Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
学園編だよ!!
「おはよー……うぅっ、肩痛い……」
「オッス大将。傷の調子はどうだい?」
「あぁ、おはよう金時。シェラさんが治療してくれたから大事には至らなかったけど、暫く激しい運動とかは駄目だってドクターからドクターストップがかかった」
「ドクが言うなら仕方無いな。ま、座って落ち着こうぜ」
アガルタから帰還して早2日。報告やレイシフト後健康診断などであっという間に時間が経って、今日から2日程カルデアの業務はしないでゆっくりして良いと許可が降りた。
ならば1日ぐうたらとマイルームで寝てようかと思っていたのだが──
「まぁ。母におはようの挨拶は無いのですか?」
「……ぉ、おはよう、ございます。頼光さん」
「ああっ!どうしてですか!私は貴方の母だと言うのに……何故そんなに他人行儀なのですか?母は悲しくて泣いてしまいます……よよよ」
「大将……っ」
「ぅぐ…………ごめん
俺が台所でエプロンを着用した頼光さんに正直に話すと、まるで霊核に響いたかのように方膝をつき、金色の光を纏って消えかけるのを何とか踏みとどまった。
これはいかん。頼光さんには破壊力が高すぎたか。
「はぁっ、はぁっ……ふふ、ふふふふ!母はここです!さぁ、おはようの抱擁と
「えと……」
「大将!」
金時に呼ばれ、振り返ると彼とサングラス越しのアイコンタクト。
金時は俺に拒否してはいけないと伝え、俺はそれにコクりと頷いて返す。
「お、おはよう母さん」
身長がやや自分より大きい頼光さんに色々迷った結果、普通にハグをする。自分の胸に当たる頼光さんの豊満な──それ以上は言うまい。とかくあって心臓がバクバクで大変なのにここからキスをしろと申される。どうする!?アンパイの頬にしたらそれでは駄目だと拗ねられないだろうか!?
「──まぁ。母との抱擁に緊張しているのですか?ふふ。大丈夫ですよ。さぁ、おはようのチューを……」
(頑張ってくれ大将!)
脳裏に蘇る、他のサーヴァントとのキス。それらは全て向こうから仕掛けてきたものだが、今回は能動的に行かねばならない。いや、正直勢いで行けなくもないのだが、その後が怖くて仕方がないのです……!
えぇい!ままよ!
「んっ」
恥ずかしさのあまり、真っ赤になっていた顔を隠すため強く抱き付いていたのを止めて、頼光さんの唇に自分の唇を重ねる。
柔い唇が触れた瞬間、俺の脳ミソは完全にオーバーヒートして運動指揮系統が破綻。指1本動かせなくなって頼光さんの唇から離れられなくなった。
離れないと脳ミソはおろか、全身が(K姫の炎)マジで燃える!何とか顔を離さないとと思って泳ぎまくっていた視線を頼光さんと合わせた時、事件が発生した。
頼光さんがやや目を細めたと思うと少しだけ開いていた俺の唇の間から舌を滑り込ませて来たのだ。それに驚いた俺が思わず口を閉じると頼光さんの舌も俺の口内から撤退していく。
「魔力供給……嗚呼、素晴らしいものですね。我が子の温もりを感じ、我が子の熱く逞しい魔力が私の中に満ちて行く……ふふ。驚かせて申し訳ありません。噂に聞く魔力供給とやらを試してみたかったのです。けど、貴方も悪いのですからね?」
「───」
マトモな返しも出来ず、俺は真っ白な状態で歩いて金時の隣に座る。
頼光さんはいくらなんでも暴走し過ぎな気がするのだが……仕方がないのか。
「……大将……アンタマジに漢じゃんよ。頼光サンのあんな嬉しそうな顔、久々に見たぜ。ただ……ちょっと大将のこの後が心配だな……」
「──ソウダネ」
何故こんな事になってしまったのか……。事の始まりは俺がアガルタを終えて帰って来て間も無くの頃だった。
◇
「おかえりぐだ男君。怪我は大丈夫かい?」
「何とかは。深く抉られて無かった筈ですが、腱がブッツリやられちゃったので今は取り敢えずくっ付けた状態です」
「先輩、他にどこか悪いところはありませんか?何でも大丈夫ですよ。悩みでも鬱憤でも」
「だ、大丈夫だよマシュ。何かあったの?」
「いえ。ただ……先輩の怪我が心配で……」
俺の両腕は筋肉や腱をクロウで引き裂かれたのを急遽くっ付けた状態だから、念のため両腕を布で吊っている。
片腕ならあったけど、両腕を吊るのは初めてだ。何て言うか、拘束されている犯罪者の気分だ。
そんな見た目だとマシュの心配も頷ける。──のだが、何かそれとは違う気がするんだよな。
「俺はこの通り元気だから大丈夫だよ。そっちも忙しいでしょ」
「こっちは大丈夫。ぐだ男君を手伝ってあげてマシュ」
「分かりました。じゃあ先輩のお部屋で忘れない内に早速始めましょう。あ、すみません。先にシャワー等の方が良かったですか?」
「あー、やっぱり汗の匂いがすると嫌だよね。ごめん」
「……私は別に、先輩の汗の匂いが嫌いな訳では……」
「大丈夫大丈夫。今更臭いとか言われた位じゃ傷付かないから」
何だかマシュの心配の仕方がいつもと違うのを感じた俺は俺より精神的に疲れただろうマシュにこれ以上仕事はさせたくないので、そそくさと振り切るように管制室を後にする。
暫くしてすれ違うスタッフの方やサーヴァントの皆と軽く「ただいま」「おかえり」と挨拶しながら大浴場に到着。
腕を下ろし、時々激痛が走るのを我慢しながらモゾモゾと脱いでいると誰も居なかった脱衣所にロビンが入ってきた。
「お、帰ってきてたのか。お勤めご苦労さん」
「ただいまロビン。ロビンもお風呂?」
「まあな。ちぃっとばかし周りが五月蝿いんで静かにゆっくり出来るとこ探してたわけ。そこで丁度ジェロニモとビリーにここのサウナの事聞いてな。なんでも、マナが多いらしいからサーヴァントは消費した魔力とかをじんわり回復できるんだと。アンタでもじんわりいけるんじゃねぇの?」
「成る程」
ロビンの話を聴きながらも服を脱ぎ終えると俺の肩から胸の辺りまで走る傷痕を見たのか、ロビンが溜め息混じりに破れた礼装を俺から取り上げる。
「さしずめ、こっちに逃げてきたって所か?」
「……そんなんじゃないよ。これから報告書書くんだけど、汗臭いなんて嫌だし」
「じゃあそう言うことにしておきますよ」
「悪いね」
「何の事だかサッパリですわ」
ロッカーに全部放り込み、備え付けの手拭いを持っていざ中へ。
全身を包む熱。程よく視界が阻害される湯煙。桶を置いたときのカポーン、と響く音。やっぱりお風呂は良い文明だ。
「誰も居ないのか。まぁ、たまには本当に静かなのも良いよね」
独り言で報告書に何を書いていこうか確認も含めてブツブツと呟きながら炭酸風呂に浸かる。
10分位入ると何故か体の疲れが良くとれるお風呂で、あまり長く浸かるのは良くないらしい。
「ぁあ……今回は特に疲れたな……」
「おーい。そこで寝るなよ」
「ありがとうロビン。頑張って寝ないようにするよ」
「あいよー」
サウナに入っていくロビンに軽く手を振りつつ、重たくなってきた瞼に抗って白眼を剥いたり見開いたりする。
アガルタレイシフトのラスト2日は寝られなかったからか、睡魔がやや強い。更に怪我の分も精神に来ているのだろう。
「寝ちゃダメだ……」
そうは言っても体は正直。どこからか賢王のギルガメッシュが「たかが2日寝ない程度で音を上げるとは弛んどる!」と言ったような気がするけど、もう俺の意識はほぼ無かった。
「ほら言わんこっちゃない。悪いが部屋で一度休んだ方がいいぞ」
結局ロビンが俺を引き揚げ、朦朧としながら着替えて部屋に帰ることに。
ロビンの背中におぶられている間も、せめて寝ないようにと必死に睡魔と戦って居る時に全てが始まった。
「まぁ!ロビンさん、これはどういう事です!」
「ぐだ男が風呂で寝落ちしかけたんでこうして部屋に連れていってる所ですよ。大分無理したみたいなんで」
「だったら尚更この母が面倒を見てあげなければなりません。さぁ、私にお任せを」
この声……頼光さんか。不味いなぁ、ロビンも得意な相手じゃないから俺が何とかするか。
「……母さん……俺は大丈夫だから、ロビンに任せてよ……。ほら、この前の……肉じゃが、また作……」
「──ッ!」
「(ヤベッ!)じ、じゃあ失礼しますよ……」
この前肉じゃがを作ってくれたので、また作ってよと頼めばすぐ作りに行ってしまうだろう。眠たいながらも言葉を紡ぎだした俺はやはり天才だ!
「いや、馬鹿だろ。寝惚けながら話すからややこしくなってんぞ」
その時には既に俺の意識は無く、ロビンの言葉も遠い彼方から言われているように聞こえていなかった。
◇
それが始まりだ。
その後は頼光さんが俺の私生活を守るとか言い始め、他のサーヴァントも、不満があれば何でもしますと言い始め、やたらと俺の私生活に踏み込んでくるようになってきていた。
いや、今更私生活とか無いようなものなんだけど、どうして急に……。
「大将?まだ寝惚けてるのか?」
「──ぁ、いや、大丈夫だよ。ちょっと考え事をね」
兎に角、皆が騒ぎだしたもんだからそれを鎮静化させないといけないのもマスターの仕事だ。色々皆で話し合った結果、俺の元々の生活を皆で体験すると言う結論に至った。ある天才曰く「1度カルデア学園とかやってみたかったんだよね」。なんでさ。
それだから頼光さんが母親役で、金時が兄役なのだ。家は団地のマンションに住んでた俺とは全く関係のない2階建て一軒家。庭には魔神柱バルバトスのオブジェ。この時点で俺の元の生活環境からは果てしなく逸脱しているが黙っておく。
「しかも高校生になってるけど、俺もう大学か専門の年齢だからね」
「留年ってやつだろ?」
「良く知ってるね……」
高校時代なんて普通そのものだったけどな。強いて言うならカバディ部だった位で──
ピンポーン。
ふと我に帰させるインターホンの電子音。
暫く聞いていなかった音だけど、こうして聞くとどこか日常に居ると実感させてくれるものだ。まぁ、今は日常でもないが。
「オレっちが出るぜ。…………よう!え?大将か?」
「誰ー?」
「沖田さんでーす。いやぁ、私もノッブに連れられて学生になってみましたけど、この制服もお洒落ですねー」
「沖田さんおはよう。で、そのノッブはどうしたの?」
「まだ寝てたので置いてきました。さぁ、マスターも早く着替えて行きましょう」
いつの間にかリビングまで入ってきていた沖田さんに当然のように挨拶をし、金時から受け取った制服に着替えることにする。
学ランは下に適当なのを着て羽織れば良いから楽なものだ。体育の日なんかは下に体育着を着れば着替えが一回で済む。
「──って、わわ!急に脱がないでください!」
「んお?あー、ごめん。うっかりしてた」
別に男のパン一なんて恥ずかしいものでも無いだろう、とは思ったが、それはデリカシーに欠ける。
自分は見られても良いからとかではなく、相手に嫌な思いをさせるような事はしてはいけない。そんな簡単な事に気が付かなかった俺は沖田さんにちゃんと謝って部屋の端で着替える。
「あの、マスター。その傷は……」
「あぁ、ペンテ……長い。レイアちゃんにやられたやつ」
「ペンテシレイア、ですか。昨日召喚されたバーサーカーの。って、バーサーカーとやりあったんですか!?どうしてそう、無理をするんですかマスターは!」
「いや、アマゾネスとも戦わなきゃ行けなかったからその時に対峙してね……でもほら、そんなに深い傷じゃないし」
「浅い深いの問題じゃありません。マスターが良くても私達が辛いんです。変なことを言うようですが、その命、その体はもう既に貴方だけのものではないと分かって下さい」
ぐうの音も出ない。
確かに配慮がさっきもこれも足りていなかった。俺は怪我をしても最悪死ななければ何とか大丈夫だろうと思っているが、その怪我1つで俺をモニターしているドクターやマシュに気を遣わせてしまうし仕事も増やしてしまう。
ちゃんとしなきゃ。
「えぇ。母も自分の子供が傷付くのなんて見たくありません。戦いにおいては仕方のない事ですが、それも無理をしなければ大きな怪我はしません。もし無理をした挙げ句怪我なんてした時には私は……」
「は、はい……以後気を付けます」
「何はともあれ、学校に行きましょう!」
沖田さんに手を引かれ、荷物も何も持たないで外へと飛び出す。
外はシミュレーターで再現しているため、天気は悪くない。まぁ、雨降ってもだしね。
「さぁ楽しくてトラブルも多目な学生生活の始まりです!走りましょうマスター!」
「トラブルあるのは確定なのね!?」
縮地であっという間に遠くに離れてしまった沖田さんを追いかけ、俺も完全には起きていない体に鞭打ってアスファルトを蹴る。
こうなったら足腰に瞬間強──
「マチョォォォォォオオオッ!!」
「──は」
その時の事を俺は良く覚えていない。
後に沖田さんから聞いた話だと、俺は住宅街に良くある十字路で赤信号を無視してきた魔猪に跳ねられて空中を竹トンボのように飛んでいったとの事だった。