Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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カーミラさんの教化はありがたい!
うちにはマトモに殴れるアサシンがカーミラさんかスカサハ位しか居ないからネ!

それにしてもボーイズピックアップ……やっぱりマーリンは無いかぁ……。


Order.49 新たな魔法少女

 

 

「ただいまー」

 

「お疲れなのだなご主人。今日の仕事は調子よCAT(キャット)か?」

 

俺はぐだ男。人理継続保障機関フィニス・カルデアに勤める、この道4年目の魔術師だ。

とある切っ掛けで人類最後のマスターとして特異点を駆け抜け、何度も死にかける程の戦いを潜り抜けてきた結果、今はカルデア直属の魔術師として人理焼却後の後処理等に駆り出されている。

そんな俺だが、共に戦ってきた仲間の1人であるバーサーカー、タマモキャットと2か月前に結婚した。

カルデアからマスターとして活躍していた分のお金も溢れるほど貰った俺はカルデア勤務の為一部区画を買い取ってキャットと今のところ金銭面では一切困っていない新婚生活をしている。

 

「あぁ。会議やら打ち合わせの連続でロマニ社長に心配されちゃったよ。あの人の方が俺よりずっと大変で弱音も吐けないのに、情けないよ俺……」

 

台所からパタパタとスリッパの音を立てながら駆け寄ってきたキャットに、少しばかり今日あった事を吐露してみる。

彼女はやはり良妻サーヴァントを自負していた事もあって結婚後はその良妻っぷりを遺憾無く発揮している。

こうして今キャットに打ち明けられるのも彼女が積極的に関わってきてくれるからだ。

 

「ふむ。ご主人は相変わらず真面目なのだな。だがそれが良いところであり、悪いところだ。たまにはご主人も人に甘えてみるが良しぞ?」

 

「そうなのかな……」

 

ふと、鞄を持ってくれていたキャットの胸元に視線が落ちる。

今まで気にしないで来たことなので今更だが、キャットは基本裸エプロンだ。それは結婚前も後も変わらず、鞄を前に持っている彼女のたわわな胸は両腕に圧迫されて窮屈そうに形を歪めている。一緒にエプロンも寄せられており、何とも刺激的な状態。

それに加えて身長差故に上目遣いで谷間が丸見えだから、意識し出した途端に俺の心臓がドキんと跳ねる。

 

「……ご主人?」

 

「ぁや、ご、ごめん。何でもないよ。じゃあ俺お風呂入ってからご飯に──」

 

キャットの頭を撫で、少し自分の顔が熱くなってきたのを誤魔化すように脱衣所へ向かう。

──と、魔術礼装を脱ごうと乳ベルトに手をかけた時に不意に背中に重たさを感じた。フワッと甘い香りが鼻腔を擽り、それがキャットのものだと理解して振り返るとそこにはエプロンの紐を解いている彼女の姿が。

何でと疑問している間にも彼女はエプロン止めを外してそれを重力に逆らわせずに床に落とすと顔に朱をさしながら裸体を晒した。

 

「──」

 

恥ずかしいからか、ほんのり赤みがかったハリのある肌。

美しい曲線を描きながらも、出るところは出ており、逆に引っ込む所は引っ込んだ体。

尻尾とケモミミこそそのままだが、手足は筋力:B+とは思えない華奢でスラりとしている。

その姿で呼吸する度に上がり、下がる彼女の双丘を俺に押し当てて密着すると、彼女は背伸びして俺の唇と自身の唇を合わせた。

初めは様子を見るような控え目なキスから、攻め気のディープへ。彼女はまるで自分の中の荒ぶる野生が抑えられんと言わんばかりに俺の口内を貪る。

 

「……んっ、ちゅ……はむ……っ……あふぁ」

 

お互い呼吸する事すら忘れ、唾液を交換しあう。やかて空気を求め、顔を離すと2人の間に艶かしく光を反射させる唾液の橋がかかった。

結婚してから2か月。ここまで彼女が積極的なのは初めてだ。

 

「……ぐだ男(・・・)……アタシはもう我慢できない……」

 

「……っ」

 

潤んだ瞳で見つめられ、俺は思わず唾液をあからさまに嚥下する。

そうか……俺はキャットのそれ(・・)に気付いてあげられなかったのか。サーヴァントの事なら自信がある筈なのに……自分の嫁1人の欲求さえ気付いてあげられないんじゃ旦那失格だ。

 

「キャット……俺ももう我慢できない」

 

「うん…………しよ」

 

もう一度、と求めてきた彼女に応えるように、俺は唇を重ね合わせながら今度は乳ベルトではなく腰のベルトに手をかけた。

 

 

「──と言うのがアタシの未来予想図」

 

「き、禁制ですよ!キャットさん!」

 

「流石に俺を美化しすぎでしょ」

 

「そんな事はないぞご主人。寧ろアタシの妄想ではオリジナルには勝てぬ。あ!キャットはオリジナルなぞには負けないぞ!?それどころか腹黒でない分良妻度が2倍どころか3倍。ジェットストリームアタ○クも可能故のこのMSなのだゾ?」

 

キャットのリアリティな未来予想図を語られ、俺も頼光さんも赤面する。良く見ると柱の陰から褐色の語り部サーヴァントが巻物を手に少し顔を覗かせている。

成る程、道理でリアリティだと思ったらシェラさんの宝具か。にしてもそれはアリなのか?

 

「まぁ……キャットさんの強い想いに応えて……と言う所でしょうか」

 

シェラさんはそう呟くとススッ……と引いていった。

今ここは戦場なのにご苦労様です。

 

「取り敢えずそのMSはモビルスーツの方だから。で、目的は何ルビー?」

 

「おんやぁ?私ですかぁ?私はただイリヤさんの為にですねぇ」

 

「メッフィーみたいな声だしても駄目。とっととゲロせい」

 

「その前にアレを倒してからにしましょうか」

 

頼光さんに横から言われ、右手のルビーから視線を前に戻すと、先刻キャットに引き裂かれたエネミーが互いに手を繋ぐように体が再生していく。

さっきも細切れにしたのに直ぐ様再生したから倒せないとは思っていたが……正直こんな相手をどうしろと。

本当はシミュレーターを起動させなければ良いだけの話だけどそれじゃ根本的な解決にならないし、自我を持った以上放っておけば何をしでかすか分かったものではない。

何が何でもここで刈り取らなければ。

 

「そうですよ。ドドーンとやっちゃいましょう!」

 

「……よし、切り換える」

 

やや緩んでいた気を引き締めるため自分の頬を2回叩く。

幸い、今までの感じから攻撃力がやたら高いのと復活力位が驚異と呼べるものだ。であるならば、女神ロンゴミニアドやゲーティアと比べると──

 

「弱い!」

 

 

「凄い……」

 

教室の大穴から校庭を見下ろす現役魔法少女イリヤはそんな呟きを漏らした。

エネミーとぐだ男が校舎内で激突してから暫く。新たな魔法少女(?)とエネミーが激しく斬り合いながら校庭へ出てきた。その姿は魔法少女(・・)と呼ぶには歳を取りすぎな豊満な体つきの甲冑と、ケモミミと尻尾が可愛らしいピンク髪の裸エプロン。残念ながら、後者はイリヤもカルデアで見慣れてしまった為に前者ほど驚きはしなかった。

しかし、そんなイロモノ過ぎる魔法少女達であっても明らかにイリヤよりも強いのであった。

 

「にゃははのワン!抉るように打つべし!」

 

残像を残すキャットの零距離ブロウ。

人と同じ手足で戦っているからか、パッと見オリジナルに見えてしまうのが嫌だと述べたキャットだが、違いは戦闘の様子を見れば一目瞭然。急所(・・)を破壊することを大前提としたオリジナルの身のこなしとは違って人体構造的にどこを狙えば良いのかを本能で感知(もっとも、相手が人の形というだけで詳細は不明だが)。婦長もかくやという勢いで各部位を破壊していた。

その勢いは衰えを知らず、あわやポロリ惨事かと思われたのも束の間。360度どこから見ても彼女の髪の毛やリボン、尻尾等で確実に隠されていた。これにはオリジナルもニッコリ。

 

「ぬぬぬぅ……キャットめ。あやつオリジナル以上に可愛らしく目立ちおって。余だってぐだ男にああやってウィンクとか決めてみたいぞ。第一!狐で猫で犬で兎で巫女で良妻で裸エプロンで!もう属性モリモリのパンパンなのにこの期に及んでまだ足すか!余の方が属性の余裕があるぞ!」

 

「なーにを仰いますかこの嫁皇帝は。貴女だって皇帝で音痴で子犬でアイドル(自称)で花嫁でetc...ってモリモリでしょうに。私だって自分の分身があんなで困ってるんです」

 

「それはキャス狐が切り離したのが原因であろう。余は悪くないからな」

 

「流石は余だ!分かってるぅ」

 

「自分で自分を擁護しないで下さいまし!」

 

巫女と皇帝が争っていると校庭から一際大きい雷鳴が響いた。

今度は裸エプロンからぬ裸甲冑ライクの頼光が仕掛ける。紫電を纏った刀が龍のように唸りをあげ、向かってくる腕の一切を両断する。

途中、食堂で手にいれた今川焼を頬張りながら歩いていたえっちゃんことXオルタが「おや。新しいビームセイバーですか。カタナ型とは珍しい。はむ……」と暢気に歩いていった。

そして彼女と歩いていたヒロインXが「む!?新たなセイバーだとッ!?──あ。あれはちょっと……色々敵わないと言うか……」と、最近見るようになった『セイバーだから倒したいけど強すぎ、又はギャグで通らないやつ』の分類なので一度様子見という形で彼女も歩いていた。

 

「何だ?あやつにしてはやけにすんなり引き下がったではないか」

 

「まぁ、結局彼女もアサシン(闇討ち戦法)ですしね」

 

「しかしあやつの言う事も納得できる。セイバーは増えすぎなのだ。余もセイバー枠に2人だぞ?」

 

「そうだな。ならばここは一度、別のクラスに挑戦してみる!例えば……うむ。マグスめから学んだ魔術でキャスター等も良いかもしれぬな!」

 

「ちょっとぉ!?今度はキャスターに侵攻してくるおつもりですか?」

 

「はいはい。分かったから取り敢えず黙ってなさい。その内アタシが全クラス制覇するから」

 

増え続ける自分問題には然したる不便もないエリザベート。大人の自分がどう思っているかは知らないが、彼女にとっては自分だけでアイドルユニットが作れるなら寧ろ増えろと願うばかり。

 

「今度はそうね……エクストラクラスとかやってみたいわ」

 

流石に音痴の増殖は止めてくれと玉藻が願っていると、彼女達の話を折るようにガラスを割ってぐだ男が転がり込んできた。

全身はボロボロの文字通り満身創痍。その様子からかなりの激しい戦いだと察した嫁ネロがすぐに駆け寄って怪我を心配する。

 

「大丈夫か!?ぬ?何と、セクシーなのだぐだ男……最近入ってきたあのアマゾネスにも劣らぬ美腹筋……珠のような汗としなやかな肢体が何とも……そして何より愛らしい姿──」

 

「加えてボロボロの衣装が内なる加虐心をそそると言うか、そのまま組んず解れず──」

 

「ちょっと!心配してるのか興奮してるのかどちらかにしなさいよ。大丈夫子イヌ?」

 

「ってて…あぁ、大丈夫」

 

「参りましたねぇ。これだとこちらがやられそうですよ。一度退きますか」

 

「でもホームズ達も俺達がアレにダメージを与えている間に何とかネットワークに侵入してるだろうから、ここで緩めると今度はあっちが大変でしょ」

 

「ぬ?もしやぐだ男、他の魔法少女が必要か?」

 

体の埃を払って戦場に戻ろうとしたぐだ男を嫁ネロが止める。

彼女も魔法少女として戦いたいらしいが──?

 

「いやぁ、ネロさんにはMS力はあまり感じられませんから今回は諦めていただく形で」

 

「即答ではないか!余だってキャスターやりたい~ッ!」

 

「そもそもぐだ男は男であろう!だったら──」

 

「サラウンド止めていただけます?第一ネロさん皇帝特権で無理くりセイバーやっていらっしゃるのならキャスター位どうってこと無いでしょう」

 

「「それだ!」」

 

「……取り敢えず俺行くからね」

 

最早ぐだ男の話を聞いていないネロ2人がどこで見たのか、息ピッタリのフュージョンポーズで「ハァッ!」と皇帝特権を同時に発動する。

ぐだ男が窓から飛び降りた時に彼の背後から黄金のオーラが溢れたように見えたが、意識を切り換えて目下の敵へ手刀を放つ。

下では依然として敵を倒せず、ただこちらの体力が消耗されているだけだった。

 

「キャット、頼光さん!様子は!」

 

「斬れども斬れども何事も無かったかの様に戻ってしまいます。困りました」

 

「参ったな……せめて他の魔法少女が居れ──何だ!?」

 

「上だご主人!」

 

反射的に地面を蹴る。刹那、エネミーの体は暫く前にぐだ男が細切れににしたときよりも更に細かく分割された。

次いでぐだ男はキャットの言葉に反応して上を仰いだ。

まだ正午を越えてから暫くも経っていないからか、太陽がとても眩しい。

そんな太陽をバックに何者かの影が飛来してくる。

何者か分からない。視認できるのは長髪とスカートのような衣服。

 

(けどここからでも分かるMS力……ッ!別の魔法少女か!)

 

「………ッ!!?」

 

「再生の暇も許さない猛攻。全部が俺の手刀(シュナイデン)以上の威力……一体誰が」

 

「──嗚呼、私は哀しい。今のは一撃で葬るつもりだったのですが……どうやら見誤ったようですね」

 

「はぁッ!!!???」

 

ぐだ男が叫ぶ。

その様子は信じられないモノを見てしまったかのよう。だがそれも無理ない。何しろ、たった今降りてきた人影……新たな魔法少女は身長186cm。体重78kgの美丈夫だったのだから。

 

「嘘だろ……」

 

「アーチャー、トリスタン。いえ、プリズマ☆トリスたん(・・)我が王の命を受け参上しました」

 

「これは酷い」

 

「惨状だナ」

 

そういう彼女達だが全員少女なんて枠組みに片足たりとも突っ込んでいない。ましてや魔法少女4人の内半分は男だ。

一体どこに魔法少女力なるものが見出だされるのか。

 

「で、王ってどの?」

 

「では弾き語りましょう。私が如何にして魔法少女になったのか。何故なったのか。目的は何なのか」

 

ポロロン、ポロロン……。

 

 

遡ること10分前。

 

「クー・フーリンが死にましたか。彼も素晴らしい決闘英霊(デュエリスト)でしたが……悔やまれます」

 

「私も彼に追悼曲を贈りましょう」

 

生徒会室で学園の決闘者(デュエリスト)リストを眺めていたランサーのアルトリアが、リストに赤く『DEAD』と記されたクー・フーリンを見てそう呟いた。

傍らに控えていたトリスタンも一決闘英霊として彼の実力を高く評価していたし、何度か決闘(デュエル)をして互いを高めあったライバルでもあった。

そんなトリスタンのおよそ弦から弾かれる筈のないピアノの悲しい音色が生徒会室を包む。

 

「……?何やら騒がしいようですが」

 

「先程放送があった通りです。只今校内にて我々サーヴァントでは敵わない敵が現れていると」

 

「では誰が相手を?」

 

「屋上のガウェインによると、『魔法少女なる者が交戦中』との事です」

 

「魔法少女?聞き慣れない言葉ですね。どういう事ですかランスロット」

 

再度アルトリアに問われ、ガウェインからの報告メールを読み上げていたランスロットが背筋を伸ばす。

実のところ、ランスロットもその魔法少女が何たるかは知らない。恐らく魔法を使う少女の事だろうが、我が王の為に間違えた情報は控えなければならない。

我が王の要望に答えられない自分を悔やみながら、自分にも分かりかねると言おうとした時、ふとピアノの音がパイプオルガンのそれへと変わった。

 

「恐れ多いながら我が王。魔法少女については私がご説明致しましょう」

 

「トリスタン……」

 

「許します。して、魔法少女とは?」

 

妖弦フェイルノートが別の生き物のように動くトリスタンの指で弦を弾かれると、荘厳なパイプオルガンが彼の背後に現れたのではないかと錯覚する。

決してトリスタンの少々覇気の無い声が聞こえなくなるような音量ではなく、しかしてフルオーケストラを大きなホールで聴いているような音の響き。

長い付き合いだが、いつの間にか生前よりも腕に(別ベクトルで)磨きがかかったとランスロットは感じた。

 

「魔法少女とは、文字通り魔法を用いて悪と戦う少女の事。しかし、彼女達が有する魔法とは私達が認識する『現代の文明では実現できない、結果をもたらす奇跡』とは違うもの。家族を、友を、世界を救うために力をもって立ち上がった勇敢なる乙女達。強大な敵も仲間との絆の力で打ち倒し、しかし中身はただ日常の生活を楽しむ女の子。皆を守るために正体を隠して振る舞う健気な女子学生。おぉ、美しいその姿はどこかイゾルデに似ている」

 

「成る程。言われてみれば確かイリヤスフィールが魔法少女でしたね。別世界から遊びに来ている彼女ならサーヴァントではないので戦えるのは納得できる。彼女が戦っているのですか?」

 

「それにつきましては私から。ガウェイン卿のメールによりますと、交戦中なのは女体化したぐだ男らしく、メールの最後には『やはり我がマスターは女性になっても素晴らしい』と書いてあります」

 

「ぐだ男が!?──ぁ、いえ、んんっ。そうですか。彼が戦っているとなると怪我が心配ですね。えぇ。少し様子を見に行きましょう」

 

ぐだ男が戦っていると聞いて思わず席を立ってしまうアルトリア。

メル友のマシュによると、彼は先日のアガルタでの戦闘や今朝の魔猪轢き逃げ事件でボロボロとの事だった。そんな彼がまた無理をしている。ましてやサーヴァントでは敵わない相手を1人でどうにかしていると聞いたら居ても立っても居られなかった。

もっとも、そんな姿はあまり周りに……特に円卓の騎士達には王として、見られたくなかったので平静を装って部屋を出ようとする。

 

「ちょおーっと待った」

 

「おや?これはマジカルルビー殿。何かお探し──いや待て。今ぐだ男が戦っているなら一緒の筈。ならば──」

 

「剣を収めよランスロット卿。彼女は害なす存在ではない。すみませんマジカルルビー。して?」

 

「お話が早くて助かります。時間がないので詳細は省きますが魔法少女になって欲しく、その力を貸していただきたいのです」

 

「「!!」」

 

今まさに魔法少女が何たるかを話していた直後の誘い。

言われたアルトリアはとても少女とは言えない年齢だが、ランスロットはそれを見てみたいしトリスタンもまた同様だった。

アルトリア自身も、それなら敵に対抗しつつぐだ男の側で戦える。

 

『愛してる』

 

「……///」

 

かつてカルデアに来て間もない頃。マーリンの仕業でぐだ男を自身の夢に迷い混ませてしまった時があった。

自分はロンゴミニアドを有していた時間が幾年かあった為に、中身も神のそれに近いものに変わりかけていた。

もっとも、それはかつてぐだ男達が戦った女神ロンゴミニアドと比べれば天と地のような違いであり、価値観がまるっきり変わったわけではない。色々あったが、やはり彼女も魂に未だ熱を帯びた人だったのだ。

その夢の中でロムルスの非(ローマ)的 な暴力によってだがぐだ男はアルトリアに「好きだ」(本人がどの意味で言ったかは不明)と言った事があり、嘘偽りのないその言葉を承けた彼女はそれを機にカルデアで笑顔を見せるようになったのだ。

彼女は何故だか「愛している」と愛の告白をされたと思い込んでいるようで、ぐだ男の事になると王の威厳はどこへやら。円卓の騎士達も時折反応に困る有り様になっているが。

 

「私が魔法少女に……最早結婚後の共同作業と同義といっても過言では……」

 

生前は結婚していたが、お互いに女性。まぁ、確かに魔術で擬似性転換をしていないことも無かったが、自分が女性。相手は男性としての付き合いは1度もなかったのに対して今は「好きだ(愛してる)」と本当の異性から言われて霊核(ハート)はキュンキュン。

ぐだ男は見た目も悪くないしどのサーヴァントも口を揃えて「魂が高潔」「最高のマスター」と言うほどだ。多数の女性サーヴァントが好意を抱いているという事実も、彼女を焚き付けている要因でもあった。

なのでカルデアの彼女はやや暴走気味、たまにぐだ男に向ける視線が獲物を狙う獅子のそれである。

 

「あー、残念なんですが、魔法少女適性があるのはアルトリアさんではなくそこの──」

 

「───」

 

デデデデーン!

突然トリスタンが曲調を変え、フェイルノートの音が完全にオーケストラになる。

その曲名は誰もが聴いたことがある、ベートーベンの交響曲第五番『運命』。ルビーが器用に羽で指を指した瞬間のこの曲は、さながらアルトリアの心情を表しているようだった。

 

「まさか……トリスタンが」

 

「トリスタン卿!!」

 

「……私は男ですが」

 

「MS力に性別は関係ありません。私が欲しいのはやるのかやらないのか。その返答だけです」

 

ルビーのコピー個体は妙に影がかった角度でトリスタンを上目で見ている。当然、どれが目なんて分からないのだが、トリスタンにはその時のルビーが何か良くないことを企んでいる者の上目遣いに見えていた。

 

(我が王は魔法少女になれずショック。対して男の私がなれるジョーク。……相手は何を考えているか分かりませんが、我が王を危険にはあわせられません)

 

「因みに他にも魔法少女が居まして、今ぐだ男さんと戦っている敵を倒した後に彼女達を倒せたら、その時は私達(・・)の力で1日彼を自由に出来る魔力リソース……つまり、対マスター専用令呪を一画プレゼントしましょう」

 

「!?そんな事が……」

 

「可能です。私達は第2魔法の応用により無限の魔力供給を行えます。後はそれを溜め込める器さえ用意すれば聖杯なんて何のその。膨大な魔力リソースを用いた魔術で1日限定ですが、本場(・・)の令呪も再現できちゃいます。さぁ、今目の前にぐだ男さんをじっくりネットリズッポリ食べられるチャンスが居るんですよぉ?」

 

「……その権利は、他者へ移す事は可能ですか?」

 

「勝者であれば無論。あぁ、ぐだ男さんは倒さなくて大丈夫なのでご安心を」

 

「トリスタン……っ」

 

アルトリアが王のプライドを捨て、トリスタンに一生に一度のお願いだと言わんばかりに眼を潤ませる。

当然、そんな事までさせて断る円卓の奇人もとい騎士ではなかった。トリスタンは我が王の為に。そして同じく彼を狙う野獣から我が主(ぐだ男)を守るために、ルビーを手に取った。

 

「トリスタン卿よ。幸運を」

 

「いえ、ランスロット卿。今から私は円卓の騎士トリスタンではありません。正体を隠し、たった1人の女性の願いを叶えるべく、我が主を守るために立ち上がった正義の魔法少女──」

 

フェイルノートが共に行こうと言うように弦を弾く。

その音は光に包まれていくトリスタンを、日曜朝の戦う女の子ライクなBGMで鼓舞する。

残念ながら、それは魔法少女ではない別ジャンルの戦う女の子アニメなのだが……ルビーはあえて突っ込まなかった。

 

「──私はプリズマ☆トリスたん(・・)

 

 

 


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