Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
あとは、分かるな……?
「何てハレンチな格好なのぉぉぉお!!」
仰る通りだ。
俺の魔法少女の装いはとてもではないが、日朝には放送できない際どいものだ。
アルトリア・オルタ(ランサー)もかくやという下乳の露出とそこからスカートまで何も覆わぬボディ。しかしそのしなやかなボディは少女の称号を関するにはやや腕っぷしがあるというか……やはり筋肉質なのは元が原因だろうか。
「いやぁ、ぐだ男さん。そんな趣味があったんですね」
「いやいや。そうじゃないから安心してくれ。今ちょっとばかし面倒な事になっててさ。アレ、カルデアのバトルシミュレーターのダストデータが集まって出来たヤツらしいんだ。あれ?ダストデータだっけ?残骸レジストリだっけ?」
「何でも良いですけど、どうして魔法少女に?」
「そう、それだよ。イリヤ!よく見てろよ!」
「ほぇっ!?」
「人の強さなんて人各々だ。イリヤみたいに過程をすっ飛ばして結果を出せる力があっても、敵わない敵だって当然居る。逆に肉体だけ鍛えても勝てない敵も居る。けど、だからって諦めてはいけないんだ。何かを極めれば、それは何にも負けない武器になるんだ」
「……えっと、つまり……?」
つまりこういうことだ!
「俺は筋肉を鍛えたことでMS力を高めた魔法──いや、魔術少女!イリヤも鍛えればここまで強くなると教えるために俺は参上した!」
「意味が分からないよ!!」
教室の床を蹴り、俺も校庭に着地する。
生憎、俺には空を飛ぶ感覚は分からなかった。けど空中を移動する手段は無いわけではない。無限に供給される魔力をもって、自分を空中で射出しているのだ。リニアやレールガンと似たようなもので、魔力の力場を自身の周りに作り出し、それの押し出す力で空中を移動しているに過ぎない。
ルビーが言うには無茶苦茶な理論みたいだが、移動できればそれでいいのだ。実際今さっきもアレを蹴り飛ばすのに自分を弾丸のように打ち出したしな。
「さぁ!本番ですよぐだ男さん!まずは魔力の塊を打ち出してみましょうー!」
「どんな感じ?」
「ドバーッて感じですよ」
「そんな曖昧な……でも……あぁ、どのみち──」
「┳╋┣┏┗」
最早音声すらバグってる気がするエネミーが完全に俺を敵と認識した。
いや、もしかしたらハナから俺には敵意を向けていたのかもしれない。と、いちいちそんな事を確認している暇もなく、突然エネミーの刺突が俺の腹を襲った。
「──ッ!!」
メキメキと俺の体が悲鳴を上げる。幾ら膨大な魔力リソースを用いて体を女に作り替えているとはいえ、今朝轢かれたダメージや傷が完全に消え去ったわけではない。
学校でよく見かける旗を上げる棒を薙ぎ倒し、下駄箱を盛大に破壊しながら俺は何mも突き飛ばされた。
「障壁が間に合った……みたいだ……」
「ぐだ男さんの物理防御力の賜物ですよ」
そうは言っても体は今のでやや震えが出始めている。参った……これだと満足に──そうだ!体が震えていると言うことは筋肉が震えていると言うこと。つまり魔力放出で相殺が出来る筈だ!
「はぁっ!」
何とか立ち上がり、全身の筋肉を活性化させる。
その副産物として周囲に放出される魔力が足元を球状に凹ませ、巻き起こる風圧が砂塵やら瓦礫やらを辺りに撒き散らす。そして放出された魔力の濃度が高いために、視認が出来るようになった俺の様子はさながらスーパーサイヤ○とでも言うような状態だ。
「ハァァァ……ッ!」
更に魔力を放出。何故こんなにも魔力放出をするか不思議に思っただろうか?実は理由がある。
俺はイリヤのように
体格はおろか性別も変え、更に傷への影響を避けるためこんな事になってしまった。まぁ、そこはマスターたる者技術で何とかして見せるものだ。
「素晴らしい……!」
「へっへ!物理全振りだ!」
全身の筋肉に力が満ちていく!血管が、リンパが、筋繊維が、骨格が、全てが強靭になる。心臓の鼓動1つで俺の体は盾となり矛となる。
「┻┻┻┻┻┻┻┻!!」
エネミーへ肉薄する俺の動きを読んだようにエネミーが腕を鞭のようにしならせ、数m離れている俺を凪ぎ払う。その速さは音速をゆうに超える。
だが俺はエネミーの挙動に合わせて小ステップを噛まし、その腕に右拳のカウンターを押し込んだ。爆発した様な打撃音と共にエネミーの長く伸びた腕は打撃点を起点に地面にめり込み、小さな山脈を作る。
そして俺は間髪入れず踵を返し、足裏に押し出し力場を設置して先刻のエネミーに迫る加速力で肉薄して回転蹴りを喰らわせた。
「──!?」
手応えあり。そう思ったのだが、俺の右脚はまるで泥に沈んでしまったかのようにゆっくりとエネミーの顔に当たる部分に呑み込まれていく。
いででででっ!溶ける!!
「これは……生体情報が書き換えられている……!?ぐだ男さん!早く脱出を!」
「そうは言われ──そうだ!」
ふと、俺はこの状況でメドゥーサ(騎)の首折り攻撃を思い出す。太股で挟み込み、強力な膂力をもってして敵の首を折るそれは蛇のような
「┫┏┓……グギィッ!?」
沈みかけた脚を気にしながら左脚をエネミーの頭に回し、一気に力を込める。
流石にメドゥーサの様に簡単にへし折ることは叶わないが、それでも少しずつエネミーの首を変形させて──ゴキンッ!と俺の太股の間で嫌な感触を感じた。
ヨシッ!決まった!
「ィィィィィイイイッ!」
「うわっ!」
しかしエネミーは倒れることもなく、脚を引き抜きかけていた俺を振り払う様に上半身を振った。
凄まじい遠心力に耐えることは出来ず、スポッと抜ける快音と共に俺は校舎の外壁に叩き付けられる。
「やるじゃないかコンチクショー……!」
「ぐだ男さん。あちらは距離を取っても可能な攻撃手段を持っていますが、こちらは一切無しのハードパンチャー。何か隠し玉は無いんですかぁ?」
そうは言われても困るだけだ。
如何せんこちらはイリヤみたいなセンスは無いわけで……待てよ?もしかして
「ルビー!魔力を回してくれ!」
「お!何かあるんですね!さぁ、やっちゃってくださーい!」
「おう!……はぁぁぁ……ッ!」
魔力が高まる……溢れる……。
「
限界まで己の右手に魔力を貯めて一気に手刀を降り下ろす。刹那、エネミーとその周りの物体の一切合切が音も立てずスパッと両断された。
理屈としては難しい事ではない。単純に魔力で極限まで高めた筋力で手刀を振るうことで衝撃波が発生して射出されただけ。つまり、筋肉が正に逆転の機会を切り開いたのだ!
「……流石にイリヤでもあれは無理じゃない?」
「うん……ねぇ、私の魔法少女って間違えてないよね……?」
「まぁ、各々あるでしょ」
「
怯むエネミーに追撃をかける。
縦、横、斜め……正直まだ技の感覚は完全に掴めていないがそれでも細切れにせんとがむしゃらに手刀を浴びせる。
これだけの高威力の技を出し続けていれば勝てる!がその時──
「何をしているんですか先輩!?」
「マシュ!?」
「┳┻┳┻┳……ヴェェァァァァァアアアッ!!」
分割状態だったエネミーがくっつき、咆哮。まるで威嚇をしているようなそいつは変形した顔に魔力を収束させ、高威力の熱線を撃つモーションをする。
「ルビー!障壁!!」
あのまま撃たせるとマシュに直撃だ。
それだけではない。ここにはサーヴァントだけではなく、カルデアのスタッフも居る。何としてでもここは防がないと!
「ですがこれは──」
「ッ!」
張り付いていた外壁を蹴り、エネミーの射線上に飛び込んだ俺は全身を強張らせた。
間も無く衝撃が来る!──ッ!!
「……あれ?」
熱も何も来ない。だが代わりに何者かが前に立っていた。
「あらあら。愛しの我が子が危険だと聞いて飛んできてみたら、そこには可愛らしい女の子になってしまった我が子。そしてその子を殺さんと殺気を振り撒く敵」
「──ぁ、へ?」
「ふふ。無理もありません。何しろこの私は母であり、貴方の刃であり、魔法少女なのですから」
上品に笑うその声の主は言わずと知れた頼光さんだった。
今朝のホワホワしたような暖かみのある服装はどこえやら。今は体のラインがくっきり浮かぶ
まるで防具を素肌に身に付けているようなものだ。
「なんでだ!?」
「
「まさか……」
そんな事が有り得るのか!?
「私とカルデアの技術力をもってすれば私のコピーを作ることは可能ッ!しかし頼光さん、こうして魔法少女の格好になると……デカァァァイッ、説明不要ッ!!」
「いや、何故こんなおかしな事が起こるのか説明してくれ!」
しかし、今は魔法少女──もっとも、俺は魔法ではなく魔術の領域だが──になっているからか、俺にもルビーが何の説明を不要としたのかおのずと分かった。
そう。デカいのだ。単純に、頼光さんから放出されているMS力が。恐らく、魔法少女になっていなかったらそのデカさを全く感知できなかっただろう……だが例えそれが出来なかったとしても先刻の熱線を霧散させたという事実は誰もが驚愕するのに充分だ。
頼光さんが魔法少女の格好をしているというインパクトを含めて。
「兎に角逃げてくれマシュ!あれはサーヴァントだと太刀打ちできない!」
「で、ですが先輩の怪我は──いえ、分かりました。無理はしないで下さい」
「ありがとう。……頼光さん、ありがとうございました。それで、どうしてそれを?」
「あら?朝はあんなにも激しく母を
「誤解を招くような言い回し!ぁいや、何にしても、頼光さんアレなんです。こう言う変身モノはお互いに正体がバレないように変身名等で呼び合うので……」
後ろのマシュが一体今朝ナニをしたんだと問い詰めるような視線を送ってくる。
違うんだマシュ!俺は悪いことなんて何も──あぁっ、ヤメテ!そんな逃げないで!いや、逃げろと言ったのは俺だけど、そんな目で逃げてくれぇぇぇ!!
「正体がバレないように?つまり、世を忍ぶ影の執行者……成る程。影の風紀委員長となるのですね」
「ちょっと何を言っているのか分からないですねぇ」
「では今年はそう致しましょう。えぇ」
何かを決めたような頼光さん。
その眼は強い意志に溢れ、そして未来を見据えているようだ。何にせよ、今はお互いプリズマ☆○○で呼び合うことは同意してくれた様子。
敵は未だ目前。これなら勝てるぞ!
「では共同作業と参りましょう」
「……ッ」
頼光さんがもつルビー(が変形したと思われる刀)の刀身に紫電が走り、静電気と魔力の圧で全身総毛立つ。
宝具──牛王招雷・天綱恢々。それに匹敵……否、超えるエネルギーが刀身に満ちていく。いずれ刀からは眩い光が発せられ、少し刀を振るうだけで強烈な電気エネルギーが空気中に舞う塵埃を全て焼き払う。
「おっとそうは問屋どころか魚屋の主人も3枚に卸さぬぞご主人」
「╋┳┓?──ッ!?」
「うわっ!」
拳を構え、今まさに飛び出そうとした刹那、聞きなれた声が上から降ってきた。比喩ではなく、本当に降ってきたのだ。
突如として上から降ってきた人大の影は、俺達の眼前に居たエネミーを文字通り叩き潰すとその腹を抉り、不均等に引き裂いてしまった。
その所業はまさに野生の獣。しかしてその影に見られる獣性は頭部の狐耳とモフモフの尻尾のみ。それ以外はただの人と同じだ。
「まさか……ルビー……」
「え?私はコピーを4機しか作ってませんよ?」
「問題発生率が5倍に!!そしてキャットが何で!?」
そう。今しがたエネミーを瞬殺したのは手足が人のそれなキャットだった。
彼女の手足は呪術でどうにか出来る代物らしく、たまにこうして人の手足で居ることも少なくない。しかしキャットまでが魔法少女に……て言うかキャットの服装は後ろから見るといつもの裸エプロンと変わらねぇじゃん!?
ちょっとエプロンが変わっただけだこれ!
「むっふっふ、邪魔は消えた。本題に移るとしよう」
「……本題?何を考えているキャット」
「無論、ご主人との結婚だワン!」
玉藻が良くやる狐のポーズをしながらワンと言うキャットの姿はとても可愛かったのだが、それに付随してきた結婚という単語に俺の脳は3秒程時間を有してから喉を震わせる指令を出したのであった。
「……結婚!?」
キャットと結婚したい。