Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
次に来るべきバレンタインに備えているのだ。
決して石がなかったから諦めたわけでは無いのだ……諦めたわけでは……ッ!
学生生活にはトラブルもハプニングも付き物。
特に引っ越しや転校でなれない生活圏に放り込まれた時なんかは起きやすい。無論、それは俺にも当て嵌まることだった。
「今日は転校生を紹介するわよー!さぁ、入ってちょーだい」
教室の中からジャガーな声がして、スライド式のドアをガラリと開ける。
「……おい、あれは聞いてないぞ」
「……どうしたんでしょう……」
椅子に座っている面々は皆見知ったサーヴァント。だから今更自己紹介なんて何でもない。何でもないのだが……皆の目は自己紹介云々より俺の体の状態に向いていた。
右足はギプスで固められ、両手には松葉杖。顔は包帯で半分隠れている。そう、今朝通学中に信号無視した魔猪に轢かれてこの様なのだ。
あの時は死ぬかと思った……。筋肉が無ければ即死だった。
「えー、ぐだ男です。訳も分からず転校してきました。宜しくお願いします」
「一発芸はどうした?」
手短に挨拶を済ませ、
「日本では転校生がクラスの王に対して一発芸をするのだろう?ならば早くせぬか雑種。我は忙しいのでな」
忙しいと言うギルガメッシュは手元で何かプラモデルらしきものをいじりながら続ける。
誰だそんな意味不明な事教えたの!!
「いや、そんな文化は無いので──」
「貴様の意見は求めておらぬわ!ここでは我がクラスの王よ!であるならば我に従うのが道理であろう!えぇい、早くせぬかざっs「極光反転ミニアド!!」
今度は教室の通路側の席の後ろからギルガメッシュに向けてロンゴミニアドが放たれる。この狭い空間内で使うためか、かなり範囲が限定された状態でギルガメッシュにクリーンヒット。席もろとも校庭へ放り出された。
「ふぅ。失礼したぐだ男。ところで丁度ギルガメッシュの席が空いたのでどうですか?」
そうアルトリア・オルタ(ランサー)が指差すのは今先程までギルガメッシュが鎮座していた場所。
成る程、ギルガメッシュは彼女の隣の席だったのか。だったら今の内に俺を配置しておけば少なくとも周辺環境は良くなるだろう。それに真ん中の一番後ろなんて目が悪くなければ良い席だしね。
「じゃあお言葉に甘えて──」
「ちょっと待ちなさい。今そこに座るようにジャガーに言われたならそれに従うのが生徒でしょう。ギルガメッシュはああ言ってたけど、事実上クラスのトップは担任のジャガーなんだから」
「そう、私こそがこのクラスの王よ!という訳でお好きな席へGO」
好きな席で良いんかい!と、それにしてもどうするか。
最初の席にしろと言い出した邪ンヌの気持ちももっともだろう。何しろ、俺がこのまま後ろに座ると行き場を失ったギルガメッシュが邪ンヌの前の席に来ることになる。そうなると色々と五月蝿い事になりかねない。
しかし大人しく邪ンヌの前だと今度はアルトリアの方が……。
「ぐだ男。貴方は今怪我をしています。ならば、出来るだけ障害物の少ない後方の方が確実に良いでしょう」
「怪我くらい魔術で何とかしなさいよ」
「すみませんっ。私もペイン・ブレイカーで戻そうとしたのですが……」
「魔術に頼りすぎると、ね。病気でもそうだけど、ちょっと具合悪いからすぐ薬、なんてやり続けてたら体がそれ無くして回復出来なくなっちゃうから。精神的にも頼っちゃうと戦いの緊張感が薄まって怪我の原因にもなりかねないかなーって思ったから断ったんだ。まぁ、ほら。筋肉は全てを解決するから」
「うわ……脳筋……」
失礼な。
まぁ、兎に角。ここは自分の為にも後ろの席が良いだろう。で、ギルガメッシュの席だが──
「先生。ギルガメッシュの席を俺の隣でも良いですか?それなら割りと解決しそうなんですけど」
「OKニャー。自由にしたってー」
ジャガーマンの許しを得た俺は、邪ンヌの列を1つずつ積めてもらい、一番後ろにギルガメッシュの席を配置するように指示した。
◇
カルデア学園と言うだけあって学校としての機能は充分。てっきり部活だけだろうと思っていたが、本格的な授業がちゃんと開催されており、皆も意外と学生していた。
ただ、大体が学生なんて経験したことのないサーヴァントだからか、授業の内容はカオス極まりない。どうして電気の授業から生産工場の運営の授業に変わるのか。
「──っと、もうお昼か。食堂いってこよ」
当然のとこだが、このカルデア学園はシミュレーターの応用だ。だから自由に学園とカルデアを行き来できる。だから絶対に混むであろう学生食堂は避け、カルデアの食堂に向かうことにした。
「あ、先輩!ここに居ましたか」
「マシュ?」
「はいっ。その、先程は交通事故にあったと聞きました。大丈夫ですか?」
「大丈夫。この通り元気よ」
とは言うものの、事故でアガルタでの傷も盛大に開いたし空元気なのが本音だ。
けど折角初めての学生生活を体験しているマシュに、俺の事で気にして欲しくない。だからスマホを忘れたからと嘘をついてその場を離れようとしたのだが……。
「先輩。何か隠していますか?」
「そんな、隠してないよ」
「清姫さんに誓ってですか?」
「──それは、無理だわ…………分かった言うよ。アガルタでの傷が開いちゃったんだ。それをマシュに言うと気にして楽しめないかなって」
「どうしてそんな無茶を……!どなたか他の方にも言わずにですか!?」
まぁ、実際は気付いていたサーヴァントは何人か居ただろう。特にアタランテとかの鼻が利くサーヴァントは血の匂いがするって言ってたしね。
誤魔化してはきたが……。
「先輩はいつもそうやって……皆さんには悩み事は遠慮せず打ち明けてと言うのに、どうして自分の事は二の次なんですかッ!」
「いや、その……」
「何の騒ぎですか?」
「ナイチンゲールさん!丁度良いところに!先輩が怪我をしているのを黙って出歩こうとしているんです!」
「何ですって……?」
ドスの効いた声音で白衣を着た天使が俺の頭をガッチリ掴む。流石は筋力B+……俺の頭蓋が今まさに
「怪我人がどこへ行くと言うのですか?その脚と顔は何ですか?」
「ちょ、まっ……いでででで!!まって婦長ぉぉぉッ!指が!指がこめか──ギャアアアアッ!!」
「それだけ痛むなら尚更治療が必要です。安心しなさい。失ったパーツは他で補えます」
そうじゃないと言っても聞く筈のない狂化:EX。更に傷が開いたのも婦長はお構いなしに俺を抱き上げ、お姫様抱っこの状態で食堂へと向かう皆の前を走っていったのであった。
◇
「全く……貴方は司令官として自覚はあるのですか?前にも言いましたよ。司令官なら私の指示にしたがって貰いますと」
「ごめん……何とかなるかと」
「感情論では傷は塞がりません。今は縫合していますが、今後無理をするならその傷は一生残ると思いなさい」
「……はい。じゃあ……寝ます」
ほぼ麻酔なしの縫合処置は非常に疲れた。しかしBBめぇ……「センパイは麻酔が無くても我慢できますよね」なんて訳の分からない事を言い出して酷い目にあったぞ。よし。せめて疲れ寝する前に爆弾投下してやる。
「婦長ぉー……BBって実は
「癌?いったいどういう事ですか?」
「アーッ!何て事を……!何のために黙っていたと──あ!?ちょ、何
「癌細胞は──敵ッ!!」
保健室の壁をブチ破ってBBと婦長が鬼ごっこを開始する。よし。静かになったし寝る。
「とか簡単に眠らせると思いましたー?起きてくださいぐだ男さん」
「……ルビー……今忙しいんだ。これから寝ると言う政務がだね……」
「そんな寂しい事言わずに。貴方、次の魔法少女になりませんか?」
何で次の破壊神に誘うような口調で……て言うか魔法
しかし…………この愉快型魔術礼装は平行世界からマスターのあらゆる可能性や無限の魔力を引っ張り出してこれる。ならば、俺が魔法少女として活動しているという可能性も?
「──って何ちょっと興味を持ってるんだよ俺……」
「その隙を見逃しません!超拡大解釈として契約を成立させます!」
「へ?」
◇
「へへっ。俺のターン、ドロー。……よし、俺は概念礼装、カレイドスコープをクリスタルゴーレムに発動。更に手札の種火を2枚をリリースしてサーヴァントセイバー、ランスロットを召喚。ランスロットの効果発動。このサーヴァントが召喚に成功したターン、NPプリズムを2つ獲得する」
「ランスロット……成る程。そのデッキは宝具を発動させやすいブリテンデッキのようだ。だが、こちらは今は対ブリテンデッキだと忘れているようだなクー・フーリン。トラップ礼装発動、カムランの戦い。このカードの効果により召喚されたブリテンサーヴァントは破壊される」
「マジか!」
クー・フーリン(槍)が天をあおいだ。カルデアで流行っているカードゲームを同じくランサーのアルトリア(オルタ)と昼休みで対戦しているようだ。
まさかのブリテンの王がアンチ・ブリテンデッキとは、アグラヴェインも頭を抱えるだろう。
「ふっ。どうやら貴公の快進撃もここで終わりのようだ。私は概念礼装、天の晩餐を発動。私──フィールドのランサー・オルタにNPプリズムを2つ付与。それによってランサー・オルタは宝具を発動。ロンゴミニアド!」
「げえっ、マジかー。えーと、ロンゴミニアドはダメージ4だから……俺の負けか。つえーな」
「当然だ。このデッキは円卓デッキに囚われ続けていた私を変えてくれた──ぐだ男のデッキだ。負ける道理があるまい」
自身に道溢れたアルトリア。相対していたクー・フーリンはへぇと唸りながらアルトリアのデッキを見る。
デッキの構成は至ってシンプル。宝具を速効で発動させて手っ取り早く相手のライフゲージを削りながら、あえて多目の全体宝具で相手の場のキャラも蹴散らす脳筋デッキ。
そしてシンプル故にどのデッキへも対応しやすく構成を変えられる。中々勝てずにいたアルトリアでも今ではカルデアのトップランカーの仲間入りをはたした。
「おほっ、やっておりますな。では拙者も混ぜてくだちい。さぁ、
「黒髭か。じゃあ俺が相手してやるよ。なぁに、今は負けちまったが、もう一個デッキがあるんでな。そっちでテメェのランク、貰い受けてやるぜ!」
「デュフ。後悔は厳禁でお願いしますぞ」
「しかし、毎度ただやるのも面白味に欠けるな。少しアレンジするか」
弟子の敗戦を見ていたスカサハ。彼の師匠(カードゲームでも)である彼女は、最近負けが重なっている情けなさに渇を入れんとルーンを発動させた。
教室の一画が結界で覆われ、中に囚われたクー・フーリンと黒髭は突然変わった空気に嫌な予感を感じていた。
「さぁ、セタンタよ。我が弟子ならばその闇のデュエル──突破してみせよ!」
やめて!カルナの
お願い、死なないでクー・フーリン!あんたが今ここで倒れたら、
次回、『ランサー死す』。デュエルスタンバイ!