Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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1ヶ月!
社会人として意識しなきゃいけないのは、時間が「ある」「ない」ではなく、時間を「作る」「作らない」だと分かっては居たのですが……すみません。年末は冥界のボックスガチャに明け暮れ、年明けはカルデア凍結の展開におどろいて今後どうやってそれに繋げていくかを考えていたらあっという間にこれでした。

前話出した時点ではマスター候補38?人が意識不明だか何だかだったので勝手に死人にしちゃいましたけど……しくじった。辛うじて(凍結野郎)Aチームのマスター人数と生き残らせたマスターの人数が近いのでどうにかは出来そうですが果たして。

兎も角、今はまたもボックスガチャ期間。
回すんです!


Order.44 託す者達。託される者

 

 

 

 

 

無念の亡霊を1人ずつ成仏させていく作戦。

彼等の最後の望みを聞き届け、それを叶えてやって成仏を促すことでぐだ男への影響を最小限に対処していく。──筈だった。

 

《オオオオオオオッッッ!!》

 

「何で断ったんだよ!」

 

「だって私はもう決めた相手が居ますから……ぐだ男以外と結婚なんてあり得まセーン!」

 

「どうするんだよこれ!」

 

キャスターのクー・フーリンが攻撃ではなくルーンでの拘束を試みる。しかし、亡霊の集合体の核にはぐだ男の魂の他に聖杯があってそう簡単には出来そうにもない。

 

「あと数人だったのに……!」

 

《もう……タタかいたくない!何デ俺が……!》

 

「ぐだ男のやつ、あんなになるまで自分の気持ちを棄てていたのか?」

 

「死への恐怖……それは誰も責められません。彼もまた人間です」

 

亡霊がルーンの拘束を破壊し、術者のクー・フーリンを縮んだがそれでも大きい拳で凪ぎ払う。

対してクー・フーリンは軽い身のこなしでそれをかわして再びルーンで縛る。今度はもっと強く。

 

「ここまでとはな……」

 

「だが妙だ。あのぐだ男でもここまでのものになるのだろうか?」

 

「冴えてるなアーチャー。実は俺もそう思ってた所だ。シェイクスピアはああ言ってたが、俺だってカルデアじゃ一番坊主と長く契約してるサーヴァントだ。違和感はあるわな」

 

《アァッ、アぁ……》

 

しかしどうしたものさね。クー・フーリンがそう顎に手を当てて首を捻っていると亡霊が拘束のルーンを破るべく身をよじり始めた。

 

「おいセタンタ。マシュを呼んでこい」

 

「嬢ちゃんをか?何で?」

 

「良いから呼んでこんか。耳が悪いのならその体に直接癒えぬ呪い(ゲイボルク)で書いてやろうか?ん?」

 

「おーい嬢ちーーゃん!」

 

ランサーのクー・フーリンが脱兎のごとく逃げ──もといマシュを呼びに行った。

何か考えがある様子のスカサハだが、誰が問うてもそれを答えようとはしない。

 

「どういうつもりか分からねぇが……取り敢えず拘束のルーンを追加でお願いできませんかね師匠!」

 

「仕方無いな。少しきつめに縛り上げてやるか」

 

《グェッ!?ぁっが!……》

 

拘束のルーンを重ね掛けされた瞬間、亡霊が小さく呻いたのに誰も気付かなかった。

 

 

「ホォォォアッ!」

 

カルデア魔術礼装の上着を脱ぎ捨て、魔力放出(筋肉)。相手はエルドラドのバーサーカー──ペンテシレイア。彼女はギリシャ神話におけるアマゾネスの女王。トロイアであのアキレウスに破れた女性だ。

 

「──貴様、それは何だ?」

 

「……無論、筋肉だ」

 

「筋肉……その筋肉はアイツに似ている。我が姉、ヒッポリュテの仇……!つまり──アキレウス!■■■■■■■ッッ!!」

 

ヒッポリュテと関係が深いのはアキレウスではなくヘラクレスだ。もっとも、ヘラクレスも色々可哀想な境遇でそれに巻き込まれたヒッポリュテも可哀想な訳で……兎に角、今のペンテシレイアは『汝はアキレウス、罪ありき』状態で俺ですらアキレウスと言ってくるので早めに何とかしないと被害が増えるばかりだ。

 

「アキレウスゥゥゥゥウウウッッッ!!!」

 

「俺の修行はこの時の為に!筋肉(バスターチェイン)!」

 

ペンテシレイアの凶悪なクロウを掻い潜り、全くの守りがないお腹へマルタ直伝、天使殺しのアッパーを打ち込む。入った!

 

「──ふっ、その程度かアキレウス!」

 

「何!?」

 

全くの守りがないお腹、の筈がなかった。

ペンテシレイアのあのお腹には胸を守る布があるわけでも、武骨な鎧があるわけでもない。だが、それらよりも強く、頑丈な守りがそこにあった。それこそ、筋肉。彼女のお腹……否、腹筋は生半可な攻撃で突破できる代物ではない!

 

「マスター逃げて!」

 

「ッ!」

 

ペンテシレイアの素晴らしい腹筋にみとれていた所をアストルフォの声で我に帰る。刹那、ペンテシレイアの両クロウ振り下げで両肩口から胸にかけて3本ずつ爪痕を残された。

そこまで深く抉られなかったのは幸運だった……もう少しバックステップが遅かったら腕が落ちてた!

 

「ぁぐっう!」

 

「柔い筋肉だな!その程度でまた私とあいまみえるその行為……侮辱と受け取るぞ!」

 

「下がれぐだ男!おいキャスター、回復頼むぞ!」

 

「はい。ぐだ男さん、少し痛みますよ……」

 

「っがぁ……ッ!つぅ!」

 

味方となったキャスター、シェヘラザード。俺は言いなれない為シェラさんと呼んでいるが、彼女はキャスターだがメディアのような魔術ではなく、彼女の物語(・・・・・)から使い魔を召喚し、それが回復や攻撃を担当する。今は傷口に布を当て、止血をしつつ何かを召喚しようとしている。

それまでひたすら痛みに耐えようと呼吸に集中している最中、それは急に訪れた。

 

「──!?か……ハッ……!」

 

「申し訳ありません、あと少し耐えてください……」

 

シェラさんは気づいていないようだが、俺は胸の痛みとは別で全身が締め付けられるような痛みと息苦しさを感じていた。

まるで見えない鎖に全身をがんじ絡めにされて締め上げられているような苦痛。これは……まさか──

 

「症状が良くならない……これはもしや、呪い?」

 

まさか──俺の筋肉がペンテシレイアの筋肉に怯えているのか!シェラさんの言うこれが呪いなら、全身の筋肉にガンドを受けたようなものなのか……!

くそぅ……魔力放出にカウンターされたのかッ。

 

「まだ、まだ……甘かった……ッ!俺の技術、もッ……筋、肉も……」

 

 

「……これってぐだ男君勘違いしていないかい?」

 

「確かに先輩の体は現在進行形で魔術回路が何かの呪いに侵食されています。……先輩のあの表情を見る限り、自分の筋肉の鍛え足りなさに涙しているようですが」

 

「しかし呪いなんてどこから貰ったのかね。一番疑いたくなるのはシェヘラザード君だけど……まぁ、彼女は違うね。この天才が保証しよう」

 

「おーいマシュの嬢ちゃん、居るか?」

 

管制室で先輩のバイタルをモニターしていると、ランサーのクー・フーリンさんが私を呼んでいた。

 

「クー・フーリンさん。私はここですが、どうかなさいましたか?」

 

「ちょっと来てくれねぇか。スカサハが嬢ちゃんを呼べって脅してきやがってさ……」

 

「でも……」

 

「ここはボク達で回すから行ってきて大丈夫だよマシュ。元々ボクがやってた仕事でもあるし、今は最悪ホームズも居る。何とかなるさ」

 

「了解です。マシュ・キリエライト、一時離席します」

 

席を立ち、クー・フーリンさんの後を追って駆け出す。

スカサハさんが私を呼ぶなんて珍しい……しかもこのタイミングでとなると先輩の呪いで何か知っているのかも知れない。

兎に角、クー・フーリンさんが急いでいるなら私も急いがないと。

 

「正直スカサハが何考えてんだか俺にはてんで分からねぇ。けど、あの師匠も無意味に呼ぶようなことはしない。ましてや嬢ちゃんを呼んだともなると──」

 

「分かってます。多分辛い選択を強いられる事にもなるかもしれません。ですけど私は立ち向かってみせます」

 

「良く言ったマシュ」

 

食堂に目測5mと迫ったところでスカサハさんが後ろから私達に声をかけてきた。

どうやら私達を待っていたようですが、廊下の植木の丁度死角に入っていたので通りすぎてしまったようで……。

 

「お前のぐだ男に対する気持ちを信じて呼んだ。すまんな、忙しい時に」

 

「いえ。私に出来ることなら何でも」

 

「よし。ならば頼む」

 

スカサハさんに手を引かれ、食堂に入る。瞬間、全身の骨全てに響くような嫌な音が私を歓迎する。

クー・フーリンさんがゲイボルクを構え、スカサハさんも私を守るように1歩踏み出す。

一体何が起きているのか、その疑問を解決すべく食堂の中を見回してみると食堂の奥から赤い外套……エミヤ先輩と白い服……え、先輩?

 

「くっ!下手に手を出せないのは辛いな。ランサー、ルーンはもう打ち止めかね?」

 

「拘束の事いってるならキャスターの俺で出来ねぇんなら俺には無理だ」

 

「エーテルで出来た体とはいえ、生身と同じ様なものだ。先刻もルーンで拘束していたが、自身の皮、肉が千切れるのもお構いなしに暴れまわりおった。ぐだ男に影響が出ていなければ良いが……無理であろうな」

 

「スカサハさん、あれは先輩ですか……?エーテルで出来ているって、それってサーヴァントみたいな……」

 

良くみると、先輩──と瓜二つな人物の全身には暴れまわったのが原因であろう、傷が痛々しい。

 

《フゥーッ、フゥーッ……》

 

「あやつ、ぐだ男の武器も喚べるのか」

 

彼は先輩の愛用武器であるゲイボルクを召喚し、相対するエミヤ先輩に肉薄する。槍遣いは普段の先輩のそれとは違い、荒々しいものでとても修練の結果で得られた様なものではない。

ただ力で振るっているだけみたいに。

 

「マシュ。あれはぐだ男の魂の欠片が亡霊に捕らわれた結果のものだ。だが、私達にはどうも違和感が拭えなくてな。そこでお前に見てもらおうと思ったわけだ」

 

「あれが……先輩の?」

 

「ああ。逃げたい、もう嫌だってそんな事ばっかり呟いてるぜ」

 

「誰しもが持つ当然のものだ。ぐだ男……あやつはそれを──」

 

「いえ。あれは先輩の魂では無いです」

 

スカサハさんが続けようとしたのを、私は途中で遮る。

正直、私に確信はありません。

もしあれが私のちょっとした勘違いで、本当に先輩の魂だったら……私は、先輩の恐怖や意志を抑え込ませて、無理矢理戦いに向かわせてしまう事になってしまう。誰よりも人間らしかった先輩のそれを、否定してしまう。

それが物凄く恐ろしい。けど──

 

「先輩は、逃げ出したくなるような時でも、決して逃げませんでした。エリザベートさんのは棚に上げますが……例え逃げたとしても、必ず困難に立ち向かいました」

 

前に先輩が言っていた言葉がありました。それは第五特異点で重傷を負っても尚、歩き続けると言い始めた時です。

 

『どうして先輩はそこまで出来るんですか?幾ら先輩が最後のマスターとは言え、嫌なことは嫌と言って貰えれば私やドクター、ダ・ヴィンチちゃん達で対処も──』

 

『マシュ。俺は誰かに押し付けられたからとか、嫌々やってる訳じゃないよ。これは、俺がやりたいからやってるんだ。生き残るために、誰も死なないために。だから安心してマシュ。俺は決して、この戦い(グランド・オーダー)から逃げはしないから』

 

そう。だから──

 

「先輩は決して逃げません!貴方は何者ですか!」

 

《──ァ、アアッ!?マシュ!俺は……!》

 

「いいえ、貴方は先輩ではありません。聖杯の力で先輩に成ろうとしただけの、マスター候補の1人。死にたくないなら、生者になればいい。生きる力のある、聖杯に近い人に」

 

《嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!オレはこいつの魂を離さない!》

 

「どうやら取り込んだ方が表面化したようですな。いやはや、愛はやはり第三魔法を越えるのですな!どこかの誰かさんに適当な情報を流してみたら案外解決へまっしぐら」

 

「あ!シェイクスピアてめぇ!」

 

「はっはっは。因みに補足しますと、それは最も死にたくないと願ったマスター候補の誰か。魂がいつの間にか形を獲て他の怨念の影響もあって何故かぐだ男に成ろうとしたもの。だがぐだ男には彼に都合の良い負の感情が足りなかった。正しく善性の塊!だから更に願ったのです!それはまるで、何処かの聖女のある筈もない別側面をサーヴァントにするかのように!ここまでの苦しい戦いなら、これ程の負を抱えている筈だと、そう決めつけて作られたのがあのぐだ男なのです!」

 

「つまり、ぐだ男・オルタって訳か?」

 

「語呂が悪い。ここはぐだオルタならどうか?」

 

成る程。

じゃああれはジャンヌ・オルタさんのようにある筈もない別側面を形作ったもの、と。でも、そう考えると先輩はどうしてそこまで良くないものを抱えないのでしょうか?

もしかして……先輩本当は既に壊──

 

《オレはぐだ男だ!生きてる!辛い戦いだってした!痛い思いもした!なのにどうしてこんなにも平気で居られるんだよ!何で笑えるんだよ!協会の奴等も、オレの偉業を何一つ分かっていない!何度特異点を直したと思ってる!何度人を救ったと思ってる!マシュを殺した奴が何で平然とカルデアに居る!ましてやそれと仲良くするなどぉぉぉぉおおおおッ!!!》

 

「終わりだ贋作。いや、こんな下手くそな贋作なんぞ質の悪いパクり以下だ」

 

「貴様のそれはぐだ男の気持ちとは名ばかりの己の気持ちであろう。貴様の勝手な解釈で、雑種の邪魔をするのではない!既に雑種が壊れていようがそうでなかろうが、どうあってもあれはそう言う男なのだからな!それぐらいでなければこの(オレ)を喚べる筈も無いのだ!そう言う訳だ、失せよ塵!」

 

《オオオオオオオッッッ!!》

 

亡霊の姿が揺らぐ。まるでいくつもの重なってる画像がバラバラになるように、何かが剥がれていく。

 

《──死ぬのは怖いけど、もう私達死んでるものね》

 

《──あーぁ、1度で良いから令呪でエッチなこと強制させたかったな》

 

《──お前どうしようないな……》

 

《──いつまでも彼に迷惑かけられないものね。本音を言うと何も出来ずに死んじゃったのは悔しいけど、彼には私達の分まで楽しんでもらいましょうよ》

 

「これは……」

 

どこからともなく聞こえる男女の声。

これは聞いたことがある声だった。話したことも、会ったこともほぼ無いけれど、間違いなくマスター候補の人達。

 

《──あとはお願いしますね、マシュ・キリエライト。彼をこんな風にはさせないでね》

 

「はい!私は全力で、必ず先輩を支えます!全てを受け止めてみせます!」

 

《オオオオオオオッッッ!!》

 

《──引き離せ!》

 

《──逝くぞオラッ!》

 

《──ヤベッ!先に俺逝ぐゥッ!》

 

「すまんな……」

 

スカサハさんがゲイボルクを喚び、宝具を使う。

1本で亡霊を空間に張り付け、もう1本で荒ぶる亡霊を貫く。

 

《は、はは!ハハハハッ!終わらないぞ……この戦いは終わらないぞ!ここで止めておけば良かったと思うが良い!ハハハ──》

 

「……」

 

「ハッ!嗤わせるな。雑種の未来が混沌としている事ぐらい既に分かっておるわ。無論、その内の光もな」

 

「英雄王……」

 

亡霊は消滅し、まるでこの先の未来を知っているかのようなその言葉に場の空気は変に重たいものとなってしまった。しかし、ギルガメッシュ王の光があると言うその一言で、皆「らしくない」と己を叱咤。

日本出身のサーヴァントの何名かは霧散した先輩……の姿を真似た容れ物が居た場所に向かって手を合わせていたり、黙祷をしている様子が見られた。

 

「戦っているのは先輩だけではありません。私達が全員で、お互いに支えあってこそ、戦えるんです」

 

『マシュ!ぐだ男君の容態が回復したけど、状況的に手が足りてない!急いで来てくれないか!』

 

「すぐに向かいます!」

 

ドクターから呼ばれて急いで管制室に戻る。

例え先輩のお側で一緒に戦えなくても……私には先輩のバックアップと言う重要な戦いがある。

 

「先輩……私も戦います!」




どうしてもぐだ男はどこか壊れてるんじゃないかと思ってしまうんですよね……。

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