まるで輝く星のよう。
体は肌の露出がかなり多い。脚は体にピッチリ貼り付いたテープのような長方形の集合体が覆っていて、ハイレグなパンツと下腹部の紋様が目を引く。
大事な所だけを隠した、脚と同じ長方形のそれが付いた胸を押し上げ、腕を組んでいる彼女はかつての特異点で戦った時のティアマトだった。
「……ティアマト。貴女が私の相手なのね?」
「そう。私が貴女を倒す最後のガーディアン」
「「!!」」
その場の、外で見ていた皆も一様に驚いた。
ティアマトは今までただの幼子と同じ様にぐだ男に甘えては昼寝をして、疲れるまで遊んでを繰り返す女の子だったのに、今目の前に立ちはだかっているのは
「私はぐだ男に楽をさせたい。その為にはこのシミュレーターが必要。貴女達は分からないの?」
「そうね。確かに、これでぐだ男の代わりをすれば彼の負担は減るわ。けどそれは自分達にとって都合の良い彼。そんなのは、人形遊びと変わらないわ」
「ならば、ぐだ男にまた無理をさせると言うの?私はここに来てから、ずっと見てきた。ぐだ男は休みたいのにここの皆は休ませてくれない」
「私だって休ませてあげたいわ。けど、それは難しいの」
「何故!!」
ティアマトが魔力を放出。足元が球状に凹み、亀裂がケツァル・コアトルの爪先まで伸びてきた。
まるで明確な敵意を表しているように。
「……ずっと見てきたと言う割には、分かってないのね!」
「!」
ケツァル・コアトルも脚力100%で床を踏み壊すと、捲れ上がった床を駆けて高く飛び上がった。
「プランチャか!」
「やぁっ!」
プランチャこと、ダイビングボディアタックで仕掛けてきたケツァル・コアトルに対してティアマトはカウンターの回し蹴りを見舞う。
掛け声こそ戦いなれていない少女の弱々しいものだが、実際弧を描いてケツァル・コアトルの側頭部を狙い、初速で音速をゆうに越える蹴りは最早中級の宝具に匹敵する。
その触れれば転倒!では済まない一撃に対して、ケツァル・コアトルは空中で体を捻って紙一重で回避。更に着地した瞬間に体勢が安定していないティアマトに肉薄し、華奢な胴を抱え込むと筋力:Bの後背筋と腹筋がフル稼働してバックトロップを叩き込んだ。
後頭部から床に叩き付けられ、床は先程よりも大きく破壊される。
「──ッ!!」
プロレスの技は多くの格闘技と違い、ダメージをただ与えるのではなくエンターテイメントとして観客を盛り上がらせるものだ。
全てがそうではないのだが、戦闘力カルデアトップの彼女がぐだ男に教える時や身内に技を出す時等は必ず手加減をしている(マーリンでもちゃんと手加減するわよ。ジャガーマン?する訳無いデース)。
そしてその手加減が無いと言うことは、それほどティアマトが強いと言う事だ。
現に、技をモロに喰らった筈のティアマトはすぐにケツァル・コアトルの拘束から逃れると背中を突き上げる掌底を返した。
「ぐっ……!」
「まだ!」
いくら神霊とは言えど、空中でスキルも宝具も魔術も無しに移動は出来ない。当然、それを狙ったティアマトは宙に浮いたケツァル・コアトルを今度は床に叩き付ける為に、回転跳躍込みの踵落としを繰り出した。
「ガ──ハ、ッ!」
肺腑から一気に酸素が押し出され、腹にめり込んだ踵がケツァル・コアトルの全身の骨格を軋ませる。
瞬きを一回すれば己は瓦礫の中に居り、また一度瞬きをすれば顔面に向けて拳を振り下ろすティアマトの姿が脳の視覚野に飛び込んでくる。
並のサーヴァントなら回避は不可能。しかし、彼女はその並のサーヴァントではない。
限界まで首を曲げ、またも紙一重で回避するとすぐ横で床に突き刺さった腕に抱き付くように絡まった。
「シッ!」
ティアマトが空いた片方の手で頭を鷲掴もうとしたが、それよりも速くケツァル・コアトルの脚がティアマトの首に引っ掛かる。
顎を上に上げられた彼女の視界はそれに合わせて天井を見上げ、ケツァル・コアトルが消えた。だがそれも瞬きの如く。
どういう体裁きをしたのか、ティアマトの足が凪ぎ払われて宙に舞うと顎の下の脚に力が入り、バク転のように宙で半回転。
次の瞬間には頬に硬質な床の感触と、汚れてこそいるがダメージがあまり入ってないように見えるケツァル・コアトルがティアマトの視界にあった。
「ふ、グッ……!?」
「やるじゃない。中々堪えたわよ?」
「こ、これが女神同士の戦い……」
「これは我々も避難した方が良さそうだネ。おぉい、メイドちゃん。ちょっと避難とかさせてくれないかな?」
『駄目です。ケツァル様が負けた時にお仕置きを受ける必要があるので許可できません』
「初耳だよ!?」
「危ないッ!」
「ぶべらッ!?」
避難を要求していたモリアーティの体がくの字に曲がる。
どうやら飛んできた瓦礫から助けるため、リップが突き飛ばしたようだが、それを避けた代わりにモリアーティは向こうの壁に埋まってしまった。
かなり腰にキそうな体勢で化石か何かのようになっている。
「……ヒドゥイ……」
「ご、ごめんなさいっ」
「ハアアアアアアアッ!!!」
リップが引き剥がしていると、同じ壁にジャイアントスイングされたケツァル・コアトルが衝突。
相も変わらず破壊力が大きすぎる一撃を高速で繰り出しているティアマトの追撃は止まることを知らない。
どこで学んだのか、パンチは実に腰が入っていて時折八極拳のような動きも見せる。それ以外にもバリツっぽかったりファリア神拳っぽかったりしていた。
「この動き……!ティアマト貴女、ぐだ男を見ていたって言うのは嘘じゃなかったのね!ぁぐッ……!」
「そう。私はぐだ男をずっと見てきた。だから彼が色んな英霊に稽古をつけられているのも、独りで魔術の勉強をしているのも見てきた。だから──」
パゥッ!
ティアマトの両眼が光った。その瞬間、彼女から距離を取っていたケツァル・コアトルが転倒。指先1つも動かなくなっていた。
「これは……ガンド!?」
「いいえ。眼ドよ。彼だけが持つ、特殊な魔術。何故こんな馬鹿げた力か気になってこっそり魔術情報を辿ってみたら、面白いことが解った」
「それよりルールっ、違反じゃなくて……?」
「……………少し、話をするだけ」
完全に「あ、忘れてた」の顔だったが、ツッコミを入れるような空気ではなかった。
「これはどちらかと言うと皆に知って貰いたい。なので外のサーヴァントにも音声はちゃんと流して下さいね」
◇
「……ねぇ。何か言ってるみたいだけど、まだ直んないの?」
『当たり前です!あの激しい戦闘でマイクは全壊。カメラは残り2機しかありませんから口元の動きも拾えません。はいもう諦めました。適当に終わるの待ちまーす』
「アンタねぇ……」
◇
「……?返事がありませんが、まぁ良いです。おじさん。モリアーティおじさん」
「何かな……そのおじさんは今現在腰どころではなく全身の痛みと格闘中ですけど」
「ぐだ男の功績から、彼が座に登録された可能性はありますか?」
「ふむ。殆どの人々に認知はされていないが、彼は幾度と歴史を修復し、世界を救った。これは最近審査が厳しくなりつつある英霊の座も、期待の新人社員として受け入れ準備は万端だろう。私だって歓迎会に行きたいとも」
「そこのおっぱいはどう思いますか?」
「おっぱ……はぁ……私も、ぐだ男さんは英霊になって当然だと思います」
「貴女は?」
「当たり前よ。何しろ、私も彼にルチャを教えてるんだから、ライダークラスは当たり前ネー」
おじさんとおっぱいと女神が一様に認めるぐだ男の功績。
例え外のサーヴァントに訊いてみても、恐らくは大体がそうだと答えるだろう。マシュも実は召喚の際に、ぐだ男が
しかし、ティアマトからの返答は意外なものだった。
「残念ながら、彼には該当するクラスはありません。聖杯戦争には参加せず、抑止力によって召喚された瞬間、己を殺してその世界で生きている自分に霊基を合成する為だけの英霊よ」
本来、サーヴァントの一部を人間に移植するのは相当な奇跡がない限り上手く行くものではない。例え成功したとしても、侵食されて別のモノになるか死ぬかだ。
ただし、英霊になったぐだ男はそもそも英霊としての作りが違っていた。
聖杯戦争に参加し、マスターと契約して戦うその英霊とは違い、抑止力によってグランド・オーダー直前の自分に霊基を移植する為だけに構成された、謂わば種火のようなもの。
グランド・オーダーの世界において、出現したビーストに対するカウンター。抑止力が何とかギリギリで滑り込ませることのできる抵抗がこれだった。
抑止力が行使できない特異点を駆け抜ける為、唯一のマスターとなるぐだ男に、特異点を駆け抜けたぐだ男の力を譲渡する。
尤も、彼には強力な力は無い。
「魔術回路が8本しかなければ、刻印も戦闘技術もない。特異点に抑止力はサーヴァントを召喚できない。そんな彼を抑止力の手を離れた状態でも生き残らせるには彼自信を恒常的に強くするしかない」
「そんな………事って」
「レイシフト適性は先天的なものだけど、異常な強さのガンド。まるで異能生存体とも思えるような生存力。その他諸々……それらの一般人とはかけ離れた能力は英霊のぐだ男が得た力の顕現なのよ。だから宝具を保有出来た」
「それを言ったらタイムパラドックスではないかね?その力を得てこのグランド・オーダーを駆け抜けた彼が英霊に昇華したなら、その力を渡した彼は何になる」
「英霊の座には時間の概念はないけど、何事にも始まりはある。ましてやこの世界は不安定な要素が多い。今更タイムパラドックス何て論ずるだけ無駄」
ぐだ男はカルデアが崩れる中、マシュの手を握っていた中でレイシフトと同時に死亡した。だが、所長が死しても魂がレイシフト出来たようにぐだ男もレイシフトは可能だった。
時間を遡る為、肉体も魂も霊子へと分解された所へ英霊のぐだ男は自分の
「……それで増えた魔術回路に触れた時、ぐだ男の痛みを知った。世界を助ける為に自分を殺す。並の人間じゃ自分の心臓を抉り出すなんて出来ない。どれだけ痛みと恐怖に耐えながら手を体内に突き刺したのか、私は見た。感じた!だから私はここに居る!もうぐだ男に辛い思いをさせたくないから!──あぁ、そうよ。もうこんな世界はどうだって良い!私はぐだ男を連れてこの世界から離脱──」
「そんなの!」
「きゃっ!」
ケツァル・コアトルがまだ麻痺の残る体に鞭打ってティアマトを転倒させた。
すぐさま馬乗りに跨がってティアマトの頭をガッシリ両手で掴むと鼻息も感じられる距離で怒鳴った。
「その命を擲った彼が望む筈が無いでしょう!!彼は抑止力に遣わされた存在であれ、世界を救いたいから彼は命を擲った!これからを生きていく自分に託した!誰かが必ず笑顔になると信じてるから!貴女がぐだ男を連れて逃げるのは、その痛みに耐えた彼の行為を無駄にする!それは許せない!だから私は今戦うわ!彼がもう、私達の支えがないと倒れてしまう程にボロボロなのも分かっている上で、貴女の願いを打倒する!」
「──そこまで、そこまで……」
「けど、貴女も彼の傍に居なきゃ駄目。だから………」
「だから……?」
「殴り合いマース!全力で、お互いの主張をぶつけ合って、変なイザコザは無しになるまで、スッキリするまで力をぶつけ合う。それが一番ネ!」
「……は、はは」
変な笑いが出た。
……頭では分かっている。これは大衆的にはケツァル・コアトルの言い分が正しいのも。自分がやっていることは端的なものなのも。
だからと言って、簡単には引き下がれない。この胸のモヤモヤを振り払えない。だから──
「えぇ。ならば神々らしく力で優劣を決める!かつて神を殺しては天地を創造した様に荒々しく!」
「そうよ。だから、
「これ、ヤバい展開?」
「わ、私の手を盾にするのでこっちへ!」
「「ハアアアアアアアッ!!!」」
どのみち、先にティアマトがルール違反をして負けは確定している。メイドがそれを見れていたのかは定かではないが、もうそんなのもお構い無しに両者はぶつかり合った。
音速の拳が鳩尾を抉り、カウンターのフックが脳を揺さぶる。
人体の打撃音と言うより、まるで何かの建造物が破壊されるような音が連続してその度にシミュレーションルームの全体が震動する。
特にティアマトの八極拳(掌底)がケツァル・コアトルの腹を打つ音は爆発音その物だ。
そんな激しすぎる攻防がずっと続いていた。
「まるでイシュタルみたいな技を使うのね!でも彼女のマーシャルアーツは攻略済みよ!」
「だったら神をも殺す拳はどう!!」
「ゥグッあ!!??」
流石のケツァル・コアトルも攻略済みのヤコブ神拳を八極拳の途中から繰り出されるとは思わず、モロに逆正拳突きを喰らった。
一時的に呼吸困難に陥り、視界が暗明転する。
これこそ、マルタが会得しているヤコブ神拳の最強技の1つ。ヤコブ絶命拳。相手は死ぬ。
よく无二打とどちらが強いのかと論争が起こる必殺拳だ。
「神が神を殺す武術を使う……こんな事、虚数の海に居た頃は思いもしなかった」
「……アラ?倒した気になってるのかしら?」
「!」
しかし、その拳を受けてなおもケツァル・コアトルは立っていた。
自信があったティアマトは驚いてしまい、ケツァル・コアトルの反撃に反応が遅れてしまう。
翼ある蛇とは言ったもので、ケツァル・コアトルはその蛇のようにティアマトの体に絡まると
完全に技が極ったティアマトはこれを知っている。良くぐだ男がやられていたアレ。
「あ、あばら折り………!?」
「日本語ではね。ルチャではティラブソンと呼ぶのよ」
「ぁ、かはっ……ぃッ!」
ミシミシとティアマトの骨格が、筋肉が、もう無理だと叫ぶ。
こう言った技は、単純に力任せでどうにかなるものじゃない。何しろ、関節は動く方向が決まっている。無理に動かせばその時は自身で関節を破壊することになる。
「………参った……降参する」
神々の戦いが始まってから20分。互いの健闘を称え合い、固い握手を交わした事で戦いは終わった。
シミュレーションルーム3部屋全壊、その下の階のトレーニングジムが戦闘の余波で半壊。それらの責任は元凶であるイシュタルと黒髭がお咎めを受ける事となったが、未だ眠るぐだ男はサーヴァントの管理者としての責任で、大量の始末書が待っているとは微塵も思っていなかった。
もうあのスペックで一般人とか無理でしょ。って事でブッ込んだ独自設定。
FGO世界限定の異例英霊なので型月の設定とかに当て嵌められません。
クラス:なし
真名:ぐだ男
スキル
・単独顕現:EX
その他不明
スキル、宝具、パラメーター等の殆どのステータスが不明。
FGO世界でのみ存在が許される特殊な英霊で、生前のような戦闘力は無い。在り方としては、アンリマユに似ているかもしれない。
ティアマトは抑止力によって召喚されたと言っていたが、それは厳密には違い、実際は抑止力さんと色々話し合った結果、あのファーストレイシフトの瞬間に一度っきりの
ワンオフのクッソ貧弱とは言え彼が単独顕現を有すると言う事は───
又、他の英霊と違うのは座のぐだ男が常時アップデート待ちと言うことだ。
グランド・オーダーを駆け抜けたぐだ男が、座のぐだ男より優れていればそのぐだ男を上書きし、常に一番優れたぐだ男をグランド・オーダー直前の彼に移植する。
そう言った、限定的過ぎる抑止力として、彼は存在する。
「種火、種火と周回しまくってた俺が、まさか俺自身の為の種火になるとは思わなかった」
「抑止力さんはズッ友だよ!」
「ささーげよ♪ささーげよ♪しーん臓をささーげよ♪」
と本人のプロフィールに日記のように書いてある。